戯言/雑記




2010年3月〜4月

4月23日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、…………、とお届け中!>



……………………。

美姫 「いきなりの沈黙!?」

いや、思わずカレンダーを眺めてしまったよ。

美姫 「確かにこの時期にこの気温だものね」

と言うか、ここ最近の出だしって殆ど同じような気がするな。

美姫 「まあ、天気や気温とかの話っていうのは入りやすいからね」

ほう。

美姫 「だとしても、確かに多すぎるわよ」

それだけ異様な状態という事だよ。

美姫 「アンタはいつも異形だけれどね」

あれ、何か一文字違うような気がするよ。

美姫 「気にしない、気にしない」

え、え、えー? そこは気にする所じゃないかと……。

美姫 「それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」

あ、やっぱり、そうですよね。うん、分かってた、分かってたよ。







それは突然の出来事であった。
学校から帰宅し、さて何をするかと思っていた所で同じように時間を持て余していた美由希と視線が合い、
軽く体を動かそうと自然と決まった所でその準備に取り掛かろうとした、まさにその時であった。
恭也と美由希の目の前に、二人の身長よりも少しだけ高く、幅はこれまた恭也が自然に立っているよりも広い、
表面は水面のように透き通り、けれども向こう側見えない、鏡にも見えるソレが出現したのは。
まるで、早く飛び込めと言わんばかりに目の前に広がる厚さだけは一ミリもない程の鏡もどき。
好奇心が刺激されたのか、美由希が思わず手を出そうとした所で恭也はその手を掴んで止める。

「無闇に触ろうとするな。何か可笑しな現象だったらどうするんだ」

「う、ごめん。でも、何かくぐれって言われているみたいで落ち着かないんだけれど」

二人が多少移動しようとも、鏡はその表面に変化も見せず、ただ佇んでいる。
暫し眺めた後、恭也は庭へ降りると手ごろの石を手にして再び戻って来ると、躊躇わずにその石を投げ入れる。
それで満足したのか、二人の前に浮かんでいた鏡モドキはす〜っと音も立てず、まるで幻覚だったかのように消える。
まるで白昼夢でも見ていたかのようにその光景を眺めていた二人であったが、
周囲に異常も見られない事からすぐに気持ちを持ち直し、二人が言う所の軽い運動の準備に取り掛かるのであった。



小さな爆発が起こり、その余波で煙が生み出される。
僅かに発生した煙は、そこが屋外という事もあってか数秒であっという間に晴れ、見通しがすぐに利くようになる。
その現象を起こした張本人、ピンクがかった髪の少女は何かを期待するように目を皿のようにして周囲を見渡し、
思うような効果がなかったのか、悔しげに眉を顰める。
が、確かに手応えを感じていたのか、可笑しいとぶつくさ呟く。
そのすぐ隣に一人の中年の男性が立つなり、何か言いたそうにするも結局は気まずそうに顔を俯ける。
そんな少女――ルイズに対して近付いた中年男であるコルベールは何も言わずにしゃがみ込むと、
一つの石をその手に掴み、持ち上げる。

「どうやら、この石が呼び出されたようですね」

コルベールの言葉に周囲にいたルイズと同じ年頃の少年少女たちからからかいの言葉が飛び、
ルイズは怒りを堪えつつ、コルベールへと食って掛かる。

「そんな無機物が召喚されるなんて聞いた事はありません。
 もう一度、もう一度お願いします!」

「落ち着いてください、ミス・ヴァリエール。
 無機物が自分の意思で召喚に応じるはずがないのは分かっています。
 恐らく、今回はちゃんと召喚できる所だったのでしょう。
 ですが、何らかの事態が向こう側で起こり、召喚の扉を潜る前に石が飲み込まれたんでしょう」

「で、ではもう一度」

「そうですね、確認の為にも今一度行う事を許可しましょう」

コルベールはそう告げると、召喚された石を地面に放り投げる。
見渡す限りに他に石など見えない事を確認し、やはりあの石が召喚先から転がり出てきたのは間違いないようである。
改めて確認するコルベールの前で、ルイズは今一度大げさとも取れる宣誓をして再び召喚に挑戦を始める。



恭也と美由希の二人が軽いランニングを終え、いざ家の道場で打ち合おうと庭に入ったその時、
またしても先程と同じ鏡モドキが姿を見せる。

「恭ちゃん、また出てきたよ」

「ふむ、さっきの石だけでは足りなかったのか」

「流石は妖怪石おくれだね」

「ああ。もしくは、先程のとは違う個体かもしれないがな」

二人の中では、既に先程の、いや、目の前の鏡モドキは妖怪という事になっていた。
故に二人は危害を加えるでもなく、ただ目の前に居るだけの妖怪のために親切心を出し、
庭にあった小石などを素早く集めてやる。

「これぐらいあれば充分だろう」

両手を合わせ、そこにこんもりと盛られた石を見て満足そうに頷く恭也。
美由希の手にも同じ量だけの石があり、二人は息を合わせると妖怪石おくれへと投げ込む。
無数の石を飲み込み、満足したのかまたしても姿を消す妖怪。
それをこちらも満足そうな顔で見遣り、恭也と美由希は道場へと入って行く。



今度は爆発は起こらなかった。
その代わりとでも言うように、その目の前にバラバラと大量の小石が落ちてきた。
バラバラに落ちてくる石が小さな音を立て、まるで自分をバカにしているようにも聞こえる。
完全な被害妄想だとは分かっている。分かってはいるが、周りからはバカにする笑い声が響き、
足元には大量の小石が散らばっている。
そんな光景の中に居て、爆発しないような大人しい性格ではないのだ。
故にルイズは周りをきっと睨み付け、苛立ちも顕わにしたまま、
コルベールの言葉を聞くよりも先に再び呪文を唱える。
声を掛けようとしたコルベールは、そのタイミングを外されて仕方なく沈黙するしかできなかった。



「またか。随分と図々しい奴だな」

「もしかして、下手に餌をあげたらいけなかったのかな」

「む、やはり素人が勝手にするものではなかったか」

「那美さんに聞いてからすれば良かったね、恭ちゃん」

美由希の言葉に頷き返しながらも、恭也は他に何かないかと道場内を見る。
が、道場の中には木刀以外に物など初めから置いておらず、恭也は仕方ないと再び庭へと向かう。
一分もしない内に道場へと戻ってきた恭也の手には、石ではなく枝が握られていた。

「枝も食べるのかな」

「いや、そもそも石じゃなかった可能性があるからな」

「だとして、枝でもなかったら怒らないかな」

「大丈夫だろう。こちらは親切でやっている事だしな。
 まあ、それを向こうが理解してくれるかは分からないが、敵意は感じられないしな」

言いつつ恭也は手にした枝を放り込む。
するとまたしても妖怪は姿を消す。

「ふむ、やはり枝でも良かったのか」

「もしかして、何でも食べるのかな」

「雑食と言う奴か。まあ良いさ。流石に四度も食事を貰いには来ないだろう。
 それよりも始めるぞ」

「はい、師範代!」

二人は小太刀サイズの木刀を手に持ち対峙する。




「きー! なななな、なんなのよ! 一体、何なの!
 そんなに私に召喚されるのが嫌だとでも言うの!」

三度行った魔法により出現した一本の貧相な枝。
その枝を怒りに任せてぽきりと折ると、ルイズはバックに炎さえ見えるような気迫で四度目となる呪文を唱える。
一方、ルイズが手にした枝が珍しかったのか、よく見せてもらおうと思った矢先にそれを折られ、
それでも捨てられた枝を拾おうと近付いたコルベールであったが、
ルイズが魔法を唱えるために集中し出したのを見て、邪魔しないように元の位置に戻る。
それでも枝が気になるのか、ちらちらとルイズの足元を眺め、後で拾おうと心の中にメモするのだった。



「いい加減にして欲しいんだがな」

「言葉が通じていないのかな」

「その可能性もあるが、もしかして肉食なのかもな。仕方ない、美由希」

「い、嫌だよ! 恭ちゃんの事だから私に飛び込めとか言うんでしょう!」

「お前な。幾ら俺でもそんな冗談は言わないぞ」

呆れつつ返す恭也に美由希もそれもそうかと思い直す。
確かに意地悪な所も充分にある恭也だが、家族や友人と言った者は大事にしているのだ。
尤も冗談でなら言う可能性はまだ捨てきれない美由希ではあったが。

「で、何をあげるつもりだったの」

「冷蔵庫の中に肉があったと思うんだが」

「うーん、勝手に使って良いのかな」

「む、少しぐらいなら良いかと思うが食材に関しては勝手にはできないな」

ここ高町家の食を握るのは三人で、平日は主に二人が担当している。
言えば分けてもらえるであろうが、生憎今は誰も居ない。
あの二人ならば後から報告しても許してくれそうではあるが、何を作るつもりなのかも分からない以上、
少しとは言え勝手に使うのも忍びないと恭也は冷蔵庫の中の物は諦める。

「となると、何を与えるかだが」

「あ、キッチンのゴミ箱にあった生ゴミは?」

「お前、中々凄い事を口にするな」

「いや、だって野菜の皮とか切れ端があるじゃない。
 それに妖怪だし、それぐらいなら食べるかなと」

「まあものは試しだな。もし、怒りを買った時はお前一人の責任という事で」

「ちょ、何気に酷いよ恭ちゃん。
 寧ろ恭ちゃんの方が乗り気なのに!」

文句を言いつつ恭也の後を追う美由希。
暫くして戻ってきた二人の手には、ビニール袋に入れられた野菜の皮や切れ端。
後は魚の骨に皮といったものであった。

「流石にビニールはまずいだろうな」

「だね」

二人はビニール袋の口を広げ、起用に中身だけを妖怪へと放り投げる。
すると、満足したのかすぐに消える妖怪。
それを確認し、二人は再び鍛錬へと戻るのであった。



「ふ、ふふふふ。これはあれね、うん。私に対する挑戦と見たわ」

前に垂れていた自慢の髪の手で払い除け、ルイズは完全に据わった目で居ない筈の、
召喚様の扉の向こうに居るであろう相手に怒りをぶつける。
頭から生ゴミを被ったルイズに、先程までからかっていた者たちの数人が同情したような視線を向けてくるが、
それすら気付かず怒りを顕わに眦を吊り上げるルイズ。
その光景にからかいの声を掛けようとしていた者も何かを感じ取ったのか、静かに口を紡ぐ。
今だの何かの皮が頭の天辺に乗っている状態なのだが、あまりの迫力に誰も注意する事さえしない。
こうして、ルイズはもう一度とばかりに呪文を唱えようとして、

「今日はここまでにしておきましょう」

「っ! 待ってください! 次、次こそは必ず」

儀式の中止を提案した教師であるコルベールに縋るルイズ。
だが、コルベールは首を横に振る。

「状況から考えて、何らかの事態というのが落ち着いていない可能性が考えられます。
 一旦時間を空けた方が上手くいくと思いますよ。
 今回に限り、ミス・ヴァリエールの召喚の儀に関しては延期という形を認めましょう」

使い魔を呼び出せなければ留年。
それが保留とされ、後日にやり直しとなる事は単純に喜べる事だろう。
だが、昨日眠るまでどんな使い魔を呼び出せるのか、凄い使い魔を召喚して、
今までバカにしてきたクラスメイトたちに自分の本当に力を見せてやるんだという意気込み、
そういった諸々の感情は中々収まりを見せない。そこに加え、ご主人様となるべき自分に石や枝、
あまつさえ、生ゴミを頭に降らすなどとしたまだ見ぬ使い魔に対する怒りが一番収まらない。
とは言え、コルベールの言う事も確かだと思う。
ただ潜るだけなのにそれも出来ないような事情があるのかもしれない。
だとすれば、今回ばかりは主人である自分の方が妥協しようではないか。
その代わり、呼び出した暁にはしっかりと教育が必要ね、と今後の予定を勝手に考え、
乗馬用の鞭を何処にしまったのか記憶を手繰りながら、ルイズは見るものが思わず引くような笑みを浮かべる。
その笑みにやや引きつつも、教師であるコルベールは今日の事を学院長に報告しておくからとルイズを安心させ、
他の生徒たちにも聞こえるように、学院へと戻るように指示を出すのであった。

後日、ルイズが再び召喚に挑戦するも、
その先では完全に妖怪――それも何でも食べる――と思われている事などルイズが知るはずもなく、
恭也と美由希だけでなく、高町家にも認識されてしまった為、
寧ろ前にも増して生ゴミが送られてくる事になるのだが、それはまた別のお話。
果たして、ルイズは無事に召喚を終える事が出来るのか。



ルイズ、召喚挑戦記 

  ――物語はまだ始まりすら見せない







美姫 「そうそう、早いもので来週からGWね」

大型連休か〜。

美姫 「という事で、暫く更新が止まるかと思います」

例によって投稿は受け付けておりますので。ただし、更新が連休明けになってしまいますけれど。

美姫 「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」

さて、人込みにめげずに頑張るぞ!

