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/ 2.とりあえず荷物を減らす手伝いをする。*
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ああ、もう時間がないというのに。

とりあえずいくらなんでも多すぎる。

少し減らすか。

「名雪、荷物貸せ。少し減らすぞ」

「うん、わかったよ」

こうして、俺たちは荷物の整理を始めた。

はぁ、朝から何をやっているんだろう。



『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』

   〜修学旅行編 Part.B〜




「名雪・・・。

 なぜ、こんなに着替えが入っているんだ?」

「わわ、祐一。

 なに、見てるの」

「下着って冗談だ。そんな怖い顔するな」

「しかし、4泊で何でこんなに着替えがいる」

「だって雨が降ったりしたときとかの為に」

「にしても多すぎる。少し減らせ。

 後、これは何だ?」

「ケロピーの子供だよ。

 ケロピーは大きくてバックに入らなかったから代わりに子供を連れて行くの」

「わざわざ作ったのか。ケロピーの子供を」

「うん。よくできてるでしょう」

「・・・はぁ。これは置いていくものっと」

「わ、わ、なんで」

「邪魔、いらない、かさばる。反論は?」

「う〜、ない」

「後は、ん、何か奥の方に硬い物があるな」

「あっ、ダメ!」

「な、これは・・・。な〜ゆ〜き〜これは,な・に・か・な?」

「ははは、目覚まし時計・・・かな」

「ほう、何故ここにあるのかな?」

「ほ、ほら、朝起きないと皆に迷惑かけるじゃない。

 でも、祐一は起しに来ないでしょ。だから」

「あのなぁ、これは使わないって約束だろ。

 それに、他の奴らがいる状況でこれを使うつもりだったのか!」

「え〜と。あはは、そこまで考えて無かったよ」

「はぁ。これは置いていくからな」

「うん。残念・・・

「ん?何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ」

ったく、危なかった。

荷物の中見ていて正解だったな。

「ほら、これでかなり軽くなったはずだ。

 早く行くぞ」

「うん」





ぜーはー、ぜーはー。

「な、なんとか間に合ったな」

「うん」

さすが名雪は陸上部だけあってもう息も整ってきている。

ぜーはーっと。ふう。

やっと一息ついたところで、香里と北川が近づいてくる。

「おはよう、相沢君、名雪」

「おっす、相沢、水瀬さん」

「おはよう、香里、北川君」

「よう」

「しかし、相変わらずギリギリね、二人とも」

「そうだぞ。おかげでかけにもならない」

「かけるな。それに俺じゃなく名雪に言ってくれ。

 いつも遅れるのは名雪のせいなんだから」

「う〜。そんなことないもん。

 それに今日は私だけのせいじゃないもん。

 祐一が朝からあんな、うぐ。もがもが」

とっさに名雪の口をふさぐ。

「ばかなこと言ってないでさっさと集合するぞ」

「残念ね。その話、ゆっくり聞きたいけど確かに時間が無いわ」

「そうだな、さっさと集合するか」

助かった。よかった来るのがぎりぎりで。

「ところで、相沢。

 いつまで水瀬さんの口を押さえているんだ?」

あっ、忘れてた。

慌てて、名雪から手を離す。

「ぷはっ。は〜は〜。

 なんってことするかな」

少し涙目になって俺に抗議してくる。

「すまん、許せ」

「二人とも、さっさと行くわよ」

「待ってよ、香里」

「相沢、俺たちも行こう」

「ああ」

こうして、何事もなく無事に俺たちは出発した。









「やっと着いたな〜」

バスを降りた北川が、開口一番そう口にする。

「ああ。長かった」

本当に長かった。学校からバスに乗り、そこから電車、そしてまた、バス。

ずっと乗り物に乗ってた気分だ。

実際は旅館に着くまでに幾つかの観光地を周って来たんだが、やっぱり長いと感じてしまう。

俺たちはグループごとに分かれ、各々与えられた部屋へと入っていく。

今日は初日という事もあり、夕食、入浴、自由時間、消灯となっている。

夕食後、入浴までの時間を北川たちと適当に過ごしていた。

「しかし、消灯時間が10時半ってのは早いんじゃないか?

