『奥様はお嬢様!?』







ごくごく普通の二人が、ごくごく普通の出会いをし、ごくごく普通に恋をして、そして、ごくごく普通に結婚しました。

ただ、一つ普通と違ったのは、奥様は・・・・・

『お嬢様』だったのです。







冬が永いこの街にも当然、夏はやってくる。

前にいた街ほど暑くはないとは言え、日を追うごとにやはり暑さが増してくる。

そんな夏真っ盛りの7月も後半に入った日の朝。

俺、相沢 祐一はベットから起きだす。ふわぁ〜、もう朝か。

隣を見ると横で寝ていたはずの佐祐理さんの姿が見えない。

きっと朝食の準備をしているのだろう。

今だかつて、俺は佐祐理さんより早く起きた記憶がない。

いつも朝食を作り終えた佐祐理さんに起こされている。

しかし、まさか佐祐理さんとこうなるとは、あの時は思ってもいなかった。

もちろん、佐祐理さんの事が嫌いな訳じゃない。むしろ、一番大事な人だ。それは自信を持って言える。

ただ、まだ高校3年生である俺が結婚するとは思ってもいなかっただけで。

少し前の事だというのに昨日のように思い出せる。





高校2年で転校してきた俺はたまたまあの日、夜の校舎に行き、舞と会った。

そして翌日、昨日の事が気になっていた俺は舞に話し掛け、そこで佐祐理さんと出会ったんだよな。

その後、色々あって俺は佐祐理さんを、佐祐理さんは俺を選んでくれたんだ。

そして、舞の俺や佐祐理さんが好きという気持ちは兄弟や親子、親友に対することの好きらしく、

それは、俺や佐祐理さんの舞に対する好きと同じだった。

だから、俺と佐祐理さんは舞に二人の事や舞に対する気持ちを話し、3人で住むか聞いたんだ。

その時、舞は「私も祐一と佐祐理の事は好きだから、一緒に暮らしたい」って言ってくれて・・・。

舞と佐祐理さんの卒業式の次の日から俺たちは3人で暮らす事をそれぞれの両親に話した。

最初は俺の両親を呼んで、水瀬家で話をしたんだったな。

しかし、結構緊張したがうちの親は放任主義というかなんというか、結構あっさりと許してもらえた。



「祐一がそう決めたのなら、私たちが言う事は特にないわ。秋子も近所にいることだし。

 ただし、何かあったらすぐに私か秋子に連絡する事。いいわね」

「ああ、わかった。約束するよ、母さん」

「それなら、いいわ。秋子もごめんね。大変だとは思うけどお願い」

「姉さん、私なら構いませんよ」

「川澄さん、倉田さん、祐一がご迷惑をおかけしますけどよろしくお願いしますね」

「はちみつくまさん」

「あははー。大丈夫ですよ。祐一さんなら。

 佐祐理のほうこそ不束者ですがお願いします」

「なかなかしっかりとしたお嬢さんたちじゃないか。

 これなら、安心だな。なあ、おまえ」

「そうね、このままどちらかと結婚してくれたら言う事ないわ」

「な、何を言ってるんだよ、二人とも」

「しかし、祐一もやるな。こんなに綺麗なお嬢さんたちと同棲するなんて。

 まさに両手に花だな。俺に似て良かったな」

「何、馬鹿なこと言ってるんですか。

 あなたに似ていたら今ごろこんな事になるどころか、秋子からも愛想をつかされて水瀬家から追い出されているわよ」

「う、そこまで言うか。じゃあ、誰に似たんだよ」

「それは言わぬが花ってものですよ。それとも聞きたいですか?」

「いや、いいです」

父さん、弱い、弱すぎる。もしかしなくても俺の押しの弱さは父さん譲りか。

「だいたい、あなたは・・・」

父さんと母さんはまだ言い合っている。と言うよりも母さんが一方的にまくしたてている。

このパターンはまずいな。この場合、矛先がこちらに向く前に退散するのが一番良いと云う事は長年の経験で知っている。

俺は言い合っている二人に話し掛ける。

「とりあえず、この件はもういいよな。

 だったら、俺たちは外に行ってくるから。舞、佐祐理さん行こう」

俺は言うが否や、舞と佐祐理さんを連れて席を立つ。

よく見れば秋子さんの姿も見えない。抜け目のない秋子さんのことだ、もう逃げたのだろう。

とりあえず今は、人の心配よりも自分たちの心配が先だ。

俺は急いで玄関へと向かう。その後についてくる舞と佐祐理さん。

「祐一、ちょっと待て」

