『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』

  第五話 「海水浴に行こう!」





 〜 祐一's view 〜



7月も終わりに入り、益々暑くなっていく今日この頃。
普段なら俺も名雪も暑さでだれているはずだが・・・、ふ、ふっふふふふ。はっはははははは〜。
今日の俺は一味、いや二味も三味も違うぞ!海だ!海が俺を呼んでいるのだ〜。
・・・・・・・・・・・・。

「さて、名雪の方は準備済んだかな」

俺は一人騒いでいたのを誤魔化すかのようにそう呟くと、名雪の部屋のドアをノックする。

「おーい、名雪、準備はいいか?」

「うん!今行くよ」

その返答から1、2分後に名雪は部屋から出てくる。

「じゃあ、行くとするか」

「うん」

名雪の持っていた荷物を持つと玄関へと向う。

「あら、名雪に祐一さん。もう出かけられるのですか」

「はい。いってきます」

「いってきまーす」

「はいはい、いってらっしゃい」

秋子さんに見送られて俺たちは出かけた。

「しかし、あゆも真琴も家にいなかったのか?やけに静かだったが」

「うん、本当だね。でも見つかったら一緒に付いて来ようとするだろうから都合は良かったね」

「なんだ、名雪ってば結構酷い奴だな。あゆや真琴を邪魔者扱いか」

「わっわ、別に邪魔者とは言ってないよ。ただ、今回は祐一と二人っきりが良かっただけだよ」

俺の冗談に名雪は慌てて言い分けをする。しかも、なんか照れる事まで言ってるし。
照れて返答をしない俺に名雪は俺の顔を下から覗き込みながら、更に聞いてくる。

「祐一は嫌なの?」

「嫌じゃない。俺も名雪と二人きりの方が良いに決まってるだろ」

そう言うと歩く速度を上げる。

「わ、待ってよ祐一。・・・えいっ!」

名雪は小走りで俺に追いつくと腕を組んでくる。

「名雪、暑い」

「駄目だよ。今日は移動する時はずっとこうしてるの」

「・・・・・・勝手にしろ」

「うん、勝手にする」

そんな他愛のない会話をしながら駅に向う。
そして、駅から電車に乗り揺られること約一時間半。俺たちは海に着いた。
名雪よりも先に着替え終わった俺は浜辺の空いている所に場所を取りながら海を見詰める。

「うーん、青い空に白い砂浜。そしてサンサンと輝く太陽。これでもかってぐらいに海だな〜」

一通り準備が終わった頃、名雪が現われる。

「祐一〜、お待たせ、だよ」

「おう。待ちくたび・・・・・・れたぞ・・・・・・」

「へ、変じゃないかな」

名雪に答える途中で言葉を失う。くー。本当に海に来て良かった〜。おお、神よ。感謝します。ありがとー。
俺は心の中では喝采をあげながらも、実際には言葉をなくし、ただ名雪の水着姿に見惚れていた。

「祐一・・・?や、やっぱり変かな」

不安そうな名雪の呟きに我に変えると、首がもげそうなぐらい力一杯に横に振る。

「ないない。そんな事はないぞ」

「ほ、本当?」

「あ、ああ。その、なんだ。よく似合ってる」

何だか恥ずかしくなって、名雪から視線を外しながらそう言う。

「ありがとう!祐一!」

名雪は嬉しそうな声をあげ、俺に抱き付いてくる。
う、嬉しいんだが、その名雪さん・・・。胸に気持ちのいい物が・・・。
う〜、水着一枚越しで伝わるこの感触が普段と違って余計に・・・・・・。
これ以上は俺の理性が持たない!
そう判断した俺は少々、勿体無いが名雪を引き剥がす。