美姫 「気合入れるような事かしら」

いや、これが結構いるんだよ。

美姫 「なら、邪魔な人をこうばっさばっさと切り倒して……」

うわーうわー、冗談でも口にしてはいけません!
どこの無双だ、というか現実にするなよ。

美姫 「しないわよ。冗談じゃない。そもそも、そういう事するのはアンタにだけだから」

それはそれで全然安心できないんですが。

美姫 「試しにやってみましょう♪」

いやいや、何楽しそうに、ついでに軽く遊ぼうかみたいなノリで言ってるかな。
って、だから構えるな! そして振り下ろす――ぶべらっ! ぶべ、あべ、ごべ、ごば、がっ、はっ。
ちょっ、ぎょぼ、ま、ぢょっ、まじで、ぐびょ、や、ぐみょ、やめっ……ぶべらっ!

美姫 「むー、耐久力がなさ過ぎてコンボが繋がらない……」

って、ちょっとは加減しろ!

美姫 「続け様に喰らえ♪」

みょぎょ、ぶぎょ、ぼげぇぇ、ぶべらっ!

美姫 「やっぱり繋がらない……」

ひ、人を玩具みたいに……。

美姫 「もう一度!」

あぎゃば、ぐげらっ、ぎょぶみょ、ぶべらっ!

美姫 「うーん、さっきよりも耐久力が落ちているような……」

ちょ、本当にいい加減に……ぶべらっ!

美姫 「あ、今のは良い感じに入ったわ」

…………いい加減にしてください!

美姫 「起き上がり様の土下座に免じてこれぐらいにしておいてあげる」

ははー。って、何か違う気がしないか?

美姫 「そう? 私としては続けても良いんだけれど」

うん、きっと正しい!
さて、時間はどうかな〜。

美姫 「まだあるみたいね」

ノォー!

美姫 「それじゃあ、もう一回ぐらいいっとく?」

いきません! と言うか、何で時間があるからって殴られないといけないんだよ。

美姫 「趣味、とか?」

趣味なら仕方ないよね〜。って、そんな趣味ないわい!

美姫 「違う、違う。私がアンタを殴るのが趣味なのよ」

あー、そうか〜、そっちか〜。
って、納得すると思うか? なあ、なあ?

美姫 「私がアンタの納得を必要とするとでも?」

ですよね! とは言え、大人しくやられてばかりだと思うなよ!
数年に一度の反抗期! 喰らうが良い、我が奥義!

美姫 「逃げるか、謝るか以外に何かあるの?」

…………うぅぅぅ。

美姫 「あ、やっぱり図星だったんだ」

よくよく考えてみれば、どちらを使っても同じなんだよな。
魔王から逃げられない。魔王には慈悲がない。うぅぅ。

美姫 「よしよし。って、誰が魔王よ!」

ぶべらっ!

美姫 「本当に失礼な奴ね。こんなか弱い女の子を捕まえて魔王だなんて」

???

美姫 「本気で不思議そうな顔をしないの!」

ぶべらぼげぇっ!

美姫 「あ、いい時間になったみたいよ」

それじゃあ、今週はこの辺で!

美姫 「やけに素早いわね」

そりゃあ、もう!

美姫 「何かむいかつくわ」

ぶべらっ!
な、なぜ……。

美姫 「ほら、倒れてないでさっさと締めなさいよ!」

ぶべらっ! り、理不尽な……。

美姫 「もう一発ぐらい……」

大丈夫であります、サー!

美姫 「そう、残念だわ」

残念だわ、じゃないっての!

美姫 「やっぱりもう一発欲しいのね」

いらな、ぶべらっ!

美姫 「ほら、時間時間」

うぅぅ。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


4月16日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、いや本当に寒いって、とお送り中!>



うん、冬到来という感じだな。

美姫 「それで喜んでいるのはアンタぐらいじゃないかしら」

いやいや、広い日本、同じように思っている人は他にも居るさ。

美姫 「それにしても、また一段と冷え込んだ感じがするわね」

だよな。思わずワクワクしてしまったよ。

美姫 「その感性は分からないわ」

まあ、そこは人それぞれだな。

美姫 「そうよね。というありきたりな結論が出た所で、少し早いけれどCMいってみましょう」







人の想いは時に強い力を持ち、奇跡と呼ばれるような現象を起こす事さえもある。
そして想いにも色々とあるはずで、中には負の感情に起因する想いもあってしかるべきである。
ならば、そのような想いが起こす現象もまたあり、時にそれは念や呪いと呼ばれる事もあるのだろう。

「……恭ちゃん、これって?」

「昔なら半信半疑だったかもしれないが、今となっては信じるしかないんだろうな」

高町家の恭也の部屋。
そこで向かい合って座るのはこの部屋の主である恭也とその妹の美由希。
二人は互いに上半身裸、美由希は一応Tシャツを羽織っているが、共に肌をいつも以上に晒し、
間に置かれた一冊の書を覗いている。

「御神の負の遺産」

開かれたそこに書かれている一文を読み上げ、次いで美由希は自分の腕へと視線を落とす。

「まさか、本当にあるとはな」

呟き恭也もまた自分の腕を見遣る。
そこには共に黒く渦巻くような紋様が手首から肩に掛けて現れており、
恭也に居たってはそれが背中や胸にまで及んでいる。

「御神の遺産と言いながら、その役割上、不破の方に顕著に出るらしいな」

「だから、私よりも恭ちゃんの方に多く出ているのかな」

言いつつ、二人は手元の書を、随分古い物なのか、所々破れており、自然とゆっくりとページを捲る。

「父さんが実家から持ち出してそのままにしてあったこの書によると、一種の呪いらしいな」

呪いという言葉に美由希が顔を顰めて腕をブンブンと振る。
が、それだけで簡単になくなるものならこうして書を引っ張り出してまで悩む必要などもなく、
当然ながら美由希もそれは分かっているがやらずにはいられなかったのだ。
心底泣きそうな顔を見せ、恭也に縋るような視線を向ける。
が、恭也としても士郎から一度聞いた事がある程度、それも半分冗談っぽく言っていたので、
今の今まですっかり忘れていたぐらいなのだ。

「昔は呪いや祟りなどといったモノは今以上に信じられてきた。
 故に、それに対する対抗手段を持たない御神としては、他の手法を考えたのが始まりらしい」

「だからって、人、人外問わずに斬った際に受けた怨念や呪いを一人に肩代わりさせるってのはどうなんだろう。
 ここには依り代って書かれているけれど、寧ろ生贄だよね。
 と言うか、どうして今になって私や恭ちゃんに呪いが現れるのよ!」

美由希が天井へと向かって叫ぶが、恭也は一人冷静に自分の考えを口にする。

「寧ろ、今になったからこそ溜まりに溜まったものが出てきたとも考えられるがな」

「うぅぅ、この呪いによってどんな影響があるの」

最早半泣きを通り越し、今にも泣き出さんばかりに書へと顔を近づける美由希。
その気持ちも分からなくはないが、とりあえずは美由希の頭が邪魔で見えないので頭を退かせる。

「どうも実際に呪いを受けた者はいなかったらしいな。
 推測でなら色々と書かれているが、実際にはどうか分からないな」

「うぅぅ、何て無責任な。推測では何て書いてあるの」

恭也の邪魔にならないように覗き込み、美由希は書いてある事に目を通す。

「うぅぅ、分かっていたけれど碌な事が書いていない。
 っていうか、最悪死って……」

「手足が動かないとあるが、今の所は異常ないな」

「変なもの、霊などを呼び寄せるって、何て呪いなのよ!
 恭ちゃん、今日は一緒に寝よう!」

「バカな事を言うな。そもそも、あくまでも推測だろうが」

「で、でも本当だったらどうするの!?」

「他にも色々とあるな。しかし、腰痛や頭痛に咳、タンの絡みに喉の痛みって」

「風邪じゃないんだからねぇ。と言うか、後半は明らかに思いつく症状を書いているだけっぽいよね」

思わず自分たちのご先祖様に呆れた表情になるも、すぐに真剣な顔に戻るとまたページを捲る。

「肝心の呪いの解呪に関しては何もないというのが如何にも無責任な」

「と言うか、誰もなった者が居なかったという事は、それが正しいかも分からないんじゃ」

「いや、実際にこうして呪いを受けている以上、何らかの儀式をしたのは間違いないのだろう。
 だとすれば、解呪法ぐらいはあるかと思ったんだが」

「確かにそうだよね。って、恭ちゃん、ここ破られた跡があるけれど」

「……ふむ、もしかしたらここに書いてあったのかもしれないな」

「うぅぅ、肝心な、肝心な部分がないなんて。くだらない呪いの効果推測はあるのに……」

心底恨めしそうに書物を睨み、美由希は床をダンダンと叩く。
そんな美由希にデコピンを喰らわせ、

「時間を考えろ。なのはたちを起こすつもりか」

「ご、ごめん」

「とりあえず、明日那美さんに見てもらうのが一番だろうな」

「だよね。那美さんならきっと」

希望を胸に抱き、美由希はうんと一つ強く頷く。
それで話は終わりだと恭也は書物を閉じ机の上に置くと、布団の上へと移動する。
その段になっても一向に動こうとしない美由希を無言で見ると、

「恭ちゃん、今日だけ、今日だけだから〜」

よっぽどお化けが怖いのか、美由希は恭也に縋るような目を向けてくる。
それを冷たくあしらおうとした恭也であったが、あまりにも惨めな姿に思い直したのか、

「今日だけだぞ。確かもう一組布団があったはずだな」

「ありがとう、恭ちゃん」

「気にするな。よくよく考えてみれば、お前の呪いがなのはに移ると困るしな」

「うぅぅ、やっぱりそんな理由ですか」

そんなやり取りをしつつ、二人はよく考えればなのはにも不破の血が流れている事を思い出す。
が、何も可笑しなものは出ていなかった事を思い出して胸を撫で下ろす。
恭也の胸中を正確にトレースして、美由希は小さく笑う。
それを見咎められ、デコピンを再び額に喰らう事になるのだが、まあお約束と言うやつだろう。

翌日、恭也は登校前に那美へと連絡し、そして放課後。

「確かに呪いなのは間違いないですね。でも、呪いなのにちゃんと整理されているし。
 まるで何かの術を施したみたいです」

恭也と美由希の腕を見ながら、那美はそう口にする。
暫く二人から見ていると何をしているのか分からない事を繰り返し、那美は二人と向かい合う。

「すみません。私にもこの呪いの解き方は分かりません。
 でも、実家の方に連絡してみるのできっと何か分かるかと思います」

那美の言葉に小さからぬ落胆を見せるも、続く言葉に美由希は嬉しそうに笑ってお願いしますと頭を下げる。
力強く引き受けた那美の仲介もあってか、その二日後、恭也と美由希の二人は鹿児島の神咲家にいた。

結論から言うと、ここでも呪いを解く事は出来ず、恭也と美由希は新たな退魔の一族を紹介される事となる。
これがまさか、呪いを解くための長い旅になるなどとは、この時は誰も思いもしないのであった。