「待つのはあなたです。この際ですから言わせてもらいますけど・・・」

当然、呼びかけに対して聞こえない振りをする。

許せ、父さん。俺も自分の身が可愛い。

それに逆の立場なら間違いなく父さんは同じ事をする。

「祐一さん、いいんですか?止めなくても」

「佐祐理さん、いいんですよ。あれがあの二人のコミュニケーションですから。邪魔したら悪いです」

「はえー。そうなんですか。それはじゃましたらいけませんねぇ」

「そういうこと。とりあえず外に出ましょう」

こうして俺たちは無事に脱出する事が出来た。

「後は舞と佐祐理さんのご両親の説得だな」

「はちみつくまさん」

「そうですねー」

「佐祐理さんの所が一番説得が難しそうだけどな」

「そんなことないですよ。お父様に祐一さんのことを話した時、結構喜んでいましたよ」

「え、そうなんですか。というより、むしろ何を話したかの方が気になるんですけど」

「大丈夫です。別に変な事は言ってませんから」

「そうですか?ならいいですけど・・・」

「明日は舞の家だな」

「はちみつくまさん」

「とりあえず、今日はこれからどうする?」

「どうしましょうか?舞、どこか行きたい所ある?」

「動物園」

「またか。昨日行ったばかりじゃないか」

「でも、また来るって祐一、言った」

「いや、言ったけど。それは、」

「いいじゃないですか。祐一さん。ねえ舞、今から動物園行こうね」

「佐祐理さんまで」

「それとも、祐一さんは舞や佐祐理と一緒に行くのは嫌ですか」

二人して悲しそうな目をして俺を見てくる。これではまるで俺がいじめているみたいではないか。

「う。そんな事はないです。・・・・・行きます、行かせて頂きます。舞、動物園に行くぞ」

こくこく頷く舞とその横でにこにこ笑う佐祐理さんを見ながら俺は思った。

父さん、俺は間違いなくあなたの息子です。









次の日に行った舞の家でもあっさりと話がついた。

話の内容としては、舞の母親に何度も舞の事をお願いされたぐらいだな。

そして、問題だったのは当然と言うかなんと言うか。佐祐理さんの家だった。

「許さんぞ。佐祐理。男と一緒に住むなど」

「そんな。お父様も祐一さんの事、気に入ってたじゃないですか」

「確かに。相沢君は今までの男どもとは違い、佐祐理の肩書きではなく佐祐理本人を見ている事がわかったからな。

 それに、お前に本当の笑顔を取り戻させてくれた。私にとっても恩人みたいなものだ」

「え、お父様それはどういうことですか」

「気付いていないとでも思ったのか?これでも一応、お前の父親のつもりだ。

 弟の一弥が死んだ後から、佐祐理の笑顔が仮面みたいに見えてな。ああ、佐祐理は心の底では笑っていないな。

 もしかしたら、心の底から笑う事ができなくなってしまったんではないかと思ったよ。

 そんな時、川澄さんが現れた。川澄さんの事を話すときのお前はとても楽しそうだった。

 徐々にではあるが佐祐理が心の底から笑えるようになると思っていた。

 それが最近、特に笑うことが多くなってきたと思っていたんだ。

 そして佐祐理から話を聞いて、それが相沢君という少年のおかげとわかった。

 だから、相沢君にはとても感謝している。しかし、それとこれとは別な事だ」

「そんな。前は良いって言ってたじゃないですか」

「あれは、川澄さんと住むんだと思っていたんだ。

 男が一緒だとは聞いていなかったから」

「佐祐理はちゃんと3人って言いましたよ。

 それを今になってダメだなんて」

俺と舞は佐祐理さんと佐祐理さんのお父さんのやり取りに口をはさむ事が出来なかった。

佐祐理さんのお父さんの言うとおり、普通は自分の娘が男と住むなんてこと許可しないだろう。

それでもやっぱり俺は佐祐理さんと一緒にいたい。

俺が二人に話し掛けようとしたとき、それまで黙っていた佐祐理さんのお母さんが話し出した。

「二人とも、少しは落ち着いてください。相沢さんも、川澄さんも驚かれていますよ」

「しかしだな」

「あなた。少し落ち着いてください。何故、佐祐理が相沢さんたちと一緒に住む事に反対されているんですか?」

「何を言っているんだ、お前は。そんな事当たり前だろう。どこの家の親も娘が男と住むことを許すはずがないだろう」