「ほら、いいから。それよりも早く海に入るぞ!」

「うん」

名雪は特に不信がることもなく俺から離れると俺の手を取り海へと駆け出していく。

「ほら、早く」

「うわっ。確かに早くとは言ったが走らなくても良いだろ」

「駄目だよ。少しでも長く祐一と一緒に遊びたいんだもん」

「うむ。真顔でそんな事を言えるとは中々、恥ずかしい奴だ」

「もう、そんな事言ってないで、ほら」

名雪は俺の手をさっきよりも強く引っ張っていく。俺もそれに逆らわずについて行く。
ひとしきり泳いだり、砂浜で遊んだりしているうちに時間はすっかり昼時になっていた。

「祐一、そろそろお昼にしようよ」

「おお、そうだな」

名雪はパラソルの下に置いた荷物から弁当を取り出すと蓋を開ける。

「おおー、今日のもまた美味そうだな」

「へへー。結構、自信作だよ。朝起きるのはちょっと辛かったけどね」

そう言いながら名雪は笑う。

「そうか。ありがとうな名雪」

「うん」

「じゃあ、食べるか。頂きまーす」

「はい、どうぞ」

もぐもぐ。俺が食べる様子を少し不安そうに見詰める名雪。
俺は口の中の物を飲み込むと名雪に向って親指を立てる。

「うん、美味しいぞ。ほら、名雪も食べろよ」

「あ、うん。いただきます」

しばらくそうやって弁当を食べる事に集中する。

「あ、祐一。これ上手く出来たんだよ。食べて」

「ほう、これか」

名雪が言ったのと同じおかずを取ろうと手を伸ばす。が、その手を名雪に止められてしまう。

「はい、あーん」

・・・・・・うーん。いつもなら一度は断わるんだが。今日は誰も知り合いがいないし、まあいいか。
俺は名雪が差し出したおかずを口に入れる。

「・・・・・・うん、美味しいな」

「でしょ」

名雪は俺の言葉に本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。その顔がとても可愛くつい見惚れてしまいそうになる。
それを誤魔化すように、俺もおかずを摘むと名雪の口へと持って行く。

「ほら、名雪」

「あ、・・・ありがとう」

今度は俺が名雪に食べさせる。そんな事を食べ終わるまでずっと続ける。
流石に皆がいる前だと恥ずかしくて出来ないからな。今日は誰もいないし。
などと言い訳みたいなことを考える。

「ごちそうさま」

「はい、お粗末さまだよ」

名雪は空になった弁当箱を鞄にしまいながら言葉を続ける。

「これからどうすの?祐一」

「そうだな。ちょっと休憩したらまた泳ぐか」

「うん。あ、だったら・・・」

名雪は何を思いついたのか、そう言いながら足を崩し俺の方を見ると、

「はい、祐一」

自分の太腿の辺りを軽く叩く。なるほどな。
まあ、ちょっとぐらいなら良いか。いつもは皆がいてあまり出来ないしな。
今日は知り合いが・・・以下略。今日、何度目かになる同じ様な言い訳をしながら名雪の足に頭を乗せ横になる。
名雪は俺の頭に手を乗せると優しく撫でる。

「どう、祐一」

「ああ、かなり気持ち良いぞ。でも、名雪は重くないか?」

「うん、大丈夫だよ。それにこうしてると、私も気持ちが良いし」

うーん、俺の方はともかく足に乗せている名雪も気持ちがいいとはどういう事だ?
そんな俺の疑問を感じたのか、名雪は俺の耳元に口を寄せると、

「あのね、こうしているといつもよりも、もっとたくさん祐一を感じられるんだよ」

少し頬を紅くしながらそんな事を言う。

「そうか。俺も名雪を感じられるぞ」

「えっ」

いつもと違いそんな事を言う俺に名雪は少し驚いた顔をするが、すぐに笑顔に変わると、

「祐一・・・」

「・・・名雪」

眼を閉じて、ゆっくりと顔を落としてくる名雪に応えるように俺も目を閉じ、そっと手を伸ばし頬に触れる。
そして、あとちょっとで唇が触れるという所で、

「あれー、祐一さんに名雪さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所で」

よく聞きなれた、それでいて今日ここで会うはずのない声に現実に戻される。
俺と名雪は慌てて離れると、声のした方を見る。
そこには、水着を着た二人の美女が立っていた。