 なあ、相沢もそう思うだろ」

「う〜ん、確かに早い気もするが明日は11時が消灯時間なんだな」

「それでも早いと思うぞ、俺は」

「名雪にとっては早くないけどな」

「やっぱり、水瀬さんは早い時間に寝るのか?」

「そうだな、大体は10時までには寝てるな」

「それでまだ学校で寝てるのか。ある意味すごいな。

 そんなので明日起きれるのか?」

「香里がいるから大丈夫じゃないのか」

「それもそうだな」

という感じで話しているうちに入浴の順番が回ってきたので、浴場へと向かう。

「混浴かな?相沢」

「そんな訳ないだろ」

「それもそうだな」

など馬鹿な話をしながら浴場に入っていく。

「う〜、いい湯だ。若返るな」

「北川、年寄りみたいだぞ」

「ほっとけ。それに見ろこの鍛えられた肉体を!

 これでも年寄りと言うのか!」

そう言うと北川はボディビルダーよろしくポーズをとり始める。

正直、暑苦しい。

「北川、その全然引き締まっていない体でやってて恥ずかしくないか?」

「うっ、冷静につっこむな相沢」

「はぁ〜。おとなしく入ろうぜ」

「そうだな」



などと男湯の方で面白くもないやり取りが行われていた頃、女湯のほうでは・・・。



「名雪、はやく入りましょう」

脱衣所で服を脱ぎ終わった香里が長い髪をアップにまとめながら名雪に声をかける。

「うん、ちょっとだけ待って」

香里に返事を返しながら、こちらも髪の毛をまとめる。

「じゃ、いきましょうか。名雪」

「うん」

二人そろって浴場へと向かう。

「ふぅ〜。生き返るわ」

「香里、年寄りみたいだね」

「うるさいわよ、名雪。

 それぐらい気持ちがいいってことよ」

「そうだね。確かに気持ちいいよ」

「でしょう。まったく、こんなピチピチな肌の女の子を捕まえて年寄りはないでしょう」

「香里、最近はピチピチってあまり言わないと思うけど。

 やっぱり、としひょふぃふひゃふぃ。いふぁいふぉ、ひゃめふぇ」

香里が名雪の頬を掴んで横に引っ張る。

「何か言った?名雪」

「いっふぇにゃい、ひゃにゃして。

 って。あ〜痛かった。酷いよ、香里」

「酷いのはどっちよ。ったくもう」

「う〜。ほっぺたが痛い〜。

 ねえ、香里。赤くなってない?」

「ん。大丈夫よ。少し赤くなってるだけだから」

「大丈夫じゃないよ。赤くなるまで引っ張んないでよ。もう」

「ごめん、ごめん。でも自業自得だと思うけど。

 それに・・・」

うっ、なんか香里の目がいたずらする時の祐一と同じ目になってる・・・。

何かいやな予感がするよ。

「ふっふっふ。な〜ゆ〜き〜」

「な、なに?香里」

「えいっ」

「きゃっ」

突然、香里が後ろから抱き付いてくる。

「照れてるみたいで可愛いわよ。

 きっと相沢君も惚れ直すと思うわ〜」

「わっわ。何、言ってるんだよ香里。

 って、どこ触ってるの!」

「どこってム・ネ。あら、名雪ちょっと大きくなった?」

「う、うん。ちょっとだけ。って触らないで〜」

「安心しなさい。お姉さんが優しくしてあ・げ・るから」

「やっ、ちょっ、香里。

 私、その気はないよ〜」

「失礼ね、私もその気はないわよ。

 冗談に決まってるでしょ」

そう言って名雪を離す。

「本当に冗談?」

「当たり前でしょう。

 それに、人のものに手は出さないわ」

「それってどういう意味?」

「名雪は相沢君のものってこと」

「私、ものじゃないもん」

「そうね、ものじゃないわね。

 でもね、相沢君のものっていう証がここにあるわよ。

 あと、そこにもね」

そう言って香里は私の首筋と胸のあたりを指差す。

首筋は見えないから、胸の方を見てみる。

丁度、左胸の少し上あたりに、薄紅色をした痣みたいなものができている。

こんな所打った覚えないんだけどなぁ。

・・・・・

・・・

あれ?

でも、これって。

え、ええええええ!

なんで、ここだけ消えてないのぉ〜。

他の場所は消えてるのに。

そういえば、この時の祐一いつもより激しかったから、って違う。

何、考えてるの!

