『刻まれる時の彼方 〜Duel Heart of Eternity Sword〜』






23話 禁書庫Y 〜導きの書入手〜





大河が書を縛り付けている鎖に悪戦苦闘しているのを手伝い、鎖を取り除いたリコは大河が手にした書をすぐに奪い取る。
そのあまりの速さに大河が呆けている間に、珍しく口を開くとお願いをする。

「大河さん、私が良いと言うまで目を瞑っていてください」

どういう事なのか聞きたそうにしていた大河であったが、リコの目を見て何かを感じ取ったののか、言われた通りに目を閉じる。
が、やはり事情が気になるのか目を閉じたままでリコへと問い掛ける。

「なあ、どうして目を瞑っていないといけないんだ?
 読むのなら戻ってからでも良いだろうし、俺が見ても構わないだろう」

ページを捲る音がした事からリコが本を捲っていると考えた大河の言葉に、リコは本を両手で開きつつ返す。

「っ、この本は人が見てはいけないんです」

「どうしてだ? それを見ないと召喚陣の修復もできないし、何より救世主になるには必要なものなんだろう」

「半分はその通りです」

「半分? どういう……」

「目を開けないで!」

「わ、悪りぃ」

リコの言葉に思わず目を開けて聞きなおしかけた所で、リコの思わぬ大声に大河は再び目を閉じる。
逆にリコは自分の発した声に申し訳なさそうに小さないつも通りの声で謝罪を口にして続ける。

「書に選ばれた者がこれを手にすれば救世主となります。
 ですが、同時にそれは全てを知る事となります。
 それは救世主の真の使命を知る事でもあり、その使命に耐えられた人はいません。
 皆、その使命の重さに潰され、発狂するか自ら命を絶つか……」

「ちょっと待ってくれ、リコ! 使命ってのは何だ? それに誰も耐えれなかったって。
 一体どういう事だよ! そもそもリコはどうしてそこまで詳しいんだ!?」

リコの言葉を聞き、大河は混乱する頭を出来る限り働かせて質問する。
が、それに対するリコの返答はなく、代わり第三者の声が答えを返す。

「それはそこに居るオルタラ、いいえ、リコ・リスこそが書の半分であり、救世主を選ぶ存在だからよ」

突如聞こえた第三者の声に大河は何かよからぬ物を感じ取り目を開く。
偶然、見えたリコが手にしていた導きの書は閉じられていた為に中までは見えなかったが、今はそれ所ではないと周囲を見る。
見渡すも見れる範囲にそれらしき人物は見当たらない。
と思っていると、大河たちの目の前の空間が歪み、一人の少女が姿を見せる。
身長はかなり低く、大河の胸元にも届かないかもしれない。
救世主クラスで最も小柄なリコとほぼ同じ。前髪を左右へと分けてそれぞれ括り、後ろはそのままにしてある。
大河を見詰めるその冷ややかな目には感情らしき物は浮かんでおらず、まるで物を見るように見詰めてくる。
突然現れた少女の存在に言葉を無くす大河であったが、その一番の理由は、

「リコに似ている」

一卵性の双子と言われてもすんなりと信じるぐらいに目の前に現れた少女とリコは瓜二つであった。
尤も、口数こそは少ないものの瞳は温かみを感じさせるリコとはその部分だけは違っていたが。
戸惑う大河とは違い、リコは平静のまま突如現れた少女を睨み付ける。

「イムニティ。やっぱり封印を解いていたのね」

「あら、驚かないのね。少し拍子抜けだわ。
 まあ、その書を見たのなら予想していたんでしょうけれど」

「最初、書を見たときは驚いたけれど充分に考えられる事ですから。
 千年、どんな強固の封印でもその後何もしなければ綻ぶ事もあります。
 でもそう簡単に破れるようなものでもなかったはず。一体どうやって」

「ふふふ、相変わらずね。赤を司るのに、感情に流される事無く冷静に物事を考える。
 本当はもう検討が着いているんじゃないの?」

「…………マスターを得たんですね」

リコの確信を込めた問い掛けにイムニティと呼ばれた少女は楽しそうな笑みを見せてるだけで何も言わない。

「どうかしら? 今、ここで確かめてみる?」

くすりと一つ笑い声を落とし、イムニティはその手を持ち上げてリコへと掌を向ける。
それが戦闘の意志ありと判断するには充分なぐらいの魔力を持ち、大河はトレイターを構える。

