『An unexpected excuse』
〜神咲編〜
「俺が、好きなのは…………」
恭也がその名前を口にしようとするのを、じっと一人の少女が熱い視線で見詰める。
微かに頬を朱に染めながらも、そこから出てくる名前に期待を込めて待つ少女、那美の様子に気付いた恭也は、
那美へと視線を固定したまま、そのまま動きを止める。
「あー、その……」
照れて言い淀む恭也と、その様子をじっと見詰めている那美の様子から何かを察したらしく、全員が二人を交互に見遣る。
やがて、このままでは埒があかないを判断した忍が思い切って、ここに居る者たちの心の声を代弁する。
「で、ひょっとして二人は付き合ってるとか?」
主に恭也へと向けて尋ねられた言葉に対し、恭也が答えるべく口を開こうとする。
そこへ、タイミング良く、いや、この場合は悪くだろうか、第三者の声が割って入って来る。
「あのー、すいませんが、ひょっとして、そこに居るのは恭也さまでしょうか?」
タイミングを見事に外された事により、忍は少しだけ気分を害しつつ、見れば分かるでしょうと言い掛けて、その口を噤む。
目の前に立っている美しい金髪の女性に見惚れたというのもあるが、その目を見て、その女性が目が見えない事を知ったためだ。
そんな忍の感情の変化に気付いたのか、その女性は忍へと気にしないでと言うように笑みを向けると、
もう一度恭也の方へと顔を向ける。微妙に位置がずれている女性へと、恭也がその手を取って隣へと座らせる。
「お久し振りです、十六夜さん」
「本当にお久し振りです、恭也さま」
嬉しそうに挨拶をする十六夜を眺めながら、忍が恭也へと尋ねる。
「恭也の知り合いの方?」
「ああ。那美さんのお姉さん薫さんは知っているだろう」
「うん。前に何度か会ったから」
夏休みで海鳴へと来ていた薫と面識はある忍たちだったが、その霊剣である十六夜とはこれが初めてで、どう説明するか恭也は悩む。
「まあ、詳しい事はまた後でな」
恭也の言葉などから、何となくこの場では言えない様な事なのだろうと察した忍たちもそれ以上は追及せず、ただ頷く。
そして、それよりも、と話を元に戻そうとした時、またしても新たな人物が現われる。
「十六夜、いい加減にせんね。すぐに勝手にうろついて……、って、恭也くん!?」
「やっぱり、薫さんも来てたんですね。十六夜さんがいらっしゃったから、予想はしてましたけれど」
そう言って笑う恭也に思わず見惚れそうになりながらも、薫は十六夜へと半分睨むような目付きで視線を飛ばす。
「道理で、勝手に歩いて行くわけじゃ」
「まあまあ、良いじゃないですか」
「良くないに決まってるじゃろう」
「まあ、怖い」
そう言って十六夜はわざとらしく着物の袖で口元を覆いつつ、もう一方の手を恭也の腕と絡ませると、体を恭也へと押し付ける。
恭也が腕から伝わる感触に顔を赤くさせる事を見えなくても理解しながらも十六夜は離す所か、
益々押し付けるように恭也の腕を抱く手に力を込める。
「十六夜、何をしとるね」
「ああ、昔はあんなに可愛かったのに……」
わざとらしく恭也の肩へと顔を伏せて泣き真似まで始める十六夜に、何かを言うだけ不利になると思ったのか、
薫は最も簡単な手段に出る事にした。
即ち、力尽くで引き離そうと二人の腕へと手を掛ける。
「何をするんですか、薫」
「それはこっちの台詞ね」
「恭也さま、薫が私達の仲を裂こうと……」
「変な言い掛かりはやめんね。大体、恭也くんはうちの……」
そこまで言って薫は顔を真っ赤にしてごにょごにょと言葉を濁す。
そんな薫の様子が手に取るように分かる十六夜は柔らかく微笑むと、恭也の腕から手を離して、薫の頭を撫でる。
「くすくす。別段、照れなくても良いのに。本当に、薫は可愛いですね」
「い、十六夜、からかわんで」
「別にからかってませんよ。ねえ、恭也さまもそうお思いになるでしょう」
「ええ。とても可愛いですね」
急に十六夜に聞かれ、恭也はそのまま思ったままに口にする。
それを聞いた薫も、言った方の恭也も共に照れてお互いに視線を逸らす様を十六夜は微笑ましそうに眺める。
