戯言/雑記




2009年11月〜12月

12月31日(木)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、大晦日だよ、とお送り中!>



って、何故に!?

美姫 「また来週って言ったじゃない」

いや、あれは本気だったのか!? いやいや、だからって31日にせんでも

美姫 「それに前々回で今年を振り返るのは後にしなさいって言って、そのまま何もしてなかったでしょう」

そう言えばそんな事もあったけれど。
って、だからってマジでするのかよ!?

美姫 「するも何も、既に始まってるじゃない」

のぉぉぉ!
今年、最後の最後でこんなサプライズ!?

美姫 「嬉しいでしょう。素直に喜んでいいのよ」

素直に嫌がっているだろう! ぶべらっ!

美姫 「よ・ろ・こ・べって言っているのよ?」

既に強制、脅迫!

美姫 「嬉しいでしょう?」

わ、わーい、うれしいなー。

美姫 「それにしても、今年もあっという間だったわね」

確かにな。色々とあったよ。

美姫 「アンタの入院とかね」

あれのお蔭で更新できない日々が続いたもんだ。
もう勘弁だな。

美姫 「他にも色々とあったけれど、振り返れば良い思い出よね」

…………あ、あれ、何故か目から水が止まらないや、あはははは。

美姫 「晴れの日も、雨の日も、曇りの日だって浩を労わり続けた日々」

晴れだろうが、雨だろうが、当然曇りだろうが、吹っ飛ばされ、殴られ、蹴られ、斬られ、焼かれた日々。

美姫 「うん、頑張ったわ、私」

よく耐えた、俺。

美姫 「微妙に失礼な振り返り方してない?」

気のせいだろう。と言うか、来年こそは、来年こそは俺に優しい日でありますように!

美姫 「それじゃあ、今まで通りって事ね」

どこがじゃ! ぶべらっ!

美姫 「さて、それじゃあ今年最後のCMいってみよ〜」







「…………はぁ、今度こそはと期待したんだがな」

「相手が悪魔王の妻を名乗っておったしのぉ」

「現にナクトさんたちの願いは叶えられたみたいでしたが……」

最早お馴染みとなった目の前の光景に、恭也たちは揃って慣れたような、疲れたような声を上げる。
願い事を一つ何でも叶えてくれると言うことで約束を交わし、ナクトと協力し、
その上で、ナクトたちとは別扱いで願いを叶えてくれるという約束も守られようとしていた。
が、目の前に広がる光景に願い事が叶わなかったのだと知る。

「もしかすると、あの悪魔王の妻からすれば願いを叶えた事になっているのかもしれませんね」

「どういう事だ、沙夜」

「私たちは単純に元の世界へ帰りたいとしか告げていません。
 悪魔王たちの住む世界から見れば、沙夜たちの言った元の世界と言うのは単純に人間世界の事を指すのかも」

沙夜の説明に納得はするものの、アルシェラは当然の疑問を口にする。

「だとしても、ここは何処じゃ」

「それに関しては、端的且つ、現状を表現するに相応しい言葉がございますが、本当にお聞きしたいですか?」

「ふん、ただの皮肉じゃ」

「そうでしょうね」

二人して恭也の腕に抱き付きながら、いつものようなやり取りをする二人。
そんな美女二人に挟まれ、恭也は小さく嘆息をしつつも現状を表すに相応しいと思う単語を口に上らせる。

「ここは戦場だな」

暗にさっさと逃げようと言う意味合いを含めつつ告げる恭也に対し、二人は両側から飛んでくる矢を叩き落し、
または素手で掴み取りながら、平然とした態度のまま恭也の言葉を肯定する。

「まったく、帰すなら帰すでもっと安全な場所へと帰さんか」

「尤も、沙夜の予想が正しいと言う実証も現状では出来ない今、
 更に違う世界へと飛ばされたという可能性も捨て切れませんが、アルシェラさんの仰る通りですわ」

「戦場のど真ん中、それも今にも両軍がぶつからんと睨み合っている、その最中に帰されてもな。
 寧ろ、俺たちの登場が両軍がぶつかる切欠となったような気もしなくもないが」

「まあ、どちらにせよ、さっさと逃げるのが得策なのじゃろうが……」

アルシェラは一旦言葉を切ると周囲を見渡し、何処へ逃げても兵が居るという現状に肩を竦める。
沙夜もまた、手を頬に当てて困りましたと零す。

「どちらからも敵として認識されているようですし……」

とは言え、状況が全く掴めていない状況で下手に交戦するのもまずい。
そんな理由で三人はその場に立ち尽くしていたのだが、いよいよ持って両軍がぶつからんと迫る。
ことここに至っては仕方ないかと恭也たちも戦う覚悟を決め、武器を手にしようとしたその時、

「両軍、そこまで!」

浪々と戦場に響き渡る声。
見れば鎧姿の一人の少女が腰に差した刀を抜き放ち、天高く掲げている。

「力なき民を戦に巻き込むなど、言語同断。
 上杉謙信、推参! 毘沙門天の加護ぞある!」

そう宣言すると謙信を名乗った少女は一人、二つの軍がぶつかるその真っ只中、つまりは恭也たちの元へと走り出す。
恭也たちを力なき民と思い込み、助けんと駆ける謙信。その勇ましい姿を目にしながら、

「……力なき民」

恭也は思わず両隣の二人を見るが何も言わず、寧ろ謙信の方が危険だと止まるように言いながら走り出す。
腕を振り解かれた事に不満を抱きつつも、その後をアルシェラと沙夜の二人も追う。
が、少女の足は速く、恭也が止める声が聞こえるよりも先に戦場へと到着してしまう。
が、恭也たちの不安が実現する事はなかった。
寧ろ、今にもぶつかり合おうとしていた両軍が何故か揃って転進して行く。

「一体何が?」

その光景に思わず足を止めた恭也たちの耳には、あの少女を恐れる声が届く。
半信半疑で見遣る中、謙信は逃げ遅れて諦めたのか、
やけくそ気味に謙信へと切りかかる兵士たちが纏めて吹き飛ぶ光景を目にする。
相手が自分の間合いに謙信を捉え、己の得物を振るおうとした瞬間には謙信は踏み込み、
自分の間合いへとし、得物を振るう。振るわれた刀は正に目にも止まらぬ速さで敵の得物を払い、
時には兵士ごと吹き飛ばしている。
その攻撃に切れ目はなく、続け様に振るわれる刀の前に次々と兵士たちは倒れ伏す。

「すさまじいな」

「ああ、武器を己の手足の如く扱っておる」

「敵ではない事を感謝するべきでしょうね」

恭也たちとの間にいる兵士たちを倒しながら近付いてくる謙信を前に、三人はそんな事を言っていた。
とりあえずの危機的状況は脱せるであろうという事と、謙信から話を聞けるという二つの事態に、
恭也たちも幾分、安堵した様子であった。が、その後謙信から聞かされる事となる、
やはり自分たちの世界ではなく、またも違う世界という事実に肩を落とす事になるのだが。
更に言うなら、今は戦国時代、まさに群雄割拠という状況だと知らされる事となり、
そのまま上杉家の客将として扱われる事になるのであった。


恭也と剣の放浪記 〜戦国時代へようこそ〜







美姫 「とうとう、今年いっぱいこのネタで続けたわね」

ふっふっふ。まあな。ぶべらっ!
な、何故?

美姫 「なんとなく」

って、本当に何故、だよ!

美姫 「まあまあ、今年最後なんだから笑って許しなさいよ」

いや、お前の場合、既に年末とか関係なく年中――ぶべらっ!

美姫 「ほらほら、笑顔♪」

この状況で笑えるって、俺はどれだけMなんだよ!?
怒るに決まってるわっ! ぶべらっ!

美姫 「怒鳴るから怖くてつい手が出たじゃない。でもちょっと触ったぐらいで大げさね」

恐怖にかられた女の子が、人を殴るのにグーできますか。
しかも、結構腰入ってたよな?

美姫 「それは日頃の鍛錬の賜物よ」

うぅぅ、今年最後の最後までこんな扱い……。

美姫 「そうだわ。除夜の鐘に因んで、アンタを108回殴るっていう――」

却下に決まってるわ!
何、良いイベント思いついちゃった、みたいなノリで言ってるんだよ!

美姫 「わがままね」

わがままじゃないですよね!?

美姫 「仕方ないわね。じゃあ、除夜の鐘に合わせて殴ってあげるわよ」

よし、OK。まずは殴るという前提から考えてみようか。

美姫 「そこは必須よね」

不要なんだよ! そこが一番不要!

美姫 「じゃあ、蹴る?」

そうじゃないでしょう!

美姫 「斬る? いやー、流石に年末から年始に掛けての流血沙汰はね〜」

いやいや、エスカレートさせるなよ!

美姫 「じゃあ、どうしろって言うのよ!」

普通で良いんだよ! 普通で!

美姫 「じゃあ、殴るという選択肢しかないじゃない」

何、そのあっていたじゃないって顔は!?
違うだろうが! お前の中では俺を殴るのが普通なのか!?

美姫 「うん」

やっぱりかよ! 頷くと思ったよ! 何でそんな良い笑顔なんだよ!?

美姫 「はいはい、落ち着きなさいよ。もう、今年も終わりだというのに落ち着きがないんだから」

えっ!? まるで俺一人が悪いみたいな空気!?
いやいや、可笑しいだろう!

美姫 「はいはい、ごちゃごちゃ言わないの」

うぅぅ、本当に、本当に、来年こそは優しい年でありますように!!

美姫 「よしよし、何か知らないけれど、元気出しなさいよ」

誰の所為だと……。

美姫 「さて、それじゃあ、時間も良い頃合ね」

そうだな。

美姫 「それじゃあ、今年最後の締めね」

よし、行くぞ!
今年はこの辺で。

美姫 「また来年〜」


12月25日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、メリークリスマス、とお届け中!>



いひゃっほー、メリークリスマス! ぶべらっ!

美姫 「はしゃぎすぎよ!」

ぐぬぬぬ、だが、今回はばかりはそれさえも痛みを感じない!
ビバッ! メイド〜サンタver.〜!!
たまらなく幸福に包まれている! ぶべらっ! だが、何の!

美姫 「ちっ、やっぱり了承するんじゃなかったわ」

はっはっは。ちゃんと交換条件通りに俺はトナカイの格好になっているじゃないか。
という訳で、もっとじっくりと見せてもらおうか。

美姫 「ちょっとは落ち着け!」

ぶべらぼげぇっ! だが、まだまだ!

美姫 「了承した事を激しく後悔しているわ」

じー。ぶべらっ! まだ終わらんよ。

美姫 「って、いい加減にしなさい!」

ぶべらっ!
……おお、思わず我を忘れてしまいました。

美姫 「ようやく落ち着いたみたいね」

はっはっは。さて、今年もあと僅か。

美姫 「本当に早いものよね」

むむ、このハートフルデイズも今年最後だな。

美姫 「それじゃあ、今週も元気にCMいってみましょうか!」







呆然という程もなく、既に何処か慣れたような達観したような様子で周囲を見渡す恭也。
そして、その恭也を間に挟んで立つ二人の女性、言わずもがな、アルシェラと沙夜である。
三人はどこはまたかという面持ちで周囲を見渡し、ずらりと続く壁を前にして、

「どこかの家の中、か?」

「にしては薄暗く、窓も何もないのぉ」

「気のせいか、空気が淀んでいるような気んもしますね」

口元を覆いつつ述べる沙夜に対し、恭也はこれまでの事を思い出すように確認する。

「確か、桜内もどうにか助かる目処が立ち、その上でさくらさんと朝倉姉の協力で桜最後の力を使って、だったな」

「最早、言うまでもないだろうが、またしても違う世界という事か?」

「今度ははっきりと元の世界をイメージしたのに上手くいきませんでしたね」

三人が考え込む足元から、遠慮がちな声が聞こえてくる。

「あ、あのー」

「ん? ああ、すまないな。勝手に話し込んでしまって。
 迷惑ついでと言っては何だが、ここが何処なのか教えてもらえないか?」

「それは構わないけれど、もしかして、ちゃんとここが違う世界だというのは認識してます?」

「まあな。可笑しな話だが、こういう事態にもいい加減になれたからな。
 今度こそは元の世界に戻れるかと思ったんだが……」

「さくらも完全な保証はできないと言っておったから仕方あるまい。
 とは言え、少々今回は気に掛かる事がなくもなかったが」

「アルシェラさんもですか」

二人の言葉に恭也がどういう事かと尋ねれば、確かに異世界へと通じる扉のような物が開いたような感覚を感じた後、
横から更に強い力が現れたような感じを受けたと答える。
それを聞き、今まで三人の話を聞いていた一人の少年が頭を抱え、終いには頭を地面に擦り付ける。