「すみません、那美さんまで付き合わせてしまって」

「いえいえ、お気になさらずに。それに、ちょっとした旅行みたいで不謹慎ですけれど楽しいですし」

「恭ちゃん、このお弁当美味しいよ!」

「はぁぁ、少しは景色も楽しめよバカ弟子」

――那美を同行者に加え、高町兄妹の旅は続く。



「呪いの効果なのか、どうも可笑しな力を感じ取れるようになっているみたいだな」

「うぅぅ、こんな副作用いらないよ〜。見えないものは見えないままで良いのに」

「えっと、多分ですけれど霊に対して攻撃できるようになってませんか?」

「……本当だ」

「あ、斬れた。ふ、ふふふふ、刀が通じるのなら怖くないわ!
 って、ごめんなさい、嘘吐いてました! やっぱり怖いものは怖いです!
 血、血塗れで近付かないでー!」

「み、美由希さん、落ち着いて」

「那美さん、ちょっと疑問なんですが、うちの妹は何故人と切り結んで相手が血塗れでも平然としているのに、
 それが霊というだけであそこまで取り乱すのでしょうか」

「さ、さあ? って、のんびりしている場合じゃないですよ」

「いえ、さっきの霊ならもう美由希の奴が斬りましたが」

「はい?」

「うわー、来るな、来るな、来るなー!」

「まあ、本人は目を閉じているので気付いていないみたいですが」

「あ、あははは」

――呪いの副作用が少しずつ判明する中、



「何なの、この呪いは! 満月を見たら発情ってあり得ないよ!」

「ええい、煩い耳元で叫ぶな! 俺など変な耳が生えたぞ!」

「お、落ち着いてください二人とも
 大丈夫です、それぐらいならこの結果の中に居れば問題ないですから」

「うぅぅ、た、助かったよ」

「全くだ。しかし、嫌な呪いだな」

「本当だよ。でも、恭ちゃんの呪いは可愛いから良いじゃない」

「なら、お前にやろう」

「いらないよ。と言うか、そんなことが出来るのなら、私のを恭ちゃんにあげるよ。
 そしたら、恭ちゃんは獣の如く私に襲い掛かるんだね」

「うむ、その時は潔く腹をかっさばこう、お前のな」

「何で私のっ!?」

「えっと、お二方ともちょっと性格まで変わってません?」

――可笑しな呪いの効果が発動したり、



「あははははは、見てみろ美由希、分身攻撃!」

「私なんて腕が四本だよ! ほらほらほら」

「ああああ、落ち着いて、落ち着いてください」

「おお、水中で息が出来るぞ」

「恭ちゃん、私飛んでる、飛んでるよ! アイキャンフライー!」

「あああ、本当に落ち着いて〜」

――呪いの効果に喜んだりする日々が始まる。



とらいあんぐるハート3 〜御神負の遺産〜







四月ももう半分なんだよな、よく考えてみたら。

美姫 「急にどうしたの」

いや、寒さに喜んでいたがよくよく考えたら、可笑しいのかなと。

美姫 「いや、今更な意見よ、それ」

やっぱり公転が365日で一周じゃないから、少しずつずれているとか。

美姫 「ああ、いつの日か冬と夏が逆になるかもね」

……せめて突っ込んでくれよ。虚しいじゃないか。

美姫 「いや、あまりにも本気な目だったからね」

そんな訳ないっての。

美姫 「まあ良いけれどね」

うぅ、信じてない、その顔は信じてないよ。

美姫 「それよりも重要なお知らせがあったでしょう」

と、そうだった。
今日から明日の朝に掛けてサーバーのメンテナンスがされるみたいで、
一部のページが見れなくなったりするかもしれません。

美姫 「見れないとしたら、頂き物の一括表示の方が見れなくなると思います」

そんな訳ですので、ご了承ください。

美姫 「という事で、報告する事もしたし、少し早い気もするけれど」

今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


4月9日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、また寒い日が、とお届け中!>



先週も言ったが、暖かいのか寒いのか。

美姫 「ここ数日は冷えたものね」

だろう。地域によっては朝に霜が見られたそうだぞ。

美姫 「海の水温も低くて、魚が取れないとも言ってたわね」

いやー、今年は本当に冷え込んでいるな。

美姫 「アンタにとっては嬉しい事でしょうけれどね」

まあな。寒いのは良い!

美姫 「はいはい」

って、おざなりな。まあ良いけれどな。
そう言えば、冷え込んでいるから桜がいつもよりも長く咲くとか言われているけれど、どうなんだろうな。

美姫 「うーん、去年はいつ頃に桜が散ったのかってよく覚えてないわね」

ああ。でも、そう言われているって事はそうなんだろうけれどな。

美姫 「そうなのかもね。暖かくなったり寒くなったりと忙しいけれど、皆さんもお体には気を付けてくださいね」

確かにな。ご注意を。

美姫 「さて、それじゃあ今週もCM、いってみよ〜」







それは六月のある日の事であった。
いつものように深夜の鍛錬を終え、さあ寝るかと言う時になって不意に聞こえてきた声。

「お願い、助けて…」

助けを求める事に辺りを見渡すも、声の主は見当たらない。
薄暗い部屋の中とはいえ、今日は月や星の明かりが充分で見えないという事はない。
それによく思い出してみれば、その声は耳から聞こえたというよりも頭の中に直接響いたという方が正しい。
今更ながらにその事に気付き、先程の声が幽霊と呼ばれるものかと考えて思わず肌が粟立つ。
知り合った少女から、そういう存在がいる事を聞いた今、その存在を否定する事はしないが、
よりにもよって自分の所に来なくても良いだろうと思う。
しかも、助けを求められても困るのである。
そっち関係は全くと言って良いほど素人なのだし、何よりも……。

「うぅぅ、悪霊退散、悪霊退散。悪霊じゃなくても、霊なら退散」

布団を頭から被り、美由希は先程聞こえた声は気のせいだと自分に言い聞かせながら唱える。
外で恐らくは風により木々が揺れたのだろうが、美由希はビクリと体を震わせ、

「ご、ごめんなさい、退散なんて言ってごめんなさい! 本気じゃないんです。
 いや、勿論、退散してくれるに越した事はないというのが本音なのですが!
 た、助けを求められましても困ると言いますか。うぅぅ、恭ちゃん、恭ちゃん」

思わず幼児退行しそうになる美由希の頭にまたしても助けを求める声がする。
一層身を震わせつつも、美由希は恐々と布団から頭を出し、

「た、助けに行けば祟られないよね。行って、私には無理だったとしても怒ったりしないでよ」

誰もいない部屋でそう呟き、美由希は幽霊相手に通じるか分からないが念の為と装備を身に付ける。

「うぅぅ、行きたくない、行きたくない」

一歩一歩確かめるように歩きながら、美由希はゆっくりと家を出る。
そうやって辿り着いたのは槙原動物病院から少し離れた路地である。
だが、そこは無残にもあちこちに穴が開き、壁も所々壊れている。

「早くも来た事を後悔しているんだけれど。だ、誰かいますか?」

恐々と声を掛ける美由希の目の前には、怪我をしたのか痙攣しているフェレットが横たわっていた。

「……あ、あははは。まさかね、助けを求めていたのって、この子な訳ないよね。
 だって人語を喋ってたし」

言いつつ、美由希の脳裏には人語を操る狐が浮かぶのだが、それを振り払いフェレットを抱き上げる。
小さく呻き声を上げたフェレットは、美由希の姿を見るなり、弱々しい声ながらも人語を操ってみせる。

「ぼ、僕の声が聞こえたんですね」

「……助けてっていう声なら聞こえたけれど、あれは君なの?」

「そ、そうです。良かった、聞こえる人が居て」

「君、幽霊とかじゃないよね」

フェレットが何か言おうとするよりも先に、美由希は大事な事だとばかりに尋ねる。
それに小さく頷いたのを見て、美由希はようやく肩の力を抜く。

「良かったよ、幽霊とかじゃなくて。で、助けるって何をすれば良いのかな?
 とりあえず、病院で良いの?」

「そうじゃなくて……」

フェレットが何か言うよりも先に、美由希の頭上に影が射す。
美由希は考えるよりも先にその場から飛び退き、今しがた自分がいた場所に降り立った物を見詰め、

「ゆ、ゆゆゆ幽霊!? や、やっぱりこっち関係なの!?」

見事にパニックを起こす。
フェレットは苦しげな声を上げて美由希を落ち着かせようとするのだが、中々聞いてくれない。
半ば強引にフェレットは何処からか取り出した赤い宝石を美由希に握らせる。

「僕の後に続いて言って」

「ううううううん、い、言えば良いんだね」

フェレットが起動キーと言った言葉をなぞるように口にすると、赤い宝石が輝く。

「後はイメージして。貴女を守る防具を、貴女を助ける武器を!」

言われた通りにイメージする美由希。
やがて光が収まると、そこには……。

「って、何にも変わってない!? どうして!? ちゃんとイメージしました?」

「したよ。それよりも次はどうしたら良いの」

「えっと、ちょっと待ってください。レイジングハート」

恐らくは赤い宝石の名前なのだろう、その名を呼びながら美由希の手から赤い宝石を取って尋ねれば、
機械的でありながらも女性のものと分かる声で返答が返ってくる。

『魔力が全く足りません』

「そんな、僕の声を聞き取れたのに!?」

『それが何故かは分かりませんが、魔力の絶対量が不足しています』

「えぇぇ! そんな事を今更言われても。どどど、どうした良いの!?」

先程まで焦りながらも何処か冷静に対処していたフェレットがパニックになるに辺り、逆に美由希の方が冷静になる。

「えっと、とりあえず逃げる? 霊関係なら知り合いに専門家がいるけれど」

「いえ、あれは霊とかじゃないんです」

「へっ、そうなの? じゃあ、普通に物理攻撃が通じるの?」

「はい、通じるには通じますよ。ただ魔法なしで倒すのはかなり難しいといか、多分無――」

「ようはあれを倒したら良いんだね」

「そうですけれど。だから、普通は……」

フェレットの言葉から自分のする事を理解し、確認した美由希は再び何か言おうとしたフェレットを抱え、
フェレットが言葉を途切らせる程の速度を一歩目から出して訳の分からないものに近付く。
美由希の腕の中でフェレットが何か言っているようだが、それを頭から追い出して美由希は更に近付き、
間合いに入った所で背中に指していた小太刀を抜刀。
そのまま目の前の謎の物体を斬り付ける。
小さな悲鳴を上げ、体の一部を切り裂かれたソレが美由希から距離を開けるも、
美由希はソレよりも早く更に踏み込み、今度は刺突を繰り出す。
鍔元までめり込む程の攻撃に、ソレは先程よりも大きな悲鳴を上げ、やがてその姿がゆっくりと消えて行く。

「う、嘘」

目の前の出来事に呆然となっていたフェレットであったが、消えた後に現れた青い宝石を目にしてすぐに言う。

「レイジングハートで封印を!」

『魔力が足りません』

「そうだった! えっと、とりあえずその宝石を取ってもらえますか」

「うん、これ? はい」

美由希は宙に浮いていた青い宝石を無造作に掴み、フェレットへと渡す。
渡されたフェレットは無事に回収できたと喜びつつも、少し複雑そうな顔になる。
尤も動物のそれをはっきりと区別できたのではなく、何となくそんな雰囲気という事なのだが。

「えっと、これで良かったんだよね」

「はい、助かりました。これは僕の魔力が回復してから封印します」

フェレットの言っている事の全部を理解できた訳ではなかったが、美由希は胸を撫で下ろすと、
不意に後ろを振り返り、笑顔を見せる。

「恭ちゃん、何しているの?」

何もない空間に向かって呼びかける美由希を見上げ、フェレットはもしかしてちょっと危ない人、
と今更ながらに思うも、美由希は変わらずに道路の先を見詰める。
やがて、先に根負けしたのか、電柱の陰から恭也が姿を見せるとフェレットは更に驚く。

「ちっ、まさかお前に気付かれるとは不覚」

「んふふふ、私も成長しているんだよ。って言いたいんだけれど、さっき恭ちゃん助けようとしてくれたでしょう。
 それで気付いたの。多分だけれど、家からずっと付いてきてたんじゃないの?」