「佐祐理さんに、舞!どうしてここに?」

「あははー、偶然ですねー。実は皆さんと一緒に別荘に来てるんですよ。
 で、舞と二人で遊んでいたら、祐一さんと名雪さんによく似た人を見かけたもので声をおかけしたんです」

「はちみつくまさん」

はぁー、流石はお嬢様だ。別荘ですか。・・・・・・って、皆?今、皆って言ったような気が・・・。
まさか!俺はその事を佐祐理さんに聞こうと声をかけようとする。
が、口を開くよりも先に答えが向こうからやってきた。

「祐一さーん。奇遇ですね、こんな所で」

「こんにちわ祐一に名雪」

「おう、栞に香里」

「香里!どうしてここに!」

「佐祐理さんの別荘にお邪魔してるのよ」

名雪の問いかけにさも当然という様に答える香里。
まあ、予想通りだな。という事は、残りも・・・。

「で、お前は何をしようとしてるんだ?」

そう言って、背後から忍び寄ってきていた真琴の方を振り向く。

「わ、わわわっ」

それに驚いた真琴はその場で転び、どこから持って来たのか海水の入ったバケツをひっくり返し、自分で被る。
まあ、何をしようとしていたかは一目瞭然だな。

「なんだ、目の前に海が広がっているというのに、わざわざバケツで海水を被るなんて変わった奴だな」

「うぎ〜〜、祐一ぃぃぃ!」

起き上がり殴りかかってくる真琴の頭を手を伸ばし押さえる。

スカスカ

ぶんぶんと振り回す両手がリーチの差で俺に届かず空回りする。

「あう〜」

それでも諦めずに両手を振り回す真琴の後ろから声がかけられる。

「祐一さん、それぐらいにしてあげてください。ほら、真琴もこっちにおいで」

「べぇ〜だ」

真琴は美汐の言葉に素直に従うと俺にアッカンベーをして、美汐の傍へと行く。

「こんにちわ祐一さん。今日もまた一段と暑いですね」

「よう、美汐」

「何で真琴や美汐ちゃんまで・・・。と、いう事は

名雪もようやく事態が飲み込めたのか後半部分は声が小さくなる。
その名雪の呟きが終わるかどうかという所で、俺は身体をその場から横にどける。
その俺の横をすさまじいスピードで何かかが滑っていく。
その何かは顔から砂浜に突っ込むと律儀にも足をぴくぴくと振るわせたかと思うと、突然立ち上がる。

