『An unexpected excuse』

    〜大河編〜






「俺が、好きなのは…………」

「やっほー。こんな所に居たのね」

恭也の言葉を待っていたFCたちが、突然、現われた女性の脳天気な声に、思わずずっこけそうになる。

「ふ、藤村先生ぃぃ」

誰かが情けない声を上げるのを、首を傾げて不思議そうに見遣りながら、まあいいか、とすぐに自分の話へと戻す。
いつもの事と言えば、いつもの事なので、藤村を良く知る生徒たちは呆れながらも何も言わない。
藤村を良く知らない生徒たちも、噂を聞いている者や、先生という事で、とりあえずは大人しくしている。
そんな生徒たちの反応に気付いていない大河は、恭也の元へと来ると、朗らかな笑みを浮かべて言う。

「今日も、家にお邪魔するから」

この発言に、FCたちの間にざわめきが走る。

「何で、藤村先生が高町先輩の家に……」

「それよりも、今日もって、もって何!?」

「つまり、初めてじゃないって事!?」

ひそひそと話し出すFCを眺め遣り、恭也は大きな溜め息を吐き出し、美由希たちはただ苦笑している。

「でも、藤村先生って、最近、産休した先生の代わりに来たはずよね」

「あ、確かに」

「って事は、前から知り合いだったとか……」

様々な憶測が飛び交う中、そんなのは全く気にならないのか、大河はレンのほうを見る。

「ねえねえ、確か、今日の晩御飯の当番はレンちゃんだったわよね」

「あ、はい、そうです」

「今日のメニューは何かしら。とっても楽しみ〜」

一人喜ぶ大河に、恭也が苦笑しながら、呆れたようにふと洩らす。

「人の家の食事当番を、何故、そんなにはっきりと把握しているんだか……」

「いいじゃない〜。それだけ、二人の料理をしょっちゅう食べてるって事よ」

「二人の料理じゃなくて、それだけ頻繁にうちに出入りしているという事じゃないのか」

「あははは。細かい事は気にしない、気にしない」

「いや、少しは気にしてくれ、頼むから」

「もう。恭也はすぐに小言を言うんだから。
 こんなに美人なお姉さんが毎日のように、家へと通い妻してあげてるんだから、少しは感謝しなさいよね」

「いや、別に何の家事もしてないだろう。
 それどころか、うちの食料を漁る、何処からともなく怪しい物を拾って来ては、うちに置いておくと、とてもではないが……」

「ああー、もう五月蝿いわね。私は、恭也の恋人なんだから、それぐらい良いでしょう」

「関係あるか!」

「あー、もう、可愛くないわね。そんな口をよくも叩けるわね」

「ほう、やると言うのか。丁度、良い。今日、家に帰ったら、道場で久し振りに打ち合うか」

「……あ、あははは。……うぅ、ごめんなさい」

恭也の言葉に、大河はすぐさま謝る。
大河を凹まし、小さな優越感に浸っていた恭也だったが、周りの反応がおかしい事に気付く。

「高町先輩、藤村先生と付きあってるんですか?」

一人の生徒が思い切って聞いてくる言葉に、恭也は驚いた顔を見せる。

「どうして、それを」

「恭ちゃん、恭ちゃん。さっき、藤村先生が自分からばらしてたじゃない」

美由希の言葉に、恭也と大河は思い返すように目を閉じ、顎に手を当てる。
やがて、思い出したのか、二人揃って小さく声を上げる。

「何を考えてるんだ! 何で、自分からばらす!」

「あ、あれは、なんと言うか。仕方がなかったのよ。そうよ、不慮の事故という奴よ。
 不可抗力なのよ! ……って、何、その拳。あ、どうして、笑みを浮かべつつ、近寄ってくるのかな?
 滅多に笑わない恭也の笑顔が見れて、ちょっとラッキーって感じはしないでもないけど、
 笑顔に反して、目が笑ってないような気もするんだけどな〜、先生は。
 その全身から、威圧するような空気は勘弁して欲しいかな〜。あ、あはははは」