「夜中にこっそり出て行こうとする不良娘をどう叱ろうかと思ってな」

それが照れ隠しだと分かっているからか、美由希は更に笑みを深めるも何も言わないでおく。
それで余計に憮然となる恭也であったが、とりあえずはそっちが先だとばかりに美由希の腕に居るフェレットを見る。
二人から見られ、少し居心地が悪そうにしながら、フェレットは経緯を説明するのであった。



「恭也さん、美由希さん、ジュエルシードの封印を!」

ユーノと名乗ったフェレットに協力し、青い宝石ジュエルシード集めをする事となった恭也と美由希。
ユーノが期待した恭也の魔力は、美由希よりも更に低く、レイジングハートを起動させる事が出来なかった。
が、そんな事関係ないとばかりに、二人は小太刀で立ち塞がる障害を斬り伏せて行く。
二人の魔力を合わせ、どうにかレイジングハートによる封印回収だけは出来るのが救いだろうか。

「さて、ユーノ氏。俺たちは今回はどうすれば良いと思う。
 忌憚のない意見を聞きたいのだが」

「えっと、はっきりと言って無理です。飛行の魔法はそのかなり難しいと言いますか、適正がありまして。
 仮に適正があったとしても、お二人の魔力だともってに数秒かと」

「流石に恭ちゃんでも空は飛べないもんね」

「まあな。しかし、あれを放置する訳にもいかないだろうし、どうしたものか」

「うーん、飛行だけ協力してもらうってのはどうかな」



「あ、凄い。魔力量だけならBランクを超えてます」

「良かった。それじゃあ、私でお役に立てるんですね」

「「勿論です」」

新たな協力者、空中に二人の足場を作る役を引き受けてくれた那美を引き連れ、
恭也たちのジュエルシード集めは続く。

「うーむ、敵が那美さんを狙うとまずいな」

「そうだよね。空に居る私たちも落ちちゃうし、何よりも那美さんを危険な目に合わせるの」

「いえ、私の事は気になさらず」

「そんな訳にはいきませんよ。何か良い案はないものか」

「僕の魔力が戻れば、防御魔法で守ることも出来るんですけれど」

こうして頭を悩ませる事数分。
あっさりとこの問題は解決する事となる。

「なみ、くおんがまもる」

こうして、前衛に恭也と美由希、後衛に那美。その護衛に久遠、司令塔にユーノというチームが出来上がる。
更にそこへ加わる新たな第三者。

「異世界の技術ってのも面白いわね〜。この忍ちゃんに任せなさい。
 ばっちり改造してあげるから」

「寧ろ、改造しないでくれ」

事情を知り武器の製造に協力も申し出る忍と、その護衛にして従者ノエル。
大人数によるジュエルシード探しは順調に進んでいくのであった。



「全部のジュエルシードが、敵対する向こうとこちら側で全部揃って、後は直接対決するだけ……。
 だというのに、どうして今頃、こんな魔力を持った人が見つかるかな〜。
 しかも、こんな近くに居たなんて。あれだね、この世界の諺にあったよね。
 そう、確か灯台下暗しだっけ?」

今更ながらになのはの秘めた魔力量に気付き、知らず床に突っ伏すユーノが居たりしたとか。

リリカル美由希&恭也







決行、前にリリカル美由希ネタはやったんだが、あれとはまた違う形に。

美姫 「確か、あれはとらハからリリカル世界に、だったわよね」

そうそう。今回は異世界移動じゃない上に、デバイス持っちゃいました、というパターンで。

美姫 「偶には美由希にも主役をさせてあげないと、アンタの書く物じゃかなり扱いが可哀相だものね」

そんな事はないと言い切れないが、そのお蔭で出番も多いんだし。

美姫 「それが良い事なのか、悪い事なのか」

さて、それはさておき。重大発表です。

美姫 「何よ」

時間がない。

美姫 「またそれなの!」

ぶべらっ!
いやいや、ほら見てみろ。

美姫 「あ、本当だ」

そんな訳で締めるしかないのだよ。

美姫 「陰謀の匂いが」

何の陰謀だよ。

美姫 「むぅ〜。まあ良いわ。締めるならさっさとしなさい」

何か理不尽だが、こっちもまあ良いか。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


4月2日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今週も天候の話から入るか、とお送り中!>



もう、暖かいのか寒いのか。

美姫 「ここ数日は忙しないわね」

だろう。何を着れば良いんだ!

美姫 「裸でいれば?」

うわー、それじゃあただの変態だ!

美姫 「うん、アンタにぴったり」

やめれ! このご時世、どこまで冗談が通じるのか。

美姫 「冗談で済めば良いけれどね」

分かってて言うなよ。と言うか、勝手に人を変態にするな!

美姫 「え、アンタの事だからその姿は仮の物で、後三つ変身するとかじゃないの?」

何処の宇宙人だ、俺は。

美姫 「しかも、変身する度に弱くなる」

意味ないよね! 寧ろ、本体にパワースーツを着ているのが普段なのか!?

美姫 「アンタから変態を取れば……あ、バカが残るか」

ひどっ! と言うか、何気に変態というのを確定にしないで、お願いだから。

美姫 「冗談よ。アンタの基本はバカだもんね」

そうそう。って、それも大概ですよ!

美姫 「で、バカなアンタは裸で過ごすと」

って、まだ引っ張るのかよ!

美姫 「でも、まあ、確かに偶に肌寒い時なんかもあるのよね」

そういう時は上にもう一枚で良いんだけれど、外でそれは無理だろう。

美姫 「まあ、その時は只管我慢するしかないわね」

かと思って少し多めに着てきたら、何だよ日中はいい陽気じゃないか。
軽く汗ばむぞ、だしな。

美姫 「単にアンタの運の問題?」

…………うん、今週も頑張ったな〜。

美姫 「話を逸らしたわね」

はっはっは。

美姫 「頑張ったと言えば、エイプリルフールネタに時間を掛けたわね」

まあな。簡単に済ませるはずが思わず、作らなくても良い所まで作ってしまった。

美姫 「意味ないのにね」

あ、あはははは。まあ、絵は既存の物を使わせてもらったから、そんなに時間は使ってないよ、うん。

美姫 「さっきとは違う話ね」

いや、思ったよりも時間が掛かったという事でして。

美姫 「おふざけばかりに全力の人生ってどうなの?」

楽しいぞ! ぶべらっ!

美姫 「私や皆さんに迷惑を掛けない範囲でやってよね!」

か、掛けてないよね?

美姫 「掛けたわよ。まず、肝心のSSが書けてない」

うっ。

美姫 「それに何よりも、エイプリルフールネタは私の長編嘘予告を書かせる予定だったのに!」

思いっきり私怨だ!

美姫 「うぅぅ、この恨み……」

って、目が怖い、目がマジだって!

美姫 「それで、いつまで置いておくつもりなのよ」

うーん、とりあえず来週ぐらいまでは冗談として置いておこうかと。

美姫 「あ、そう」

って、冷たっ! 反応が冷たすぎますよ。

美姫 「それはそうと……」

えぇ、話まで変える!?

美姫 「じゃあ、変えないでいて、このまま広げられる?」

……うん、無理。

美姫 「でしょう」

……あっさりと認める自分が、自分が〜。

美姫 「はいはい、今更そんな事で苦悩しないの」

だな。

美姫 「だからって、あっさりされるのもむかつくわね」

どないせいっちゅうねん。

美姫 「適度に落ち込み、私を敬いなさい」

最後、関係ないよね!

美姫 「バカ!」

ぶべらっ!

美姫 「一番大事な事でしょう。何なら大事だから、二回言おうか?」

い、いえ、結構です。文字通り、骨身に染みました。

美姫 「分かれば良いのよ。さて、アンタへの躾も良い感じになったし」

躾!? 何だ、それは!? 俺は躾られていたのか!?

美姫 「それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」

いやいや、軽く流す話題と違う!







降りしきる雨の中、剣を手に立つ青年の前に跪く男。
そんな二人を囲むように、遠巻きに見守る複数の者たち。
激しい雨音に負けず、青年へと縋りつく男の声が届く。

「私が悪かったエミリオ」

謝罪を口にし、いかに争いが無意味かを口にする男は、兄弟だろうと情に訴えて青年を見上げる。
それらを内心の感情を一切押さえつけ、無表情で見下ろしていた青年は剣を持つ手を上げ、ただ一言。

「貴様がはじめた事だろう」

呟くと同時に振り下ろす剣で男の首を跳ね飛ばすのだった。



「……夢か」

今しがた変な夢を見たような気もするが、夢とは得てして思い出せないものである。
恭也もそれ以上は深く考えず、変な夢を見たと片付け、自分の今いる場所を見渡す。

「教室……。誰も起こしてくれなかったのか」

学校の教室で眠ってしまったらしく、机の上には授業で使った、
いや、使うはずだった教科書やノートが広げらもせず乗っている。
赤星や忍ぐらいは声を掛けてくれそうなものだがと思いつつ、そもそも人が周囲を動く中、
平然と寝ていた事にも疑問を抱きつつ、まあそんな事もあるかと帰り支度を始める。
筆記用具などを詰め込んだ鞄を手に持ち、いざ帰ろうとしたその瞬間、カタカタと小さな音が響き、
すぐさま大きな揺れと共に天井が崩れる。
咄嗟に机の下に潜り込み、揺れが収まった所で這い出てみれば、
見事に教室の前から半分が崩れており、外の景色がはっきりと見えていた。
雨の降りしきる景色を眺めていた恭也は、崩れた残骸の中に人の影を見つけ、急いで傍へと駆け寄る。
どうやら、一際大きな柱に挟まれているらしく、男は抜け出せずにいた。
意識はあるらしく、こちらを見上げてくる男と目が合う。

「大丈夫ですか。少し大人しくしててください」

服装はこの学校の制服のものではないし、教師にしては若すぎる。
何故、こんな場所にと言う疑問もあるにはあったが、まずは人命救助が先だと柱に手を掛ける。
が、相当の重量があるらしく、恭也が持ち上げようとしても中々持ち上がらない。
引き抜けるかと男の腕に手を伸ばし、

「無礼者、気安く……」

何か言い掛けるも、どこかか痛めたのか言葉途中で顔を顰める。
降りしきる雨から体温を少しでも逃がさないように着ていたブレザーを男に掛け、恭也はもう一度柱に手を掛ける。
そんな恭也へと男が失せろと言い放つ。
その言葉を無視して尚も助けようとする恭也に、男が尚も何か言おうとした所で、再び地響きが起こる。
音のする方を振り向けば、崩れた校舎が更に砕け、こちらへと濁流のように襲い掛かってくる所であった。
それを見た恭也は、男の言葉に従って逃げる事をせず、そのまま男の体に覆いかぶさり庇おうとする。
そのまま、恭也と男の二人を飲み込むように瓦礫が二人の体を覆い隠してから数秒後、
瓦礫の山から腕が一本生えたかと思うと、そこから這い出てくる者があった。
それは先程まで柱に下敷きにされていた男で、その腕には意識を失いぐったりとした恭也の姿もあった。
男は恭也を地面に下ろすと、じっと見下ろし、

「バカな奴だ。助けなどいらぬと言ったのに、自らの身を犠牲に……。
 おまえがそうなのか」

恭也をじっと見下ろしていた男は暫く考え込んだ後、その手に一つの小瓶を取り出し、
中の液体を恭也へと飲ませるのであった。



「う……うう」

徐々に意識が浮上する独特の感覚を味わいながら、恭也はゆっくりと目を開ける。
視界に広がるのは布で出来た天井。いや、ベッドの天蓋であった。

「どうやら助かったのか。ここは病院……ではないだろうな」

とりあえずは体に動かない箇所がない事を確認し、恭也は体を起こす。
多少違和感を覚える体を何とか立たせ、現状を把握するべく見渡せば、
そこは優に数十畳以上はあろうかという部屋で、大きな窓から差し込む陽射しで部屋は明るく照らされ、
飾られた絵画はよく分からないものの、高そうである。
部屋の隅には全身を映し出す姿見も置かれており、

「……はぁ!?」

思わず恭也は素っ頓狂な声を上げて、目の前の姿見をまじまじと見詰めてしまう。
間違いないのかと、鏡の前で手を上げ、足を上げ、やはり目の前に映っているのが自分だと理解すると、

