『An unexpected excuse』

    〜サーヴァント編〜






「俺が、好きなのは…………」

物凄く疲れた顔をして、恭也はここではない何処かへと意識を飛ばしているようだった。
その背中は、まるでその質問に対する答えを聞かないでくれと語っているようでもあり、単に疲れているだけのようでもあった。
それを感じ取り、FCたちは困惑したように、近くの者と顔を見合わせる。
答えを聞きたいのだが、聞き出しにくい雰囲気のまま、時間だけが流れて行く。
どのぐらいそうしていただろうか。
いつまでも続くかと思われたこの状態にも、終止符が打たれる時がきた。
ただし、それを打ったのは、恭也本人ではなく、かと言って、この場にいた誰でもなく、新たな第三者であった。

「キョウヤ、どうしてそこで黙っているのですか」

「恭也、早くはっきりと言ってください」

「そうです、恭也様。この小娘共に遠慮せずに素直に仰ってください」

背の低い金髪の綺麗な女性、モデルかと見間違えるばかりに均整の取れたプロポーションと長身を持った長い髪の女性、
そして、これまた人間かと疑わせるような神秘的なものを感じさせる美しい女性の三人が突然、現われる。

「メディア、それはどういう意味ですか?」

「ええ、私も詳しく知りたいですね。場合によっては……」

金髪の女性と長身の女性が揃って、もう一人を睨み付ける。
その視線を軽く受け流しつつ、メディアと呼ばれた女性は、涼しい顔のまま告げる。

「場合? 私はただ、本当のことを言っただけですわよ。
 恭也様が一番愛しておられるのが、この私だという事をね」

「そのような戯言は、例え戯言とはいえ、言わないで頂きたい」

「ええ、まったくです」

「あら、負け惜しみですか? アルトリアにライダーともあろう者たちが」

二人の言葉に、メディアは余裕の笑みを湛えたまま二人を見る。
それに対し、金髪の女性──アルトリアが声を荒げる。

「冗談も休み休みにしてください。そもそも、最初にキョウヤと契約したのは、この私なんですから。
 キョウヤも、ちゃんと私の事を……、その、あ、愛してくれましたし」

少し顔を赤くしつつ言い切ったアルトリアの言葉を、長身の女性──ライダーが嘲るように笑い飛ばす。

「こういった事に順番などありません。そもそも、それを言うのなら、私だって恭也とは……」

「あら、それを持ち出すのなら、当然、私もあるわよ」

誰もが他の二人を牽制するように睨み付け、激しく火花を飛び散らせる。
そんな三人の様子を眺めつつ、恭也は本当に疲れたように重い、重い、溜め息を吐き出す。
その恭也を取り囲むように、三人は移動すると、口々に恭也へと話し掛ける。

「キョウヤ、この分からずやたちのためにも、早く言ってあげてください」

「恭也、遠慮はいりませんから、正直に言ってあげてください」

「恭也様、この小娘共に現実というものを、はっきりと分からせてあげるべきですわ」

「……あー、色々と言いたい事はあるんだが、まず、どうしてお前たちがここに居るんだ?」

「それは簡単な事です」

恭也の言葉に、アルトリアがさも当然とばかりに頷く。
そのアルトリアの言葉に続けるように、ライダーが言う。

「私たちがお昼を食べ終えた後の事です。
 三人で話していた時、恭也の身に何かあってはいけないという話になりまして……」

「丁度、暇だったものですから、私が恭也様の現状を水晶に映し出したんです。
 そしたら、こんな事になっているじゃありませんか」

「それで、ライダーのペガサスに乗って、急いでここに来たという訳です」

最後にそうアルトリアが締め括ると、恭也は頭でも痛いのか、軽くこめかみを揉むような仕草をした後、メディアへと話し掛ける。

「あー、どうして、俺の様子を見ることが出来たんだ?
 この間、俺の服に付けられていた、怪しげなモノは取り外したはずなんだが」

「それは、アレですわ」

メディアの指差す先には、黒い小さな鳥が木の枝に止まって、じっと恭也を見ていた。

「使役魔という奴か……」

納得がいったのか、諦めたのか、恭也はそれだけを呟く。
そんな恭也に対し、メディアが頬を染めながらその耳元へと囁く。

「ええ、そうです。でも、その所為で魔力を使ってしまったので、今夜また……」

「メディア! 貴女は何て卑怯な事を。
 第一、あの程度の使役魔を使ったぐらいで、魔力が足りなくなる訳がないでしょうが!
 ライダーも何とか言ってやってください」

メディアの言葉に、激昂しながらアルトリアが叫ぶ。
それを聞き流しながら、メディアは恭也の肩へとしな垂れかかる。
その動きを、途中でライダーが遮り、それによって睨みつけてくるメディアを綺麗に無視して、恭也へと話し掛ける。