一頻りそれを眺めた後、十六夜はもう一度恭也の腕を取り、薫が何か言うよりも先に口を開く。
「確かに、薫と恭也さまの関係は承知してます。ですが、私達のことを認めたのもまた事実ですよ」
「そ、そげな事は分かっているけれど……」
「それに、私が羨ましいのなら、薫もすれば良いじゃないですか。
ここをこうして、こう……」
十六夜は言うや否や、薫の反論も許さないうちに、まるで目が見えているような正確さで薫の手を取ると、
反対側の恭也の腕に薫の腕を絡ませ、自分もまた恭也と腕を絡ませる。
あまりの早業に恭也も薫も思わず茫然としてしまい、気が付いた時には恭也は両腕をそれぞれ薫と十六夜に取られていた。
満足そうな笑みを浮かべて恭也の肩に頭を乗せる十六夜を横目で眺めながら、恭也は薫の耳元にそっと口を寄せて囁く。
「何か、十六夜さんの性格が変わったような気がするんだが……」
「う、うちもそう思う」
恭也の言葉に同意しつつ、薫は僅かに引き攣った笑みを見せていた。
そんな二人の様子を察したのか、十六夜は顔を上げると、悲しそうな顔を見せ、
「内緒話ですか? 私もここに居るというのに、そんな事をされるなんて……。
そりゃあ、薫は正妻ですけれど……」
「い、十六夜、何を言ってるね。うちらはまだ結婚は……」
「まだ、でしょう」
十六夜の言葉に反応して大声を上げる薫だったが、冷静に切り替えしてきた十六夜に対して言葉を詰まらせる。
何となく視線が合い、そのままお互いに赤い顔で見詰め合う恭也と薫だったが、周りがそれを許すはずもなかった。
「きょ、恭ちゃん、正妻って何!?」
「ちょっと、恭也! 詳しい説明を求めるわ」
「師匠、一体全体、何がどうなっているんですか!?」
「お師匠、うちも説明して欲しいです!」
詰め寄って来る四人に対し、恭也は思わず後退ろうとするが、両腕が掴まれたままで下がる事は出来ない。
ふと周りを見れば、FCたちも興味津々といった感じでこちらを見ており、助けを求めれるような状態ではなかった。
更に、間の悪い事に、更なる爆弾が落とされる。
この騒ぎで今まで一言喋らなかった那美によって……。
那美は四人を押し退けるように恭也の胸にしがみ付くと、涙目になりながら恭也の顔を覗き込む。
「恭也さん、ずるいですよ、薫ちゃんや十六夜さんばっかり。
私だけ除け者なんですか!?」
「那美、少し離れんね」
「嫌。だって、薫ちゃんや十六夜さんはさっきからずっと腕を組んでるじゃない。
だったら、私だってその権利はあるもん。でも、腕が塞がっているから……。
私はここ」
そう言って那美は恭也の足の間に体を入れると、そのまま恭也の胸に抱き付く。
「那美! 那美は普段から海鳴にいて、恭也くんの傍に居るじゃなか。
少しは遠慮せんね」
「じゃあ、普段からそんな事しても良いの?」
「それは駄目じゃ!」
「だったら、今する〜」
薫に見せつけるように恭也の首筋に抱き付く那美を、薫が引き離そうとする。
そんな二人の騒ぎを茫然として見守る美由希たち。
その中で、十六夜はただ一人、何かを思いついたのか動き始める。
それを察しが薫が十六夜へと声を掛ける。
「十六夜、何をするつもりね」
「別に大した事ではないですよ。ただ、私も那美のようにしてみようかと……。
丁度、反対側は空いてますし」
言いながら腕を恭也の首へと伸ばしていくが、それは薫に叩かれて振り払われる。
「何をするんですか、薫」
「それはこっちの台詞じゃ。って、那美もいい加減に離れんね」
「薫ちゃん、独占欲が強すぎるよ〜」
「な、何を言って……。べ、別にそげん事はなか」
「本当に?」
「あ、当たり前じゃ」
「だったら、別に良いじゃない〜」
「……だ、駄目じゃ! って、十六夜もどさくさに紛れて、恭也くんに抱き付こうとするな!」
恭也を中心に置いて膝立ちになって言い合う三人の口論に入る隙がなく、忍たちはただそれを眺めるしか出来ない。
疲れたように溜息を吐いた恭也は、ふと目が合った忍たちに助けを求めるが、忍たちはそろって無理と首を横へと振る。
と、その耳が三人によって引っ張られる。