じゃなくって、そうだ、ここだけ強くされたような気がじゃなくて。

わっわっわ。

え〜と、え〜と。

「名雪、いいから少し落ち着きなさい。

 ほら、深呼吸して」

「え、あ、うん。

 す〜は〜、す〜は〜す〜は〜」

「どう、落ち着いた」

「うん」

「全く、見てて飽きないわね」

「う〜。恥ずかしいよ。ぶくぶく」

「ほら、沈むんじゃないの。

 安心しなさい。他の子にはばれてないみたいだから」

「本当?」

「多分ね」

「う〜」

「嘘よ、大丈夫よ。

 それに、私は喋らないから感謝しなさい」

「感謝するよ〜。香里」

「はいはい」

「でも、本当にばれてない?」

「大丈夫だって。周りには私たち以外いないみたいだし。ほら」

私は、香里の言葉に周りを見る。

本当だ。皆、遠巻きに私たちの事見てるだけみたい。

さっきの会話は多分、聞こえてないだろう。

でも、なんで皆遠くからこっちを見てるんだろう。

私が見ると皆、顔を背けるし。

香里に聞いてみようかなって思って香里の方を見ると香里の顔も不思議そうな顔をしている。

香里もわかっていないみたい。

私と香里は目を合わせてお互いに不思議そうな顔をする。

そこへ、クラスメートの一人が恐る恐る私たちに近づいてきた。

「あの、水瀬さんに美坂さん。

 そういうことは、誰もいない所でやったほうがいいと思うんだけど」

「「そういうこと?」」

「だ、だから、その美坂さんが水瀬さんの、その、胸を触ったりとか・・・」

そこまで言うとその子は真っ赤な顔をして俯いてしまった。

「そういうことね」

どうやら、香里はわかったみたいだけど、正直、私はまだわかっていない。

「あのね、さっきのは冗談だからね。

 私と名雪はそういう関係じゃないから」

ああ、そういうことか。私も今、わかった。

皆、香里の冗談を真に受けてたんだ。

「そうなの?」

「当たり前でしょう」

「そうよね。びっくりしたわ。突然、あんな事するから。

 あははははは」

「やめてよね、全くもう。

 それに名雪には相沢君がいるんだし」

「はははって、えっ!

 そうなの。相沢君と水瀬さんってそうだったんだ」

「わっ、香里、何言ってるの」

「まあまあ、おかげで誤解も解けたんだからいいじゃない」

「それはそうだけど・・・」

「いい事聞いたわ〜。

 今夜が楽しみね、水瀬さん」

「へっ?」

「その件に関してじっくり聞かせてもらうから」

「え、ええええ」

「まあ、何人かはショック受けるでしょうけど。

 じゃあ、また後でね」

言うだけ言うとその子は他の子の所へ行ってしまった。

「香里、止めてよ」

「嫌よ、自分で止めなさい」

「なんで!」

「だって、私も聞きたいもの」

「そんな〜」

「まあ、心配するほどでもないんじゃない。

 どうせ名雪のことだからすぐに寝るでしょう?」

「うん、多分」

「だったら、気にしなくてもいいんじゃない」

いまいち納得しにくいけど、香里の言うとおり気にしなくてもいいかな?