「どうして女になっている!?」

ごくごく当然の疑問を口にするのであった。
それに応えるかのようにノックされた扉が開き、一人の男性がやって来る。
説明を求める恭也にまずは着替えをと恭也の言葉を封じ、
続けて入ってきた数人の侍女らしき者たちが恭也を着飾らせる。
そうして案内されたのはお城の謁見の間とでも表現するのが相応しい場所で、
そこに一つだけある玉座には、恭也が助けようとした男が座っていた。
エミリオと名乗る男から聞かされたのは、とても信じ難い話で、恭也を妃に迎えるというものであった。
驚く恭也へと執事らしき男が更に説明をしてくれた所によると、ここが地球とは別の世界であると言うこと。
空間を繋ぐゲートを利用し、様々な世界と交流もあるが、地球は辺境に位置して交流がないこと。
更に、エミリオはそれらの世界を束ねる王という事であった。
状況は理解したものの、エミリオの提案など呑めない恭也が望むのは地球へと戻る事と、男に戻る事。
前者は以外にもあっさりと叶えられたものの、後者に関してはあっさりと拒否される。
それでもどうにか高町家へと戻ってきた恭也は、エミリオと共に事情を説明し、
証拠としてゲートを開いて異世界を見せたりと結構、大変な目にあった。
が、何よりも恭也が苦労したのは、

「き、妃って恭ちゃんは男でしょう!」

「今は女だ」

「だからって、はいそうですかって訳には……」

当然ながら、恭也とエミリオの結婚に反対する面々。
恭也自身も当然ながらそんな事を飲めるはずもなく、

「……という訳で、忍に那美さん。俺を戻す方法がないか調べてくれないか」

こういった関係で少しは糸口を掴めそうな友人にこっそりと頼る事にするのだった。

「勿論よ、任せなさい!」

「私も実家に連絡して聞いてみます!」

当然ながら、理由が理由だけにいつも以上に真剣に対策を探し始める二人。
そんな折、エミリオまでもが転入生として恭也のクラスにやって来るは、
男子たちや一部の女子からは変に迫られるはと混乱を極める事となる。

「ああ、何よりもまず平穏が欲しい……」

こうして、恭也の普通じゃない日常が始まる。



世界の果てでとらいあんぐる







あ、今日はもう既に時間がない。
前半で結構、使ったからな〜。って、どうかしたのか?

美姫 「ううん、どうもしないわよ」

そうか? なら良いが。

美姫 「最早、CM前の事は忘れている浩であったとさ」

うん、何か言った?

美姫 「ううん、何にも」

さて、それじゃあ早速だが締めるぞ。

美姫 「そうしましょうか」

それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月26日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、また寒さがぶり返してきたね、とお届け中!>



しかし、また急に冷え込んできたな。

美姫 「嬉しそうよね、アンタは」

はっはっは。本当ならもう少し寒くても良いんだけれどな。
まあ、花粉がまし……ではないが頭はすっきり。

美姫 「ただでさえ、おバカなのにこれ以上すっきりしてどうするの」

な、何か意味合いが違うぞ、それは!

美姫 「さて、冗談はさておき」

本当に冗談だったのか?

美姫 「おバカ発言以外は冗談よ」

そこを冗談にしてくれよ!

美姫 「はいはい。それじゃあ、ちょっと早いけれどCMいってみよ〜」







「あはははは」

「ふふふふふ」

夕暮れの中、二つの高笑いと共に響くのは金属音。
途切れる事無く打ち合わされる刃は、時にピタリとその音を途絶えさせ、代わりに静かな風切り音がする。
その間も続く笑い声は、男と女のもの。
二人はその顔に笑みを浮かべ、狂気を周囲に振りまきながら凶器を振るう。
小太刀と呼ばれる刀の一種を互いに相手へと振るい、互いに止まる事無く動き続ける。

「あはははは、楽しいな美由希」

「ふふふふふ、本当に楽しいね、恭ちゃん」

笑い声と刃のぶつかり合う音を響かせ、恭也と美由希は楽しそうに死の演舞を行う。
小太刀を時にニ刀使い、飛針を飛ばし、鋼糸を操り。
ただただ二人は狂ったかのように笑いながら止まる事を忘れた玩具のように。
異様なこの光景に、しかし口を挟む者はいない。
一体いつから繰り広げられているのか、両者共に軽く呼吸を乱している。
それでも、笑いを、攻撃の手を止める事無く、ただただ繰り返し繰り返し。



「……で、何をやっているの、あなたたちは」

何処までも続くかと思われた狂宴は、しかし唐突に終わりを告げる。
帰宅した桃子の当然とも言える疑問の言葉によって。
ピタリと息を揃えたように動きを止めた二人は、互いに顔を見合わせて、

「鍛錬だが」

「鍛錬だよ」

「いや、そうじゃなくて……」

あまりにも恭也と美由希が普通に言うので、桃子は思わず言葉を無くし、それでも何とか伝えようと試みる。

「さっきの怪しげな笑い声はなに?」

「ああ、あれか」

「ほら、昨日かーさんが言ったんじゃない」

「私、何か言ったかしら」

息子と娘の奇行に自分の発言が関係していると言われ、考える桃子。
だが、全く記憶には浮かんでこず、困ったように二人を見れば、

「少しは年相応に笑えと」

「あと、私たちの趣味を土いじりと言って、他に楽しい事はないのかって聞いたじゃない」

「故に二人で出した結論として、土いじり以外に楽める趣味として鍛錬があるぞと証明しただけだ」

「ちゃんと楽しいと言う証拠に年相応に笑ってたでしょう」

「…………あー、あの笑いはちょっとどうかと思うけれど」

真顔で言う二人に桃子は笑顔を引き攣らせつつ、
趣味である盆栽やガーデニングを土いじりと称した事を根に持っているなと考える。
つまる所、これは意趣返しといった所なのだろう。

「えっと……ご近所さんから変に見られるから」

「安心しろ」

「私たちは気にしないから」

「私が気にするのよ! と言うか、なのはたちは!?」

自分が帰宅する前に止めてくれそうな住人たちを思い出して尋ねるも、
二人からは簡潔に出掛けているというありがたい言葉を頂く。

「さあ、美由希続きをしようか」

「うん、恭ちゃん。土いじりよりも楽しいよね」

「そうだな。あっははははははー。そらそらそら! 我が刃の錆びになれ!」

「ふふふふふ。甘い、甘いよ恭ちゃん、寧ろ返り討ちにしてあげるよ!」

「…………」

再び始まった二人の鍛錬に桃子は何を言っても無駄だと悟り背を向ける。
ちょっと出掛けてくると告げ、二度と、二人の趣味には口を出さないでおこうと固く決心する。
そんな何でもない高町家の非日常のひとコマであったとさ。







今回は予告っぽくじゃなく、普通に短編っぽく。

美姫 「いや、本当に短い短編ね」

だろう。もう一つの案としては、桃子が入ってこないで只管兄妹で切り結ぶというのもあったんだがな。
そこに至るまでの経由とか。

美姫 「またダークになりそうな」

いやいや、純粋に剣の腕を磨き続けたその先で起こったと言う、至ってダークじゃない展開だよ。

美姫 「……まあ、良いわ」

その間が気になるが良いか。

美姫 「そうそう、気にしない事よ」

さて、本来ならこのままトークを続けるのだが。

美姫 「今回はいつにも増して時間が短いのよね」

まあな。色々と事情があってな。

美姫 「それにしても、ネットはややこしいわね」

確かにな。と言うか、セキュリティソフトが可笑しくなるってどうよ?

美姫 「入れ直すしかないのに、アンインストールした後に一回ネットに繋ぐというのも可笑しいけれどね」

まあ、愚痴っても仕方ないさ。
それで直るのならやるしかないしな。と言うか、ヴァージョンアップできませんって……。

美姫 「まあまあ。それよりも、さっさと締めるわよ」

おうともさ。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月19日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、目が、目が〜、とお送り中!>



何年ぶりだろうか。この時期にもまだ少し寒いという。

美姫 「とは言え、日中とかは少し暖かくなってきたわよね」

ちっ、ならなくても良いのに。

美姫 「はいはい。それにしても、テンションが低いわね」

まあな。花粉症が本格的に見え隠れ。
と言うか、既に出始めているんだが、更に酷くなりつつある今日この頃。
加えて、今週は何故か頭痛まで。うぅ、酷くはないが、集中し辛いんだよな。

美姫 「それでこの没SSがある訳ね」

いやー、酷いもんだ。

美姫 「いつもと変わらないわよ」

グサッ! と来たぞ、今。まあ、そんないつもよりも酷いんで流石に書き直しなんですけれどね。

美姫 「まあ、いつも以上に酷いもんね」

だろう。まあ、今は頭痛はしてないから幾分ましになったよ。
鼻は結構、辛いが。

美姫 「花粉症って頭痛も起こったかしら?」

起こらないとは思うがな。違う原因があるのかも。

美姫 「まあ、どうでも良いわよね」

おーい、人事だと思って……。

美姫 「人事だもの」

ですよね!

美姫 「はいはい、落ち着いて、落ち着いて」

誰のせいだ、誰の!

美姫 「どうどう」

ブルルルッ!

美姫 「落ち着いた所で、今週もCMいってみよ〜」

って、人を馬扱いするな!







裏社会。一般の人が知る事のない、通常ならば関わる事のない世界。
だが、そんな裏社会にも更なる裏、闇が存在した。
人外が平然と跋扈する闇の世界。ここは常識でさえも歪む非日常の世界。
だが、そこに生きる者たちが表に出る事はそうはない。
数に劣るから、などという理由などではなく、その必要性を感じないからというのが大きな理由である。
が、中には楽しみの為に表へと出る者たちもおり、そうなると必然とそういった者たちを止める者もまた生まれる。
しかし、必ずしも止められる訳ではないのだ。時には事後に回る事もある。



「ば、バカな。人間などに私が……」

「貴様が何者かなど知らん。だが、俺の家族に手を出そうとしたんだ。後悔はあの世でしろ」

信じられないと言う顔のまま事切れるのは、上半身だけが狼の姿をした恐らくは男。
それを冷徹に見下ろす青年の手には、小太刀と呼ばれる昔からの武器が握られている。
青年――恭也は血を拭き取ると小太刀を鞘に仕舞い、背後へと振り返る。

「確か、綺堂さんでしたね」

「え、ええ、そうよ。それはもしかして、高町さんが?」

さくらは目の前の光景に信じられない物を見たような顔付きで尋ねる。
それに対し、恭也は一瞬だけ躊躇したものの頷く。
恭也が弁解の言葉を考えるよりも早く、さくらが先に口を開く。

「本来なら私が彼を捕縛、できない場合は狩るはずだったのよ。
 忍から夜の一族の事は聞いているのよね」

恭也の再度の首肯にさくらは説明を始める。
闇の者が表にでないように見張るのもまた闇の者たちである事を。
そして、今回、この近辺で行われている殺人に狼人間が関わっている事を掴み、解決の為にさくらが来た事を。

「だから、この事が公になる事はないわ。でも、まさか人がワーウルフを……」

勿論、彼女とて夜の一族と総称される人外の者たちが絶対などとは思ってはいない。
現に彼女の知り合いの中には、そういった者と渡り合えるであろう者たちもいるのだから。
とは言え、身体能力だけで言えば、倒れている男は成人男性の平均を軽く上回るのだ。
そんな驚きなど気にもせず、恭也は淡々と事の経緯を説明し、後は頼むと頭を下げるとその場を離れる。
忍と一緒に居た青年と、今の彼の姿が重ならず、さくらは戸惑いながらも黙って見送るしかできなかった。