「恭也くん、何処を見てるね!」
「恭也さん、何処を見てるんですか!」
「恭也さま、どちらを見てらっしゃるんですか!」
「ぐっ。い、痛い……」
「那美、十六夜、恭也くんが痛がっているじゃろう」
「薫ちゃんだって引っ張っているじゃない」
「本当に、二人共乱暴ですね」
「十六夜も引っ張っていたじゃろうが」
すぐに解放された耳を擦りつつ、また始まった口論に恭也の口からまたしても溜息が出る。
と、その視界に何かがよぎり、それが何か分かった恭也は手招きして呼ぶ。
トコトコという感じで近づいてきた少女は、そのまま口論している三人に気づかれる事なく、そのまま恭也の膝に座る。
那美が薫たちに気を取られていた為、いつの間にか足の間に居なくなっていたので、難なくその特等席を手に入れた少女は、
自分の周り、正確には恭也を囲んでいる三人を見渡した後、首を傾げて恭也に問い掛ける。
「きょうや、かおるたち、なにしてるの?」
「本当に何をしてるんだろうな。まあ、すぐに済むだろうから、少し大人しく待ってような、久遠」
「うん♪」
恭也の言葉に頷くと、久遠はそのまま背中を恭也へと預けてニコニコと微笑んでいる。
そんな久遠の頭を、恭也は優しく撫でてあげる。
それが嬉しくて更に笑みを浮かべる久遠に、恭也は何となく癒されていた。
しかし、そんな安息な時間は長く続かず、すぐに久遠に気付いた那美が声を上げる。
「久遠、あんたいつの間に!」
「久遠、恭也くんが疲れるじゃろう。ほら、そこから降りて」
「久遠、恭也さまから降りましょうね」
三人の言葉に暫し考え込んだ久遠は、恭也へと直接尋ねる事にしたようだ。
「……ん〜、きょうや、くおん、おりる?」
「別に重くないし、そのままでも……。あ、いや、どうだろうな」
了承し掛けた所で飛んでくる三人の視線に恭也は言葉が尻すぼみになる。
そんな恭也を見て、久遠は三人が恭也を虐めていると思ったのか、恭也を庇うようにその前に立ち、両手を横へと広げる。
「きょうや、いじめたらだめ」
「別に虐めている訳じゃないのよ、久遠」
「那美の言う通りじゃ。うちらが恭也くんを虐める訳ないだろう」
「そうですよ。私達は恭也さまと仲良しですからね」
三人の言葉をゆっくりと理解すると、久遠は一つ頷く。
「きょうや、かおるたちとなかよし」
その言葉に頷く三人を嬉しそうに眺めながら、久遠は言葉を続ける。
「くおんもなかよし」
そう言うと、また恭也の膝の上へと座る。
それを降ろそうとする那美たち三人に不思議そうな顔を見せる。
「どうして?」
「どうしてって。恭也さんが重たいでしょう」
言い聞かせるように告げた那美の言葉だったが、久遠はただ不思議そうな顔を更に深めるだけだった。
「でも、まえにかおるも、きょうやのあしに、あたまをのせてた。
そのとき、きょうやもかおるもしあわせそうなかおしてた」
「ま、前っていつ、久遠」
「その前に、そんな事をしていたのですか、薫?」
「い、いや、そ、それは……」
久遠の発言に顔を真っ赤にして慌てて言い訳を考える薫だったが、頭は真っ白になり何も浮ばない上に、
顔は真っ赤になっており、事実を認めたようなものだった。
恭也も同じように顔を赤くしつつ、空を仰ぎ見て誤魔化していた。
勿論、全く誤魔化しきれていないのだが。
とりあえず、久遠は薫が前に同じような事をしていたから、自分もしていると言っており、薫はどう説得しようか考える。
その横では、那美と十六夜が薫を睨むように見ていたりするのだが。
さっきまでの騒々しさが一変して、静寂へと変わる。
と、その静寂を破るように、遠くから誰かの話し声が聞こえてくる。
しかも、その声は徐々に大きく、つまり、こちらへと声の主が近づいて来る。
「葉弓さんも油断できへんな」
「そう言う楓ちゃんだって……」
「そ、それは……」
「とりあえず、こうなったら仕方がないわね」
「そ、そうや。とりあえず薫には内緒で」
「そうね。ここはお互いに……」
そう言って姿を見せた葉弓と楓は目の前の状況に思わず立ち止まると、乾いた笑みを浮かべる。
