『An unexpected excuse』

    〜綾子編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉に緊張と期待に満ちた空気が流れる中、それを打ち破るように脳天気な声が割り込んでくる。

「あ、こんな所に居たのか、恭也」

「ん? ああ、綾子か。弓道部の用件とやらは済んだのか?」

「ん、まあね。後は桜が居る事だしね。それに、私はもう引退してるんだから」

「それだけ下級生に慕われているという事だろう」

恭也の言葉に複雑そうな顔を見せつつも何処か笑みを含んだ顔で、恭也の隣りへと腰を降ろす。
それから、今頃になって気付いたのか、目の前の人たちを見て、微かに驚いた顔を見せる。

「恭也、この子たちは?」

そう尋ねてきた綾子に、恭也が簡単に事情を説明すると、綾子は面白そうな笑みを見せながら、恭也の腕を取ると、
意図的に下から見上げるような仕草を取り、先程までの笑みを消して神妙な顔付きになる。

「で、何て答えたの?」

口調もいつもよりも淑やかに、それでいて何処か不安そうなものを混ぜて尋ねる。

「……いや、まだ答える前だったんだが。それよりも、わざとらしい真似はよせ」

「やっぱり、駄目か。うーん、上手く出来たと思うんだがな」

「上手くって、一体、誰の真似……いや、いい分かった」

「あ、やっぱり分かった?」

楽しそうに笑う綾子を見ながら、恭也は脳裏に今の仕草をする赤い悪魔と、それに顔を真っ赤にしている親友を思い浮かべつつ頷く。

「それに、そんな事をしなくても、綾子は充分に、その、まあ、何だ」

照れて中々その先が出てこない恭也を眺めつつ、綾子は分かっているとばかりに頷く。
そんな二人へと、FCの一人が遠慮がちに声を掛けてくる。

「ひょっとして、高町先輩と美綴先輩って……」

発言したFCへと二人は顔を向けながら、綾子はただ笑みを浮かべて恭也が何と答えるのかを待つ。
それを横で感じながら、恭也は力強く頷くと、その女の子の言葉を肯定する。

「ああ。俺は、綾子と付き合っている」

その言葉を聞いたFCたちは、二人を交互に見た後、大人しく教室へと戻って行く。
そんなFCたちの様子を眺めながら、綾子は少しだけ申し訳なさそうな顔を覗かせ、それに気付いた恭也がそっと肩に手を置く。
自分を心配してくれる恭也に甘えるように、そっと肩へと頭を預けながら、綾子は恭也へと言う。

「あの子たちには悪いけれど、こればっかりは譲れないからね」

「俺だって同じだ」

そう言って微笑み合う二人の脳裏に様々な出来事が浮んでいく。
と、不意に綾子は恭也の肩から頭を上げると笑い出し、恭也は怪訝そうな顔を向ける。
それに気付いた綾子が、理由を話し始める。

「……あはは。私と恭也が付き合う事になった事を凛に話した時の事を思い出して……。
 あ、あの時の凛の悔しがりようを思い出したら……。っくっくっく賭けは私の勝ちだったしね」

「賭け? それは初耳だな。何だ、それは?」

そう尋ねてくる恭也に、綾子は凛とのやり取りを聞かせる。
ようやく、あの時の凛の表情に納得がいった恭也だったが、何処か考え込むような仕草を見せ、それを見咎めた綾子が尋ねる。

「ん? どうかしたの、恭也? 何か浮かない顔というか、考え込んでいるようだけれど……」

「もしかして、遠坂との賭けがあったから、俺と……」

そう恭也が呟いた途端、綾子が今まで見せた事もないような剣幕で、恭也へと掴み掛からんばかりに捲くし立てる。

「そんな訳ないでしょう! ふざけないでよね!
 私はそこまで酷い奴じゃないわよ! 確かに、凛と賭けはしてたけれど、それとこれとは別よ!
 幾ら恭也でも、今のは許せないわね。私は、そんな事とは関係なく、あんたを好きになったのよ!
 賭けの事は、その後に思い出したぐらいなんだからね」

