『刻まれる時の彼方 〜Duel Heart of Eternity Sword〜』






24話 禁書庫Z 〜恭也とユーフォリア〜





導きの書を守っていた守護獣が倒れ、大河たちが導きの書を手にするのを物陰から見ながら、恭也はユーフォリアに視線を落とす。
特に何とも思ってないのか、止める素振りも見せずにこちらもただ見ているだけなのを見て、問題ないのかと考えていると、

「恭くんの考えている通りだよ。別にあの書そのものには問題はないもの。
 全くない訳でもないんだけれど、この時点での必要以上の干渉は流石にしない方が良いからね」

「だが、あれでは救世主が誕生してしまうんじゃないのか」

「そうはならないよ。それに仮に誕生したとしてもその時点では問題じゃないしね。
 なに、恭くんも救世主になりたいとか」

答えを分かっていながら言っているのだろう、ユーフォリアの表情はどこかからかうようなものを含んでおり、
恭也は答える代わりにやや乱雑にユーフォリアの髪を掻き乱すように頭を撫でる。
強い力に頭を左右に揺さぶられ、髪が乱れるにも関わらず、ユーフォリアは何故か嬉しそうな表情を見せる。
不思議に思う恭也の心の内をまたしても読んだのか、ユーフォリアは先ほどまで恭也が触れていた頭にそっと自らの手を乗せ、

「恭くんがこういう事をするのは本当に気を許した人にだけだもん」

はにかみなががら言われた言葉に恭也は言葉を無くし、照れたのを誤魔化すように顔を横に背ける。
そんな仕草を可笑しそうに見詰めていたかったが、ユーフォリアは急に視線も鋭く再び大河たちの方へと向く。
それに気付いた恭也も同じように大河たちの様子をこっそりと窺えば、二人の背中越しに少女が一人見える。
遠くからながらもその姿形に恭也は思わず大河と同じ事を口にする。

「リコさんによく似ているな」

「そうね。言うなら彼女はリコとは双子のようなものだもの」

「微妙な言い回しだな」

「そうね、詳しい説明はひょっとしたらしてくれるかもしれないわよ」

言ってリコたちの会話を聞き取ろうと耳を済ませるユーフォリアに倣い、恭也もまた耳を澄ませる。
書の半分、救世主を選ぶ、封印など意味ありげな言葉が聞き取れるが、はっきりとは聞こえない。
それでもじっと耳を澄ましていると、不意に戦闘が始まる。

「ユーフィ、俺たちはどうするべきだと思う」

気持ちとしては大河たちに加勢したいという思いもあるが、現状出て行っても足を引っ張る事になるだけだろう。
こちらは召還器も持たない生身の人間。
たった一人増えるだけでは、数の上での有利さなど相手の魔法を見るに意味を成しはしないだろう。
ユーフォリアが加わればまた違う結果が出るかもしれないが、彼女には彼女の目的があるらしい。
そして、それに自分が関わっているらしい事も何となく察している。
どちらを優先にするかという事ではなく、下手な動きで事態を悪化させない為にも恭也は逸る気持ちを抑えて尋ねる。

「前にも言ったと思うけれど、全ては恭くんの思う通りにすれば良いんだよ。
 私自身の過度の介入は禁止されているけれど、恭くんに限って言えばそうじゃないんだから。
 勿論、止めるべき時は止めるけれどね」

「なら二人を助けに入っても良いか?」

「……ごめん、やっぱりちょっと待って。
 助けられるかもしれない状況で助けないっていうのは恭也くんの性格から言っても難しいかもしれないけれど、今は我慢して。
 リコが何かするみたいだし、出来れば恭くんの存在もまだ隠しておきたいの。
 多分、彼女には分からないだろうけれど、念のために」

ユーフォリアの言葉に頷き、恭也はその場に留まる選択を選ぶ。
実際、ユーフォリアの言葉通り、リコが何かしようとしており、それはすぐに分かる事となる。
イムニティの放った止めの魔法、それが当たるよりも僅かに早く、リコと大河の姿がその場から消える。
それを見てそっと安堵の息を零すと、小声でユーフォリアへと確認するように尋ねる。

「二人は逃げたのか?」

「一時的に、って所ね。咄嗟に発動させた以上、出口はここでしょうし、そんなに長い事隠れていられないはずよ。
 現にあのイムニティって子も留まっているもの」

確かに逃げられたはずのイムニティは最初こそ苦虫を噛み潰したような顔をしていたものの、既に余裕の態度を取り戻している。
それだけでなく、いつでも即座に攻撃できるように待ち構えている。

「だとしたら、結局はピンチに変わりはないという事か」

「そうとも限らないわよ。逃げた先は恐らく仮初に作り上げた赤の空間。
 なら少しは時間の余裕も出来ているでしょうし、何より魔法を行使した張本人が私がさっき言った事を分かっていないはずないもの」

「とは言え、咄嗟の事だったんだろう」

「ええ。だからこそ、打開策として一つだけある手を取る可能性が高いわ。
 だとすれば、大河がいる分だけ僅かとは言え有利になるはず。
 それを理解すれば、イムニティって子も今回は大人しく引き下がると思うわ」

その策というのが気にはなったが言わない以上、聞く必要もないかと判断する。
それに気付いたのか、ユーフォリアは少し笑みを作ると、

「別に話しても問題ないけれどね。でも、私も全てを知っている訳じゃないの。
 ただ、彼女たちが救世主を選定する役目を担っていて、その副作用というか、選ばれた候補者に少しだけ力を与える事が出来るの。
 尤もそれは微々たるものだけれど、本題はそうやって候補者として契約した彼女たちはその力を存分に振るう事が出来る」

「今までも凄い魔法を使っていたと思うが」

「それは自身の存在を削りつつ出していた諸刃の剣。
 でも、契約する事でその枷から外れ、今までよりもより強力な力を振えるようになるらしいわ。
 流石にこの救世主システムに関しては、まだはっきりと掴めていないの。ごめんね、曖昧で」

「いや、充分だ。つまり、大河と契約する事によってリコさんの力が上がるという事で良いんだな」

「うん。簡単に言えばそういう事だよ。その大元が神剣の欠片たる彼女たちが契約という形で御者を得る……。
 だからこそ、より大きな力を振るう事が出来る事が出来るのは分かる。でも、それがどう救世主システムに関わってくるの」

何かを考え始めたユーフォリアを邪魔しないように恭也は口を閉ざし、イムニティに見つからないようにそっと物陰に潜み座る。
大河たちが戻ってくるまで見ていても仕方ないと思っての行動であったが、目敏く気付いたユーフォリアは考え事をしながらも、
半分無意識にそんな恭也の足の間に腰を下ろす。
注意しようにも大声が出そうになり口を塞ぎ、その間にユーフォリアはまたしても自らの思考へと没頭していく。
仕方なく恭也は肩を竦め、少しでも早く大河たちが戻ってくるのを願うのであった。





つづく






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