「すみません、多分、俺の所為です。召喚門を開いたから、きっとその所為で……」

「いや、よくは分からないがとりあえずは頭を上げてくれ。
 そして、それも含めて説明してくれると助かる」

恭也の言葉に少年は顔を上げると、ナクトと名乗り説明を始める。
まず、この場所は闘神都市と呼ばれる街から行ける迷宮の一つで、
この世界には召喚門と呼ばれる異世界から戦士を呼び出して力比べをする事が出来る門があるとの事。
つまり、ナクトは自分の今の実力を計るためにその召喚門の一つを開いてしまったらしい。
普通なら、呼ばれた戦士は闘った後、勝敗に関わらずに元の世界に戻るという事であった。
が、不幸な事に爆発事故が起こり、召喚門が壊れてしまったと告げる。

「本当にすみません。前にも召喚門が壊した事があったのに、また同じ事を繰り返すなんて……」

申し訳なさそうに項垂れるナクトを励まし、恭也たちはとりあえず独自戻る方法を探ろうと決める。
本来なら召喚門を調べるのが早いのだが、数がそんなにある物でもない上に、
迷宮には大会参加者しか潜れないらしい。
そんな訳で、恭也たちはとりあえずの拠点や諸々の事を話し合うため、迷宮から街へと戻ろうと相談する。
幸いな事にナクトも負い目からか出来る限りの協力を申し出てくれており、
その点は三人にとってもありがたい事であった。
こうして、恭也たちはまたしても異世界へと投げ出されてしまうのだった。
いつか、恭也たちが元の世界に戻れる日が来るのだろうか……。

恭也と剣の放浪記 〜異邦人と闘神〜







さて、毎年の恒例となりますが……。

美姫 「今回はちょっと長いわね」

まあな。という訳で、また更新をお休みさせて頂きます。

美姫 「今年は来週28日〜来年の6日までだっけ?」

こうして見ると長いな、本当に。
まあ、多少前後したりするかもしれませんが。

美姫 「例によって、投稿は送って下さって構いませんので」

アップは休み明けに順次していきます。ご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。
さて、それじゃあ、今週はここまでかな。

美姫 「ちょっと早いけれど、そうね」

それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「それじゃ……って、という事は、これが今年最後なの!?」

ぶべらっ!
いや、人に尋ねながら殴るなよ。
勿論、そうに決まっている――ぶべらっ!

美姫 「それじゃあ、また来週〜」

って、勝手に決めるな!


12月18日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、今年もあと二週間を切りました、とお送り中!>



いや、本当に早いものだな。

美姫 「ちょっと前から言っているけれど、本当に今年もあと少しよね」

ああ。振り返ってみると……ぶべらっ!

美姫 「それはもう少し先にとっておきなさい」

く、口で言ってください。
さて、気を取り直して今週もいってみようか。

美姫 「まずは最初のお葉書から」

って、本当に来てるの!?

美姫 「ええ。お名前、美姫さま素敵さんから」

おいおい。

美姫 「いや、流石に私も自分で言うのは躊躇われたんだけれど、本当にそう名乗っているのよ」

……本当だ。何故にお前の方が人気があるのだろうか?

美姫 「それは当然でしょう」

ですよね……。と、それは良いけれど、どんな内容なんだ?

美姫 「うん、簡単に言うとリクエストね」

リクエスト?

美姫 「そうよ。もっとアンタを吹っ飛ばして欲しいっていう」

ちょっ、見せろ。……って、そんな事書いてないよね!

美姫 「でも、そう解釈できるんだけれど」

ここに書いているのは、『これからも美姫さんの活躍を期待しています』だろうが!

美姫 「じゃあ、他にどんな解釈する?」

それは……………………あ、あれ? 俺が吹っ飛んでいる光景しか浮かばない?

美姫 「因みに、同じようなお手紙を複数頂きました」

流石にそれは嘘……じゃない!?
えっと、お名前は、De〜さん、Lu〜さん、Th〜さん(最初の文字のみ表記)

美姫 「キ〜さん、御〜さんね」

って、多いっ!? 六人かよ!

美姫 「まあ、ここ半年ぐらいでこんな感じよね」

一月に大体、一人という訳か。

美姫 「他には感想をくださる方や投稿作家さんの中にも私の魅力について語ってくださる方もいるわよ」

嘘だ!
って、これが嘘じゃないんだよな……。

美姫 「という訳で、今日は特別拡大版として、頑張って吹っ飛ばすわよ!」

って、やめい、やめい!
ぶべらっ! ぶべっ、ぐべっ、ぐげごっ! あぶべっ! みょごっ! みょわっ!
ちょっ、おまっ、す、少しは、ぶびょっ! や、やす、ぐげらぼげぇ! や、やめ、がっ、げっ、ごっ!
ぶりゅわぁっ! ぶじょっ!

美姫 「さて、いつもより長く宙を舞っている間に、今週もCMいってみよ〜」







男――恭也は閉じていた目を開けて周囲へと視線を向ける。
その両隣で恭也を護るかのように周囲を警戒していたアルシェラと沙夜もまた閉じていた瞳を開け、
同様に周囲へと視線を向ける。
三人の背後に聳える大きな木からは、綺麗な花びらがひらひらと舞い落ちる。
それを掌で受け止め、恭也は誰にともなく呟く。

「もしかして、失敗か」

「いや、だとしても可笑しな話ではないか」

「そうですね。失敗なのだとしても、もうこの桜の木は枯れていないと可笑しいですし、何より……」

「枯れていない以上は、純一とさくらさんの姿があるはず」

沙夜の後に続けて言う恭也にアルシェラも頷いてみせる。
とは言え、周囲を見渡してもここは風見学園に近い桜公園。
その中でも奥まった地にある他よりも一際大きな枯れない桜のある場所には間違いない。
つい数分前、恭也たちは容態の悪化した音夢の為に桜を枯らそうとするさくらたちと一緒に居たのだから。
そして、枯れる寸前に桜の最後の力を使って元の世界へと戻るはずだったのだ。
だが、現状として同じ場所に三人は立っていた。

「やっぱり、枯れる寸前だったので願いを完全に叶える事が出来なかったのかもしれませんね」

「だとしても、ここは初音島にあったあの枯れない桜の木だとは思うのじゃが……」

「とりあえず、俺たちの記憶に間違いがないか歩いてみよう」

恭也の言葉に頷き、アルシェラと沙夜はそも当然とばかりに恭也の腕を掴んで歩き出す。
どうやら、時間も違っているようで、三人は揃って空を見上げる。
先ほどまで夜中と言っても良いぐらい、闇の帳が下りていた空は、今は目を細めるぐらいに眩しく、
何処までも青を広げていた。
目を細め、空を眺めていた恭也の耳に登校中だろうと思われる少女の声が聞こえてくる。
制服を見れば、風見学園の生徒らしいと分かり、やはりここが初音島なのかと三人は再び顔を見合わせる。
そんな三人の耳に聞くと話しに少女たちの話し声が聞こえてくる。

「もう弟くん、聞いているの?」

「ちゃんと聞いているよ、音姉」

「兄さん、目が泳いでいますよ」

「由夢!?」

「ふっふっふ、弟く〜ん?」

一人の少年に少女二人が何処か楽しげに話し掛けている。
そんな光景を眺めながら、三人はこれからどうしようかと考え、ここが初音島なら頼れる者が居る事に思い付く。

「状況が全く分からない上にまた迷惑を掛ける事になるかもしれないが……」

「純一たちを頼るのが確実じゃろうな」

「だとしますれば、どうなさいます? 恐らくは朝倉さんたちは学校でしょう。
 終わるまで待ちますか?」

「暫くはここで待つという手もあるな。純一なら遅刻ぎりぎりという事もあるからな」

「それで駄目なら、放課後にまた学園に行けば良いか。
 そうと決まれば、ほれ、あそこのベンチに座るぞ」

恭也の腕を引き、アルシェラは正面に見えたベンチへと歩き出す。
引っ張られる形で恭也も後に続き、更には恭也の反対側の腕を掴んでいる沙夜もそれに続く。
少数とは言え登校する生徒たちの中、少々周囲から浮くような光景を演じながら、恭也は暫しその場に留まる。
結果として、純一らしき生徒の姿を見つける事は出来なかったのだが、放課後に懐かしい再会を果たす事となる。
尤も恭也たちにとっては数時間前の出来事故に、懐かしいのもっぱら向こうであっただろうが。
こうして、今度は世界ではなく時間だけを越えてしまった恭也たちの帰郷を目指す旅はまだ続く事となる。
しかも、今度は再会した人物によって学生生活まで送らされる事になろうとは、この時は思いもしなかったのだった。

恭也と剣の放浪記 〜桜咲く島U〜







ぶべっ、あべっ、がべっ、はべっ!

美姫 「今週はこのままお別れしましょう」

ちょっ、がっ、お、おまっ、ぶべっ! そ、それは、ぐぎょぼげぇ! ま、まて、がびょみょにょぶっ!

美姫 「それじゃあ、今週はこの辺で」

にょっ! そ、それ、ばぁっ! お、おれ、のぎょぉ、せ、せりぶぅぅっ!

美姫 「ほらほらほら♪」

ひ、ひどい! ぶべべべべべっ!

美姫 「これで最後、吹っ飛べ!」

ぶべらっ! 何故か地球が赤く見えるぅぅぅっ!

美姫 「それじゃあ、また来週〜」


12月11日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、流石にここの一言も尽きてくるってもんよ、とお送り中!>



どうも……。

美姫 「入り方が前回と全く同じなんだけれど」

いや、今回は体調云々ではなく、ちょっとした恐怖体験を。

美姫 「いや、それは夏にやってよ」

そう、あれは草木も眠る丑三つ時。

美姫 「って、人の話を聞け!」

ぶべらっ!

美姫 「で、何があったのよ」

って、結局、喋らすのかよ!

美姫 「良いから何があったのよ」

ならば語ろうではないか、あの恐怖の話を!

美姫 「はいはい」

眠っていたのに、ふと物音に気付いて目が覚めたんだ。

美姫 「家鳴りとかじゃないの」

いや、もっと乾いたカンカンという音だった。
だが、まだ眠気の方が勝っていたんだろうな。再び目を閉じたんだが、またしても聞こえてくるカンカンという音。
流石にこれには俺も眠いのを我慢して目を開けたさ。
しかし、その瞬間に音は聞こえなくなり、更に部屋には何も変わった所はない。

美姫 「気のせいだったとか?」

俺もそう思って再び布団に潜り込んだんだが、それからすぐにまた同じ音が聞こえてきたんだ。
流石に可笑しいと思って目は閉じたまま耳を澄ませば、どうも上、つまりは天井から聞こえてきているっぽい。

美姫 「それからどうしたのよ」

勿論、目を開けて天井を見たさ。
だが、そこのにはいつもと変わらない天井だけ。
やっぱり気のせいかと思いながらも、はっきりと聞こえたから気のせいとも思えない。
で、暫く天井を眺めていると、またカンカンと音が!

美姫 「やっぱり見ちゃったとか?」

なぜ、そこでワクワクするのかは分からないが、何も見えなかったよ。

美姫 「ちっ。本当に見た者が呪われるか確認したかったのに」

物騒な事を言うなよ! しかも、俺を実験動物みたいに扱うな!
……と、話を逸らすなよ。

美姫 「別にそんなつもりはなかったんだけれどね。まあ、良いわ。で、何もなかったのよね、それで?」

ああ、可笑しいなと思いつつまだ眠たさと闘っていると、またしても音が聞こえてきたんだ。
本当に何なのか、と思ってよくよく聞いてみると、その音はどうも外から聞こえてくる。
一体何だと眠い身体に鞭打ち窓を開けた瞬間!

美姫 「今度こそ見たの?」

ああ、見た。

美姫 「本当に!?」

黒い姿をした奴が、翼を広げて飛んでいくのをな!

