『ゼロの神殺しと救世主』


第1話



「とりあえず、使い魔の振りをするというので妥協した訳だが、問題としてこれから俺は何をしれば良いのだ?」

あの騒動から場所をルイズの部屋へと移し、開口一番に恭也がそう尋ねる。

「本当なら使い魔の契約をすれば主人の目や耳となって、
 使い魔の見聞きしたものを私も知ることができるんだけれど」

「実際に使い魔としての契約をしていない以上は無理と。他には?」

「魔法薬の材料となる薬草などを探したりだけれど、これも異世界から来たという事を考えれば……」

「無理だな。流石にこの世界にどんな薬草があるのかは分からない」

「だとすれば、後は主の身を守るかしら」

「ふむ、それぐらいなら何とかなるか」

「そうね、アンタの話が本当ならね。
 とりあえず、今日はもう疲れたから休む事にするわ」

言って服を脱ぎだすルイズ。
慌てて後ろを向く恭也と、何をするのかと慌てだすリリィたち。
対するルイズはきょとんとした顔で着替えるんだと告げる。
更には洗濯するように恭也に言いつけるのだが、これもまたリリィたちが反発する。

「そもそも他の使い魔は洗濯したりするの?」

リリィの言葉にルイズは言葉を詰まらせながらも何とか反論を試みる。

「そ、それはしないと思うけれど。でも、人間なんだからそれぐらい……」

「だとしても、恭也さんは使い魔にはなっていませんよね。
 あくまでも、ルイズさんの進級の為に好意で協力しようとしているだけで」

「そうでござるよ。なのに、ルイズ殿の振る舞いは主様の好意を利用するかのようでござるよ」

「全く、どういう性格をしているんだか。
 別に男の前で脱ぐのは好きにすれば良いが、恭也の前ではやめろ。
 それとも誘惑でもしているのか? そんな身体で」

「っ、だ、誰がよ! 第一、平民に見られて何が恥ずかしい――」

「うーん、その辺りの感覚が多分私たちとは違うんでしょうね。
 だから、今回の件はまあ良いとしましょうよ。それよりも、性格云々でロベリアがね〜」

「どういう意味だ、ルビナス?」

「別に深い意味はないわよ」

ルイズとロベリアの間で火花が散るかと思われたが、それはすぐにルビナスとの間に取って代わる。
逆に怒りをすかされる形となったルイズは口をパクパクさせる。

「主従の関係……これは参考になるかも。
 マスターと私も言わば主と使い魔の関係とも言えますし。
 つまり、使い魔が主と同じ寝床で寝ても不思議はないと」

「リコさん、聞こえているんだけれど。流石にそれはどうかと思うよ。
 ね、美由希ちゃんもそう思うよね」

「うん、未亜ちゃんの言うとおりだよ。それは違うんじゃないかな」

「ですが、今のルイズさんの発言から察するに……」

「それを言うのならば、拙者も主様の僕みたいなもの。
 つまり拙者にも主様と床を共にする権利が」

「アンタたち、好き勝手なことばっかり言ってるんじゃないわよ」

「もしかして、リリィも一緒に寝たいとか?
 因みにアタシは一緒が良いけれどね」

「だ、誰がこんな奴と! って、あなたべりオじゃないわね!」

「さあね? でも、こんな奴か。つまり、リリィは戦線離脱と。
 恭也と共にとなると、その席は左右の二つだからな。参加者が少ない方が良い」

「だ、誰もそんな事は言ってないでしょう!
 どんな戦いであれ、戦わずに逃げたとあっては救世主リリィ・シアフィールドの名前が廃るわ!
 い、いいい、言っておくけれど別にアンタと一緒に寝たいとかじゃないんだからね、恭也!」

顔を赤くして恭也に指を突きつけて宣言しているリリィをよそに、
ベリオ、もといパピヨンの言葉に間違いなく見えない火花が美由希たちの間で散る。
互いが互いを牽制するように見つめ合う中、それまで黙っていたクレアが恭也の腕を取る。