そんな二人のやり取りを目の前で見せられ、FCの一人がぼそりと呟く。

「そんな……。高町先輩と大河先生が……」

途端、大河が吠えた。

「タイガーって言うなぁぁぁぁぁ!」

「わぁー、藤村先生、落ち着いて! 誰もタイガーなんて言ってませんよ!
 大河先生って言ったんですよ!」

忍と美由希が二人掛りで、何とか大河を取り押さえる。

「えっ!? そ、そうなの?」

恭也とのやり取りで聞き間違えたと理解して、それでも確認の為に訊ねてくる大河に、二人、いや、晶たちも首を縦に振る。

「何だ、そうだったのか。いや〜、先生の勘違いよ。ごめん、ごめん」

「はぁ〜。もう、良いか」

すっかり毒気を抜かれた恭也は、FCたちに大河を親指で差しながら言う。

「まあ、そういう訳なんだ」

恭也から告げられた事で、やっと納得したのか、FCたちはその場を後にする。
それを見送る恭也の背後から、大河の声が聞こえてくる。

「所で、美由希ちゃんに忍ちゃん。さっきから、私の腕に当たっている、この柔らかい感触は……」

「「あ、あははは〜」」

その場所へと、大河だけでなく、那美たちの視線も向かう。
と、二人は笑いながら、急いで大河から離れると、恥ずかしそうに胸を両腕で隠す。

「良いな〜、美由希さんも忍さんも……」

「うぅ。俺ももう少しだけ欲しいかも」

「う、うちにはまだ将来がある……」

そんな会話を恭也は少し頬を赤らめながら、聞こえない振りを装う。
大河は会話に加わらず、ただじっと二人の胸元へと視線を向けている。
やがて、低い声がその口から零れる。

「むっ、むむむむ。二人とも、また大きくなったわね」

その言葉に、那美たちの目に非難めいたものが混じり、再び全員の視線がソコへと向かう。
それを否定も肯定もせず、美由希と忍は僅かに数歩後退る。
その分だけ、前へと進み出ながら、大河はまたしても低い声を出す。

「美由希ちゃんも忍ちゃんも胸おっきいもんねー。
 …………………………………………その肉を、ワケロ!」

「や、止めて下さい、藤村先生!」

「って、那美さんや晶まで何してるのよ」

何やら後ろで凄い事が起こっていそうな気配を感じつつも、
自分に飛び火するのを恐れ、恭也はただじっと前方の何もない所を見詰める。
しかし、トラブル大好きな女神は、そんな事を許すはずもなく。

「ねえ、恭也も胸は大きい方が良いと思う?」

「ぶっ! ば、な、何を言って」

「だって、恭也ってば、胸ばっかり触るじゃない」

「馬鹿か、お前は! 何を口走ってる!」

恭也は大河に拳骨を落とすと、すぐさまその頬を両側に力一杯引っ張る。

「い、いひゃい、いひゃい」

やがて、恭也の手が離れると、大河は頬を擦りながら、恨めしそうに見る。

「うぅ、ほっぺが取れたら、どうするのよ」

「あれぐらいでは取れないから、安心しろ。
 それに、その方が、照れているみたいで可愛いぞ」

「え、本当? そっか、えへへへ〜」

非常に扱いやすいな、とか考えながら、恭也は話題が逸れた事にほっと胸を撫で下ろす。
しかし、大河の向こう側では、美由希たちが顔を赤くしながら、恭也をじっと見ていた。
それを手で追い払うと、恭也は未だに俯いて喜んでいる大河の頭に手を置く。

「ほら、それよりも、そろそろ次の授業が始まるぞ」

「あ、そうだね。早く戻らないと……」

そう言って、頭の上に置かれた恭也の手を取り、手を繋ぐと、その手を大きく振る。

「あ、こら、恥ずかしいだろうが」

「気にしない、気にしない」

「全く、いつまで経っても子供みたいなんだから」

ぶつぶつと文句を言いながらも、大河の好きにさせる所、結局は恭也も大河の事が好きなのだろう。
大河もそれが分かっているからなのか、時たま甘えるように無茶な事を言ってくる。
でも、まあ、この程度なら可愛いものか。
そう胸中に呟きながら、恭也は大河と一緒に校舎へと入って行くのだった。





<おわり>




<あとがき>

という事で、今度はFateから大河でした。
どうだ。予想外だったんじゃない?
美姫 「まさかとは思うけれど、単に意表を付きたかったから、大河編を先に書いたって事は……」
さーて、次は誰にしようかな〜♪
美姫 「図星なの!?」
あ、あははは。いや、それだけではない! ……と思う、思いたい、今日この頃。
美姫 「はぁ〜、益々、馬鹿に拍車が……」
し、失礼な。
美姫 「まあ、良いわ。とりあえず、今回はこの辺で」
また次回!
美姫 「じゃ〜ね〜」







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