「ですから、その理由を聞いているんです。理由もなしに反対するのはどうかと思いますけど」

「理由って、お前はいいのか」

「私は別に構いませんよ。今まで佐祐理に聞いていた話と今日実際にお会いした感じで、二人の事がすぐにわかりましたから。

 だから、あなたが反対する理由を聞かせて頂きたいんです」

「そんなものは決まっている。嫁入り前の娘が他の男と暮らすなど許せん」

「それはつまり将来、佐祐理と結婚すれば問題はないって事ですよね」

「な、何を言っているんだ、お前は」

「お母様、何を言ってるんですか。祐一さんに迷惑ですよ」

「あら、二人ともそう云う関係ではないの?私はてっきりそうだとばかり思ったんですけど」

どうやら先程、佐祐理さんのお母さんが言った二人ってのは俺と舞のことではなく俺と佐祐理さんの事だったらしい。

あまりの事態に俺が呆けていると佐祐理さんのお母さんが俺に話し掛けてきた。

「相沢さんは佐祐理の事が嫌いですか?」

「いえ、そんな事はありません」

って俺は何を言ってるんだ。とっさの事だった為にあまり考えずに答えてしまった。

でも、間違っていないし良いか。

「祐一さん・・・。佐祐理も祐一さんのことが好きですよ」

「さ、佐祐理!」

「あらあら、仲がいいわね。やっぱり思ったとおりね。二人は恋人同士なんでしょ?」

・・・・・。俺と佐祐理さんは一瞬目を合わせ、お互いに頷くと返事をした。

「「はい」」

「別に隠すつもりじゃなかったんです。ただ、言い出すきっかけがなかったというか」

「ごめんなさい。お父様、お母様。今回の事を話し終えてから、改めてお話しするつもりだったんです」

「別に謝る事じゃないわよ。何となくだけど私は気付いていたから」

「な、な、な・・・」

佐祐理さんのお父さんの方はあまりの事に言葉にならないみたいだ。

やはり、こういう時は女性の方が強いのかもしれない。

佐祐理さんのお父さんは、しばらく金魚みたいに口をパクパクさせた後、ゆっくりと喋りだした。

「なんだ。そのー、つまり、お前たちは、・・・恋人同士で、なおかつ一緒に住むと・・・。そういう事か?」

「だから、そうだって言ってるじゃありませんか。鈍いですね、あなたも」

「え〜と、だからつまり将来、相沢君と佐祐理が結婚すると言う事か」

「いや、まだそうと決まった訳では・・・」

俺がそう答えた瞬間、佐祐理さんのお父さんは席を立ち、顔を赤くして、まくし立ててきた。

「なに!君はうちの娘を傷物にして、それでお終いだというのか!な、なんて奴だ。許せん!」

「ち、ちょっと待ってください。そう云う訳ではなくて。俺が佐祐理さんを嫌いになる事はありませんってば。

 その逆で佐祐理さんが俺に愛想をつかした場合のことを言ってるんです。

 俺は佐祐理さんとなら、今すぐにでも結婚してもいいですっ。だから、落ち着いてください」

「はー、はー、はー、そ、そう云うことか。はー、はー」

佐祐理さんのお父さんは少しは落ち着いたらしく、肩で息をしながらも席に座る。

あの様子じゃ、しばらくは喋れそうもないな。

まあ、もう少ししたら落ち着くだろう、などと思っていると横から佐祐理さんが俺の服のすそを引っ張り俺に詰め寄ってきた。

「祐一さん。佐祐理も祐一さんを嫌いになる事はありませんよ。

 佐祐理は祐一さんのことが一番好きです。佐祐理も今すぐに結婚してもいいぐらい祐一さんを愛していますから」

「佐祐理さん・・・」

「祐一さん」

まだ、俺の服を掴んでいた佐祐理さんの手を優しく握り抱き寄せる。

そして、ゆっくりと顔を近づけていき、もうすぐで唇に触れるという所で、

「まあまあ、本当に仲がいいわね。でも、そう云うことは二人きりの時にした方がいいと思うわ。

 でないと、お父さんの血圧も上がってしまいますわよ」

突然かけられた声にとっさに離れる俺と佐祐理さん。すっかり雰囲気にのまれ皆がいた事を忘れていた。

佐祐理さんも顔を赤くして俯いている。

佐祐理さんのお父さんも顔を赤くしているが、これは佐祐理さんとは別の理由だろう。絶対に。

「相沢君」

「は、はい」

