『An unexpected excuse』

    〜ハーレム編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也はそこで言葉を区切ると、ふと空を見上げ、どこか、ここではない何処か遠くを見詰める。
その憂いを帯びた眼差しに、FCたちはただ言葉を忘れて見惚れる。
一方、事情を知っているのか、恭也と親しい美由希たちは、その恭也を見て、何か思い当たるのか、
苦笑にも似た笑みをその顔に貼り付け、ただ恭也の横顔を眺めている。

「何処で、何をどう間違ったんだろうな……。
 まさか、こんな事になるなんて。俺も自分がここまで優柔不断だったとは気付かなかった……」

ブツブツと呟き出した恭也に、FCたちは怪訝な顔を見せるが、じっと恭也が答えるのを待つ。
そこへ、恭也を呼ぶ声が響いてくる。

「恭也!」

怒鳴るように叫ぶなり、恭也の元へと走って来た一人の少女は、恭也の傍まで来ると足を止める。
肩を上下させて呼吸を整えると、きっと眦を上げるように睨み付けると、手に握ったものを無言で差し出す。
それを受け取り、何か確かめてみると、それは一冊のノートだった。

「ああ、これは次の授業で使うやつじゃないか。一体、どうして、これをリリィが」

「どうしてじゃないわよ。あれ程、出かける前に忘れ物はないか聞いたのに、忘れて行ってるんだもの。
 全く、そういった所は、まだまだなんだから」

「ああ、すまなかった。でも、助かったよ」

「別に、礼を言われるような事でもないけど……」

恭也の言葉に、リリィは照れたように俯く。
途端に、可愛くなるリリィに恭也はも照れたようにそっぽを向く。
そこへ、声が掛けられる。

「リリィさん、一人だけ先に行くのはずるいのでは」

「リコまで来たのか」

「私が来ては、何か都合が悪いのですか、マスター。
 そもそも、そのノートは私がマスターの部屋を掃除中に見つけたものです」

「そ、そうか、リコもありがとうな」

リコの頭に手を置き、そっと撫でると、リコは小さく声を漏らし嬉しそうにはにかむ。
それを少し面白く無さそうに横で見ていたリリィに気付き、恭也はどうかしたのか問う。

「別に、何でもないわよ」

「そうか。なら、良いんだが。それはそうと、他の連中は……」

恭也が最後まで言い終えるよりも先に、その背中に飛びついてくる者がいた。
気付いてはいたが、避ける訳にはいかず、大人しく背中に飛び乗られる。

「ふっふっふ。誰じゃと思う、恭也」

「……クレア、さっさと降りてくれ」

「むう、そんなにあっさりと当てられると、つまらんな。
 しかし、それも恭也の愛ゆえと思えば、逆に嬉しくもあるな」

「とりあえず、降りてくれると、俺としては嬉しいんだが」

恭也の言葉が聞こえていないのか、クレアは恭也の首に腕を回すと、
その背中にぴったりと張り付き、恭也の耳の裏辺りに頬を摺り寄せる。

「えっと、クレア? 俺の言葉が聞こえてるか」

「ああ、聞こえてるぞ。しかし、それは却下じゃ。
 もう少しこうしていたいからな」

「…………」

クレアの言葉に、恭也はただ苦笑するだけでそれ以上は何も言わない。
そんな恭也の様子に、リリィとリコがこれまた顔を歪める。
そこへ、またしても声が掛かる。

「はぁー、何とか追いついた。って、既に渡し終わった後だよね、あ、あははは」

長い髪をそのまま後ろへと流した女の子は、目の前の状況を見て、そう判断すると疲れたような笑い声を上げる。

「未亜まで来たのか」

「あ、あはは。だって、リリィったら、一人でノートを掴んで、いきなり家から出て行くんだよ。
 酷いと思わない。誰が、恭也さんにノートを届けるのか話し合っていたのに」