「それより、はやく身体洗いましょう。

 時間がなくなるわ」

「わ、それは大変」

こうして、この話はうやむやのまま終わりを告げた。

しかし、当然のことながら名雪が簡単に寝かせてもらえるはずもなく、

結構根掘り葉掘り聞かれることになる。





はぁ〜いい湯だった。

あれ?あそこにいるのは。

「よう、名雪、香里」

「あ、祐一」

「あら、相沢君に北川君」

「ん?どうした、名雪。何かあったのか?」

「あったと言えばあったし。

 なかったと言ったらなかった」

「なんじゃそりゃ」

「祐一、ちょっといい?」

「ああ、別に構わないけど」

「祐一ちょっとこっち来て」

「おい、腕を引っ張るな」

なんだ、名雪にしては動きが速いぞ。

「何か言った?祐一」

「いや、どこまで行くのかなって」

「そこの角まで。

 そこなら人がいないから」

「なんで知ってるんだ?そんな事」

「さっき確認したから」

確認したって一体、何の為に。

そうこうするうちに、その場所までやってきた。

なるほどな。非常階段か。確かにこれなら、誰も来ないな。

「っで、どうしたんだ名雪」

「大変だよ祐一。香里にばれちゃったの」

「なにが」

「だから、私と祐一が・・・ること

「あ、そんなの別にばれてもいいだろ。

 別に隠してる訳じゃないし。

 それに、香里も北川も俺と名雪が付き合っている事ぐらい感づいてると思うが・・・」

「そうじゃなくて、そのよ・よるのこととか」

「げっ、なんでそのことがばれるんだ。

 名雪、何をしゃべった」


「私、何も話してないよ〜。それに、祐一のせいでもあるんだよ」

「俺の?」

言われても全然思い当たる節がない。

俺が不思議そうにしているのがわかったんだろう、名雪はさらに顔を赤くして俯きながら続ける。

「だから、祐一がそのわたしとするときに・・・つよくかむから・・・その痕が残ってたんだよ。

 それを香里に見つかったの」

な、なるほどな。俺のせいでもあるな。たしかに・・・。

しかし、今度からは気をつけないといけないな。

ってさっき笑ってるように見えたのはその所為か。

「ねえ、祐一」

「ん、なんだ?」

「祐一の顔、赤いよ」

「っく。ほっとけ」

「祐一、どうしよう」

「べつに、ばれたものはどうしようもないだろう。

 それに香里なら他の奴にしゃべるってことしないだろうし」

「うん、誰にも言わないって言ってた」

「だろ。だったら今までどおりでいいんじゃないか」

「うん、そうだね」

「祐一、ごめんね」

「気にするな。名雪のせいじゃないだろ」

「そうなんだけど、私がもっと注意してたら」

「それを言ったら俺の方が気をつけるべきだろ。

 でもまあ、確かに半分は名雪のせいかもな。

 そんな可愛い顔されたら我慢できないだろう」

「え、わっわ、祐一、恥ずかしい事言ってるよ」

「うるさい。お仕置きだ」

「え〜、私何もしてない」

「ダメだ。注意しなかった名雪へのお仕置きだ」

そう言って、顔を近づける。

俺がどんなお仕置きをするつもりなのかわかったのか、

名雪は顔を赤くしながらも目を閉じ、少し上を向く。

ゆっくりと名雪の顔に近づき、目を閉じる。

そして、唇に名雪の唇が触れる感触。

今まで結構してきたせいか、俺も名雪もだいぶ上手くなったみたいだ。

まあ、いいことだろう。

そして、ゆっくりと顔を離していく。

「名雪、これで許してやるろう。

 名雪だけ、特別だ」

「うん。でもね、祐一」

「なんだ?」

「半分は祐一のせいだってこと認めたよね、さっき。

だったら、祐一にもお仕置きだね」

そう言って、再び目を閉じる名雪。

「あのな、名雪。

 俺がお仕置きされるのに何で俺からするんだ?」

「それもそうだね。じゃあ、祐一、目を閉じて」

「おう」

俺は言われたとおりに目を閉じる。

気配で名雪の顔が近づいてくるのがわかる。

そして、今日4度目のキスを交わす。

「とりあえず、戻るか」

「そうだね」

この後、待ちくたびれていた北川に散々文句を言われたのは言うまでも無い。

にしても、香里のやつが笑っていたのが気になるな。

まあ、なにはともあれ、初日はこうして何事もなく(?)過ぎていったのであった。

・・・・・

・・・







翌日の朝、北川と二人廊下を歩く。

とりあえず、朝食まで時間があるので香里たちをさそって建物の周りを散歩する事にしたのだ。

「おい、相沢。向こうから来るの美坂じゃないか?」

「そうみたいだな」

「お〜い、美坂」

俺たちに気付いた香里がこちらへと来る。

「丁度良かったわ。今、相沢君を呼びに行こうとしてたのよ」

「俺を?何かあったのか?」

「そうね、あったと言えるのかしら?