美姫 「もしかしなくても、それって烏じゃ……」

そう、烏だよ。人の家の屋根の上で走り回っていたんだよ!
何だよ、それは! 人の睡眠を邪魔しやがってふざけるな! そう叫びたかったさ! ぶべらっ!

美姫 「こっちがふざけるな、だわ!」

な、何故……。

美姫 「全然、怖くなかったわよ! しかも、アンタ自身も怖がってないし、何処が面白いのよ!」

いや、面白い話じゃなくて怖い話です。
と言うか、俺が恐怖に戦くのを楽しむなよ!

美姫 「どっちでも一緒でしょう! 怖くないじゃないの! アンタが恐怖するのを楽しまないで何を楽しめと?」

そこ、真顔で聞き返す事じゃないから!
と、ちょっと熱くなってしまったが、怖いのはここからだよ。

美姫 「もう期待していないけれど、一応惰性で聞いてあげるわ、何?」

色々と引っ掛かる言い方だが、まあ良い。
とりあえず、それらの出来事ですっかり目が覚めた俺がふと何気なく時計に目をやると……。

美姫 「止まっていたとか?」

その通りだ。まあ、電池切れだったんだけれど――ぶべらっ!

美姫 「いっぺん、殴るわよ?」

す、既に殴ってます。と言うか、最後まで聞けよ!

美姫 「はいはい、で何ですか〜」

既に聞く気もないですよね。まあ、それでも続けるが。
でが、とりあえずもう一つある時計を見たんだ。そしたら……。

美姫 「そっちも止まってたの?」

いや、こっちはちゃんと動いていた。
そして、その時間が既にお昼近い時間だったんだ! ぶべらっぼげぇ!

美姫 「さて、とりあえず後で殴るとして……」

だ、だから、既に殴ってます……。

美姫 「何が怖い話なのかしら?」

だ、だから、昼近くまで爆睡してしまったという。

美姫 「平日だったとか?」

いや、日曜日だった。ぶべらっ!

美姫 「もう一度聞くわよ? 何が怖かったの?」

だ、だから、十二時間以上も寝てしまったという。休日の半日を無駄にしてしまったという恐怖――ぶべらっ!

美姫 「因みに、私は今、時間を無駄にしたと痛感しているわ」

う、うぅぅ、今のこの状況が一番怖いです……。

美姫 「とりあえず、宣言通りに殴るわ」

って、さっきも殴られましたよ!? ぶべらっ! がばっ! ごはぁ! ぐげぇ! ぎょみょっ!
や、やめっ……っ1 ゆ、ゆる……ぎゅぎょっ! にゅぎょわおぅぇっ!

美姫 「綺麗な弧を描いて飛べ!」

ぶべらぁぁぁぁぁっ!

美姫 「ったく、本当に無駄な時間を……。さて、それじゃあCMで〜す」







ひらひらと桜の花びらが舞う。
周囲を桜に囲まれ、散り行く桜の花びらに囲まれたその光景は、幻想的とも言えるほどに美しく、
視界を桜色に染め上げる。
覗く青空から降り落ちる光に照らされて舞う様は、言葉を失うには充分な程に怪しげな美しさを醸し出す。
そんな幻想的な風景の中に立ち尽くす三人は、互いに言葉もなくその光景に魅入っている。
そう見えて、実はかなり疲れた表情をしていた。
男一人、女二人の内、男が口を開く。

「さて、俺としては楽観的に物事を捉えたいと思うんだが?」

そう呟いた恭也に対し、女性の一人が腕を組んだまま返す。

「悲観になり過ぎるのも良くないし、かといって楽観のし過ぎも良くはないがな。
 まあ、何事も冷静に見るのが一番じゃが、お主の気持ちも分からなくはない」

視線だけで残る一人へと問いかけると、最後の一人も口を開く。

「正直、これだけでは判断のしようがないというのが正直な所ですが……。
 感じている事を口にしても宜しいですか、恭也様」

女性――沙夜の問いかけに恭也は頷きをもって返し、それを受けて沙夜は言葉を紡ぐ。

「見た感じであれば、沙夜たちの元々居た世界なのではと思いますが、
 桜が他の世界にあっても可笑しくはありません。更に言えば、この気温が問題です」

「確かにのぉ。ちと肌寒いな。まるで冬のようじゃ」

「しかし、桜が咲いている、か。確かに沙夜やアルシェラの言うように可笑しな状態ではあるな」

「やれやれ。もしかしたら、アヴァターに戻される方が良かったかもしれぬな」

「アルシェラさん、それは仰っても仕方のない事ですわ。
 そもそもルイズさんの虚無魔法とて、異世界間を繋ぐのは至難の業とのこと」

「伝説の虚無とは言え、流石に異世界間をそう簡単に繋ぐ事は出来なかったという事か」

「恭也、正確に言うのなら異世界間を繋ぐ事はできておるぞ」

恭也の言葉にアルシェラがそう言えば、沙夜も同意とばかりに頷いている。
それはその通りで、問題はその繋がった異世界が自分たちの世界ではないかもしれないという事なのだから。

「まあ、まだ違う世界だと決まった訳でもないし、とりあえずは情報を集めるのが先決だな」

「その通りじゃ。なに、安心せぇ。もしお主に危険が迫るようなら、余と……」

「沙夜とでお守りいたしますから」

歩き出した恭也の隣に寄り添い、二人はさりげなく恭也の腕に腕を絡めてくる。
流石に長い時間、共に居てその度にやられていれば、恭也も慣れはしなくとも何も言わないし、
アルシェラと沙夜も流石にこの程度の事では互いに張り合う事もなくなっていた。
連れ立って三人が桜並木を抜けると、そこは公園となっていた。
見れば、ちらほらと制服姿の少年少女たちが見受けられる。
とは言え、それだけで元の世界に戻れたかもしれないなどと考える事もなく、
三人は注意を払いながら公園の中を歩く。その途中でゴミ箱に捨てられていた新聞を見つけ、その日付を確認する。

「……さて、どうやら今は二月のそれも終わりの方みたいだが」

「なるほどのぉ。ならば、この気温も納得じゃ」

「尤も、桜が満開なのが問題ですけれど」

立ち止まって今得た情報を口にする恭也に続き、他の二人もそれぞれ思うことを口にする。
最早、嫌な予感を抱きつつ、このままでは埒が明かないと恭也たちは顔を見合わせると、
丁度、公園の中をやや足早に走る一組の男女に目を留め、近付いていく。

「すみません、少しお聞きしたい事があるのですが」

何やら言い合っていたようにも見えた少年と少女は、恭也が声を掛けると一瞬顔を見合わせ、
次いで少女の方が先ほどとは打って変わった笑顔と、少々高い声で振り返る。

「何でしょうか?」

その事については触れず、恭也たちはここの場所と今の日にちを尋ねる。
少年と少女は不思議そうな顔をしつつも恭也たちの問いに答えてくれたのだが、不意に少年が時計を見て、

「音夢、時間がやばいぞ!」

「もう、だからあれほど早く起きてくださいって言ったのに。兄さんが……」

「いや、あの速度ならぎりぎり間に合ったはずなんだ」

二人の会話から遅刻しそうなのだと理解し、恭也は頭を下げて謝罪をする。
それには逆に二人の方が困ったような顔をしてしまい、
謝る恭也とそれを何とかやめさせようとする兄妹という図式が出来上がってしまう。
益々時間を浪費する事になるのだが、それに気付かずに更に続けそうになった所で沙夜がやんわりと止めに入る。

「恭也様、そろそろその辺りで宜しいかと。これ以上の謝罪は逆に気を使わせてしまいます故に」

「そうだな。助かった沙夜。と、それよりも二人の方は時間は大丈夫なのでしょうか」

「あっ……」

恭也の問いかけに少年は時間を確認し、絶望だという顔を見せ、少女の方は風紀委員なのにと肩を落とす。
流石に申し訳ない気がして、恭也はアルシェラへと視線を向ける。

「仕方ないのぅ。そこな娘」

「は、はい、私でしょうか?」

「そうじゃ。時間がない故、少し大人しくしておれ」

言うや肩に音夢と呼ばれていた少女を担ぐ。
流石に小さく暴れ音夢であったが、如何せん相手が悪い。
アルシェラはその程度の抵抗などまるでないとばかりに音夢を担ぎ上げる。
流石に何をするのかと文句を言いそうになった少年を、素早く恭也がこちらも肩に担ぐと、

「少しの間、口を閉ざしていてください」

言うや走り出す。
その隣にはアルシェラが同じく音夢を担いだまま併走しており、
その後ろからは二人が落とした鞄を持った沙夜が続く。
文句を言おうとした少年はしかし、舌を噛みそうになり押し黙り、
音夢の方はまだ事態を飲み込めていないのか、目をぱちくりさせている。
その間にも恭也たちは走る速度を上げて行き、

「所で、道はあっていますか?」

恭也の問いかけに少年は頷くと、自分で走るよりも早い事に感心しつつ、行く先を手で指し示す。
あっさりとこの事態を受け入れる兄にそこはかとなく呆れたような視線を向けつつも、
音夢の方も大分落ち着きを取り戻していた。
程なくして、学校らしき建物が見えてくると、恭也たちは速度を落として確認するように少年を見る。

「ああ、そこであってます」

少年の言葉に恭也たちは足を止めると、少年と音夢を肩から下ろす。
二人に鞄を返しながら、沙夜は息も乱さずに尋ねる。

「お時間の方はどうでしょうか?」

「あ、はい、大丈夫です」

自分の時計を見て、まだ余裕がある事に気付いて少し驚いた顔をする少年にそれは良かったと三人は笑う。
今更ながらに音夢はお礼を口にし、少年も慌てて頭を下げる。

「いや、元はと言えばこちらが招いた事ですから、気にしないでください」

「あ、どうも。と、今更ですけれど、俺は朝倉純一と言います。で、こっちが……」

「妹の朝倉音夢です。本当にありがとうございます。皆さんは観光か何かで?」

流石に担がれて運ばれると言う状況を思い出して少し恥ずかしそうにしながらも、二人揃って礼を言い、
音夢は恥ずかしさを誤魔化すかのようにそう尋ねる。
それに対し、アルシェラは小さく笑うと、

「それよりも、はよう行った方が良いのではないか。
 折角、ここまで間に合ったと言うのに、最後の最後で間に合わなかったでは笑い話にもならん」

「アルシェラさんの言うとおりですわ。沙夜たちはこれで失礼させて頂きますので」

二人の言葉に純一たちはもう一度だけ礼を口にする。

「礼を言うのはこちらなんだが、一応、素直に受け取っておこう。ではな」

「さらばじゃ。とは言え、暫くはこの町に居るやもしれぬから、また会う事もあるかもしれんがな」

「その時はまたよしなに」

三人は次々にそう口にすると、純一と音夢を送り出す。
二人は軽くもう一度だけ頭を下げると、学校の中へと入っていくのだった。
それを見送った後、三人はゆっくりと歩き出し、

「さて、どうやらまたしても異世界のようだな」

「そのようじゃな。初音島など聞いた事はないからの」

「一年中枯れない桜で有名と言うのならば、流石に沙夜たちも聞いた事があると思いますし」

「とりあえずは本屋か図書館を探そう。そこで地図を見れば、更にはっきりとするだろうからな」

「まあ、お主が願っているように、単に余たちが知らなかっただけ、という可能性は極めて低かろうがな」

「どちらにせよ、戻る方法も探らねばなりませんし、それで宜しいかと沙夜は思います」

こうして、三人は予め教えて貰っていた商店街を目指して歩き出すのだった。

恭也と剣の放浪記 〜桜咲く島〜







という訳で、今回のCMは更に放浪する恭也たち。

美姫 「既にこのネタで幾つか作ってるみたいね、アンタ」

あ、あははは。当分はこのネタで行こうかなとか思ってるんですけれど。

美姫 「まあ、それは兎も角として、もう時間ないみたいよ」

なにぃ!?

美姫 「誰かさんの無駄話の所為でね」

俺の所為かよ!?

美姫 「ほら、さっさと締めなさい! 時間がないと言っているでしょう! これ以上、アンタの無駄話は……」

それじゃあ、今週――ぶべらっ!