「えっと、恭也さん、お久し振りです。薫ちゃんたちも久し振りだね」
「恭也、久し振り。な、何や、薫たちも来てたんや」
ぎこちなく挨拶してくる二人を、薫たちは冷ややかな視線で眺めていた。
ただ一人、恭也と久遠を除いて。
しかし、それに気付かない振りを何とか保ちつつ、恭也の傍へとやって来る。
「えっと、皆、何をしてるの?」
話題を何とか逸らそうと薫たちへとそう問い掛けた葉弓に対し、薫たちはさっきまでのやり取りを思い出したのか、
また言い争そいを始めようとするが、何処か疲れたような笑みを浮かべると、そのまま座り込む。
「何か、バカバカしくなってきた」
「私も……」
「そうですね」
「何の話をしてるん?」
三人の言っている事が分からずに尋ねてくる楓に、薫たちはただ笑みを返すだけだった。
そこへ、ようやく落ち着いたのを感じた忍がすかさず口を挟む。
「あの、これはどういった……」
困惑している一同を眺めながら、どう説明すれば良いのか悩む恭也と薫に代わり、十六夜が説明を始めてしまう。
「簡単に申しますと、薫が恭也さまの正妻という事ですね。
私達が妾といった所でしょうか」
「い、十六夜さん、それはちょっと違うような気が……」
「あら、そうですか?」
恭也の言葉に十六夜はただ不思議そうに首を傾げながらも続ける。
「でも、ここに居る皆が恭也さま以外の方とは結婚しないと申したから、このような形になったのですし」
「いや、まあ、そうなんですが……」
「でも、薫が正妻ってのは納得いかない……」
「それは仕方ないわよ。それに、正妻よりも、妾の家に入り浸るものだから……」
「葉弓さん、何を言ってるんですか! そげな事は許しません!」
「だって、それは恭也さん次第だし」
睨み合う薫と葉弓に、那美が困ったような声を上げる。
「あ、あのー、別々に住む訳ではないんですから」
「確かに那美の言う通りだね。薫も葉弓さんも仕方がないな。
そう思わない、恭也?」
言いながら、楓は皆の隙を付く形で恭也の背中に覆い被さるように抱き付く。
それにより、折角納まったものが再び再燃する。
「楓、離れんね」
「い・や」
「楓ちゃんだけずるい〜」
葉弓は楓を引き離す事よりも、自分も同じ事をする方を選び、恭也へと抱き付く。
それを見た十六夜と那美の行動は素早かった。
薫が何か行動を起こすよりも先に、恭也へと同じように抱き付く。
これにより、薫が抱き付く場所が無くなり、薫は声を荒げるが、全員聞き流しつつも所々で反論を入れる。
「恭也も迷惑しとるじゃろう」
「恭也が何も言ってないんだから、良いじゃないか」
「離れんね、葉弓さんも」
「だから、嫌って言ってるじゃない」
「皆、人前ね。少しは恥じらいを……」
「だったら、薫ちゃんはしなければ良いじゃない」
「いい加減にせんね。少しやりぐじゃなか」
「薫も素直に恭也さまにこうすれば良いじゃないですか」
こんな感じで遣り合っていたが、不意に薫が急に静かになると俯く。
流石におかしく感じたのか、薫の方へと振り向いた那美たちは一斉に驚愕する。
「うっ、うぅ。うちは皆みたいに、人前でそげな事はできん。
だから、恭也が何も言わんなら、もう、もう……」
流石にやり過ぎたかと顔を見合わせる葉弓たちを振り解くと、恭也は薫をそっと抱き寄せる。
「薫さん、泣かないで」
「な、泣いてなんか……」
何か言おうとする薫を遮るように胸の中に抱き寄せると、恭也はそっと薫の背中を撫でる。
薫は不思議と落ち着いていくのを感じながら、そっと目を閉じて身を任せる。
「葉弓さんたちも、少しやり過ぎですよ。
確かに、強く言わなかった俺も悪いですけど」
葉弓たちへと向かってそう言う恭也の服を両手で掴むと、薫は首を横へと振る。
「恭也くん、もう良いから。葉弓さんたちにも悪気がないのは分かってるから」
「薫さんがそう言うのなら」
そう言って納得しながら、恭也はそっと薫の目の端に溜まっていた水滴を指先で拭う。
「あっ」
恭也のその行為に自分が泣いていた事が知られた恥ずかしさから、頬を朱に染めて小さく声を洩らす薫に、
恭也は微笑み掛けながらそっと頬を包むように片手を当てる。