 それともないと言えるのかしら」

「なんかはっきりしない言い方だな」

「とりあえず、歩きながら話しましょう。とりあえず、部屋まで来て頂戴」

そう言うと香里は、今来た道を戻り始める。

俺たちが慌ててその後を追うと香里が再び話し出した。

「つまり、いつも通りのことがあったんだけど、それだと困るってところ」

「はあ、さっぱりわからん。北川、わかったか?」

「今のでわかる訳ないだろう」

「つまり、名雪がまだ起きないのよ」

「はぁ〜。なるほどな。納得」

「まあ、今回に関して言えば名雪が悪いとばかりは言えなんだけどね。

 昨日、同室の女の子たちが名雪に話し掛けてなかなか寝れなかったってのもあるし」

「なんとなくわかった、それで俺に用って事はつまり、名雪か」

「そういう事。私じゃ起こせないわ。

 当然、他の子も起してはみたんだけどね。

 見事なくらい反応がないのよ。ある意味あそこまでいくと才能ね」

「はぁ〜、こんな所にまで来て名雪を起すはめになるのか。

 ちなみに昨日は何時ぐらいに寝た」

「そうね、確か12時ぐらいには寝てたと思うわ」

「結構、遅くまで起きてたな」

「まあ、いろいろあったからね。とりあえず、部屋に着いたから入りましょう」

何か香里の顔が笑いそうなのをこらえているような感じがするのは気のせいか。

う〜ん、問いただしたいが怖い気もするな。

よし、知らぬが仏って言葉もあるし今回は、名雪を起すほうが先決だな。

とりあえず、部屋の中へと入る。

「おじゃまします」

部屋の中には3人のクラスメートがいて、名雪を起そうと名雪に呼びかけながら、体を揺すったりしている。

あの程度で起きるなら俺も毎日苦労してないよな〜。

「じゃあ、相沢君お願いね。

 正直、私たちはお手上げだから」

「了解」

正直、今の状態の名雪を起せる自信は俺にもない。

どう見てもいつもより眠りが深そうだからな。でも、仕方ないか。

「名雪、起きろ。朝だぞ」

軽く名雪の肩をゆすってみる。

「すーすー」

だめだ、起きる気配がまるでしない。

もう一度、呼びかけてみる。

「名雪、早く起きないとイチゴのジャム全部食べてしまうぞ」

「すーすー」

だめだ、いつもみたいに寝ぼけて返事することすらない。

かなり深い眠りだな。

「なぁ、香里。このまま名雪を寝かしておくってのはやっぱりダメか?」

「それは無理だと思うわ。朝食の時にクラスで点呼するから」

「そうだよな」

しかし、今回は手強いな。12時まで起きていたって言うからな。

この状態の名雪を起す方法がない訳じゃないが。

今までにも、遅くまで起きていたときでもこの方法で起きていたしな。

なんで、遅くまで起きていたかは当然、秘密だが。

う〜ん。仕方がないか。

「香里。時間までに名雪起してから、食堂に連れて行くから北川と先に行っててくれ。

 もう、あまり時間ないだろ」

「でも、大丈夫なの。なんか今日の名雪、手強そうだけど」

「まかせろ。だてに秋子さんから名雪を起す役をまかされてはていないぞ。

 履歴書の特技の欄に名雪を起すって書けるぐらいだぞ」

「名雪以外には役に立ちそうもない特技ね。

 まあ、私たちがいても役にたたないし、お言葉に甘えて先に言ってるわ」

「じゃあ、また後でな相沢」

ふぅ。これで部屋には俺と名雪だけか。

さて本格的に起すとするか。

「名雪。朝だぞ」

さっきよりを小声で名雪の耳元で囁く。

そしてそのまま、顔を近づけていき名雪の唇に触れるかどうかの所で止まる。

「いい加減に起きろよ。俺の眠り姫様」

そう呟いて、そのまま名雪へとキスをする。

しばらくの間、そのままの状態でいると、

「うう〜ん」

名雪の目がゆっくりと開いていく。

それを確かめてから、俺は名雪と唇を離す。

「お目覚めですか?姫」

「うん、おはよ〜う、祐〜一」

まだ半分、寝ぼけ眼で返事を返す名雪。

そんな名雪に向かい俺は話し掛ける。

「ほら、早く支度しろ。もうすぐ、朝食なんだからな」

「う〜。まだ、眠いよ〜」

「早くしろ。時間がないぞ」

「祐一〜。まだ眠い〜」

上目遣いで俺を見る名雪。

だからその目をするな。ダメだ我慢が・・・。

再び、名雪にキスをする。

今度は少し長めのキス。

「目は覚めたか?名雪」

「うん、大丈夫だよ祐一。ってここどこ?」

「あのな、修学旅行に来ているのを忘れるか普通」

「あ、そうだった。って他の子は!」

いきなり現実に戻ったらしい名雪が慌てて周りを見る。

当然、誰もいないんだが。

「あのな、人がいたらこんな起し方するわけないだろ」

「はは、それもそうだね。じゃあ、早く支度するね」

「その前に名雪。何か忘れていないか?」