美姫 「私の台詞を遮るな!」

り、理不尽だ……。

美姫 「さっさと締めなさいよね!」

ぶべらっ! 益々もって理不尽……。

美姫 「ほら、いい加減にしなさいよ」

わ、分かったよ!
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


12月4日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、十二月だし気兼ねなく冬だと宣言、とお届け中!>



どうも……。

美姫 「って、テンションが低いわね」

うぅぅ、体が、体が……。

美姫 「頭じゃないの?」

違うわい! って、ああ、くらくらする。

美姫 「で、仮病の理由は?」

うん、実は……。って、誰が仮病だ、誰が。

美姫 「じゃあ、本当に風邪でもひいたの?」

……あ、あははは〜。

美姫 「どうして、そこで目を逸らすのかしら?」

いや、別に……って、俺、別に風邪だとか、体調不良なんて言ってませんよね!?

美姫 「そうだったかしら?」

そうだよ!

美姫 「じゃあ、何を言うつもりだったのよ」

だから、体が……何だったっけ?

美姫 「やっぱり一度頭を見てもらった方が」

そんな必要ないよ!

美姫 「そうよね。バカは治らないもんね」

って、はっきりと言った!?

美姫 「だって、今のやり取りを思い返してみても、そうじゃない」

うぅぅ、否定できないよ。って、思い出した!

美姫 「急すぎるけれど、一体何よ」

体が固くなっていたんだよ。

美姫 「それだけ?」

それだけって何だよ! 結構、重大な事だぞ。
ちょっと前なら前屈でマイナス十数センチだったのに、マイナス数センチ……。
両腕を一つは首の前から回して、もう一つを下から伸ばして背中で組むなんてのも楽々手首を掴めたのに……。
今では握手するように両掌を握るのがやっと……。何故、こうも固くなってしまったんだろうか。

美姫 「そりゃあ、運動してないんだからしょうがないじゃない」

……はぁぁ、どうしてなんだろう。

美姫 「いや、聞きなさいよ!」

ぶべらっ!

美姫 「と言うか、その程度でここまでテンション下げるな!」

ぶべらっ!

美姫 「もう一つおまけに喰らいなさい!」

ぶべらっ!
……も、もしかして、殴られ続けた所為で筋肉が固くなったのか!?

美姫 「人の所為にしないでよね!」

ぶべらっ!

美姫 「全くこのバカ!」

ぶべらっ! ご、ごめ……。

美姫 「まだまだ!」

ぶべらっ、ぶべらっ、ぶべらぼげぇ!
う、うぅぅ、こ、ここまでせんでも……バタリ。

美姫 「さて、それじゃあ恒例のCM、いってみよ〜」







「「…………」」

見晴らしのとても良い草原とも表現すべき場所。
そんな場所に立つは見目麗しき二人の女性。
膝裏まで伸びた艶やかな髪を風に靡かせ、女性はゆっくりと周囲を見渡す。
もう一人の女性もまた、肩口で揃えられ、一房だけが背中まで伸びた髪を手で押さえて周囲を見渡す。
その後、二人揃って間に立つ一人の青年へと視線を向ける。
その視線を受けた青年はやや憮然とした表情を見せ、

「まさかとは思うが……」

信じられないという気持ちを隠そうともせず、青年――不破恭也は二人の女性を見詰め返す。

「恭也様、恐らく元の世界に戻れた訳ではないようです」

「そうじゃの、見た所、あれらは魔術師のようだしな」

周囲を囲う少年、少女たちの格好――全員がマントを身に付けて手には杖を持っている――を見て言う。

「嬉しい可能性としましては、アヴァターの別の場所に転移してしまったという可能性ですね」

「で、お主も既に感じ取っているであろう嫌な可能性としては、
 またしても新たな別世界へようこそ、といった所じゃろうな」

「……破滅、いや、元凶たる神を倒し、俺たちは元の世界に帰れるという話だったよな、アルシェラ、沙夜」

「その通りじゃ。
 暫くは復旧作業を手伝っておったが、つい先ほど優先して行っていた召喚の塔の復旧ができたとかでの」

「間違いなく、帰還できると仰られてその魔法陣に乗り、皆さんと別れのお言葉を交わしました」

恭也の言葉に頷きそう返すのはアルシェラと沙夜と呼ばれた二人の女性。
三人は揃ってもう一度周囲を見渡し、顔を見合わせると肩を落とす。

「我が故郷への帰還はいつになるのやら」

「まあ、そう落ち込む事もあるまい。どうやら、その目の前に居る者がどうやら余たちを呼んだ様だしの」

「だとするのならば、少なくとももう一度アヴァターへと戻る事ができますね」

二人の言葉に恭也も安堵し掛けたその時、それまで口を挟めずにいた少女が喚き出す。

「ちょっと、勝手に出てきて勝手に話を進めないでよね! コルベール先生!」

三人に噛み付いたかと思えば、すぐさま近くにいた年長の男性へと詰め寄る。
どちらが勝手なんだかと呆れるアルシェラを宥め、恭也は少女とコルベールのやり取りを見詰める。
その中で出てくる言葉、使い魔だの、やり直しが駄目だのという言葉に次第に嫌な予感が募ってくる。
それを裏付けるように、少女は自らをルイズと名乗り、嫌だけれど我慢してやると宣言して恭也に近付くと、
呪文を唱えて、そのまま自らの顔を近づけていく。
が、当然ながらそんな事を二人が許すはずもなく、ルイズの首根っこをアルシェラが掴み上げ、
沙夜が恭也とルイズの間に割って入る。

「さて、お主は今、何をしようとしたのじゃ?」

「返答次第ではただでは済みませんよ?」

二人の気迫に思わず唾を飲み込むルイズ。
ましてや、自分を片手で吊り上げている女性からは何やら威厳さえも感じられ、思わず身を縮こまらせてしまう。
このままでは埒が明かないと判断した恭也は、ルイズではなくコルベールへと答えを求めるように視線を向ける。
視線を受けたコルベールは、やや戸惑いながらも使い魔の儀式について語り始め、
今まさにルイズが恭也に対してそれを行おうとしていた事を告げる。
それを聞いた途端、アルシェラと沙夜の二人から先ほどとは比べ物にならない殺気がルイズへと向けられる。

「ひぃっ」

思わず引き攣った声を漏らすも、それに恥ずかしさや怒りを抱く暇もなく、ルイズはただ震える。

「まさか、勝手に恭也を従属させようとするとはな」

「命がいらないんですね」

笑顔で迫る二人にルイズは震えるも、何とか気丈に振舞おうとする。

「い、いらない訳なななないでしょう。そ、そもそも私だって嫌なのよ!
 けれどしししし仕方ないじゃない!」

が、その声は震えていた。
明らかに怯えているルイズであるが、そんな事ぐらいで二人が引き下がるはずもなく、

「仕方ない、ねぇ。あくまでもそれはお主の立場で物を言った場合じゃろうが。
 このうつけがっ!」

「全く、呆れを通り越して殺意すら湧いてきますわ。と言うよりも、本当に一度死んでみますか?」

「あ、だ…………」

二人の言葉に対し、何か言い返そうとするもその迫力を前に何も言えない。
見かねたコルベールが再度、儀式の神聖さや、ルイズの留年が掛かっている事を説明するのだが二人は聞き入れない。
困ったように恭也を見るが、

「頼られても困りますね。その儀式によって勝手に使い魔にされようとしたのは俺なんですから。
 寧ろ、その二人は俺の代弁をしてくれているようなものですよ。
 申し訳ありませんが、俺は使い魔とやらになるつもりはありませんので」

それよりも、と恭也は元の世界に戻してくれるようにコルベールに言うのだが、
逆にその言葉にコルベールの方が疑問顔となる。
互いに顔を見合わせ、

「どうやら、少し話し合う場を設けなければいけませんね」

「そのようですね」

コルベールと恭也は互いにそう認識を改めると、コルベールは周囲に居た生徒たちに先に帰るように告げ、
恭也はアルシェラにルイズを解放するように言う。
恭也の言葉を受けて手を離されたルイズはそのまま地面に尻餅をつき、アルシェラへと文句を言おうとするのだが、

「何かあるのか、小娘風情が」

「なっ、あ、ああああ貴女は誰に向かって口を聞いていると思っているの!
 私はヴァリ……」

「ミス・ヴァリエール」

見下すように言われて激昂しそうになるも、コルベールの一言に渋々と口を閉ざす。
こうして、何とか互いの情報を交換する場を設ける事が出来た。
結果として分かった事は、恭也たちにとってこの世界はやはり異世界であるという事。
そして、帰る為の方法がないという事であった。
最初の事は想像していただけに驚きもなかったのだが、最後の一件は完全に予想もしていなかった事だ。
まさか呼び出されて帰る方法がないなどとは思いもしなかった。
困ったように顔を見合わせる三人に対し、コルベールとルイズも与えられた情報を吟味していた。
他世界から来たと言う三人。その証拠としてこの世界の技術ではない携帯電話なる物を見せられた。
尤もそれは既にエネルギーともなる物がなくなっており、動かす事はできないとの事であったが、
それでも実験などを手がけているコルベールにしても未知の技術であった。
更には元の世界から他の世界へと召喚されたと言われた時は驚いたものだが。
全てが本当かは分からないが、逆にそんな嘘を吐く必要もない。
とりあえずはこの事に関しては保留にして、恭也たちが他の世界から来たと言う事に関しては殆ど信じ始めていた。
対するルイズは未だに半信半疑のままだったが、恭也の説明を半分に聞いても戦闘能力に関しては役に立つだろう。
平民というのがやはり気には喰わないが、ただの平民よりもましだと自分を納得させる。

「事情は分かったけれど、さっきも言ったように戻す魔法なんてないわ。
 という訳で、大人しく私の使い魔になりなさい」

「何が、という訳なのじゃ? さっきも言ったがそれはお主の事情であろう。
 余たちには何ら関係もない事。使い魔が欲しいのならもう一度呼び出せ」

「だから、それが出来ないって言っているでしょう!」

「それこそ、沙夜たちは知った事ではありません」

二人は完全にルイズを敵と見なし、
恭也に近付かないように常にどちらかがルイズとの間に割って入るという徹底ぶりである。
何度かすり抜けようとするも、それこそ徒労以外の何ものでもなかった。
が、ふとルイズは恭也でなくともと思い立ち、勝手に呪文を唱えて目の前に立っているアルシェラに近付く。

「ふぎゃっ!」

が、その途端にその顔へとアルシェラの足が繰り出される。

「あ、貴女何をやってくれているのかしら?
 まさか、貴族であるこの私の顔が足蹴にされるなんて思ってもなかったわ」

爆発しそうになるのを堪えながら、寛大な所を見せようと肩や声を震わせながら言うも、

「お主こそ何をするつもりじゃったのじゃ?
 もしやと思うが、恭也が駄目なら余を、とでも思ったのか。
 はとすれば、その無知万死に値するぞ。そもそも、余は既に恭也のものじゃ」

睨まれ凄まれると、その迫力にルイズは思わず後退る。
が、それならばと沙夜へと向き直り、

「あらあら、沙夜に何か用でもあるのですか?
 言うまでもありませんが、沙夜の主は既に恭也様と決まっております。
 もし、よからぬ事を企んでいるのであれば、その首は永遠に胴体とお別れすると思いますよ?」

「……し、失礼しました」

丁寧な物言いなのだが、ルイズは自分の姉や母を思い出し、思わず丁寧に返して引き下がる。
そんなやり取りを呆れたように眺めていた恭也であったが、
コルベールが話を変えるようにどうするのかと尋ねてきたのに少し考え、

「とりあえずは元に戻る方法がないか探す事になるでしょうね」

「だとしても、慣れない土地という事もありますし、何をするにしてもお金は必要になりますぞ。
 ここは一つ、使い魔として過ごしながら帰る方法を探すというのは」

「それは断ります。どんな魔法か分かりませんが、使い魔にするような魔法です。
 下手をすると主に逆らえないようになるかもしれませんからね」

恭也の言葉に怒るルイズとは逆にコルベールは感心したように頷く。

「確かにその通りですな。恭也くんたちの今までの言い分からするのならば、その返事は想像するべきでしたな。
 とは言え、実際問題としてどうするのですか」

「土地勘はありませんが、まあ何とかなるでしょう。
 慣れない土地に放り出されるというのも初めてではないですし」

「そうじゃの。お主は幼少の頃よりあちこちと歩き回っておったしの」

「それに恭也様はお一人ではありませんもの。
 いざという時はこの世界で沙夜と二人……と言いたい所ですが、三人で暮らすというのも悪くはありませんわ」

恭也の言葉にアルシェラと沙夜もそう返し、三人の方針はこれで決まる。
が、当然ながら納得のいかない人物が一人。言うまでもなくルイズである。
抗議するルイズを前にコルベールは困ったような表情を見せる。
悩んだあげく、妥協案として恭也たちに学院の滞在を頼む事となるのだが。