未亜の言葉に、リリィはバツが悪そうな顔をした後、すぐに真っ直ぐに見詰め返すと、

「し、仕方がないでしょう。あのままだったら、間に合わなくなってたかもしれないんだから」

「それはそうだけど、でも、ずるい。……って、クレア王女、何をしてるんですか!」

恭也の背中で未だに甘えているクレアに気付き、未亜が声を上げる。
呼ばれたクレアは、未亜を一瞥すると、再び恭也に甘えるように、まるで猫が喉を鳴らすようにして頬擦りする。

「むぅ」

それを見て、頬を膨らませた未亜だったが、すぐに何かに気付いたのか、恭也の方へと近寄る。

「恭也さん、動かないでね」

「あ、ああ。とりあえず、何をするのかは分からないが、穏便にな」

「大丈夫ですよ」

クレアを引き離すのだろうと推測した恭也は、一応、そう言って諭すが、未亜は笑顔のまま頷く。
そして、そっと手を伸ばし、その腕を掴むと、自分の腕で締め上げる。
と言っても、そんなに強くではないので、痛くはないだろうが。
これには、逆に恭也の方が困惑して、戸惑ったように未亜へと話し掛ける。

「えっと、未亜。一体、何を……」

「何って、背中はクレア王女が独占してるから、私は恭也さんの左腕を独占〜」

「いや、そういう事ではなくてだな」

そう、未亜が取ったのは、恭也の左腕だった。
恭也の言葉も何処吹く風といった様子で、未亜は肩に頭を預けるように首を傾けて、幸せそうに微笑む。
それを見て、二人も行動を起こすが、僅かばかりリリィの方が早く、恭也の右腕をリリィが取る。
リコは恨めしそうにリリィと未亜を順に睨んだ後、良い事を思いついたのか、そのまま恭也の正面へと立つ。

「どうした、リコ。いや、それよりも、この二人、じゃなかった、三人を離してくれ」

「マスター、少し動かないで下さい」

「あ、ああ。頼むぞ」

恭也の言葉に一つ頷くと、リコはくるりとその場で回り、恭也に背中を見せる。
と、そのまま数歩後ろに下がり、そのまま、ぽふっとでも表現するような軽やかさで恭也へと凭れ掛る。
結果、恭也の胸の中に収まる形となったリコは、自分の行動に大変満足したように何度か頷くと、
空いていた恭也の両方の手の平を、自分のそれでそっと握ると、笑みを浮かべる。

「…………」

思わず言葉を無くしてその場に立ち尽くす恭也だったが、どれぐらい経ったか、我に返ると、

「おい、お前ら、少し離れてくれ」

そう懇願するように告げる。
それに対し、四人は声を揃えて、一斉に恭也の顔を見る。

「「「「嫌なの?」」」」

「いや、そういう事はないが……」

こう言ってしまった恭也の負けである。
慌てて言い募ろうとするが、既に後の祭りであった。
そこへ、また新たな者が現われる。

「師匠〜。やっとみつけたでござるよ、って、これは何事でござるか!?
 リリィ殿に未亜殿。おまけに、リコ殿にクレアさままで。
 ぬぬぬ。拙者が道に迷っている間に、なんという事でござるか」

「道に迷ったのか、カエデ」

「い、いや、これには海よりも深い事情があるのでござるよ。
 実は、ここに来る途中、大きな荷物を抱えたご老人とお会いしまして。
 その方に代わり、荷物をお運びしたまでは良かったのですが、気付けば見知らぬ場所。
 幸い、来た方向は覚えていたので、こうして何とか戻ってこれたという訳でござる」

「そうか、それは良い事をしたな」

「はい! それなのに、それなのに……。
 拙者が道に迷い、四苦八苦する中、リリィ殿たちは、このような羨ましい事を……。
 拙者の場所がないではござらぬか」

「いや、そうじゃなくて、こいつらを止めてくれ」

「師匠。師匠は、未亜殿たちとはそういう事はしても、拙者とはしたくないと申すか。
 うぅぅ、悲しいけれど、師匠がそう申すなら、拙者は我慢するでござるよ。
 しかし、しかし、目の前でそれを見せ付けられるのは、あまりにも辛いでござる」