「さて、今日は少し趣向を変えた鍛錬をしよう」

「えっと、ひょっとして座学?」

「そうだ。とは言え、その後はいつものようにやるがな」

夕暮れに染まる道場。その中央で恭也と美由希は師弟として向かい合う。

「今日は自分よりも圧倒的な身体能力や反射神経を持つ者とやりあう事になった場合だ」

「それって、どれぐらいの開きがある事を想定しているの?」

「子供と大人、いや、それ以上の場合も想定する」

「前に話してくれた闇の眷属とかいうやつの事?」

「そうだ。他にも夜の一族と言う呼び方もあるというのも教えたと思うが、総じて人とは違う者だと思えば良い。
 HGS能力者、霊能力者など、特殊な力に対する手段に関してはまた別の日にするのでそのつもりで考えるように」

「あ、うん」

こうして、古より伝わる剣術を更なる高みへと、
それを振るう愛弟子をそれらさえも凌駕する剣士にする為の教育は続けられる。
変わる事無く続くかのように思われた日常は、不意に変化を見せる。
最近、起こり始めた事件に偶然出くわす事によって。

「綺堂さん?」

「恭也くんに美由希ちゃん!? 駄目よ、早く逃げなさい!」

腕や肩から血を流すさくらの足元に倒れている二つの影。
そして、そのさくらを囲むように未だ六つの影が立つ。

「恭ちゃん、もしかしてあれが……」

「そうだ。闇の眷属、夜の一族、様々な呼び方はあれど、人とは違う生物だ」

巻き込まれる形で関わる事となってしまう恭也と美由希。



「よもや、あの化け物とやり合い生き残る人間が居るとはな」

「興味を持ちましたか?」

「ああ。一度、会ってみたいものだな。人の身で我らさえも切り倒す剣士とやらに」

一つの事件を切欠に、恭也と美由希は好まずとも更なる厄介事へと引き込まれる事になる。



「そうか、俺の家族に手を出すか……。なら、貴様はここで死ね」

「っ! 人の身で我を威圧するか。くっくく、面白い、面白いぞ!
 見せてみろ、只管に研鑽を積み上げ、その果てに人の枠を越えし剣士よ!」

「目指す最高の剣士によりそれを越えるべく育てられ、共に歩む事を望むただの剣士。
 故に人でないというだけの存在に負ける訳がない!」

「ほざけ、たかが人間が我らを舐めるな!」

闇世界へと足を踏み込まざるを得なくなった二人の剣士。
果たして、その命運は。

とらいあんぐるハート 〜剣士の狂奏曲〜







そうそう、そういえば最近眠れないんだよ。

美姫 「どうせ鼻が詰まってとか言うんでしょう」

ああ、今週ももうお終いか〜。早いものだ。

美姫 「図星だったのね」

まあ、良いじゃないか。とは言え、昼間とかに眠くなるのは問題だったりするよな。

美姫 「まあ、こればっかりは仕方ないんじゃないの」

そうなんだが。うぅぅ、ティッシュが欠かせない日々が続くのか。

美姫 「目薬もでしょう」

そうそう、それも大事だよ。本当に困ったもんだ。

美姫 「私は困らないんだけれどね」

羨ましい。いや、本当に羨ましいよ。

美姫 「って、今日は殆どというか全部、花粉症絡みの話しかしていないのに時間が来ちゃったじゃないの」

おお、本当だ。まあ、偶には良いじゃないか。

美姫 「偶にも何も、この季節になると毎年同じような話が続いているような気がするんだけれど?」

それは先週にも聞いたような気がするな。

美姫 「だから、毎回似たいような事を言っているって事なのよ」

よし、来週は違う話になるように頑張ろう。

美姫 「覚えていない確立の方が大きいと思うのは私だけかしら?」

……あ、あははは。

美姫 「笑って誤魔化すな!」

ぶべらっ!

美姫 「ったく、もう。ほら、そろそろ締めなさいよ」

ふぁ、ふぁ〜い。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月12日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ふぇっくしょん、ぶぇくしょん、とお届け中!>



暖かい日が続くかと思ったら、また寒くなったり。

美姫 「でも、桜が咲いた所もあるそうよ」

本当に様々だな。まあ、俺としては寒いのは歓迎だが。

美姫 「でしょうね」

こうゾクゾクと背筋を走る悪寒が……。

美姫 「いや、それは単なる風邪では?」

おおう! どうりで熱があると思ったら。

美姫 「って、熱あるの!?」

おう。35.7℃

美姫 「平熱とういより、少し低いんじゃ……」

ですよね。まあ、冗談はさておき、寒いのは良いよ。

美姫 「まあ、アンタ自身が寒い子だもんね」

……その言い方はやめて。違う意味にしか聞こえない。

美姫 「いや、違うも何もそういう意味で言っているんだけれど」

先生! 虐めが、虐めがあります!

美姫 「ないわよ」

虐めている本人が先生だ!

美姫 「誰が先生よ。バカな事ばっかり言うんじゃないわよ」

ははは。しかし、教師だけなら兎も角、女教師と聞くと何故か妖艶な感じになるな。

美姫 「ならないわよ。そんな感覚、アンタだけよ」

そんな事はないと思うが。
まあ、そんな事はともかく、今困っているのはやっぱり花粉なんだよ。

美姫 「それこそ、私にはそんな事で、どうでも良い事だけれどね」

酷いな、おい。まあ、花粉症じゃない人にはそうなんだろうけれど。

美姫 「これから酷くなっていくのはご愁傷様だけれどね」

うぅぅ、この季節になると毎年、同じような話題の気がするが仕方ないよな。

美姫 「確かにね。というか、そんな事を言うのも同じかもね」

去年も言ってたかもしれないってか?

美姫 「そういう事。で、どう?」

覚えてません。まあ、言ってたとしてもおかしくはないだろうけれどな。
毎年、毎年、この季節になる度に目と鼻に喉が辛くなるし。
くそー、花粉め。

美姫 「はいはい、自然相手に怒っても仕方ないでしょう」

うぅぅ……。

美姫 「さて、それじゃあ気を取り直して今週もCMいってみよ〜」







春、進級を迎えたばかりの時期に行われる恒例行事。
と言うよりも、これ自体が進級できるか留年するかという瀬戸際になるとも言うべき行事にして儀式。
春の使い魔召喚の儀式が、ここトリステイン王国にある魔法学院で行われていた。
既に殆どの生徒が無事に儀式を終え、呼び出した己の使い魔に名を付けたり、
コミュニケーションを取っていたりする中、最後の一人が召喚の呪文を唱えている。
が、完成した呪文はしかし反応を見せず、本来なら目の前に現れるはずの使い魔は姿を見せない。
少女が焦っているのは明白で、だがそれでも気丈に胸を張り杖を構える。
既に何度目かになる呪文を詠唱しようとして、儀式を進行する教師コルベールがその少女へと声を掛ける。

「ミス・ヴァリエール。次で最後ですぞ」

いい加減疲れの混じった顔により一層の深刻さを刻み、言われた少女ルイズは頷くと一度深呼吸をする。
目を閉じ、何かに集中するように自分へと言い聞かせる。
やがて、その瞼がゆっくりと開かれ、何度目になるのか分からない呪文がその唇から紡がれる。

「この広い広大な世界の何処かに居る私の使い魔よ」

呪文の前に宣言するようにそう声に出し、少女は尚も続ける。
その様子をクラスメイトの何人かがからかうような視線で見つめる中、少女はゆっくりと呪文を紡ぎ出す。
やがて全ての呪文を唱え終え、召喚の呪文が完成すると、小さな爆音が響き辺りを煙が包み込む。
視界が悪くなる中、コルベールは煙の中にぼんやりと浮かぶ影を見つける。
どうやら召喚に成功したらしく、コルベールは少女の努力を知っているだけに胸を撫で下ろす。
風の魔法で煙を吹き飛ばし、呼び出された使い魔を見てコルベールも言葉を無くす。
もうそれなりに教師を続けてはいるが、今回のような経験は彼をしても初めてのこと。
故に思わず声を失ったのだが、そこまで考えてコルベールは気遣うようにルイズへと視線を向ける。
ようやく苦労して呼び出した使い魔が、今目の前に居るソレだと理解したくないのか、
ルイズは呆然としたまま自らが呼び出した使い魔を見下ろしている。
その心情の全てを分かるとは言えないが、それでもある程度は察してやる事はできる。
とは言え、この儀式は神聖にして絶対なものである。
ならば、ルイズには可哀相だが契約をしてもらう他はない。
また、それは即ち、目の前に蹲る使い魔にも言える事であり、コルベールは思わず同情してしまう。
そんなコルベールの心情やルイズの現実逃避も長くは続かない。
この召喚を見ていた生徒の誰かが、嘲笑と共に言い放った言葉により、両者とも我に返る事となる。

「ルイズ、平民を呼びだしてどうするんだ?」

その言葉に反応し、ルイズは間違いだと反論し、コルベールに向かってやり直しを要求してくる。
だが、それは出来ないとコルベールは首を振り、使い魔にするように告げる。
告げながら、人でありながら使い魔となる少年をもう一度見て、彼と視線が合う。
その瞬間、コルベールが感じたものは何であったのだろうか。
その感情に気付くよりも先に、コルベールは少年の瞳から目を反らす事が出来なくなっていた。
深い、本当に深い、悲しみさえも凌駕したように、何も映し出していないのではと思われる瞳。
達観したようにも、諦めているようにも取れるその瞳の昏い黒瞳にコルベールは飲み込まれるような感覚を覚える。
が、ルイズはそれには気付かないのか、未だに怒りも顕わに少年を近付いていく。



(ああ、またか……)

何度目になるのか既に覚えてもいない虚脱感。
それを味わいながら、少年は目を開ける。
すると、目の前には言い争う勝気で活発そうな桃色の髪をした少女の姿が見えた。
少年は突然の出来事を不思議に思う事も、疑問を口にする事もなくそのやり取りをただぼんやりと見詰める。
ようやく終わったのか、少女――ルイズが肩を怒らせながら近付いてくる。
それを見てもどうでも良いとばかりに視線を地面に落とし、そこで別の視線を感じて顔を上げる。
数秒だが、コルベールと視線が合うも、目の前に立つ少女の声にそちらを見上げる。
見れば、少女は怒りや屈辱といった感情を隠そうともせず、杖を片手に持ったまま目の前に立つと居丈高に口を開き、

「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて――」

「普通は一生ないってんだろう」

めんどくさそうに言い放たれた言葉に鼻白むもすぐにその言葉使いに怒りを表す。
が、少年の方はもう慣れた感じでその言葉を聞き流す。
その態度が余計にルイズを苛つかせるのだが、コルベールに注意されてルイズはさっさと使い魔の契約を済ませる。
途端、刻まれる左手のルーンにコルベールが興味を見せるも、少年は興味なさげに一瞥するだけである。
さっさと戻っていくクラスメイトたちを見送り、魔法が使えず飛べないルイズは少年へと視線を向ける。

「所で、アンタの名前は?」

「……サイト。平賀才人」

「ふーん、変わった名前ね」

ルイズの言葉に反応も見せず、サイトと名乗った少年は一人学院へと向かって歩き始める。
その後ろから主人を置いて先に行くな、とか怒鳴る声が聞こえるが、サイトは無視して足を動かす。
その表情は険しく、しかしながら瞳にはやはり力がないままであった。

(これで何度目だ。死ぬ事すら許されないってのは、思ったよりも辛いんだな。
 試しに自分で自分を殺してみたけれど、それでもやっぱりこの日に戻って来ちまったしな。
 今回はの最後は何だったかな……。
 ああ、教皇の虚無魔法を受け止めたのが最後の記憶って事は、それが死因か)

サイトは過去を思い返し、自らの死因を突き止める。
が、やはりすぐに興味を無くしたのか思考を違う方へと転がす。

(寿命以外の死がやり直しになるのか、ご主人様の目的が達成されればそれで良いのか)