「私の力を確認するには丁度良いのも居るじゃない」

「させません」

大河がイムニティに何か返すよりも早く、リコはイムニティの頭上へと雷を落とす。
問答無用の先制攻撃に大河はあっけないとトレイターを下ろそうとするが、リコは注意を促して更に雷を落とす。
流石にやり過ぎじゃないのかと口を開きかけた大河であったが、雷によって巻き上がった粉塵の中から鈍い輝きが光り、
土煙を突き破って長大な刃が出現した事によって口を閉ざす。
正確に胸元目掛けて伸びてくる刃をトレイターで何とか打ち払うも、その勢いは相当に凄まじく伸びてくるのを止められない。
辛うじて進行方向をずらす事には成功しており、転がるように刃を躱すも右肩に掠る。

「冗談だろう。リコのあれだけの攻撃を受けて無傷かよ」

煙が晴れてそこから涼しい顔をしたイムニティが現れるのを見て、大河はリコの判断が正しかった事を知る。
同時に目の前の少女が自分を殺す気だという事も悟る。
リコに聞きたい事はあれど、まずは身の安全が優先とばかりに大河はイムニティへと接近するべく地面を蹴る。
それを見て止めようとしたリコだったが、今からでは無理だと判断して大河を援護するべく魔法を放つ。
イムニティが先程使ったのと同じような刃をイムニティの足元へと出現させる。
が、その刃はイムニティの物よりも細く、速さも全然違う。
イムニティは軽く身を捻ってその刃を躱すと、軽くその横腹に手を当てる。
それだけでリコの呼び出した刃は粉々に砕け散る。が、別にそれでも構わない。
今の時点でリコとイムニティに力の差があるのは充分も承知している。
要はイムニティの注意を自分と自分の魔法へと引き付けておければ良いのだ。
現にイムニティが刃を破壊するために持ち上げた右手とは逆側から大河が切り込む。
力任せに振り下ろされたトレイターの刃がイムニティの肩目掛けて振り落とされ、その寸前で魔法陣によって受け止められる。
イムニティの肩口に現れた魔法陣は大河の斬撃を軽く受け止めると、そこから二十センチばかりの火の玉を吐き出す。
またしても地面を転がり火の玉を躱す大河目掛け、連続して火の玉が襲い掛かる。
流石に立ち上がる余裕もなく、大河はそのまま地面を転がって躱すしかできない。
そんな大河を助けるべく、リコがイムニティへと雷を落とすも、こちらは腕一本で受け止められてしまう。
しかも、大河への攻撃は収まっておらず、火の玉は未だに吐き出されている。
リコはもう一度雷を落とすと、また手で受け止められる隙にイムニティへと近付いて蹴りを放つ。
鋭く空気を切り裂く音をさせて繰り出される蹴りをイムニティは左手で受け止め、軸足を狩るように払う。
手を着き、転倒するのを防ぎつつリコはそのままの姿勢で今一度蹴りを繰り出すも、読まれていたのか後ろに下がられてしまう。
逆に不安定な体勢なリコへとイムニティが雷を放つ。
その雷一本を取っても、いかにリコがここまでの戦闘で疲れている事を考慮したとしても明らかに力量が違っていた。
咄嗟に眼前に出した魔法陣が受け止めるも、完全に受け止め切れずに魔法陣はあっさりと砕け、雷がリコの胸を打つ。
そのまま地面を転がり、数メートル行った所でようやく止まる。

「ふふふ、今回の救世主候補は地面に転がるのが好きなのかしら?
 貴女までそれに付き合ってあげるなんて、本当に相変わらず付き合いが良いわねリコ・リス」

バカにするように、いや実際にバカにしながらリコを見下ろすイムニティであるが、その視界にはしっかりと大河も捉えており、
突然の奇襲にも備えている。それが分かっているからこそ、大河も迂闊に飛び掛れず、トレイターを手に構えるだけ。

「今回は少しあっけないけれど、貴女の力をここで奪わせてもらうわ」

言って両掌に今まで以上の魔力を集まり出し、大河とリコへと向けられる。
リコは未だにダメージが抜けないのか、体を起こす事もままならず、大河もここまでの疲れが一気に襲い掛かってきたのか
呼吸も荒くイムニティを睨むだけである。
このままではまずいと分かっているが、リコと距離があり過ぎて、リコの元へと行くのと同時に相手の魔法が完了する。
とは言え、ここでイムニティへと襲い掛かってもやはり魔法が完成しリコの安全が保証できない。
僅かな逡巡。だが、戦闘時には大きなソレにより、更に貴重な時間を使ってしまう。
そう分かると大河は力を振り絞りリコの元へと向かう。
それを止めようとするリコと、狙い通りと言わんばかりに笑みを深めるイムニティ。
二人に別々に向けていた掌を一つに重ね、より大きな力に纏め上げると呪文を唱え終える。

「これでさようならよ。今回は思ったよりも楽だったわ」

最後にそう告げると、ようやくリコの元に辿り着いた大河諸共消し飛ばさんと魔法が放たれる。





つづく







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