「うぐぅー。酷いよ祐一くん」

「俺か?!俺が悪いのか」

「だって、祐一くんが避けるから」

「いや、あれは誰だって避けるだろ。あんな突撃を食らったら流石に洒落にならない」

「突撃じゃないよ。抱きつこうとしただけだもん」

「あれのどこがだっ!」

「だから、祐一くんが避けなければそうなっていたんだよ」

「あ〜ゆ〜ちゃ〜ん。祐一に抱きつくつもりだったの〜」

「な、名雪さん」

背後からかけられた名雪の声にあゆは冷や汗を流しながら振り返る。

「あ、あははは。そ、そんな事あるはずないよ」

そう言って笑うあゆをかなり疑わしそうに見ていた名雪だが、突然笑顔になる。

「そうだよね、あゆちゃんがそんな事するはずないよね」

「そ、そうだよ。いやだなー、名雪さんったら。ははははは」

「はははは。そうだよね〜」

二人の間になんか緊迫した空気が流れているような気がするんだが。
と、俺の両腕に柔らかいものが当たる。

「祐一さん〜、何かあの二人怖いです〜」

「はちみつくまさん」

そう言って佐祐理さんと舞が腕を絡めてくる。
うーん、佐祐理さんも舞もとても素晴らしいものをお持ちで。
腕に当たる感触がとても良く、ついつい二人を見てしまう。

「祐一さんったら。そんなに見られると佐祐理、恥ずかしいです〜。でも、祐一さんになら」

「・・・・・・私も祐一になら(ポッ)」

ぐわぁ〜〜。い、いかん頭では駄目だと分かっていても目が二人を見てしまう。
と、突然何とも形容しがたい物を感じ恐る恐る顔を上げる。

「ゆ〜う〜い〜ちぃ〜。何をしてるのかな〜」

そこには笑顔を浮かべた名雪がいた。確かに笑顔なんだがピクリとも動かず目だけが本気で怒っている。
怖すぎるぞ名雪。

「あ、あはははは。祐一さん頑張ってください」

「頑張れ」

その言葉だけを残して佐祐理さんと舞が俺から離れる。
うわっ、この状況で見捨てますか。いや、この状況だからか。
って、そんな事を考えてる場合では・・・。
もう駄目だ、と思った時に救いの声が聞こえる。

「名雪、そのへんにしといてあげなさい。祐一さんも悪気があった訳じゃないんですから」

その女神さまの様な声に俺は力一杯首を縦に振って同意する。

「うぅ〜。でも〜」

「それに、名雪がもっと素敵な女性になれば問題ないでしょ。ねえ、祐一さん」

秋子さんの言葉に名雪は上目で俺を見上げてくる。
俺は名雪の頭を優しく撫でると秋子さんを見る。

「いえ、名雪は今でも充分素敵ですよ」

「祐一・・・」

「あらあら」

俺の言葉に名雪は頬を朱に染めながらも嬉しそうに微笑み、秋子さんは頬に手を当てて笑う。

「で、何で皆、ここにいるんだ?いや、佐祐理さんの別荘に来ているのは分かったけど何故、今日この場所なんだ?」

『偶然(です)(よ)』

俺の問いに全員が揃って答える。はぁー、何か疲れた。

「まあ、良いか。じゃあ、皆で遊ぶか」

俺の言葉に全員が頷き、佐祐理さんの別荘へと歩き出す。
俺は横にいる名雪を見て、それで良いか訪ねる。

「仕方がないよ。皆、祐一のことが好きなんだし。午前中だけだったけど祐一と二人で過ごせたしね」

そう言って笑った後、言葉を付け足す。

「でも、祐一は誰にも渡さないよ」

「安心しろ。俺にもそんな気はないから」

そう言って笑いあう俺たちの後ろから秋子さんが話し掛けてくる。

「祐一さん、名雪」

「「うわっ」」

いつの間に後ろに、と思ったがまあ秋子さんだしな。気にしない事にしよう。
驚く俺たちを余所に秋子さんは話を続ける。

「安心してください。夜はちゃんと二人きりにしてあげますから」

「お、お母さん!何を言ってるの」

「は、はぁ。ありがとうございます・・・って、夜って何ですか?」

微妙に驚く所が違う俺たちに笑みを見せながら秋子さんは話を続ける。

「あら、佐祐理さんの別荘に泊まる予定なんですけど。それともどこか別の所で宿泊されるんですか?」

「いや、そうじゃなくて。俺たち日帰りのつもりだったんで着替えとかありませんよ」

俺の言葉に名雪も頷く。そんな俺たちを見ながら、秋子さんは笑みを変えることなく口を開ける。

「大丈夫ですよ。こんな事もあろうかと二人の着替えは用意してありますから」

「こんな事って、どんな事ですか。それに用意って事はやっぱりここに来たのは偶然じゃないですね」

「あらあら、何の事かしら。今日、ここに来たのは偶然ですよ。
 たまたま、佐祐理さんからお誘い頂いて、皆で行くことになったんですよ。
 ただ、場所を聞いて祐一さんや名雪にも会えるかと思いまして。で、会えた時のために用意をしていたんですよ。
 ほら、昔からよく言うじゃありませんか。備えあれば憂いなしって」