「ちょ、ちょっと待ちなさいよね!
 とういうか、どうして初めての場所なのに知っているかのように先を歩けるのよ!」

後ろからがなり立ててくるルイズの声を聞き流し、サイトはルイズの部屋へと向かう階段を迷う事無く進む。
そう、彼にとっては初めてでも何でもないのだ。
既に何十回と繰り返し行われた儀式に、最早考え事をしていても自然と辿り着けるルイズの部屋の在り処。
サイトは死を迎える度に、この始まりの日とも言うべき日へと何故か戻っていたのだから。
勿論、そんな事をルイズが知るはずもなく、一人怒鳴りながらサイトに追いつき、ようやく前へと出る。
そんな事にも興味を示さず、サイトはただ黙々と歩くだけ。
それが癇に障るのか、更に怒鳴るルイズだがサイトは顔色一つ変える事無く歩き続ける。
既に何十回にもよるやり直しにより、サイトの精神はかなりまいっていたのである。
最初はやり直せるのなら、より良い未来がと希望を抱き、これもルイズの力かもと喜んだりもしたが。
何かをすれば、違う何かが起こり、大きな出来事はサイト一人では換える事も出来ず、
かと言って誰かに話しても信じてもらうまで時間が掛かり、逆にその相手を巻き込むことになる。
結果として、サイトはもう何度も目の前で親しくなった者たちが死んでいくのを見せられ、
また自身も何度も何度も死に絶えてきたのだ。
これで精神が磨り減らない方が可笑しく、実際彼は数度、呼び出されてすぐに自らの命を絶つという事を実行した。
が、現実としてそれは成功したとは言えず、こうしてやはり繰り返す羽目になっているのである。

「はぁ、どうやったら終わるんだろうな」

「終わるって何よ。言っておくけれど、使い魔になった以上、それはずっと続くんだからね。
 寧ろ、自由に終わらす事が出来るのなら、今すぐに私がやっているわよ」

思わず漏れた言葉にルイズが反応を見せるが、サイトは特に何も言わずルイズの後から部屋へと入る。
目の前で使い魔としての心得を口にするルイズをぼんやりと眺めつつ、サイトはどうでも良いとばかりに腰を下ろす。

「こ、こここここの平民のくせに、貴族を無視するなんていい度胸じゃない。
 ア、アアアアンタには教育が必要な様ね」

言って鞭を取り出し、こちらに向かって振り被ってもサイトは何の反応も示さない。
流石にルイズも可笑しいと感じたのか、鞭を振り被ったままサイトを見るも、こちらを見上げてくるサイトが、

「殴らないのか?」

そう口にした瞬間、ルイズは手にしていた鞭を振り下ろす。
頬を打たれ、背中を打たれてもサイトは何も言わず、また何の反応もしない。
その事が更にルイズを苛立たせるのであった。



ゼロの使い魔 〜輪廻に囚われし使い魔〜







この後、サイトはルイズとの触れ合いによって徐々に本来の自分を取り戻し、
更なるループを繰り返す内に、遂には悟りを開く事になる。
その時は今までの鬱憤を晴らすかのようにはちゃめちゃな行動を取るのだが、それはまた別の話。

美姫 「何を言っているのよ、アンタは」

いや、ちょっとCMネタの続きをね。

美姫 「また暗い話を」

まあまあ。この後、サイトはルイズの努力によって少しずつ元に戻っていくという事で。

美姫 「いや、CM後に言われてもね」

あははは。と、時間が。

美姫 「誤魔化すな!」

ぶべらっ! ほ、本当なのに。

美姫 「あら、本当だわ。仕方ないわね。さっさと締めなさいよ」

は〜い。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


3月5日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、早いもので花粉症、とお送り中!>



三月……春……別れと出会いの季節。

美姫 「風は優しく、陽射しは包み込むように暖かく……」

そして、そして……。ぶえっくしょん!

美姫 「アンタにとっては辛く長い日々の始まりね」

ずずず……。ちくしょう、今年もやってきたよ! 花粉の季節が!
もう冬が待ち遠しいよ!

美姫 「既に鼻と目に少々来ているみたいね」

うぅぅ、痒い。まだかなりましだから余裕でいられるけれどな。

美姫 「何もしなくてもその内、酷くなっていくわよ」

分かっているよ。もう既にちょっと気分が落ち込み気味だよ。
三月〜花粉の飛ぶ季節〜
なんていうおバカなタイトルがふと浮かぶぐらいにな!

美姫 「見事に思考まで可笑しくなっているわね。と言うか、まだましなんでしょう」

まあな。本格的にはまだ始まっていない……と思う。
まあ、それも時間の問題だけれどな。本当に嫌な季節になりましたね。

美姫 「春にそんな事を言うなんて、かなり少数派だと思うけれどね」

そんな事はないはずだ! 花粉症の辛さを知っている人ならきっと、うん、きっと賛同を!

美姫 「はいはい。何気にこの季節のアンタは可笑しさが更に増すのよね」

誰が可笑しいとですか! お菓子といえば、最近は駄菓子屋を見ませんよね!
そうそう、駄菓子屋で思い出したんだが――ぶべらっ!

美姫 「とりあえず、少し黙ろうか?」

ふぁ、ふぁ〜い。何気に、お前はいつも変わりませんよね。
主に俺の扱いとか、俺への接し方とか、俺への態度とか。

美姫 「良い意味で変わらないでしょう」

どこがだよ!

美姫 「さて、それじゃあ今週も頑張っていきましょうか!」

やっぱり無視なのね!

美姫 「CMで〜す」







魔法に超能力、超常現象、さまざまな言い方があれど共通しているのは訳の分からない、説明のつかない力という事。
まず一般人が得る事のない力は、不可思議というのもあるが、得てして強力であるという事から、
それを持つ者に対して畏怖を抱く者が現れる。
ましてや、超常の力を持つ者が少数となれば、それはその者たちへの迫害や排除へと動く事すらあるだろう。
故に、そういった力を持つ者たちは大抵の場合において、自らの力を隠すのである。
だが、こういった力を持つ者が多くは無いがほんの数人という単位に収まらず、
ましてや力を身に付けたある程度の解明がなされている場合、どのような反応を見せるのであろうか。
恐らくは、あまり変わらないかもしれない。
何故なら、多数と違う、ただこの一点だけを取ってみても充分に集団から弾き出す理由になり得るのだから。
ましてや、その力が大きいければ大きい程に畏怖を抱くのは仕方ない事だろう。
しかし、ここに政府などといった大きな権力が背後に付いた場合はどうなるだろうか。
法的に一般人と平等とされ、ただの特技の一つとして認定されたとしたら。
勿論、初めから上手くはいかないかもしれない。が、何十年、何百年と積み重なれば。
そういった者たちが居ても当たり前となる時代が来るかもしれないし、来ないかもしれない。
こればっかりは実際にそれだけの年月が経過しない限りは分からないだろう。
今現在、そんな先の事など考える余裕などないのだから。この少女には。

やや薄汚れたワンピースを身に纏い、手入れもされていない髪は伸ばしているというよりも、
単に切っていないだけという風に伸びるに任せてボサボサで艶をなくし、
周囲を警戒するように恐怖の篭った瞳は忙しなく周囲を見遣る。
海鳴駅へと降り立った少女は、駅前で行き交う人が自分の近くを通る度に身を必要以上に震わせて立ち尽くしていた。
どうしたら良いのか分からない、そういった様子の少女を数人が見はするが声を掛ける事無く通り過ぎていく。
そんな中、その少女の様子から何か困っているのではないかと足を止める者がいた。

「お兄ちゃん」

一人の少女は隣を歩く兄へと声を掛け、兄の方も心得ているとばかりに少女の方へと足を向ける。
なのはと恭也の二人である。その後ろにはもう一人、これまた恭也の妹である美由希。

「美由希、とりあえずお前が話し掛けてくれ」

「わ、私が!?」

実は人見知りな所のある美由希が恭也の提案に驚いたように恭也を見るも、恭也はただ首肯するだけ。

「俺が声を掛ければ、余計に怖がらせてしまうかもしれない。
 ならば、生物学的には同じ女であるお前が声を掛けた方が相手の警戒も少しはましになるのではないか?」

微妙に引っ掛かる言い方に眉を顰めつつ、それでも躊躇う美由希をなのはがじっと見上げてくる。
普段は恭也は妹に弱いとからかう美由希だが、実の所、美由希もまたなのはには多少甘い所がある。
故になのはの無言のお願いに美由希は大人しく折れ、けれどもやはり不安からか恭也の同行も願う。
これ以上の問答は時間の無駄だと悟り、恭也は少し離れて付いて行くという事にして少女の下へと向かう。
兄と姉の行動に胸を撫で下ろし、なのはも二人の後ろから付いて行こうとする。
その途中でそれは起こった。駅前でそこそこ交通量も多い広めの道路。
そこを暴走するかのように一台の車が突っ込んでくる。
しかも、運悪くその向かう先には驚愕してそれを見ているなのはが。
数メートル先を歩いていた恭也は迷わずに神速と呼ばれる自身の家に代々伝わる剣術の奥義を発動する。
傍からは消えたようにさえ見える程の素早い動きで、恐怖からか足の竦んでいるなのはの元へと辿り着く。
なのはの体を抱え、地面を蹴って車の進行方向から逃れようとする。
が、右膝が悲鳴を上げる。暫く病院をサボっていたつけがここに来て表れたようで、
恭也の体は思ったよりも飛ばない。
それでもなのはだけでもと美由希の居る方へと投げようと振り向いた恭也の目の前に、先ほどの少女が居た。
驚く恭也であったが、続く少女の動きに更に驚く事となる。
肉体のリミットを外し、常人よりも素早く動けるという事に加えて、知覚神経を向上させる事により、
まるで時が止まったかのように見える程、周囲がゆっくりと動いて見える。
それが恭也が今使っている神速という技の概要である。
それなのに、その少女の動きは神速の中にあっても遅くなる所か、普通よりもまだ早かった。
少女は恭也と車の間に入ると、右手を振り下ろす。
ただ、それだけの事。だが、現実として引き起こされた現象は、
今にも恭也となのはにぶつかりそうだった車が、少女が振り下ろした腕に両断される。
驚くなという方が無理な話で、恭也は思わず驚愕の声を上げてしまう。
それが少女にも届いたのか、少女は酷く怯えた顔で恭也を見た後、その場を立ち去ろうとする。
少女の腕を咄嗟に掴んで止めたのはどうしてだったのか。恭也にもそれは分からない。
条件反射的に手が伸びていたとも言えるし、まだ礼を言っていないと思い立ったからなのかもしれない。
後になって思い返しても理由は分からず、
ただ、それでも少女の傷付いたような、怯えたような顔だけが鮮明に思い起こされるのであった。

怯えたように見てくる少女に対し、恭也は思わず掴んでしまった手を離してまずは謝る。
恭也が口を開いた瞬間、更に怯えた様子を見せた少女は、しかし恭也の言葉を聞き、今度は困惑を見せる。
周囲が俄かに騒がしくなっていく事に僅かに眉間に皺を寄せつつ、
少女の足元にいつの間にか座り込んでいた男性を見る。
どうやらこの男性が運転手だったらしく、今まさに起ころうとしていた惨劇を思ってか震えている。
が、恭也はそちらを一瞥すると助けてもらった事に感謝の言葉を述べ、
どうしたら良いのか困惑する少女へと改めて、立ち尽くしていた理由を尋ねる。
感謝の言葉に慣れていないのか、混乱するようにあたふたする少女も、理由を聞かれた事で押し黙ってしまう。
そこへ野次馬と化した群集の中から、ぽつりと単語が零れ落ちる。

「先祖換えり」

その単語に体を震わせ、怯えた表情を見せる少女を見て、
恭也は彼女の力に納得すると同時にその態度から今までの境遇の一端を想像する。

『先祖換えり』
そう名付けられた現象が起こり始めて既に十数年。
HGSに続き、世界が認めた超常の力を得た者たちの総称である。
HGSと違うのは、まず第一に病気ではないという事であろう。
故にその能力の研究はなされても、治療の研究は殆どされていない。
また、何故そのような現象が起こるのかさえも不明のまま。
意外と分かっている事は少なく、ある日突然に発症し、数日の内に体の遺伝子が幾つか組み換えられるという事。
そして、それに合わせるかのように超能力や魔法じみた能力が顕現する事。
大まかに分かっているのはそれだけである。
発症する条件なども全く分かっておらず、実際に先祖換えりを起こした人も性別、性格、年齢に出身地とバラバラ。
共通するのは、誰もが何かしらの力を身に付けるというものである。
一説には、遥か昔の先祖の遺伝子が遺伝し、ある日を境に活発化して入れ替わる。
その際、その遠い先祖は人ではなかったというオカルト的な説が囁かれるぐらいである。
故に先祖返りから名付けられたとも言われるこの現象は、未だに謎に包まれたままである。
当然ながら、その人とは違う力故に場所によっては迫害なども行われており、色々と社会問題にもなっている。