「えっと。あ、そうか。

 祐一、おはよう」

そう言って、今度は名雪からキスをしてくる。

これは、俺と名雪の決め事の一つでもある。

初めてキスをして起した時、名雪が言い出したこと。

「されるのは好きだけど、たまには私からもしたいよ」

しかし、実際は名雪が俺より先に起きることは数えるほどしかない。

そこで、俺がキスをして起した時はその後、名雪からもするといことに決めたのだ。

「ふう。今日は祐一2回したよね。

 だから、もう1回」

そう言うと名雪は再びキスをしてくる。

う〜ん。嬉しいし、嫌じゃないが朝からこう何度もすると変な気分になりそうだな。

ってそんな場合じゃないな。

「ふう。えへへ。やっぱり恥ずかしいね」

「だったらやめるか?」

「それは嫌だよ」

「冗談だ。俺も嫌だからな」

「うん、ありがとう祐一」

「別に礼をいう事じゃないだろう」

「そうかな。でも、嬉しかったから、やっぱりありがとうだよ」

「そうか。まあ、とにかく急いで支度してくれ。時間がなくなるから。

 俺は廊下で待ってるからな」

「うん、わかった」

俺が廊下に出るためにドアを開けると、そこには見慣れた顔があった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「祐一〜、どうかした?」

後ろのほうで名雪が問い掛けてくる。

どうやら名雪は着替えている最中らしく、こちらには気付いていないようだ。

「なんでもない。とにかく、さっさと着替えてしまえ」

「うん。覗かないでね」

「覗くか!」

「でも、祐一だったらいいよ」

「な、ばか言ってないでさっさと着替えて顔を洗え」

「わかてるよ」

「じゃあ、外にいるからな」

バタンッ

俺はそう言い放つと廊下へと出る。

そして、その見慣れた顔と向かい合い、

「・・・で、何をしてるのかな?香里」

「その前に相沢君。1ついいかしら」

「なんだ」

「顔、赤いわよ」

「っっぐ。うるさい。ほっとけ」

「まあ、私には関係ないけどね。

 じゃあ、これで」

香里は食堂の方へと歩いていく。って

「待て、香里。部屋の前で何をしていたのかまだ、聞いていないぞ」

「相沢君たちみたいなことはしてないわよ」

「ぐは。やっぱり覗いてたな」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。

 ちょっと、腕時計を忘れたから取りに戻っただけよ。

 そしたら、あんな事してるんだもの。入るに入れなくて困ったんだからね」

「う、それはすまない。って、なんで俺が謝るんだ」

「そんなの知らないわよ。相沢君が勝手に謝ったんじゃない」

「ぐ、まさか全部見てたのか」

「まさか。相沢君を名雪が、その、してるの見てすぐに外に出たわよ。

 それで、二人が出てくるのを待ってたの。

 それなのに二人ともなかなか出てこないし。

 やっと出てきたと思ったら、なんか仲のいい所を見せ付けてくれるし」

「それは、悪かった」

「まあ、名雪は起きたのよね。

 だったら、良しとしましょう。

 ただし、今度何か奢ってもらうからね。相沢君」

「バニラアイスでいいのか」

「それは栞でしょ。何にするかは考えておくわ」

「はは、お手柔らかに頼む」

カチャッ

そんなやりとりをしている間に、名雪のほうの準備も終ったようだ。

「よう、準備は終ったのか?」

「うん、て香里どうしたの?」

「忘れ物をしたので取りにきたそうだ」

「そうなの」

「そうよ。今とってくるからちょっと待っててね」

そう言って香里は部屋の中に入っていく。

とりあえず、さっきの事は名雪には言わないほうが良いだろうな。

黙っておくか。

それにしても、明日からも名雪を起す羽目になりそうな気がするな。

気のせいなら良いが。

「お待たせ。じゃあ、行きましょうか」

「そうだな」

「そうだね」

こうして俺たちは食堂へと向かう。

しかし、2日目にしていきなり波乱万丈で始まったなぁ。

どうかこれ以降、何事もありませんように・・・。







当然、この後も平穏に過ぎるはずもないことはまだ、誰も知らない・・・・・。




<あとがき>

おっわった〜。

いや〜、永かった。

これで「なゆふぁい」シリーズの一話完結!

二話はどんな事しようかな。

修学旅行の2日目になるか、全然違う話になるか。

もしかすると他のキャラが出てくるかも。

とりあえずこのシリーズはまだ続けようかと考えています。

とりあえず、また次回作で。



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