『HAYATE CROSS HEARTBLADE』






第三刃 「凸凹コンビ出陣」





恭也が再び刃友を得たという情報は、次の日の昼頃には既に殆どの者へと知れ渡っていた。
良くも悪くも、恭也はかなり有名なのだ。
昼食を取りながら、桃香は驚いたようにはやてを見る。

「しかし、よくオーケーしてくれたな?」

「うん。恭也はいい人だね」

「まあ、確かに悪い人ではないけど」

はやての言葉に小さく肩を竦めると、自分の昼食に箸をつける。
と、はやてが急に立ち上がって手を大きく振る。

「恭也〜! ここ空いてるよー!」

「ちょ、はやて」

慌ててはやてを止めるが、既にこのラウンジに居る殆どの者がこちらへと注目していた。
恥ずかしさから顔をやや俯ける桃香とは違い、はやてはまだ手を振る。
恭也は小さく溜め息を吐き出すと、はやての元へとやって来る。

「ここ、良いですか?」

一応、はやてから誘われたものの、同席していた桃香へとそう訪ねる。

「あ、は、はい、どうぞ」

やや緊張気味にそう答える桃香へと礼を言うと、恭也は席に着く。
そして、すぐさまはやてへと注意をする。

「はやて、あまり大声で人の名前を呼ぶな。
 他の人の迷惑になるだろう」

「でも、恭也が見えたからつい」

「はぁ。もう今回は仕方ないとして、次からは気を付けるように」

「はーい」

そう元気良く返事をするはやてを見て、恭也はやや不安そうにしながらも自分も昼食を取り出す。

「そうだ!」

昼食を食べ終えた後、何かを思い出したかのように、はやてがは懐から何かを取り出す。

「これこれ。はい、恭也にあげるね」

言って差し出してきたのは、真っ黒でやや目付きの鋭い猫のキーホルダーだった。

「…これをどうしろと?」

それを手にとり、目の高さでぶらぶらさせながら困惑する恭也へとはやては笑顔で答える。

「それはしげるファミリーの一員で、しげくろだよ」

「しげるファミリー?」

「そう、これだよ、これ」

言ってはやては自分の刀の柄を見せる。
そこには、恭也に渡したのとは外見が違うものの、猫のマスコットがぶら下がっていた。
それを見て、恭也は嫌な予感を覚える。

「まさかとは思うが、これを俺にも着けろとか言わないだろうな」

「その通りだよ。これは刃友とおそろいでつけるものだらか」

「いや、しかし…」

「ほら、貸して、貸して。わたしが付けてあげんね」

「あ、まて、はやて」

「嫌なの。折角、恭也のために作ったのに」

「うっ」

人の好意を無に出来ない恭也が言葉に詰まったのを見て、はやてはさっさと取り付けてしまう。
無愛想な自分には不似合いな可愛らしいアクセサリーに、恭也は小さく溜め息を吐く。
が、全身が黒で目付きが悪い所は自分に合っているかもと、無理矢理納得しようとする。
そこへ、はやてが更に言葉を投げる。

「うんうん、しげくろも嬉しそうだね。うんうん、女の子らしい笑みだね〜」

「……女の子!? これは雌の設定だったのか」

「うん、そうだよ」

「いや、しげくろって」

「可愛い名前でしょう」

「…………」

恭也は疲れたように桃香へと視線を向けると、桃香は肩を竦めて苦笑を浮かべるのだった。
とりあえず、しげくろの追求を止め、恭也はやや顔を真剣にものに変えると、はやてへと改まった口調で尋ねる。

「はやて、お前と組んで星獲りに参戦する事になった訳だが、その前に聞いておきたいことがある」

「うん、何でも聞いて。身長は140センチ、体重は恥ずかしいけれど、恭也になら教えてあげるね。
 34キロだよ。好きな言葉はあんぱん。もういつでもわたしはオーケーだよ。
 あ、でも、最初は優しく…いたっ! う、うぅぅ、恭也がぶったー!
 いきなり、倦怠期、倦怠期なの!?」

「……誰もそんな事を聞こうと思ってないし、どこでそんな言葉を覚えたんだお前は。
 それ以前に、好きな言葉があんぱんって何だ。好きな食べ物じゃないのか。はぁ」

思わず自分の妹と同じような扱いをしても大丈夫なような気がして、
気が付けばデコピンを出していた恭也だったが、すぐに真剣なものへと戻す。

「ふざけていないで、よく聞け。早ければ、今日の午後にでも星獲りが始まるんだからな」

「わ、分かったよ」

「まず、星獲りにおける天と地に付いての役割なんだが…。
 お前は何も考えずに攻めた方が良さそうだな。俺が地をやるから、はやてが天をやれ」

「天? 確か、相手の天の星を獲れば良いんだったよね」

「ああ、そうだ。天と地で一組となり、星取に参加する。
 天は肩に星を付け、それを相手の天に打たれる前に相手の星を落とす。
 地は影星と言って、星を隠して付けるんだ。天の星が落ちた時点で勝負は終わりとなるから、
 自ずと地は天を守るようになる。天の星は天が、地の星は地が打つルールとなっていて、
 星の落とされた地は、その勝負の間は手出しできなくなる。
 だから、地が相手の地の星を落とした後、天と協力して二対一という事も可能だ。
 だが、あくまでも星を落とせるのは同じ天なら天、地なら地のみだな。
 地は、天の守護と同時に相手の地との攻防と、その組によって色々な形があるが……」

そこまで言って恭也は言葉を切る。
見れば、はやては首を捻っており、それを見て恭也は苦笑を見せるとその頭に手を置く。

「そう難しく考えなくて良い。最初にも言ったが、お前は、相手の天の星を獲る事だけを考えれば良いんだ。
 その方が、お前の剣には合っているはずだからな。他の部分は、おいおい考えていけば良い。
 分かったか」

「うん! つまり、わたしが相手を攻めて、恭也がわたしを守ってくれるんだよね」

「そうなるな」

「うんうん。嫁に守られるなんて、愛されてる、わたし?」

「はぁー、だから…」

恭也が疲れた声を上げて突っ込もうとした時、その声を遮るように鐘の音が鳴り響く。

「いよいよ始まるな。桃香さんは…」

「あ、うちはちょっと色々ありますんで、これで失礼します」

「そうですね。よし、はやて、星獲りだ行くぞ」

「うん、恭也との初夜だね」

「〜〜〜!! だ〜か〜ら〜」

はやての頭を押さえつけてグリグリしながら、恭也は疲れた声を上げる。

「わっわっわ。ご、ごめんってば。きょ、恭也、これ痛い!
 地味に痛いよ!」

「ったく。ふざけているんじゃないぞ。何だかんだと言っても、これが初陣になるんだからな」

「大丈夫だって。わたしと恭也は最強夫婦なんだから」

「その自信の根拠がない所が怖いんだがな。
 まあ、実際に戦ってみれば良いさ。何事も経験だからな」

言って二人は相手を求めて走りだす。

「って、夫婦ってのは何だ、夫婦って」

そんな恭也の突っ込みが、茂みへと隠れた桃香の耳にも届き、桃香は思わず笑みを浮かべ、
親友の初陣での勝利を小さく祈ってあげるのだった。




つづく







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