「卒業するまで待てません」

とにべもなくこれも断られる。

「なら、帰る方法が見つかるまでで構いません。
 その時は使い魔死亡という事にして新たに召喚すれば」

「今、すれば良いではないか」

「それは出来ないんですよ。大勢の生徒があなた方が呼び出されるのを見ていましたから」

「とは言え、戻る方法を探すのを邪魔されそうで嫌なのですが」

言って沙夜はルイズを見詰める。
そんな事はないと言いたかったコルベールであったが、ルイズの態度を見ていて断言は出来なかった。
故に恭也たち側からも条件を出す。

「一つ、使い魔の契約は絶対にしない事。
 一つ、衣食住の保障。一つ、元に帰る方法を探す邪魔をしない」

恭也の言葉にコルベールは頷くも、ルイズは不服そうな様子を見せる。
そこへアルシェラが更に条件を追加してくる。

「使い魔扱いも禁止にしておいた方が良いぞ、恭也。この小娘、下手をしたらそれを利用してこんとも限らん。
 あくまで余たちはその小娘が使い魔の召喚に成功したと見せる為に滞在するだけじゃ。
 それを忘れて何か命じた場合、余たちは学院を出て行く」

「アルシェラさん、流石にそれは可哀相ですわ」

アルシェラの言葉に憤慨した様子を見せたルイズであったが、沙夜の言葉にうんうんと頷いている。
が、続く沙夜の言葉にルイズは口を閉じるのも忘れてしまう。

「その命令に応じた罰を与えるべきです。最悪は契約無効にするにしても、それなりの罰は受けて頂かないと。
 勿論、その規模に応じてコルベールさんにも責任を取ってもらうという事でどうですか?」

沙夜の言葉にコルベールもまた驚いた顔を見せるも、そこは生徒思いのコルベール。
ルイズを信じてその条件を飲み、納得いかないというルイズを何とか説得さえしてみせる。
こうして、恭也たちはまたしても異世界に滞在する事となるのであった。

恭也と剣の放浪記 〜ゼロとの出会い〜







いやー、久しぶりにアルシェラたちを書いた――ぶべらっ!

美姫 「本編を書きなさいよね!」

あ、あはは……。
何はともあれ、今回のCMは以前にやったDUELとのクロスの後って感じだな。

美姫 「またしても災難に巻き込まれた、と」

だな。いやー、このCMは結構、好き勝手できるから楽しいな。

美姫 「今更ね。と言うか、普段から結構、好き勝手やっているけれどね」

…………おお!

美姫 「今、気付いたの!?」

じょ、冗談だよ。

美姫 「はいはい。さて、ちょっと早いけれど時間もいい感じだし」

だな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


11月27日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、もう冬到来と言っても良いだろう、とお送り中!>



うぅぅ、体調が悪いのか。寒気がする。

美姫 「そりゃあ、薄着してれば寒いでしょうよ」

……おおう!

美姫 「いや、本当にバカ?」

はっはっは。ちょっとうっかりしてただけじゃないか。

美姫 「…………」

ああ、その視線は止めて。余計に寒くなる。
と、まあ何はともあれ、もう冬と叫んでも大丈夫だよな。

美姫 「うーん、どうなのかしらね。ちらほらとクリスマスの話なんかも出てきてはいるけれど」

紅葉の話もちらほら聞くんだよな。
でも、まあ冬という事で。

美姫 「鍋の美味しい季節ね」

うんうん。炬燵にみかん、炬燵に鍋。
どちらもはずせないよな。冬は良いな〜。

美姫 「まあ、炬燵の魔力は凄いものね」

だろう。うん、来週辺りは炬燵に入りながらぬくぬく、のんびりとお送りするのも良いかもな。

美姫 「そうよね。その横でアンタは一人、正座させられて……うふふふ」

一体、何を見ているんだ!?
と言うか、何故に正座!? 何かしたのか、いや、するのか、俺!?
せめて、想像の中でぐらい優しくしてあげて!

美姫 「くすくす。寒いから余計に鞭打たれるのが辛いでしょうね」

いやー、やめてあげて〜!
って、本当にやめて、実現しそうで怖いから。

美姫 「とと、私としたことが思わず想像に入り込んでしまう所だったわ」

うぅぅ、変な寒気が。

美姫 「だから、それは薄着だから」

絶対に違う! と言うか、既に着込んでます!
ぜーはーぜーはー。力いっぱい叫んでちょっと暑くなってきた……。

美姫 「一人忙しい奴ね」

その原因は間違いなくあなたですけどね!

美姫 「はいはい。それじゃあ、今週もCMいってみましょう〜」







身の丈は十五センチほど。
神の眷属で家に福を呼び込む座敷わらしの一種とも言われる女性のみの種族。
あまり知られてはいないその種族を、『スクナ』と言った。


海鳴市藤見町の隣町、戦国町。この町には多くのスクナがおり、その姿を見掛ける事もある。
その戦国町一丁目の伊達さんちの庭で、賑やかな声が聞こえてくる。

「今日こそ勝てそうな気がするんだ!」

「それは間違いなく気のせいです、マサムネ様」

「コジューローはまたそんな事を! 絶対に今日は勝てるんだ!
 これを見ろ!」

「これは?」

眼帯をした少女、マサムネがコジューローへと差し出した一枚の紙。
そこには簡単な地図が描かれており、それを見ただけで勝てるという根拠など分かるはずもない。
故に顔色一つ変えずにそのまま見返すのだが、マサムネは何故か胸を反らして威張るように言い放つ。

「それは藤見町までの地図だ。そこに変わったスクナが居るという情報を得た。
 しかも、そのスクナはまだ年若いんだ。これなら絶対に勝てる!」

自信を持って言い切るマサムネに、コジューローはやや冷めた視線を向けるも無言。
代わりと言う訳でもないだろうが、今まで二人のやり取りを眺めていた伊達さんちの娘、愛花が口を挟む。

「大した自信ね。まあ、いつもの事だけれど。どうせ、また負けて帰ってくるんでしょう」

「今日こそは勝つって言ってるだろう!」

愛花が頭を撫でるように差し出してきた人差し指をぺしぺしと追い払い言い返すマサムネに、
愛花はにっこりとした笑みを見せ、その手を一旦ポケットへと入れると、
そこに入っていたのであろう、マサムネのサイズに合わされた服を取り出す。

「じゃあ、負けたらこの新作を着てもらおうかな〜」

「嫌だ」

「やっぱり勝つ自信がないんだ」

「勝ちます! 絶対に勝てるもん!」

「じゃあ、負けたら着るって約束しても大丈夫だよね」

「う、うぅぅ、良いよ! 絶対に勝つから!」

それを聞いて愛花はにやりとした笑みを浮かべるが、すぐにそれを消すとマサムネを送り出す。
愛花の声を背中に、マサムネは勢い良く飛び出して行くのだった。
それを見送り、愛花は付いて行かなかったコジューローへと尋ねる。

「まあ、自信はいつもの事だけれど、どうなの?
 年若いって事はもしかしたり……」

「それはないでしょう」

きっぱりと自分の主君の勝利を否定すると、こちらもにやりと形容するに相応しい笑みを見せる。

「藤見町のスクナの情報は既に得ています。と言うよりも、性格にはスクナではありませんが」

「どういう事?」

「身の丈は変わりませんが、その方は男です。そして、彼は簡単に言えばロボットですから。
 とは言え、その戦闘能力はとても高いみたいですね。噂ではあのケンシンと剣腕で競えるほどとか。
 つまり、絶対に勝てません。なに、近頃少し浮かれ気味みたいですからね。
 ここらでちょっと痛い目にあった方が良いんですよ。おバカさんの躾のためにも」

ふっふっふと怪しく笑うコジューローに、流石の愛花も少し引きつつ、今の内に新しい衣装を作ろうと部屋に戻る。
その辺り、あまりコジューローを責められないのであった。



「ここか。たのもーう」

玄関先にある門を見上げ、マサムネはそう声を張り上げる。
その声が聞こえたのか、中からマサムネよりも小さな人影が姿を見せる。

「ほう、貴様が新しいスクナ、高町さんちのキョウヤだな。いざ、尋常に勝負!」

スクナに男は居ないというのに、その事に全く疑問を抱かず腰の刀を抜き放つ。
それを見て、キョウヤも腰に差してあった小太刀を一刀抜き放つと、

「侵入者と判断。警告するよりも前に武器の所持を確認。
 これより迎撃に入ります」

「上等だ! 我が名はマサムネ」

「月村製、超小型護衛ロボットキョウヤ、いざ参る!」

名乗りを上げ、同時に駆け出す両者。その刃が互いにぶつかり合い……。
………………
…………
……
あまりにも見事なやられっぷりに付き、省略……。
一方的な展開で地面へと倒れ付したマサムネ。
そのマサムネへと情け容赦なく小太刀を振り下ろそうとするキョウヤ。

「ちょっ、ま、参った、参ったからやめっ」

その声も聞こえていないのか、そのまま振り下ろされる小太刀に思わず目を閉じるマサムネ。
が、その小太刀がマサムネに突き刺さる瞬間、キョウヤは摘み上げられていた。

「全く、忍の奴にはよく言っておかないといけないな。
 もう少し手加減を覚えさせろとあれ程言ったのに」

「お帰りなさいませ、恭也様」

「ああ、ただいま。で、こっちは大丈夫か?」

左手で摘み上げたキョウヤへと挨拶を返し、右手で摘み上げたマサムネへとそう声を掛ける。

「あ、ああ、何とか……」

辛うじて助かったと胸を撫で下ろしつつ、マサムネは恭也の問い掛けに答え、
ここで恭也とキョウヤがよく似ている事に気付き、ようやくキョウヤが男である事にも気付く。

「ああ、このキョウヤはスクナではないからな。これは俺の友人が作ったロボットなんだ。
 元々は害虫駆除用だったんだが、色々合って今では護衛用になっている」

恭也の説明を受け、マサムネは納得したように頷くと助けてもらった礼を言う。
対する恭也は気にするなと答えた後、マサムネの名前を聞いて一人納得する。

「えっと、今何を納得されたんですか?」

「いや、噂に聞いた事があってな。誰彼構わずに喧嘩を売ってはボロボロにされるのが趣味のスクナが居ると。
 その名前が確かマサムネだったと記憶していたのでな」

「なんじゃ、その噂は!」

恭也の言葉に怒鳴りながらも、マサムネはその噂を流したのがコジューローだろうと確信していた。
故に戻って文句を言ってやると息巻き、マサムネは恭也の掌から飛び降りる。

「それでは、これにて失礼する」

「ああ、道中気をつけてな」

互いに別れの言葉を口にすると、恭也は家へと入り、マサムネは家へと向かって走り出すのであった。
家に着くなり待っていたのは、勝敗を聞いてくる愛花。
相手がスクナではなかったと言って見たものの、あくまでも勝敗の結果を賭けたとして、
マサムネはコジューローに文句を言う暇もなく、愛花が作った服の着せ替え人形にされるのであった。



スクナとキョウヤくん







昔書いた『一撃殺虫!!きょうやくん』が再び。

美姫 「懐かしいネタね」

だろう。まさか、また出番があるとはな。

美姫 「大きさが丁度良かったのよね」

まあな。さて、よく考えてみればもう11月も終わりが見えてきたな。

美姫 「本当よね。ついこの間、11月になったと言ってたような気がするのに」

確かにな。うーん、時の何と早いことか。

美姫 「因みに、アンタが感心している間に今週の時間も……」

おおう、おうそんな時間なのか!?

美姫 「そうよ。そんな訳だから、さっさと締めなさい」

ほい来た!
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


11月20日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、ぬくぬくと炬燵の中から、とお届け中!>



聞いたか、知ってたか、驚いたか?