あまりの剣幕に、そして、綾子の気持ちを信じれなかった自分にも反省の念を込めて恭也は頭を下げる。

「すまなかった。別に綾子の気持ちを信じていなかった訳じゃないんだ。
 ただ、綾子みたいな素敵な女性が俺の事を、というのが信じ……」

「はい、ストップ。そこまでよ。それ以上は駄目。
 本当に、自分の事には疎いと言うか、何と言うか。
 それは私の台詞だってのに」

呆れて肩を竦めながら言う綾子に対し、恭也は首を傾げる。
そんな恭也へと、綾子は若干怒りを込めて言う。

「あのね、さっきも言ったけれど、賭けなんて理由で選んだりしないんだからね。
 そもそも、恭也は自分の状況を知らなさ過ぎなのよ。
 今日の事を見ても分かるでしょう。分かったら、これからはもう少し自覚を持ってよ。
 大体、デートの待ち合わせで私よりも先に来てるのは良いけれど、何で毎回、毎回、他の女に声を掛けられてるのよ!」

言っているうちに、この話とは関係ない事まで出だし、尚且つ、それを思い出して腹を立てる綾子。
それを宥めようと言い訳するように口を開く恭也。

「お、落ち着け、綾子。それは俺の所為じゃないだろう。
 それに、あの人たちは俺をからかっていただけで……」

「そんな訳ないでしょうが! あの人たちは明らかに本気だったわ。
 それに、恭也の所為じゃないですって? きっぱりと断わらないのは、あんたの所為でしょうが!
 あ、また思い出した。この前の時だって……」

話しているうちに他のことまで思い出してきて、更にヒートアップする綾子に、
どう手を付けたら良いのか困った様子を見せる恭也だったが、不意に何かを思い出したのか、そっと抱き寄せる。

「ちょ、何よ! こんな事で誤魔化されな……んっ、んん」

恭也は、抱き寄せられて少し頬を赤くしつつも、尚も言い募ろうとする綾子の唇を塞ぐ。
5秒……10秒……30秒……1分……。
それでもまだ二人の唇は離れる様子を見せない。
それから更にたっぷりと時間を掛け、ようやく恭也は綾子から離れる。
口付けから解放された綾子は、何処かぼーっとした表情をして、少し荒く呼吸を繰り返していたが、やがて我に返ると、
大げさに溜息を吐き出す。

「……はぁー。全く、普段は女の子には慣れてないって顔するくせに、すぐにこうやって誤魔化したりするんだから……」

綾子の言葉から察するに、こういった事は初めてではないようである。
それに対して恭也は、反論めいた事を口にする。

「別に誤魔化している訳ではないんだが。
 単に、綾子を落ち着かせるために……」

「それだけ?」

「いや、まあ、俺がしたいというのも少しは……」

しどろもどろに顔を赤くさせつつ言う恭也に、それは反則よと思いつつも赤くなる頬を止めることも出来ず、
照れを誤魔化すように早口に言う。

「全く、一体、何処でこんな事を覚えたのかしらね」

それに対し、恭也は罰が悪そうな顔を見せつつも、あさりと答える。

「あー、前に遠坂にこうすれば良いと言われて……」

恭也の言葉に憤慨しつつ呟く綾子だったが、

「……凛の奴、賭けに負けた腹いせのつもりね……。全く、油断もないったら……。
 ……でも」

そう囁くように言うと、恭也へとしな垂れかかりながら、両手を首へと回し、蕩けたような目を向け、ゆっくりと瞼を閉じていく。

「これは悪くないかも……」

そう呟いて頤を少し上げてねだるように首を少しだけ傾ける。
そんな綾子へと、恭也もゆっくりと顔を近づけると、本日二度目の口付けを綾子へと降らせるのだった。



綾子を慌てさせる為に凛が考えた計画は、見事に予想を裏切る形となったようだった。
それどころか、目の前で度々見せ付けられる事になるなど、凛は思いもしなかっただろうが……。





<おわり>




<あとがき>

今回は、Fateから美綴さん〜。
美姫 「ちょっと甘めでお送りしま〜す」
さて、次のFateキャラは誰かな〜。
美姫 「それでは、また次回でね〜」
ではでは。







ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