『An unexpected excuse』

    〜早苗編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あ、恭也さん、こんな所にいたんですね」

恭也の言葉を遮るように、いや、本人は遮ったという自覚もないだろうが、一人の人物が現われる。
その人物は手に何やら包みを持ち、のほほんとした雰囲気を纏っている。
突然の来訪者に、FCたちの視線がそちらへと移る。

「あの、高町先輩、そちらの女性は……」

その言葉を聞き、その女性は丁寧に頭を一度下げてから起こすと、首を少し傾けて笑みを見せる。

「私、二年D組の古河早苗と申します」

美由希たちは既に顔見知りらしく、そちらへは軽く挨拶をする。
そんな早苗に、恭也が不思議そうに訊ねる。

「今日は、一緒に昼を取れないんじゃなかったのか?」

「ええ。今日は家庭科の授業が調理実習でしたから、お昼はもう済ませました」

早苗の料理の腕を知っている恭也は、実習とは思えないような料理を作ったんだろうと考えていた。
そこへ、早苗が言葉を続ける。

「それで、少し時間が空いたので、こんなのを作ってみたんですけれど……」

そう言って、早苗は持っていた包みを開いて見せる。

「ほう、パンか」

「はい」

「しかし、よく材料があったな」

「ええ。他の班の方が、パンを作っていたみたいで。
 材料が余ったとの事でしたので、少し頂いて作ってみました」

「そうか。じゃあ、ありがたく頂こうかな」

「美由希さん達の分もありますから」

早苗の料理の腕を知っているのは、恭也だけではないので、この言葉に美由希たちも嬉々としてパンを手に持つ。
それを見ながら、早苗は申し訳無さそうな顔をFCたちに向ける。

「申し訳ございません。こんなにたくさんの方たちがいらっしゃるなんて知らなかったので、恭也さんたちの分しか……」

その言葉に、FCたちは気にしないでと声を掛ける。

「ありがとうございます。もし、今度機会があれば、その時に」

そう言って微笑んだ早苗は、パンを齧ったままで動きを止めた美由希たちを不思議そうに見る。

「どうかしましたか?」

「えっと、早苗さん……。これは、一体……」

「パンですけれど?」

訊ねてくる美由希に、さも当然という顔で返す早苗。
しかし、それを口にした者は一様に、似たような表情を浮かべていた。

「恭也さん、どうですか?」

「いや、まあ、個性的な味だな」

「そうですか? 個性的というのがよく分かりませんが、気に入って頂けたのなら嬉しいです」

本当に嬉しそうに笑う早苗を見て、恭也も頬を緩める。
しかし、美由希たちは相変わらず動きを止めたまま、

「恭ちゃんは、愛情が感じられるから良いだろうけど……」

「わ、私はちょっと無理かも……」

「お、同じです」

「お、俺もこれは……」

「う、うちはそれよりも、何で料理が上手なはずの早苗さんが、こないなんを作ったんかが……」

「皆さん、どうかしましたか?」

「お、美味しくないんです」

果たして、誰が呟いたのか。
思わず口から出たその言葉は、はっきりと早苗の耳へと届き、途端に早苗の目に涙が盛り上がる。

「ば、馬鹿!」

恭也がそう言うも既に遅く、早苗は二、三歩よろめくと、

「わ、私のパンは、美味しくなかったんですねーーーーー!」

叫びつつ、くるりと背中を向けて走り出す。
茫然とそれを見送る一同の中、恭也は一人、残っていたパンを二、三個掴み上げ、口へと放り込み、

「俺は好きだー!」

そう叫んで早苗の後を追う。
後には、ただ茫然と事の成り行きを眺める美由希たちが残された。
そんな中、やっとの思いでFCの一人が美由希たちへと話し掛ける。

「えっと、つまり……」

「あ、うん。まあ、そういう事かな」

「気付きませんでした……」

「まあ、恭也も隠してたみたいだしね。でも、それも今日でお終いね……」

そう呟くと、忍は早苗と恭也の向かった先、校舎へと目を向ける。
忍の目には、廊下を走る早苗と、それを追いかけている恭也の姿が見えた。
目に涙を湛えて走る早苗と、その後をパンを加えて「好きだー」と、叫びながら走る恭也。
それで二人の関係がばれるかどうかは別として、誰も二人が無関係とは思わないだろう。

「おーおー、今度は三階を走ってるわ」

「まあ、早苗さんの事は恭ちゃんに任せておけば大丈夫だよね」

美由希がこの場を纏めるようにそう言うと、全員が頷くのだった。
因みに、とうとう屋上まで走った早苗をようやく恭也が捕まえたのは、予鈴も鳴ろうかとする時間だった。
更に、二人揃って、午後最初の授業には姿を見せなかったらしい。
以降、早苗がパンを作る度に、同じような出来事が繰り返され、いつの間にか風校の名物の一つと化していたのは言うまでもない。







早苗が卒業後すぐ、一人の女の子、渚を生み、この子が風校へと同じように通うようになった頃、
当時を知る者によって、この出来事が娘に伝えられるという事を、この時はまだ、二人共知らない。
そして、娘もまた、同じような事をしたのかどうか、それは分かっていない。





<おわり>




<あとがき>

美姫 「この馬鹿!」
うがぁ! い、いきなりかよ。
美姫 「またしても、またしても、違うジャンルを持ってきて!
    この馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 他にも書かないといけない子たちがいるでしょう」
えっと、ことみとか智代だな!
美姫 「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!」
ぐげっ! ぐがぁ! がはぁっ!
わ、分かったよ。きょ、杏を忘れていたんだな。
美姫 「本当に、頭をかち割るわよ」
うぅぅぅ。ひゃ、百科事典は痛いぞ……。
美姫 「全く、この馬鹿は。はぁ〜」
あ、あははは。まあ、今回はギャグみたいなもんだし。
美姫 「そんな言い訳はいらないわよ!」
ご、ごめんなさい……。
美姫 「はあ、それで次は誰なのよ?」
……さあ?
美姫 「やっぱり、いっぺんしめるわ、アンタ」
いや、既に何度もやられてますって。
美姫 「問答無用!」
うぎょぉぉぉぉぉ〜〜!!







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