「「・・・・・・・・・」」

俺も名雪もただ言葉をなくして立ち尽くす。
策士秋子、ここに健在!まさにそんなフレーズが頭をよぎる。
でも、まあ良いか。楽しみが増えたと思えば。名雪も納得したのか一つ頷く。

「では、行きましょうか。佐祐理さんの別荘の前がプライベートビーチになっているそうなんですよ」

プライベートビーチがあるのに何で、わざわざこんな所にいたのか疑問に思ったが、
聞いた所で答えは返ってこないだろうと想像がついたのでその疑問は胸にしまう。
と、先を歩いていた皆が振り返り待っていた。

「祐一、おっそーい!」

「悪い悪い」

「祐一、早く行く」

「分かったから、そんなに手を引っ張らないでくれ」

「あははは〜、楽しそうですね。佐祐理もやります」

「ち、ちょっと・・・」

「名雪、喧嘩はもういいの?」

「別に喧嘩なんかしてないよ」

「そうなの?それは残念ね」

「香里〜、それはどういう意味?」

「さあ」

「う〜」

「簡単ですよ名雪さん。祐一さんと名雪さんが喧嘩すればその隙に私たちが・・・」

「美汐ちゃんまでぇー。もう、私と祐一の仲はそんな事ぐらいでは揺るがないもん」

「はいはい。さっさと行くわよ」

あっちはあっちで話しながら佐祐理さんの別荘へと向う。

「へぇー」

「はぁー」

で、その別荘を目の前にして、俺と名雪は揃って簡単の声を出す。
一言で言うならでかい。
そして、今いるテラスには階段があり、それを降りると海になっている。
テラスから眺める景色には俺たち以外に人影はなく、本当にここが日本かと疑うほどである。
なんか完全に別世界って感じだな。

「じゃあ、祐一さん、名雪さん行きましょう」

佐祐理さんに促されて、俺たちはテラスの階段を下りていく。
それから俺たちはかなりの時間遊んだ。

ふぅー、流石に少し疲れたな。何か飲み物でも貰うか。
俺は未だに走り回っている真琴とあゆを見ながらテラスへと続く階段を上る。
はぁー、子供は元気で良いな。
真琴に付き合っていた美汐は疲れて今は木陰で一休みしている。
香里と栞は一緒に浜辺で水を掛け合っているし、舞と佐祐理さんは少し遠くで泳いでいる。
って、あれ?名雪と秋子さんが見当たらないな。さっきまではいたと思うんだが。
そんな事を考えながら階段を上りきると、

「あ、祐一」

名雪はタオルで頭を軽く拭きながら、こちらを見る。

「祐一さんどうしたんですか?」

名雪の言葉にデッキチェアーに座った秋子さんがサングラスを外しながら俺の方を見る。

「いえ、ちょっと何か飲み物をと思って」

「そうですか」




     




うーん、この二人を見て親子だと思う人がいるんだろうか。
恐らく十人中十人が皆、姉妹と思うんじゃないかな。
名雪のプロポーションの良さは秋子さん譲りだな。
などと考えていると、いつの間にか俺の横に来ていた名雪に耳を引っ張られる。

「イッ、イテテテテ。何するんだよ名雪」

「う〜〜、祐一が悪いんだよ。鼻の下を伸ばして、お母さんばっかり見てるから」

「・・・・・・ああ、なるほど」

俺はポンと両手を打つと、名雪を見る。

「つまり、焼きもちか」

「ち、違うもん!」

ぽかぽかと軽い力で俺の腕を叩いてくる名雪。可愛い奴だな。

「冗談だ、冗談」

「うぅ〜〜」

まだ睨んでくる名雪の頬に軽く触れる程度のキスをすると、その耳元で囁く。

「名雪が一番に決まっているだろ」

途端に耳まで真っ赤に染めて俯く。
思わず抱きしめようと手を伸ばした所で、名雪の背後にいる秋子さんと目が合う。
秋子さんは目が合うと笑みを浮かべ、サングラスを再びかけると何も見ていないという様にデッキチェアーに身を沈め空を見上げる。