目の前の怯えた少女を見て、恭也はそんな事を思い返していた。
どちらにせよ、このままこの場に留まるのは少女としては嫌なものであろう。
とは言え、状況が状況だけに離れる訳にも行かず、恭也は困惑してしまう。
そこへ救いの手が差し伸べられたのは、果たして彼の日頃の行いのお蔭か、単なる偶然か。

「恭也、災難だったみたいだね」

「リスティさん」

明らかにほっとした顔をしているんだろうなと自覚しつつ、この場を上手く収めてくれそうな女性の出現に安堵する。
それが伝わったのか、リスティは小さく笑いながらも恭也の隣に立ち、少女を見る。
怯えた瞳で見詰め返してくる少女を見て、リスティは肩を竦めると恭也へと視線を戻す。

「とりあえず、この場は僕が何とかしておくからこの子が落ち着ける所に連れて行ってやりな。
 でも、流石に居なくなられるのは困るんでそこの所は頼むよ。
 詳しい事情を聞く必要もあるから、連絡が付くようにしておいてくれ」

そう言うとリスティは人込みの向こう側から掛け付けて来た警察官へと手を振る。
リスティの気遣いに感謝しつつ、恭也は未だに怯える少女を連れてその場を立ち去るのだった。

落ち着ける場所として恭也が選んだのは、臨海公園の人が最も来ない奥まった雑木林の中であった。
申し訳程度に置かれたベンチに少女を座らせ、改めて礼を述べる。
やはり感謝の言葉に困惑を見せる少女であったが、おずおずといった様子で不思議そうに聞いてくる。

「怖くないんですか?」

か細く出された声にははっきりと恐怖の感情が篭っており、こちらを窺うように見詰めてくる瞳からもそれが伝わる。
そんな少女に恭也は出来る限り怖がらせないようにしながら、ゆっくりと話し出す。

「さっきの力を向けられれば、それは怖いかもしれませんけれど、貴女はそれを無闇に振るうように見えませんし、
 何よりも命の恩人ですからね。やはり感謝の気持ちの方が大きいですよ」

「そうですよ。それに私たちの周りには、そういうのも珍しくないですし。
 第一、私には恭ちゃんのお仕置きの方が怖いって、冗談だってば。だから、無言で拳を握らないで」

美由希の言葉に呆れつつも、美由希なりに空気を変えようとしているのだろうと今回は見逃しておく。
少女はまだ怯えた様子ではあったが、少しばかり緊張が解れてきているようでもあった。
そこに来て、なのはがまだお礼を言っていなかったからとお礼を口にする。
なのはの言葉に少女はようやく困惑ではなく、僅かながらも笑みを零して応える。
それを見て、恭也は当初の予定だった少女が立ち尽くしていた事情を尋ねれば、
単に行く宛てがなくて立ち尽くしていただけだと判明する。
元々、少女は天涯孤独の身らしく、それでも両親の残してくれた遺産で何とか生活を送れていたらしい。
所が、数年前に先祖換えりを起こしてからはそうもいかなくなったと言う。
住んでいたアパートを追い出され、周囲からは孤立し、酷いときには暴力さえも振るわれた。
最後の部分に関しては、通常はあまり行われる事がない。
何せ、相手は自分たちを超える力を持っているのだから。
だが、少女の優しすぎる性格が災いし、何をされても反撃しなかった事で徐々にエスカレートしていったらしい。
そんな中、少女に救いの手が差し伸べられる事もあったのだが、その全てが研究所の人間で、
保護する代わりに先祖換えりの研究に協力するように求められたのだという。
それでも、普通に研究するだけなら良かったのだろうが、彼女が保護された所は、彼女を実験動物のように扱い、
部屋の中でさえも監視される始末。
法律的にもそのような扱いは禁止されているので、この研究所は違法となるのだが、
山奥に位置した事からか、内部の情報が一切外に出る事がなかった。
研究施設という事もあり、機密の前に全ての情報遮断がまかり通ったというのも大きな要因であろう。
が、それも長くは続かず、同じように軟禁されていた先祖換えりの者が抜け出した事で事態は一変する。
近くの警察署へと駆け込んだその脱出者により事態は公になり、警察の手が入ったからだ。
結果として研究所は閉鎖され、実験に関わった者も何らかの罰を受ける事となった。
そして、軟禁されていた者たちはそれぞれの希望を聞いて、今度はまっとうな保護を受けたり、
元いた場所に帰されたりしたのだが、少女はどれも選ばずに一人、こうして各地を回っているらしい。
何処か安心して暮らせる場所を求めて。
だが、今までの経緯からある意味、人に対して恐怖を抱くようになった少女は長く一つの場所に留まる事ができず、
今日、この海鳴へと着いたのだそうだ。

たどたどしく語られた内容は、かなり時間を要した。
その事でまた怯えを見せる少女を痛ましげな目で見遣る美由希となのは。
恭也は相変わらず表情こそ変えていないが、労わるような目で見ている。

「それなのに、助けてくれたんだ。ありがとう、お姉ちゃん」

「お姉……ちゃん?」

礼を言われた事よりも、なのはの呼称の方に戸惑いを見せる少女になのはは笑顔を向ける。
何の打算も無い笑顔を少女は眩しそうに見詰めた後、小さく頭を振る。

「初めはその人も私の同類だと思ったから」

言って恭也を見る。何故、そう思ったのか疑問を抱いたのを感じ取ったのか、少女はやはりたどたどしく続ける。

「い、いきなり消えたように見えたから。だから、同じなんだって。
 でも、途中で私を見て驚いていたから、普通の人だって思って……」

それで怯えたのかと納得しつつ、可笑しそうにこっちを見てくる美由希への対処を十ほど考える。
そんな様子を勘違いしたのか、少女は突然頭を下げ、

「ご、ごめんなさい。私なんかと同じだと思ってしまって」

「いや、別に謝られる事では……。確かに俺は普通の人ですが」

「何処が?」

「黙ってろ、美由希」

「えっと、お姉ちゃん、五十歩百歩って知ってる?」

「知っているけれど、それがどうかしたの?」

「ううん、何でもないです」

謝られて困っている恭也を助ける為か、それとも地なのか、美由希となのはがそんな事を口にする。
それを聞いていた少女が思わず笑ってしまったのを見て、恭也は胸を撫で下ろすのだが、
また謝ろうとするのに気付いてそれを止める。
そんなやり取りの中、なのはは名案を思いついたとばかりに顔を上げて恭也を見ると、

「ねぇ、お兄ちゃん。お姉ちゃんに家に来てもらおうよ」

そのなのはの提案に一番驚いたのは少女本人で、慌てたように迷惑を掛けるとか色々言って断ろうとする。
が、恭也もそれは良い案だとばかりに頷くと、

「なのはと俺の恩人ですから、母も感謝こそすれ迷惑だ何て思いませんよ。
 寧ろ、ここで何もせずに分かれた方が怒られますし。
 それに、リスティさん、先程の女性は警察関係の方なんですが、さっきの事故の説明もありますから。
 うちに居てくれた方が助かります。本当に迷惑なら仕方ありませんが、どうですか?」

「で、でも、私は先祖換えりだし」

なおも遠慮して理由を述べる少女に、今度は美由希が笑って言う。

「うちにはそんな事気にする人はいませんって。
 大体、兄からして普通の人じゃないって思われるような変人なんだ……こほこほ。
 えっと本当に迷惑じゃないですよ」

軽く飛んできた殺気に反応して言葉を濁す美由希。
それには気付かず、少女は困惑を大きくしてただ狼狽える。
そこへ恭也がもう一度、貴女が迷惑でないのならと誘い、後はじっと少女の返答を待つ。
やがて、少女はいつの間にか握られいたなのはの手を軽く握り返し、遠慮がちにお願いしますと告げる。
その事に一番喜びを見せたのはなのはで、文字通りに飛び上がると少女の前に立ち、

「それじゃあ、改めまして。高町なのはです」

そう言って満面の笑みを見せる。
なのはに続き、美由希、恭也もまた自己紹介をすると少女をじっと見る。
その視線に恥らうような顔を見せながら、少女もおずおずと随分と久しぶりとなる、己の名を告げる。

「私の名前は――」



とらいあんぐるハート Another







花粉といえば、空気清浄機とかって本当に効き目があるのだろうか。

美姫 「どうなのかしらね」

本当に効き目があるのなら、街角のあちこちに設置してくれれば。

美姫 「まず予算的に無理ね」

くそ! 結局は予算か!

美姫 「いや、まずはそこでしょう。って言うか、そんなバカな計画を考えるアンタの方がおかしいのよ」

なっ、この壮大な計画の何処がバカだと。

美姫 「壮大だと思っているところ」

…………。

美姫 「さて、沈黙した事だし来週の予定でも決めましょうか」

何だよ、予定って。

美姫 「ずばり、来週は新作100本できるかな〜」

出来るか!

美姫 「人間、諦めたら終わりよ」

諦めずに挑戦しても終わりそうな企画だよ!
あれだろ、出来るまでお前に殴られたりするんだろうが!

美姫 「正解〜♪」

正解、じゃないっての!
普通に考えて無理でしょうが。

美姫 「そこをやってこそ」

いやいやいや!

美姫 「ったく、ケチね」

いや、ケチとかの問題じゃないよね?

美姫 「じゃあ、そうね。間を取って50本ならどう?」

どう間を取ったんだよ!

美姫 「書けないと主張するアンタの意見を聞けば、0本になるでしょう」

おおう、100と0の間は確かに50……って、いやいやいや!
そういう事じゃないだろう。

美姫 「それじゃあ、どうしろと」

変な企画を作るな!

美姫 「はぁぁ、ケチね」

いやいや、だからケチとちゃう。

美姫 「仕方ないから、一日百叩き一週間出来るかな、で良いわよ」

って、何がどうなったらそうなる!?

美姫 「叩く側の私も苦労するじゃない。これで労力は分担されるでしょう」

おお、なるほど! とでも言うと思うか?

美姫 「言わぬなら、言わせてみせよう」

め、目が笑ってないって! ぶえらぼげぇ!
って、既に叩かれてますよ!

美姫 「来週じゃないでしょう」

そ、そういう問題でもないー!

美姫 「全く何が不満なのかしら」

というか、どうしてお前はそれで俺が満足すると思ったんだ?

美姫 「私が楽しめるから」

……………………あ、もうそろそろ時間だ。ぶべらっ!

美姫 「私を無視しないでくれるかしら?」

ご、ごめんなさい、って、あくまでも俺が悪いのかよ!

美姫 「有史以来、私とアンタのやり取りで何かあった場合は全てアンタが悪いって決まっているのよ」

そうか、なら仕方ないな。何て言うか!
何だよ、その滅茶苦茶な理論! と言うか、ほんの一瞬でも納得しそうになった自分が怖いよ!

美姫 「うんうん、順調に教育されている証ね」

って、教育されているのか俺!?

美姫 「冗談よ、冗談。……今は」

最後にぽつりと何か言った!?
おい、はっきりと冗談だって言ってくれよ!

美姫 「はいはい、冗談、冗談」

って、軽い上にこっち見てねぇ!

美姫 「もう煩いわね!」

ぶべらっ!

美姫 「ほら、時間なんでしょう」

うぅぅ、そうでした。って、俺が悪いの……いや、止めておこう。
既に結果が見えているし、同じ事を繰り返しそうだしな。

美姫 「一つ賢くなったわね」

ぶべらっ! な、何故に?

美姫 「見えていた結果だけをやってあげたのよ。時間省略できたでしょう」

お。俺、止めておこうって言ったよね?

美姫 「ごめん、そこは聞いてなかった事にしたわ」

なら仕方ないか。って、何か可笑しくなかったか、今の?

美姫 「気のせいよ、それよりも時間」

そうだった。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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