美姫 「うん、肝心な何が、という部分が抜けていて全く分からないわよ!」

ぶべらっ! だ、だからって殴る事はないと思います……。

美姫 「で、何の話?」

ああ、昨日、今日と例年に比べて寒い上に北の方では雪が15センチも積もるとか。

美姫 「ああ、そうなんだ。でも、確かに寒かったものね」

だろう。

美姫 「でも、ここ最近寒さの話ばかりのような気がするわね」

だよな。やっぱり今までよりも早く寒くなったから、自然と出てしまうんだろう。

美姫 「なるほどね。ああ、でもこれで納得がいったわ」

何の?

美姫 「いや、アンタがとうとういっちゃったのかと思うような奇声を上げて上半身裸で外を走り回っていた理由よ」

いつしたよ! と言うか、どういう経由を得たら納得できるの!?

美姫 「いや、寒いのが好きなあまりとうとう……と思って哀れみの目でこう見ているんだけれど」

やめて! そんな目で見ないで! そして、ありもしない事を捏造どころか作り上げないで!

美姫 「でも、昔から寒くなると猫は丸まりアンタは奇怪な行動に出ると私の辞書に……」

どんな辞書だ! と言うか、勝手に決めるなよ!
寧ろ、俺は炬燵で丸まる派だ!

美姫 「それはそれで威張れる事でもないんだけれどね」

まったく、危うく変な人にされるところだった。

美姫 「大丈夫、そんな事をしなくても充分に変な人だから。だから、もっと自信を持って!」

持ちたくないよ、そんな自信なんか!
って、何気に貶してますよね!

美姫 「……気のせいよ」

今の間は!? 今の間はなに!?

美姫 「気のせいだってば」

うん、今度は思いっきり目どころか顔を逸らしているよね。
ちゃんとこっちを見て言って欲しいよ。

美姫 「ごめん、それ無理」

って、何でだよ!

美姫 「はいはい。気のせいよ」

思いっきり棒読みでありがとう。

美姫 「いいえ、どういたしまして」

……うぅぅ、何故だろう目からしょっぱい水が……。

美姫 「さて、話も落ち着いた所で……」

落ち着いたのか!?

美姫 「今週もCMいってみよ〜」







「セレナ、セレナ、起きなさい」

三メートル四方よりも少し広いといった感じの部屋。
置かれている物は最低限の家具と部屋の主が未だ眠っているベッドのみ。
そんな簡素とも言える部屋の中で、一人の女性が部屋の主たる少女の肩を掴んで揺する。
セレナと呼ばれた少女の母親と思われる女性は、中々起きようとしないセレナから呆れたように手を離す。

「全く、もう十六歳になったというのに、いつまで狸寝入りしているのよ」

母親の言葉に布団の中でビクリと一度震える。
まるでどうして分かったのかと自ら事実を伝えるかのように。
そんなセレナへと母親は更に呆れた視線を落としながら、疲れた口調できっぱりと言い放つ。

「そんなに強く布団を握り締めていたら起きているってすぐに分かるに決まっているでしょう」

母親の言葉を聞き、セレナは渋々と布団から顔を出し、咳き込み出す。

「お母さん、私風邪引いたかも」

「うん、熱はないわね。仮病は良いから、さっさと起きなさい」

言い終えるよりも早く額に手を置き熱を計ると反論は許さないと睨みつける。
が、セレナは一所懸命考え、良い案でも浮かんだのか顔を輝かせる。

「腹痛や頭痛を訴えるのなら無駄だからね」

先に母親に言われてしょんぼりと顔を曇らせる。
そんなセレナへともう一度起きるように言うのだが、セレナは今度は泣きそうな顔で見上げてくる。

「だ、だって、今日は私のお誕生日でしょう。つまり、王様に謁見して……」

「そうだよ。王様に謁見して旅の許可を貰って来るんだよ。
 貴女のお父さん、オルテガの後を継いで魔王を……」

「うぅぅ〜、無理、無理、無理です! そ、そそそ、そんな怖い事出来ないよ〜!」

半べそになって布団へと潜り込むセレナであったが、母親は慣れた様子で布団をむんずと掴むと力任せに引っ張る。

「ひゃうっ」

布団にしがみ付いていたので一緒に持ち上げられ、その途中で布団から手が離れてしりもちを着く。

「いい加減に諦めなさい。私だって臆病で泣き虫な貴女がそんな大それた事を出来るなんて思わないわよ」

「だ、だったら……」

「でもね、貴女が言い出したんでしょう。あの人が生死不明と知らされた日に王様の前で。
 あの時はまだ幼いという事で十六になったらという約束をしたのは貴女よ。今更、無理なんて言ってもねぇ。
 第一、王様も貴女が旅立つ為の準備を既に国として整えてくれれているのよ」

母親が本当に辛そうに告げる。母とて自分の娘が可愛いのだ。
ましてや夫は魔王を退治する旅に出て生死不明とされているが、火山の火口に落ちたのだ。
恐らくは……。そんな中、一人娘を旅に出したがるはずもない。
だが、当時娘は頑固に旅に出ると口にし、困り果てた王が十六になったらと期限を設けたのだ。
そして、その年月の間にと王として出来る限りの準備もしてくれているのを母親は知っている。
故に今更、怖いから旅に出ませんなどとは。
それはセレナも分かっているのか、過去の自分を責めつつ渋々と起き上がる。
そんなセレナを見ながら、母親もつい口にしてしまう。

「もし、本当に嫌な……」

「ううん、行くよ」

母親の言葉を遮り、セレナは先程とは打って変わって力強い瞳で言う。
その瞳は夫であり勇者として崇められたオルテガを思い出させるもので、やはりあの人の子供だと実感させられる。
それを見て、母親は静かに頷くと部屋を後にする。

「外で待っているから早く支度するんだよ」

「……あ、やっぱりお腹が」

本当に大丈夫だろうか。
先程の姿が見間違えじゃないかと思えるほど、情けない顔をしているセレナを横目で見ながら、
聞こえない振りをして部屋の扉を閉めるのだった。



(……うぅぅ、やだな、怖いな。戦うってやっぱり怪我したら痛いんだろうな)

王を前に膝を着きながら、セレナはそんな事ばかりを考えていた。
だが、外見上は平然としているから、誰もその事には気付かない。
元々、気の弱いセレナは何かに付けて恐怖を抱くのだが、
それでは虐められるかもと幼馴染の女の子に言われたのが切欠だった。
その子にすれば、これで少しは怖がりも治ればと思って言った言葉だったのだが、
セレナはそれならと性格を見直すのではなく、外見を取り繕う術を磨いてしまった。
結果として、セレナの演技というか、態度は堂に入ったもので見抜けるのは相当仲の良い者か家族だけとなった。
そんな訳で、今この場にいる誰もがセレナが街の外に出る事に対して恐怖を抱いているなどと思いもしなかった。
それはさておき、怖がるセレナに、旅立ちに対する祝福の言葉を述べ、幾つかの助言をしていく王。
こうして無事に一通りの儀式は済み、セレナの前に二人の兵が立つ。
その影にようやくセレナも顔を上げる。と、目の前の兵士がセレナへと金貨の入った袋を差し出す。

「これは?」

「少ないが路銀です。持って行ってください」

それを受け取ったセレナへともう一人の兵士が近付き、今度は少し大きめの袋を差し出す。

「こちらは旅する上で必要だと思うものを入れておきました。
 傷薬や包帯などです。ただ、あまり量が多いと嵩張ってかえって邪魔になると思い必要最低限ですが」

言って渡された袋をこれまた特に考えないまま、反射的に受け取る。
それを見届けると、その場にいた誰もが声を揃える。

「行ってらっしゃいませ」

(ふぇぇ〜、ここで断ったりしたらもしかして死刑になっちゃうかも!?
 そこまでいかなくても、牢屋に入れられるかも……。
 うぅぅ、そ、そうだ、近くの村まで行ってやっぱり無理でしたって言えば……)

心の内では涙を流しながら見事に混乱しているのだが、態度としてはただ小さく頷くのみ。
そのまましっかりとした足取りで城を後にするセレナを頼もしそうに王が見送る。
が、やはり内心では……。

(近くの村じゃ、やっぱり駄目かな。す、少なくても大陸を越えないと駄目かも……。
 モンスターが出ない場所を通れば……。
 で、でもでも、そんな遠くに一人で行くなんて無理だよ〜! わぁ〜ん、ネリー助けてよ〜!)

遂には幼馴染にまで助けを求めるのだった。



「うぅぅぅ、ぐすぐす……。ここ、何処……」

旅立って半日。セレナの姿は何故か森の中にあった。
近くの村に行くには、綺麗にとまでは言わないが、それなりに整備された道を歩け半日もあれば着く。
そもそも一本道である。なのに、森の中に居る理由は……。

「ひっ、ま、また何か音がしたよ。モ、モンスター?
 こ、こっちに逃げないと……」

つまりはこういう理由からである。
モンスターの影を見つけてそれを回避するために道を逸れてしまったのだ。

「って、こっちからも音が! う、うぅぅ、もう嫌だ〜」

遂には腰を落として涙目で周囲を見渡す。音がする度にビクリと震える。
そこへとうとうモンスターたちがセレナを見つけて近付いてくる。

「ひっ、く、来るな、来るな!」

そう言われて襲わないのなら、モンスターがここまで人間たちに危険視されるはずもなく。
大ガラスと呼ばれる子供の身の丈よろも一回りは大きい烏が得物を得たとばかりに飛び掛る。

「嫌だよー!」

本当に泣きながら、それでもセレナは腰の剣を抜き放つ。
が、その目は恐怖からか閉じられている。
それが分かるのか、大ガラスは武器を持ったセレナに怯む事無く突っ込むのであった。



「……既に歩き回って半日。結論を出したくはないが出さねばならんようだな」

深い森の中、全身を黒で包んだ男はそう一人ごちる。
が、そんな男へと帰ってくる女の声。

「だから、私がそう言ったじゃない」

「普通に考えてそんな事が信じられるか……、いや、信じたくはないが正しいか」

「まあ、気持ちは分かるけれど……。でも、いい加減に認めるしかないと思うよ、恭ちゃん」

女に言われた男――高町恭也は憮然とした顔のまま、隣の女にも分かるように肩を落としてみせる。

「美由希の言うとおり、ここは……」

「異世界だと思う。頭に角の生えた兎とか、大きな烏とか普通ならいないもん」

恭也と美由希の兄妹は揃って顔を見合わせると、何とも言えない微笑を浮かべる。
いつものように深夜の鍛錬を終え、後片付けを終えた時の事だ。
よく分からないが二人して誰か、女性の声を聞いたのだ。
そして気が付くと次の瞬間には森の中に居た。

「確か助けてと言っていたと思ったんだが」

「うん、あと闇が光をどうこうとか、闇を打ち破る光となる子を護ってって。
 多分だけれど、あの声の主が私たちを連れてきたんだよ。
 だとしたら、あの人が求めている事をすれば……」

「元の世界に帰れると言う事か。だとして、何をすれば良いのかさっぱりだが」

「だよね。情報を得ようにも人一人見てないし……」

疲れた口調でぼやく美由希を励ますように肩を軽く叩き、恭也はまた歩き出す。

「とりあえず、もう少しだけ歩いてみよう」

「うん」

恭也と美由希が再び歩き始めたその時、誰かの声が聞こえた。
二人は顔を見合わせて声の聞こえた先へと走り出す。
そこで見たのは一人の少女と、その少女に襲い掛かるモンスターの群れである。

「こ、来ないで! 助けてー! 怖いよー!」

「……あれは本当に助けがいるのか?」

思わず恭也は隣の美由希に尋ねるも、美由希も困ったような表情で恭也を見返すだけである。
何せ、襲われて悲鳴を上げているはずの少女は、目を瞑りながらなのに襲い来るモンスターの攻撃を弾き、
その身を切り裂き、と傍から見れば互角以上に渡り合っているんだから。
とは言え、その悲鳴や行動を見るに本当に困っているのは間違いがないようで、恭也と美由希は動き出す。

「俺はあの少女の下に向かうから美由希はモンスターたちを」

「うん」

自分のような強面が行くよりも美由希を行かせた方が落ち着くだろうとも思ったが、
如何せん、少女は目を閉じて剣を振るっているのだ。ただ、自分に近付こうとするものを遠ざけるためだけに。
故に下手をすれば攻撃を喰らう可能性がある。
その点、今いるモンスターならこの程度の数なら美由希でも問題はない。
そう判断して恭也は自分が少女の下へと向かったのだ。
未だ振るわれる少女の剣。その攻撃範囲から逃れたモンスターたちを背後から襲う。
絶滅したモンスターには目もくれず、少女の周りのモンスターを全て倒し、恭也は振るわれた少女の剣を受け止める。

