『An unexpected excuse』

    〜はやて編〜






「俺が、好きなのは…………」

そこで恭也はふと口を噤み、考え込む。

「……好きなのは……」

今にも唸り出しそうに額に指を当てて考え込む恭也。
その様子は、居ないのに無理に捻りだろうとしているようにも、逆に隠そうとしている風にも見える。
だからか、恭也は素直に考えている事を口にする。

「正直、恋愛感情というものは難しいな。
 基本的に、友達は好きだが、その好きとは違うのだろう」

恭也の言葉に全員が頷く中、恭也は再び考え出す。

「うーん、あれを好きというのかどうか。
 まあ、気になるという点では間違いないんだが……」

「そ、それって誰のことよ!」

恭也の洩らした言葉を聞き取り、忍たちが詰め寄る。
それを落ち着かせるように両手を向けて軽く振ってみせる。
と、そこへ遠くから大きな声が届いてくる。

「きょ〜〜〜う〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

ドップラー効果というものを体現しながら、徐々に近づく大声の主。
そのまま恭也の元へとやってくると、その勢いのままに背中へと飛びつく。
流石にあれだけの助走距離を得て飛び込んでくる少女の勢いに、小柄とはいえ座ったままで堪える事は難しく、
恭也は前のめりになり、両手を着いて倒れる事を防ぐ。

「……はやて、何度も言っているだろうが。
 勢い良く飛びついてくるな、大声で名前を呼ぶな、少しは落ち着けと」

「うん、聞いてるよ」

恭也の苦言に対し、はやてと呼ばれた少女はただニパッという感じで笑みを浮かべて頷く。
その無邪気な顔からは、理解しているのかいないのかの判断は難しい。
いや、恐らくはしていないだろうと思われる。
恭也は思わず頭を抱えそうになりつつも、はやてを背中から引き離す。

「ああー、恭也。どうして離しちゃうの」

「動き辛い」

「むぅ、つれないよ、恭也は。わたしがこんなにラブコールを送っているのに〜」

「だあ、分かったから首に抱きつくな。締まっている」

「え、分かってくれたの。それじゃあ、早速今夜にでも初……。
 い、痛いよ、恭也」

「お前がバカな事を言おうとするからだ」

「うぅぅ、これが有名なドメスティック・バイオレンスってやつなんだね。
 でも、わたし耐えてみせる。これも恭也の愛だと思って」

何かスイッチでも入ったのか、それとも頭に貰った恭也の拳骨が悪かったのか、
はやては頬を上気させ、体を横にしなだらせながら恍惚とした表情を見せる。

「人聞きの悪い事を言うな。それと、何処でそんな言葉ばかりを覚えてくる」

「じゅんじゅんから!」

「……はぁ、久我の奴にも注意しておかないと」

新たな問題の浮上で頭を抱える恭也を不思議そうな眼差しで見上げた後、
はやては徐にポンと手を叩く。

「大丈夫だよ、恭也。わたしは恭也一筋だから、じゅんじゅんとは何もないよ。
 ああ、嫁にやきもちを焼かれる快感って良いよね〜」

またしてもトリップするはやての頭を軽くはたくと、恭也は何処から突っ込むか悩む。

「とりあえず、何で俺の方が嫁なんだ。というよりも、結婚などしていないだろうが。
 そもそも、誰もやきもちなど焼いておらん。
 事情を知らない人が聞いて勘違いするよな事を口にするなと何度言えば……。
 というか、お前のその突拍子もない思考はいい加減に何とかならないのか」

「えぇぇっ! わたしと恭也は刃友じゃない。刃友は夫婦も同然でしょう。
 苦楽を共にして、喜びを分かち合う。ね、ね」

「喜びよりも気苦労が増えている気がするのは、決して気のせいではないと思うんだが……」

「そ、そんなぁぁ」

捨てられた子犬のような瞳で恭也を見つめながら、はやては恭也の足にすがりつく。
恭也も座っているため、はやては地面に寝転がる形になり、
傍で見ていても何が何だか分からない光景になっているが、本人は至って真剣なようだった。

「恭也はわたしの事を捨てるの? 飽きたから、ポイって捨てるんだね」

「だから、 事情を知らない人が聞いて勘違いするよな事を……。はぁ、もう良い」

じっと見つめてくるはやてを見下ろしながら、一つ息を吐いて心を落ち着ける。

「別に捨てるまでは言っていないだろう。そんなつもりなら、そもそも復活などしない。
 それに、お前に飽きる事はなさそうだしな。お前は自分でも気付いていないが、才能があるからな。
 それを傍で見て、一緒に戦い、成長させていくのは楽しいからな」

恭也がそう言うも、はやては途中から聞いておらず、ただ顔を、瞳をこれ以上はないというぐらいに輝かせる。

「恭也〜♪ 感激だよ! 恭也がそこまで思っていてくれるなんて。
 これで晴れてわたしたちは両思い……」

さっきまで寝転んでいた体を一瞬で起き上がらせて恭也へと抱き付くはやてに、
恭也は何度目になるのか分からない溜め息を吐き出す。

「だから、事情を知らない人が聞いて勘違いするよな事を口にするな。
 少しは落ち着け、首に抱きつくな、締まっている」

「うん、うん。恭也とわたしは最強の夫婦だよ!
 いつか、あの頂点へと登りつめるんだ!」

恭也の言葉を聞かず、一人納得するように何度も頷くと、はやては何もない空を指差す。

「だから、人の話を聞け、事情を知らない人が聞いて勘違いするよな事を口にするな。
 因みに、あれは空で他には何もないぞ」

呆れながら注意する恭也だったが、その顔は少し楽しそうであった。
満面の笑みを浮かべて恭也へと話し掛けるはやてと、そんな恭也の様子を眺めていた忍は小さく肩を竦める。

「気になる奴、ねぇ」

「確かに、気にはなっているみたいですけれど……」

「子犬に対する愛情のような気がするのって、私だけかな」

「美由希ちゃん、安心して。俺たちも……」

「多分、同じ気持ちやと思います」

ひとしきり顔を見合わせると、忍たちはやれやれと首を振る。
既に忘れられかけているFCたちも、何とも言えない顔をして立ち去る。
それらを見送りつつ、忍たちはもう一度恭也たちに視線を向ける。
恋愛感情云々は兎も角、楽しそうな様子の恭也を眺める。
そんな様子に気付く事無く、恭也ははやての言葉に突っ込みや注意をしながら会話を楽しんでいるようであった。





<おわり>




<あとがき>

という訳で、今回は430万ヒットリクエスト〜!
美姫 「獅子吼 緋凰さん、おめでとうございます」
リクエストありがとうございます。
美姫 「はやてXブレードのはやて編をお送りしました〜」
これまた、少し変わった展開で。
美姫 「甘々じゃないわね」
まあな。こんな感じになっちゃった。
美姫 「元気に走り回るイメージだものね、はやてって」
だろう。という訳で、こんな感じになっちゃいました。
美姫 「それでは、また次で」
次は誰にしようかな〜。







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