『風と刃の聖痕』






 第10話





和麻たちが泊まっているホテルの一室。
既に綾乃や煉は眠りに着いており、恭也と和麻は恭也の部屋二人だけで話をしていた。

「で、和麻。おまえ、本当は今回の件、何か気付いているんだろう」

「なんで?」

「わざわざ俺を呼ぶ理由がそれ以外に思いつかない」

「あー、それもそうか」

いつものようにへらと一度だけ笑うと、和麻は綾乃たちの前では殆ど見せない真剣な顔付きになる。

「まだ確証がある訳じゃないんだが、今回の件で幾つかの可能性を思いついてな。
 一つは、闇の住人の存在だ」

「確かに、行方不明から数日後に発見。
 しかも、その間は操られているような行動。
 発見された者が数日のうちに腐敗。
 となれば、吸血鬼の存在も考えられるが…」

「そういうこと。そっちの奴らは、俺よりもお前の方が得意だろう」

「別段、得意と言う訳ではないがな。まあ、お前よりはましかもな」

「そういうこった。だが、吸血鬼の仕業は薄いとは思うがな」

「それは遺体の状態を見てか」

「ああ。で、もう一つの可能性を考えている訳だが、聞きたい?」

「出来れば聞きたくはないが、そういう訳にもいかんだろう。で?」

「魔道書の類。これが悪魔召還とかなら、ほっといても良いんだがな」

「まあ、高位悪魔が人間なんかにそう簡単に召還はされないだろうからな」

「そういうこった。だが、そういう系統のものじゃなく、しかも本物の魔道書だった場合…」

「ものにもよるが、かなり厄介だな」

「ああ。召還者自身の命や魂を代償とするのなら別に良いんだがな。
 だが、失踪者がいるって事は、そうじゃないって事だろうしな。
 実験じゃなく、贄として使っている可能性があるからな。
 はぁー。下手に地獄の門を開くようなもんだったら、それこそ洒落にならないぜ。
 出来れば、外れてて欲しいんだがな」

「お前の嫌な予感はよく当たる」

「はぁー、本当に。俺は楽な人生を歩みたいだけだというのに」

和麻の言葉に恭也は小さく笑うだけで何も言わない。
代わりに違う事を口にする。

「それはそうと、お前、綾乃さんの事、かなり気に入っているみたいだな」

「はっ。俺は子供には興味はないぞ」

「ふっ。まあ、そういう事にしておくか」

「しとくか、も何も事実だ」

「分かった、分かった」

軽くあしらわれる和麻という本当に珍しい光景を、しかし、見る者は誰もいない。
和麻はやや憮然としながらも、また表情を引き締める。

「魔導書の話に戻るが、今回の件に絡んでいるとしたら本物の可能性が高い。
 もしくは、それに準じるものかだ」

「その可能性を考えれば、その魔導書がせめてどの類のものか分かれば、多少はましなんだがな」

「ああ。でもまあ、あくまでも可能性の一つだしな」

軽く言う和麻をじっと見詰めた後、恭也はゆっくりと口を開く。

「他にも幾つかの可能性を考えているんだろう。
 で、その中には魔術結社の存在という可能性も入っているのか」

恭也の言葉に和麻は目を細める。

「ああ。入っている」

「あいつらの残党か」

「初めはその可能性も考えたがな。
 だが、違うな。今日、現場を見て確信した」

「そうか」

一言呟いた恭也に、和麻はいつものよりも少し柔らかい笑みを浮かべる。

「まあ、それよりも久しぶりの再会だからな。
 慌しかった事だし、少しゆっくり飲もうぜ」

言って立ち上がると、冷蔵庫を開けてさっき部屋に来るときにもって来ていたワインを取り出す。

「俺は下戸なんだがな」

「嘘吐け」

恭也の言葉を笑い飛ばすと、二つのグラスにワインを注いで一つを恭也に渡す。
恭也も肩を竦めるとグラスを受け取り、小さく打ち合わせる。
ようやくゆっくりと再会を喜び合うと、二人はもう少しだけ起きているのだった。







つづく







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