「祐一・・・?」

俺の態度を不思議に思ったのか名雪が首を傾げて俺を見る。
俺は無言で名雪に後ろを見るように促す。
名雪は俺の言葉に素直に背後を見て、言葉をなくす。どうやら名雪も秋子さんがいることを忘れていたようだ。
二人してぎこちない笑みを交わすと、何もなかったかのように振舞う。

「ゆ、祐一は何か飲む物が欲しいんだね。私が持ってくるよ」

「あ、ああ頼む」

テラスの端に置いてあるクーラーボックスの元へと名雪は小走りで行く。
そんな名雪の様子に少し笑いながら秋子さんが再び、体を起こして話し掛けてくる。

「あらあら。私のことは気にしないで続きをして頂いてよかったのに」

「は、ははははは」

俺は乾いた笑みを浮かべながら誤魔化す事しかできなかった。

「はい、祐一」

「おお、サンキュー」

名雪からドリンクを受け取り一口飲む。

「さて、もう一泳ぎするか。名雪はどうする?」

「うーん。私も行くよ」

「じゃあ、行くか。秋子さんはどうします」

「そうですね。私はもう少しここにいます」

「そうですか。では」

秋子さんに軽く挨拶をして、名雪と一緒に浜辺へと下りて行く。
それから、全員で色んな事をして遊びまくった。
で、日もそろそろ沈むという時刻。
全員でテラスに出て沈んでいく夕日を眺める。
皆、言葉をなくし、ただ目の前の自然が見せる光景に息をするのも忘れるぐらいに見入る。
ふと腕に温もりを感じて横を見ると名雪がそっと俺の腕を取り、身体を預けてくる。
俺は腕を解くとそのまま名雪の肩に手を回し、そっと引き寄せる。
最初、腕を振りほどいた時は驚いた顔をした名雪だったが、俺の意図を察すると大人しく寄り添ってくる。
俺は名雪の体温を感じながら、目の前の光景に再び目を向ける。
名雪も同じ様に視線を前方へと移す。
そうして完全に日が沈むまでの間、俺と名雪はずっとそうしていた。









夕飯を食べ、皆でゲームをしたりして時間を過ごしていく。珍しく名雪も遅くまで起きていた。
そして大分、時間も経った頃、就寝につく為に各自部屋へと向う。
その時、秋子さんと俺の間で無言のやり取りが交わされたが誰も気付いてはいなかった。
その後、どうなったかは俺と名雪だけが知っている。
翌日、秋子さんの言葉通り夜中に二人きりになった俺と名雪は起きてくるのが遅かった、とだけ言っておこう。
とりあえず、秋子さんには感謝。清々しい顔をしている俺に対し、何故か名雪はかなり疲れているみたいだったが。

「うぅ〜。祐一は獣だよ」

そんな名雪の呟きが耳に聞こえたが、おそらく気のせいだろう。





<Fin>




<あとがき>

なゆふぁい第5話。今回は何と、挿絵がぁぁ!
美姫 「獲る猫さん、ありがとうございます」
ありがとうございます。
美姫 「このCGは浩がリクエストして描いてもらったんだよね」
そうです。本当にありがとうございます。いやー、綺麗なCGだね〜。
美姫 「本当ね。浩のSSには勿体無いわ」
それを言わないで下さい〜(泣)
美姫 「はいはい。さて、次の6話に行く前に、香里の祐一の呼び方が名前になっている件ですが」
あれは名雪に宣戦布告(なゆふぁい2話参照)した翌日から、呼び方を変えたんですね。
美姫 「そこらへんって全く出てないわね」
うーん、今後の話でまとめて書くか。
美姫 「次の6話で?」
どうしようかな。まあ、いつか書くという事で。
美姫 「ふぅー、仕方がないわね。じゃあ、また次回で」
さよーならー。




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