(くっ、思ったよりも重い……)

内心の驚きを隠し、恭也は少女へと呼びかける。

「もう大丈夫ですから、落ち着いてください」

「うぅぅ、喋った、モンスターがしゃべ……」

「モンスターじゃなくて」人間です」

恭也の言葉に尚も剣を振ろうとしていた腕を止め、恐る恐る目を開ける少女――セレナ。
ようやく目の前に居るのが人間だと分かり、安堵の吐息と共にへたり込む。

「大丈夫ですか?」

「ふぇぇ、怖かったです〜。あ、ありがとうございます」

助けられたと思ったのか、恭也の足にしがみ付き涙目のまま礼を言ってくるセレナ。
そこへモンスターを倒し終えた美由希がやって来る。

「あーあ、恭ちゃんが泣かした〜」

バカな事を言う美由希を視線で黙らせ、恭也はできる限り優しい声でセレナへと話しかける。
ようやく落ち着いたセレナへと何故、こんな所に居たのか聞けば、セレナからは驚く事を聞かされる。

「恭ちゃん、私物凄く嫌な予感がするんだけれど」

「奇遇だな。俺もひしひしと感じているぞ」

「あ、あははは、まさかとは思うけれど闇が魔王で、光がこの子だったり?」

「つまり、俺たちはこの子を助けて魔王を倒さないと帰れない……」

二人して顔を見合わせ、どちらもが相手がそんな訳ないと笑い飛ばしてくれるのを期待して待つ。
待つのだが……。

「手がかりがない以上、とりあえずはその方向でいくか」

「だね。世界中を旅するのなら、あの言葉の本当の意味も分かるかもしれないし」

二人の間で話はまとまり、恭也はセレナへと再び優しく話しかける。

「セレナさん、俺たちで良ければお手伝いさせてください」

「い、良いんですか! で、でも、危険だし……」

恭也の言葉は嬉しいものですぐに飛びつきたかったのだが、やはり他人を巻き込むという事に顔を曇らせる。
それに対し、恭也は信じられないかもしれないがと前置きして簡単な事情を話す。

「そ、そうなんですか。で、でも、もし違ったら……」

「その時はその時ですよ。でも、そうですね。でしたら、こういうのはどうですか。
 違っていたと分かった場合、今度はセレナさんが俺たちの手伝いをしてくれるというのは。
 勿論、セレナさんの元々の用件を優先で構いませんから」

「ほ、本当に良いんですか?」

「ええ」

「で、でしたらお願いします!」

嬉しそうに恭也と美由希の手を取り、セレナは上下に激しく揺らす。
どうやら、そうとう心細かったらしいと苦笑を隠す二人だった。
色々とあったけれど、こうしてセレナは無事に仲間を持つ事が出来たのである。



一方、その頃。
アリアハンの城下町。
その一角にある出会いと別れの酒場、ルイーダの酒場。
その酒場の一角では一人の少女がいらいらと頬杖をついた手の指を忙しなく動かしていた。

「……何をやってるのよ、あのバカは。朝に王様に謁見して、今はもう夕方よ!
 いつになったら仲間を求めてここに来るのよ! この私がわざわざ待っててあげてるっていうのに!」

セレナの幼馴染であるネリーが一人、時間を持て余していた。

「まさか、今になって怖じ気ついて逃げたんじゃないでしょうね。
 …………あ、あの子ならあり得そうだけれど。流石にそれはないでしょう。
 もう少しだけ待って、来ないなら家に行ってみましょう、うん」

一人そう呟くと、テーブルにあったすっかり冷めたジュースを飲み干す。
が、ネリーは知らない。王様が話していた仲間を集うべく酒場へと向かえという助言。
それをまさか恐怖のあまり、聞いていなかったなんて。そんな事は思いもしなかったのだ……。


DQV 〜そして異世界へ〜







今日はDQネタで。

美姫 「偶にやってくるわね」

まあな。今回は恭也と美由希がDQ世界。これは多分、初……?

美姫 「覚えてないの!」

ぶべらっ!
あ、あははは。

美姫 「全く、本当にバカね」

バカついでに、今回は前半パートの時間が多すぎて……ぶべらっ!

美姫 「本当にこのバカ!」

つつつ。仕方ないじゃないか。

美姫 「……後でお仕置き」

ひっ!

美姫 「ほら、時間が勿体無いんだから、さっさとするわよ」

へいへい。
それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


11月13日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、日増しに寒さも増し増し、とお送り中!>



先週も言ったけれど、更に寒くなってきたな。

美姫 「本当よね。日増しに寒さが増していくわね」

ああ。寒さに負けず頑張らねば。

美姫 「活き活きとしているわね」

はっはっは。
しかし、既にクリスマス雰囲気が出ていたりするんだけれど、流石にちょっと早いような。

美姫 「うーん、でも毎年こんな感じだったんじゃないかしら」

だったかな。ほら、あの靴の形をしたお菓子が入っている奴とか。
ああいうのが既に売っていたんだが、まだ一ヶ月以上も先だろう。早いような気がするんだが。

美姫 「うーん、どうだったかしらね。まあ、それは良いとして……」

あうっ、その握り締めた拳は何ですか……。

美姫 「ふっふっふ」

あ、あははは……。

美姫 「更新が殆どされていないじゃないの、このバカ!」

すみませんー!

美姫 「さて、それじゃあ、今週もCMいってみよ〜」







さて、困った。
一体どうしたもんだろうか。
休日の午後、高町恭也は自宅の玄関先で困ったように立ち尽くしていた。
若干引き攣っているようにも見える顔には、一筋だが汗が流れ落ちる。
恭也は色々と考えながら、呆然と言うに相応しい感じで、ただただ手の中にある物を見下ろす。

「別段、アニメのDVDぐらいなら困らないんだが……」

台詞とは裏腹に困った顔をしているのは、持っているアニメDVDが魔法少女ものだから……ではなく。
その中身がパッケージとは全く関係のないものだからであろう。
『お兄ちゃん大好き』と書かれた文字の下には、幼い感じの少女の絵が描かれ、DVDの下部には十八禁の文字。
これが今、恭也が頭を抱える事となっている原因なのだ。
誰の持ち物かは分からないが、恐らくは住人の誰か。
だとすれば、誰の物かによっては少々問題がある。
ましてや、現状を見られれば自分の物と思われるかも知れず、実際、この家の男女比を考えれば、
この手の物を持っていそうな人物として第一候補に挙がるのは男性となるのは仕方なく。
そうなれば、その男性は自分以外には該当はない。
非常に困った物を拾ってしまったと思いつつ、それを玄関の落ちていた場所に戻す事も出来ない。
まず、持ち主の候補から外れている末妹のなのはがもし見つけたらと思うと、恭也はこっそりと持ち主を探し出し、
今後気を付けるように注意しなければとパッケージを閉じる。
と、そこへタイミング良く、いや悪く母である桃子が戻ってくる。
勢いよく開けられた扉。咄嗟に後ろへと物を隠し、恭也は不思議そうに見返す。
恭也の行動に特に可笑しな所も見出せなかったのか、それとも単にそんな事を気にする余裕もないのか。
桃子は恭也の疑問顔に答えながら靴を脱ぎ、足早にリビングへと向かう。

「お昼の後、補充用品を持っていくのをすっかり忘れていたのよ。早く戻らないと……」

遠ざかっていく背中を安堵の吐息と共に見送り、恭也は改めてDVDケースを背中に隠し、桃子の後を追う。
ドタバタと目当ての物を出している音を聞きながら、恭也はリビングに入ると桃子の手伝いをする。

「ありがとう、助かるわ」

「店まで持っていこうか?」

「それは及ばないわよ。後ろの荷台に乗るもの」

「分かった。なら、そこまで運ぼう」

桃子の手から荷物を取り、恭也は家の前に止めてあるスクーターまで運ぶ。
その隣に並びながら礼を言い、桃子はふ思い出した事を尋ねる。

「そういえば、どこかに出かける所だったんじゃないの?」

「ああ、ちょっと本屋に行くつもりだっただけれど予定を変更して、盆栽の手入れをする事にした」

「はぁぁ。盆栽が悪いとは言わないわよ。でも、もう少し他に興味のある物とかはないの?」

「特に思いつかないが……」

「そう。あ、ありがとう。
 それじゃあ、急いで店に戻るけれど、もしまた気が変わって出掛けるのなら、戸締りだけはお願いね」

「心得ている」

スクーターに乗って遠ざかる背中を見送り、恭也は再び家の中へと戻る。
が、桃子に告げたように盆栽をやるのではなく、真っ直ぐに自分の部屋に入ると、
先ほど拾った物を引き出しへと隠すように入れるのであった。



その日の夕食時。夕食を口にしながら、恭也は気付かれないように家族の様子を窺う。
別段、普段と違った様子を見せる者はおらず、恭也は少し考えて口を開く。

「そう言えば……」

恭也が話し始めたのを切欠に、皆が恭也の方を向く。
それらの視線を受けつつ、恭也は何でもない風を装い続ける。

「魔法少女何とかというアニメが面白いと赤星が言っていたのだが」

心の中で親友に詫びながらそう口にすれば、皆が驚いた顔を見せる。
赤星の名前を出したのが失敗だったかと反省し、これでは持ち主を特定できないと反省する。

「意外ですね、そういうアニメを勇兄が見ているなんて」

「まあ、でも確かに面白いと感じるけどなぁ」

「レンは知っているのか?」

「はい、なのちゃんと見てますから」

「うん、レンちゃんと見ているよね。お兄ちゃんも一緒に見る?」

「何々、恭也も興味を持ったの? まあ、盆栽以外の趣味を持てとは言ったけれど。
 外でするものに興味を持つかと思ったんだけれど」

「いや、別に興味とかではなくただふと思い出しただけだ」

かなり落ち着いてきた皆を眺めながら、恭也は次にどうやって話をしようか考える。
が、ここで一人会話に加わらず、黙々と食事をしている者がいた。
その者は黙々と箸を動かすのだが、顔はずっと正面を向いたまま、
手に持った茶碗から延々とご飯だけを口へと運んでいる。
何とも分かり易い反応に恭也は呆れるのを隠し、食事に戻る。
他の面々も恭也の様子から本当にただふと思い出した事を話しただけだろうと、それぞれ食事に戻る。
そんな中、美由希は一人、変わらずに黙々とご飯だけを運んでいた。



食事後、すぐに部屋へと戻った美由希に対し、恭也は最早確信めいたものを感じながらもただ時間が過ぎるのを待つ。
やがて、いつもの鍛錬の時間となり、いつものように準備をして玄関で待つ。
そこへ美由希がやって来て、いつものようにランニングしながら八束神社を目指す。
その間、二人は共に無言。これもまたいつもの事なのだが、今日に限って言えば、美由希が何か言いたそうにし、
すぐに口を閉ざしては、やはり気になるのか恭也の背中へと視線を向けてくる。
そんな事を繰り返していた。
やがて、鍛練場所へと到着し、そこで恭也はこちらを気にしている美由希へと声を掛ける。
必要以上に背筋を伸ばし、やや上擦った声で返してくる美由希に、恭也は確認するように尋ねる。

「今日、玄関先である物を拾ってな」

「ふ、ふーん、そうなんだ」

「で、その持ち主を探している」

「そ、それで何を拾ったの?」

ソワソワし出す美由希に気付かない振りをして、恭也は鞄からDVDケースを取り出す。

「これなんだが」

見せた途端、美由希が驚くほど素早く恭也の手からそれを奪い取る。
その反応速度に満足しつつ、恭也は口を開く。

「やはりお前のだったか。大事な物なんだったら、これからは気を付けるように」

「え、あ、うん」

恭也の忠告に意外そうな顔で返事を返しつつ、恐る恐る尋ねてくる。

「えっと中は見てないの?」

「中? 中はそのアニメのDVDなんだろう。別に見ても持ち主が分かるはずもないと見てないが」

恭也の嘘の言葉に美由希ははっきりと分かるほど安堵の吐息を零す。
それを眺めながら、まあ美由希も年頃だしな、と本人が聞いたら顔を真っ赤にしそうな事を考えながら納得し、
この事は胸の内に仕舞っておいてやろうと思う。
だが、他の者が拾うと色々と問題になりそうなのでしっかりと今後の注意だけはもう一度しておく。
恭也の返事にようやくいつもの表情で答えつつ、美由希は恭也から奪ったそれを自分の鞄に仕舞おうとして、
そこで足を滑らせて盛大に転ぶ。それを呆れた眼差しで見下ろした恭也であったが、そこである物を視界に捉え、
思わず何とも言えない顔を見せる。
美由希の方もそれに気付いたのか、慌ててソレ――ケースから出てしまった中身――を拾い上げるのだが、
泣きそうな顔で恭也を見上げる。
その視線を受けながら、折角気付かない振りをしてやったのにと頭を抱えたくなる恭也。
そんな恭也の心情を正確に読み取り、けれど、それが今、
これを見られたからだと理解した美由希は泣きそうな顔のまま、ただ恭也を見上げるだけである。
深夜の人気のない森の中、暫く無言で見詰め合う二人。
それだけを見れば、良い感じなのかもしれないが、互いの心境はそんな気持ちとは異なり。