「君たち二人の事はよくわかった。もう、何も言わない。ただ、佐祐理を幸せにしてやってくれ」

「はい、わかりました。絶対に佐祐理さんを幸せにします」

「そうか、宜しく頼む。ただ、結婚もしていないのに一緒に住むのは許せん」

「はい。・・・って、えっ!」

「お父様。それはあんまりです」

「最後まで聞きなさい。さっきも言ったが、結婚もしていないのに一緒に住むのは許せん。許せんが結婚するなら話は別だ」

「っへ」

「はえー」

「確か、二人とも今すぐ結婚してもいいと言ったな。という訳で、二人にはすぐに結婚してもらう。

 そうすれば一緒に住む事に反対はせん」

「「えっえええぇぇぇーーーーー」」

「お父様、いくらなんでも急すぎます」

「そうですよ。俺まだ、学生だし」

「安心しなさい。式はまだ先でもいい。とりあえず、籍だけでも。それとも二人ともあの言葉は嘘なのか?」

「そんなことはないです。でもですね」

「まあまあ、あなた。いくらなんでも早計すぎますよ」

「いや、しかし。こういう事は早いほうがいいと思うんだが」

「まだ、二人とも、心の準備が整のっていないみたいですから」

コクコクと頷く俺と佐祐理さん。佐祐理さんのお母さん、頑張ってお父さんを説得してください。

俺たちの必死の願いもむなしく、お母さんはこんな事を言い出した。

「やっぱり、結婚式といったら6月ですよ。6月に式を挙げるという事にして、とりあえず今は婚約という形にしましょう」

「おお、そうだな。そうしよう。それでいいな、二人とも」

もはや言い返す元気すらない。横を見ればどうやら佐祐理さんも同じようだ。

ただ、笑っている。

「あははー」

結局、6月に結婚式を挙げるということになってしまった。

ちなみに、後でこの事を俺の両親に話したら二人とも驚いていた。当たり前か。

所で、この時舞は何をしていたかというと、

「く〜〜、く〜〜」

何時の間にか寝ていたらしい・・・・・。

まあ、色々あったがこうして、佐祐理さんの両親からも許可を得ることができたし、よしとしよう。



・・・・・

・・・





しかし、今思い返しても結構、すごいよな。

まあ、幸せだしいいか。

「祐一さん、朝ご飯の時間ですよー。あら、起きていたんですか?」

「ああ、佐祐理さんおはよう」

「おはようございます。祐一さん。舞が待ちくたびれてますよ。早く行きましょう」

「わかった。今、行くよ」

佐祐理さんの後について歩き出す。部屋を出る前に前を行く佐祐理さんに声をかける。

「佐祐理さん」

「はい。なんですか?」

「今、幸せですか?」

「もちろんですよ。舞と祐一さんがいてくれるんですから」

そう言って、笑顔を見せる。俺はしばらくその顔に見惚れた。

佐祐理さんの笑顔は不思議だ。見ている人が何となく幸せになる。

「祐一さん?どうしました?」

「いや、なんでもない。ただ、佐祐理さんが益々綺麗になっていくなぁーって思っただけだよ」

「あははー。それはそうですよ」

「なんで?」

「それは、秘密です」

そう言うと佐祐理さんは俺にキスをし、

「さあ、祐一さん早くしないと舞に全部食べられてしまいますよ」

と、先に歩いて行く。

「ふっ。それは困るな。佐祐理さん急ぎましょう」

俺は佐祐理さんと並び、佐祐理さんの手を取って一緒に食堂へと向かう。

俺たちのもう一人の大事な人の待っている場所へ。











祐一さん・・・・・私が綺麗になっているとしたら、それは祐一さんのおかげですよ。

恋する乙女は美しくなるそうですから。

だって、私は今でもこんなにも祐一さんに恋しているんです。









<Fin.>





<あとがき>

ほえー、佐祐理さんいいですなぁー。っと云う訳で今回は佐祐理さんSSです。

今回、タイトルが先に思いつきました。(ピンと来る人、何人いるかな?)

内容は読んだとおりです。あまり捻りがないかも・・・。

次回のKanonSSは「なゆふぁい」の第2話を予定していますが、どうなるかな。

あのネタも先に書いてしまいたいしなぁ。

とりあえず、次回作でお会いしましょう。



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