「恭也、話し合いは暫く掛かりそうじゃから、私たちは暫し散歩にでも行かぬか」

「そうだな」

クレアの言葉にこれ幸いと従い部屋を出ようとする恭也であったが、その前に素早く美由希たちが立ち塞がる。

「クレア様、流石にそれはずるいんじゃないですか?」

「リリィ殿の言うとおりでどざるよ。一人だけ抜け駆けとは卑怯でござる」

「別にそのようなつもりはなかったんじゃがな。
 とは言え、いつまでもこのような事で揉めているものでもないしの」

恭也を中心に置き、美由希たちは無言で互いを牽制するように見つめ合う中、
完全に置いていかれた形となったルイズは何とも言えない顔でこのやり取りを眺め、
何事もなかったかのようにベッドに潜り込む。
そんな中、このやり取りに唯一参加していなかったイムニティが呆れたような声で口を挟む。

「とりあえず、このままだとどうせ決着はつかないだから、今までどおりに恭也は一人で寝るで良いでしょう。
 そもそも問題が変わっている事に気付きなさいよね。で、そこで無関係を決め込んでいる女。
 元々は貴女の言動が原因だと分かっているのかしら?」

「女って、私にはちゃんとルイズ――」

「あー、はいはい。最初に名乗った長ったらしい名前ならちゃんと覚えているわよ。
 とりあえず、これからの事を簡単に決めましょう。恭也の使い魔としての役割は危険から貴女を守る。
 で、他の事、今みたいな着替えや洗濯などは今まで通りにしときなさい。
 じゃないと、この部屋所か学園全体が更地になるぐらいの戦いに発展しかねないわよ」

「わ、分かっているわよ。とりあえずは、それで良いわ。
 これで良いでしょう。そんな訳で私はもう寝るから!」

言って再びベッドに戻ろうとするルイズに、イムニティは呆れたように話は終わっていないと話しかける。

「私たちはどこで寝れば良いのかしら?」

「えっと……そこ?」

恭也が絡んだ所ばかりしか見ていないため、この中ではイムニティが一番まともに感じられたルイズは、
イムニティと話を進めていく。そして、遠慮がちに指差した寝床は床に藁を敷いただけのものであった。

「……中々面白い冗談だわ。
 冗談じゃないとしたら、一度きっちりと上下関係を思い知らせないといけないわね。
 恭也や他の頑丈な奴らならともかく、私のマスターにこのような所で寝ろと?
 冗談よね、ルイズ」

冷笑を浮かべて詰め寄るイムニティにルイズは知らず後退る。
イムニティの後ろではリリィたちがイムニティを睨んでおり、それらは自分に向けられている訳ではないのだが、
それらもまるで自分を責めているように感じられ、ルイズは混乱したように口をパクパクさせる。
そんな中、リコは一人イムニティを睨まず、それまでずっと立ち尽くしていた恭也の腕を引き、
寝床と言われた藁に座らせる。

「マスター、今日は色々とあって疲れました。
 考えるのは明日にして今日はもう休みましょう。
 このような所が寝床では身体を休める事は出来ないかもしれませんが、私は毛布代わりに」

言って恭也の胸に飛び込むように抱き付こうとして、

「リコ、中々抜け駆けが上手くなったわね」

寸前の所でルビナスに襟首を掴まれて後ろに引かれる。
小さな舌打ちを一つ鳴らし、リコが振り返ればイムニティを睨んでいたはずの面々が今度はリコを睨んでいた。

『リコ?』

全員が笑みを浮かべつつ実際に心の底からは笑っていないという態度でリコの名を呼ぶ後ろでは、
変わらずイムニティがルイズへと冷笑を向けている。
収束を見せるのかどうかさえ怪しい状況の中、
恭也は今日何度目になるのか分からない溜め息をそっと吐き出すのだった。



おしまい




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