「恭也、私はメディアとは違って、不当な請求はしません。
 ただ、二人に急かされて、宝具を使ったものですから、当然、メディアよりも圧倒的に魔力不足です」

「ライダー! 貴女まで!」

「何ですか、アルトリア。魔力が充分に足りている貴女は黙っていてください」

「そ、そうですわ。今は、私とライダーのどちらかを選んでもらわなければいけませんの」

「……そうですか。つまり、私も魔力を消費すれば、口出ししても良いと言うんですね」

そう告げるアルトリアの周りを、風が渦巻く。
まるで、何かから解き放たれようとするかのように勢いを増していく風に、恭也たち三人は慌てる。

「ば、馬鹿。止めろアルトリア。こんな所で」

咄嗟にアルトリアの両腕を押さえるように抱き付くと、恭也はアルトリアを落ち着かせるように声を掛ける。

「落ち着け、アルトリア。こんな所で、宝具を使うな」

「…………すいません、キョウヤ。少し取り乱してしまいました。もう大丈……。
 いえ、少し疲れたので、もう少しこのままで」

アルトリアはそう言うと、恭也の腕に抱かれながら、その胸に顔を埋める。
それを見て、両側から引き離しに掛かるライダーとメディア。

「どさくさに紛れて、何をしているんですか貴女は」

「さっさと離れなさいよ」

「嫌です。貴女たちにそんな事を言われる覚えはありません」

恭也を中心に、三人が密着するように暴れる。
これによって、恭也は痛みに顔を顰めつつ、

「と、とりあえず、三人共少し離れてくれ」

恭也の言葉に従い、やっと離れた三人にほっと胸を撫で下ろしつつ、恭也は三人を見渡す。
恭也に見詰められ、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにはにかむ三人に、恭也ははっきりと告げる。

「俺は三人とも同じぐらい好きだ。誰か一人は選べない。
 前にも、言ったと思うが、その気持ちに変わりはない。
 三人にとっては、嫌な事だろうけれど、許してくれ」

「そ、そんな謝らないでください、キョウヤ」

「そ、そうですよ。私たちも、それで良いと了承したんですから」

「そうですわ、恭也様。ですから、そんな事を仰らないでください。
 私たちは、ちゃんと分かってますか」

「だったら、今の喧嘩は?」

「あれは、一種のコミュニケーションというやつですよ、ほら」

「晶やレンがやっているようなモノだと思ってください」

「そういう事です」

三人の言葉に、恭也はとりあえずは納得してみせる。
しかし、すぐさま、メディアが恭也の耳元へと囁く。

「でも、魔力の消費は本当なんですよ」

「私もです」

続き、逆側からはライダーが囁く。
そんな二人に対し、アルトリアは拗ねたような顔をしていたが、やがて決意したように恭也へと近づくと、

「私は魔力補充のためではなく、そのキョウヤと……」

「アルトリア、それは私も同じに決まっているでしょう」

「メディアの言う通り。口実に決まっているでしょう」

「「……あっ」」

二人は言ってから、失言に気付き、慌てて口を紡ぐが既に遅い。
恭也はそんな三人を見渡し、疲れたように言う。

「今日は、休みの日だったと思うんだが……」

「そ、それは分かっていますが、その、昨日の事をメディアが自慢たっぷりに聞かせてきたので……。
 私にも同じ事を、と」

顔を赤くさせて言うアルトリアに続き、ライダーも無言で頷いている。
それに対し、メディアも言いたいことがあるのか、その口を開く。

「それを言うのなら、私だって、二人にしたような事をしてもらいたいです」

「……だが、今日は休みだから。次の番まで……」

「「「嫌です」」」

三人の声が見事に揃う。
何で、こんな時ばかりとか思いつつ、それを口には出さず、恭也はただ三人を見渡す。
それを受け、三人は顔を見合わせると、目と目で会話をし、やがて頷き合う。

「「「でしたら、今日は三人一緒で」」」

「俺の休みは……」

恭也の疲れたような呟きは、三人に聞かれる事なく、風に流される。
聞こえていない、もしくは、聞こえない振りをしている三人を眺めながら、恭也は今日、何度目かになる溜め息を吐き出す。
日々、三人と代わる代わる魔力補充の名目の元、鍛練の後も夜遅くまで起きている事の増えた恭也は大変疲れていた。
しかも、この三人は事ある毎に、その時の事を自慢するように、自分がどれぐらい愛されているのかと他の二人に言う。
それを聞き、嫉妬するのである。
その所為で、他の二人が自分の番の時に、前に誰それにやったのに、といった感じで言ってくるのである。
それに応える恭也も恭也なのだが。
流石に、かなり疲れるようで、いつしか、一人一日交代で、その後は一日の休みという事になったはずなのだ。
そして、今日がそれに当たるはずなのだが、この様子では休みはなくなるだろう。
疲れた目で周りを見渡せば、既にFCの姿はなく、美由希たちはただ哀れむような視線を向けてくるだけだった。
視線を空へと上げつつ、それでも、正直、こんな生活に慣れつつあり、身体もそれに応じて慣れてきているのを実感する。
慣れとは本当に怖いものだと思いつつ、実際には、この生活が嫌ではなく、かなり気に入って、いや、幸せだと感じている。
三人一緒などという、物凄い我侭を笑顔で受け入れてくれた三人にも感謝している
それでも、偶には休みが欲しいと思わずにはいられないのは、まあ、仕方がない事だろう。
幸せを噛み締めつつ、ゆっくりと視線を嬉しそうに笑い合う三人へと移しながら、
明日は今日の分の休みが貰えるのだろうか、などと考えるのだった。







余談だが、三人順番で交代というローテーションに、三人一緒というのが加わり、休みが来るサイクルが少し伸びた上に、
恭也の負担が増える事になるのは、すぐ未来のお話。






<おわり>



<あとがき>

Fateで、サーヴァント編〜。
美姫 「三人一緒ね」
おう。
美姫 「さて、それじゃあ、次は誰かしらね〜」
誰だろうね〜。
美姫 「それでは、また次回でね〜」
ではでは。







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