愛しく壊れ物を扱うように優しく撫でる恭也の手の動きに、薫の目が気持ち良さ下に細められる。
そんな薫の仕草を間近で見て、可愛いと思った恭也は半ば無意識のうちにもっと近くで見ようと顔を近づけていた。
それをどう受け取ったのか、薫はそっと目を閉じる。
そんな薫の反応を見て、恭也は自分の取った行動を思い返して、思わず頭を抱えそうになるが、
目の前でそっと目を閉じて、頤を少し上げて待っている薫を見て、それに思わず見惚れる。
同時に頭の奥の方にじんわりとしたものを感じ、まるで引き寄せられるかのようにそのままそっと口付ける。
それは触れる程度の優しいものだったが、とても長く、いつの間にか薫の腕は恭也の首へと回され、
恭也の腕は薫の背中と腰を抱き、徐々に激しさを増していった。
五分近い口付けを終えて二人が離れると、そこには葉弓たちの白い目が待っていた。
それに気付いて僅かに後退る薫へと、葉弓たちから言葉が投げられる。
「私たちがやり過ぎ? どの口でそんな事を言ったのかしらね、薫ちゃん?」
「しかも、薫ちゃんが自分で言った人前で……」
「少しは恥じらいね〜。うちらよりも凄い事をしてたと思うけど?」
「薫も成長したって事ですね」
「……くおんもする」
『駄目! 次は私!』
最後に飛び出た久遠の言葉に、葉弓たちは薫をからかうのを止めて、我先にと恭也の元へと駆け出す。
「葉弓さんは一番年上なんだから、ここは一番最後で」
「那美、一番年上は十六夜さんよ!」
「じゃあ、十六夜さんは最後という事で」
「あら、ここは年上に譲るものでは?」
「くおん〜、くおんも〜」
「皆、落ち着かんね。人前でそげな事……」
『薫(ちゃん)には言われたくない!』
全く説得力のない薫の言葉に、全員が一斉に反論し、薫も何も言い返せずに押し黙るしかなかった。
そして、彼女達の騒動の原因である恭也は、六人の女性に囲まれてただ困惑していた。
「薫だけずるい」
「すいません。さっきはついと言うか……」
「じゃあ、私ともついで」
「葉弓さん、勘弁してください。ここでは……」
「でしたら、ここでなければ良いという事ですね、恭也さま」
「え、えっと……」
「じゃ、じゃあ、放課後とか夜とか、誰も居ない所で私と……」
「な、那美さん、ちょっと落ち着いて……」
「くおん、くおんも」
「久遠もいい子だから、少し落ち着こうな」
「恭也くん、これはもう諦めるしかないよ。
事態を収めるためにも。それに、うちだけというのも、確かに不公平かもしれんし」
「いえ、別にするのが嫌とかではなくてですね……。
皆さん、好きですから。ただ、今はその……」
「だから、今じゃなくても良いって」
「そうそう、楓ちゃんの言う通りよ」
「私はちょっと悲しいですね。薫とはしたのに……」
「十六夜さんの気持ち、よく分かります。恭也さん、薫ちゃんには甘いですよ〜」
「そ、そげな事は……」
「いいや、ある」
那美の言葉に反論しようとした薫を遮って、断定した楓の言葉に全員が頷く。
全員が少し拗ねたような表情を浮かべるのを見て、恭也は一つ溜息を吐くと、薫も含めた全員の頬へとキスをする。
「……とりあえず、今はこれで我慢を」
顔を真っ赤にしながらそう言った恭也に、葉弓たちは最初はきょとんとした顔で頬を押さえていたが、次第に頬を緩め、
嬉しそうに頷く。
それを見て、恭也はほっと胸を撫で下ろすのだった。
こうして、中庭で繰り広げられた騒動に一段落が着いたのだった。
<おわり>
<あとがき>
珠洲宮さんからの200万Hitリクエスト〜。
美姫 「神咲編ね」
そう。メインを薫にして、楓・葉弓・那美・久遠・十六夜でっていうリクエスト。
美姫 「でも、甘々じゃないわね」
努力はしたんだけどな。
やっぱり校内で、しかも複数だと騒々しい方になってしまう……。
美姫 「恭也を共有というよりも、取り合いね」
だな。
うーん、こんな感じになってしまいました。
美姫 「どうでしたでしょうか」
リクエストありがとうございました。
美姫 「それでは、また次のヒロインで」
ではでは。