「こ、これは、恭ちゃん、ちが、違う、だから、そうじゃなくて……、えっと、だから……」

「まあ、美由希も年頃だからな。気にするな。さっきも言ったようになのはたちには気を付けてくれよ」

恭也の優しい言葉が逆に居た堪れないのか、美由希は恐々といった様子で恭也の裾を掴み、
何か言おうとするのだが、それが言葉にならないで消えて行く。
久しぶり、本当に久しぶりに見たそんな美由希の様子に、恭也は新ためて落ち着かせるようにしゃがみ込み、
美由希の頭にそっと手をやる。その上で、落ち着くように告げる。

「あ、あのね、本当に違うんだよ。新しく知り合ったお友達がお勧めだってノートパソコンごと貸してくれて……。
 そういうのだと知らずにやったら……」

「分かった、分かったから落ち着け。別に馬鹿にしたり誰に言ったりもしないから。
 さっきも言ったようになのはにだけはくれぐれも注意してくれれば良いから」

恭也の言葉に徐々に落ち着きを取り戻したのか、美由希は小さく頷く。
しかし、後に恭也は多少の後悔と共にこの時のやり取りを思い出す事となる。
何故なら、これを切欠にして恭也もまた巻き込まれていく事になるのだから。
主に、美由希と新たに知り合ったという一人の少女、桐乃によって。



俺の弟子がこんなに可愛いわけがない







しかし、本当に寒くなってきたな。
昼でもかなり肌寒さを感じるぐらいに。

美姫 「それは確かにあるわね。本当に冬到来って感じ」

ワクワクしてくるよ。

美姫 「その感覚だけは分からないけれど」

こう手足の指先が滅茶苦茶冷たかったり。

美姫 「それって嬉しい事なの?」

……冷静に考えると嬉しくはないな。
ちょっと思考能力が鈍っていた。

美姫 「ああ、それなら正常ね」

いやいや、まるで俺がいつもバカみたいに言わないでくれ!

美姫 「違うの!?」

そこまで驚かんでも。

美姫 「はいはい。でも、冬が近付くと年末とかも意識し出すわよね」

そうそう。で、これまた毎年の如く今年も早かったな〜としみじみ思うわけだよ。

美姫 「進歩がないの?」

いや、今のはお前から言い出しましたよね!

美姫 「さて、冗談は置いておいて……」

どこまでが冗談なんだよ。まあ、何はともあれ、本格的に寒くなってきたのは確かだし。

美姫 「皆さんも健康には気を付けてくださいね」

いや、本当に気を付けて。

美姫 「さて、それじゃあ、今週もそろそろ締めましょうか」

だな。それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」


11月6日(金)

美姫 「美姫ちゃんの〜」

ハートフルデイズ〜

美姫 「はっじまるよ〜」

<この番組は、PAINWESTの雑記コーナーより、本格的に寒くなってきたよ、とお届け中!>



ふ〜、先月は色々と悲惨な目にあった。

美姫 「もう11月よね」

あれ、微妙に話が食い違ってない?

美姫 「気のせい、気のせい」

う、うーん、まあ良いか。
で、11月になっていきなり寒くなった気がするが。

美姫 「本当よね。まさに冬って感じ」

このまま寒くなっていくんだろうな〜。

美姫 「そこでワクワクするのがアンタよね」

まあな。とは言え、今週は本当に最悪だった。

美姫 「本当よ!」

って、いきなり大声で怒鳴るなよ。

美姫 「アンタが思い出させるからでしょう!」

そんな事を言われてもな。頭痛に微熱に腹痛。
纏めて来たお蔭で、昨日はフラフラだったよ。

美姫 「どれか一つならそんなに大した事ないから平気なのにね。
    それにしても、つくづく普通の風邪は引かないわね、アンタ」

医者に行けば、大概笑われたり珍しがられるからな。

美姫 「何はともあれ、一日で治って良かったわ」

確かにな。まあ、元々大した事のない症状だったんだよ。単に纏めて来た所為で辛かっただけで。
で、新型ウイルスがあるから念の為という感じだし。

美姫 「でも、その所為で更新が殆ど出来てないでしょう!」

ぶべらっ! た、確かに。投稿してくださった方にはご迷惑をお掛けしました。

美姫 「もっと心から謝れ!」

ぶべらっ! すみませんでした!

美姫 「謝罪と共に、今週もCMいってみよ〜」







時間が凍りつくと言うのはこういった事なのかもしれない。
美由希は一人、そんな事を思う。
場所は高町家のリビングの入り口。
そこで美由希は師匠にして、兄、そして最近になって新たに恋人と言う肩書きの加わった恭也を出迎え、
そのまま動きを停止させる。向こうも同じなのか、こちらを何とも言えない表情で見返してくる。
時が戻せるのならば、そんな事を切に願いつつ、美由希の心は現実逃避するべく過去へと遡っていく。



休みの朝、いつものように全員が揃って朝食を取っていた。
その席で今日の予定について誰ともなく話をし始め、桃子はいつも通りに翠屋で仕事。
晶は空手道場でレンは友達と約束があり、なのはもまた久遠と遊ぶとの事であった。
全員が夕方まで戻ってくる事はなく、恭也だけが忍との約束で少し出かけるが、昼過ぎには戻るとの事であった。
それを聞き、唯一予定のない美由希が昼食は恭也と自分の二人だけと知り、料理すると言い出したのだ。
桃子は翠屋で昼食を済ませると告げるとさっさと出掛ける支度に入り、他の者たちも出掛ける準備を始める。
そんな中、美由希は期待するような目で恭也を見詰める。

「まあ最近は頑張っているようだし、美由希に頼むか」

「本当!?」

まだ一人で料理をした事は数える程しかなく、不安ながらも恭也はそう言う。
その言葉に嬉しそうな顔を見せる美由希を見て、恭也もまた微かに表情を緩めるのだが、
これだけはちゃんと言っておかないといけないと、やや表情を引き締め、

「ちゃんと味見はするように。それと変なアレンジはまだしなくて良いから」

「分かっているよ。これでも晶やレンから教わって上達しているんだから」

「それは知っている」

何せ、そうして作られた物は恭也の胃へと収まっているのだ。
何よりもそれを実感しているのは恭也であろう。
苦手な料理も努力している美由希を知っているし、何よりも自分の為にと頑張ってくれているのだ。
故に恭也は美由希に昼食を任せ、自分も出掛ける支度をするべく席を立つのだった。

こうして誰も居なくなった台所で、美由希は真剣な表情で鍛錬時よりも神妙な面持ちで構えた包丁を振るい、
緊張しつつも調味料を間違える事無く味付けをし、注意されたように味見までこなす。

「うん、晶たちに比べたらまだまだだけれど、ちゃんと食べれる」

高町家の鉄人たちの味を思い出しつつ、
まだまだだと感じるもちゃんと美味しく出来ている事に満足そうな笑みを浮かべる。
そして、食器を並べ、全ての支度を整えて後は恭也の帰りを待つばかり。
ここまでは良かったのだ。
そう、何も問題などなかった。
この後、自分が変な事を思い出さなければ、恭也も自分の努力を認め、お褒めの言葉の一つも貰えただろう。
もしかしたら、誰も居ないという事で恋人同士の甘い時間を過ごせたかもしれない。
だが、悲しいかな。現実はそうはいかなかった。
それは数日前の事である。親友である那美とさざなみ寮でお話しをしていた時のこと。
寮に住む漫画家の発した一言。それを思い出してしまったのだ。

「高町は高町兄と兄妹として長い事過ごしていたんだよな。
 だとしたら、恋人になったとはいえ、同じような状態でマンネリして飽きたりとかしないのか?」

もっと前後に色々とあり、その時は否定した言葉だったのだがふと思い出してしまったのだ。
そして、思い出してしまうと気になってしまう。
少し考えた後、普段ならしないような事をしてしまったのだ。
それは、その時の会話の続きにも出た事で、必死で管理人が口止めしようとした挙句、
結果として知られてしまった内容。
思い返せば、そんなはずはないと思える事なのに、だが、その時の美由希にはまるで天啓にも思えたのである。
そして、それを実行するべく一時の羞恥を捨て去る。
徐に先程まで着けていたエプロンを掴み、次いで服に手を掛ける……。



玄関の開く音が聞こえ、恭也の帰りを告げる声が聞こえる。
本来なら出迎えるぐらいはするだろうが、この時は流石に恥ずかしくてリビングで待機する。
徐々に近付いてくるのを感じながら、美由希は落ち着かせようと数回深呼吸を繰り返し、恭也が来るのを待つ。
そして、恭也がリビングへと足を踏み入れると、

「お帰りなさい、あなた」

甘えるように恭也に抱きつこうとして、その後ろに忍が居る事に気付いて動きを止める。
そうして、話は冒頭に戻るのだが……。

「えっと……、わ、私は帰った方が良いかな?」

美由希のエプロン姿を見て、そう尋ねる忍に対し、恭也も美由希もまだ正常な思考が戻ってきていないのか無言。
そう、エプロン姿、否、エプロンだけの姿の美由希は元より、それを目の前にした恭也もまた呆然としていた。

「あ、え、うえっ……きゃぁぁっ! 恭ちゃんのエッチ!」

恭也よりも先に我に返ったのか、美由希は顔を瞬間湯沸かし器の如くあっという間に真っ赤に染め、
悲鳴を上げてリビングを出て行く。
その声に恭也もまた正気に戻り、隣で同じように呆然としている忍へと振り向くと、

「俺が悪いのか?」

「えっと……、ノーコメントで」

流石の忍も敢えて何も触れずそのまま口を閉ざす。
着替え、まだ顔を赤くした美由希が戻ってくるまで、残された二人の間を少し思い沈黙が漂う事となる。
その後、美由希が必死に数日前のさざなみ寮の話に纏わる言い訳を述べる姿が見られたとか。



美由希の受難 おわり







って、普通に短編になってしまった!

美姫 「いや、書き終わる前に気付きなさいよ!」

ぶべらっ!
いや、本当はちゃんと分かってましたとも。

美姫 「本当に?」

ああ。ネタじゃなく、普通に短編になるな〜って。でも、もう書き始めたら止まりません

美姫 「止まりなさいよ!」

まあまあ。後日、『ごちゃまぜ』じゃなくて短編の方に入れるから。

美姫 「そう言えば、本当にもう今年も少しになって来たわよね」

だな。先月辺りにそんな話をしたが、いよいよ実感してくるな。

美姫 「時間の早さを痛感するわ」

まったくだ。のんびりとしていても時間の速さは変わらない。

美姫 「って、のんびりしてないで、少しは書け!」

ぶべらっ! おおう、今日もまた一段と冴え渡るー!

美姫 「そのまま星になっても良いのよ」

激しく遠慮します。
しかし、最近益々激しくなってませんか?

美姫 「きっと気のせいよ」

そうなのかな?
うーん、殴られている側からすれば……。

美姫 「何を言っているのよ。殴っている私が力加減を一番分かっているのよ」

それもそうだな。

美姫 「うん、自分で言っておいて何だけれど、本当にバカ過ぎるわね」

何がだ?

美姫 「何でもないわ。それよりも、そろそろ時間じゃないかしら」

そうか。なら、そろそろ締めますか。

美姫 「そうね。終わりましょうか」

それじゃあ、今週はこの辺で。

美姫 「また来週〜」










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