「いや、別にカエデとこうするのが嫌という訳ではなくてだな」

「その言葉、誠でござあるか。拙者とも、そのような事をしても」

「ああ、別に嫌じゃない。ただ、今は……」

「ううぅぅ、感激でござるよ。拙者、師匠に嫌われていなかったんでござるな。
 もし、師匠に嫌われたら、拙者、拙者、生きていけないでござるよ」

「いや、そんな大げさな」

「大げさではござらん。と、それはさておき……」

「そうだ。さっさとこいつらを……」

引き離してくれと恭也が頼む前に、カエデは恭也の右側から腰に抱き付く。

「カ、カエデ、お前まで何をしている」

「何とは? これまた可笑しな事を言われる。
 拙者も師匠に、その、だ、だ、だだだ、抱きつかせてもらっているでござる」

顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにカエデは腰に回した腕に力をそっと込める。

「場所がここしか空いてなかったのは、非常に残念でござるが、こればかりは仕方ないでござる」

「そうじゃなくてだな……」

しかし、恭也の言葉を聞く者は誰もいない。
いや、聞く者は居るのだが、離れるものは居ない。
FCたちも次から次へと現われては、意味深な事を言う少女たちを前に、ただ茫然とこの事態を眺めるしか出来ない。
美由希たちは、事情をある程度は知っているのだろうが、助ける様子は全くなかった。
それどころか、約一名においては、この事態を楽しそうに観賞し出す始末である。
恭也がそれらを一瞥して、一度空を仰ぐと、遠い目をして、大きな、それはもう大きな溜め息を長々と吐き出す。
しかし、そんなちょっとした事すら許されないのか、完全に吐き出すよりも早く、前方から凄まじい速さで飛来した何かが、
カエデとは逆の位置から腰へと抱きついて来る。
勢いの付いていたその抱きつきに、不意を疲れた形となった恭也は、そのまま倒れ込む。
勿論、恭也に抱き付いていた四人、いや、新たに抱き付いて来たものを加えて五人もろとも。
幸い、誰も怪我する事なく、地面へと座り込む形となる。
それでも、まだ恭也に抱き付く手を緩めていない辺りは、流石としか言い様がない。
それはさておき、いきなり抱き付いて来た人物は、そのまま腰に顔を埋めて、左右へと顔を振る。

「ダーリン、私だけ置いてけぼりは酷いですの〜」

「ルビナスまで来たのか」

「ええ、そうよ。でも、私だけじゃないわよ。
 全員が、先に出たリリィを追って、ここに向かっているはずだもの。
 この意味、分かるわよね」

先程とは違う口調、少し年上を感じさせる口調と雰囲気でそう告げたルビナスの言葉に、恭也は疲れたように肩を落とす。
そして、ルビナスの言葉を証明するように、目の前に二つの影が落ちる。

「マスター、どういう事でしょうか、これは」

「私も、今のこの状況を説明して欲しいな」

冷ややかな眼差しで、恭也を見下ろす二人の女性。
うち、一人は恭也の胸に凭れ掛かっているリコと瓜二つの顔をしていた。

「説明と言われてもな。俺にも何が何やら……」

「つまり、見たまんまという事で宜しいのですね」

「いや、それは少し違うと思うんだが……」

恭也の言葉を聞かず、イムニティはやや強引にリコと恭也の間に割り込む。

「何をするんですか」

「少しぐらい良いでしょう。私が来るまでの間、ずっとこうしていたんでしょう」

イムニティの言葉に、リコは仕方が無さそうに肩を竦めると、少しだけ横にずれて、イムニティへと場所を譲る。

「これで良いでしょう」

「まあ、良いわ」

恭也の右胸と左胸にそれぞれ頬を摺り寄せつつ、そう言葉を交わす二人を見下ろし、

「俺の意見も聞いてくれると、非常に嬉しいんだが……」

そんな恭也の呟きは、ただ虚しく響くだけだった。
そんな一同を見下ろし、ロベリアも自分が抱き付く場所を探すが、既に取り付けそうな場所もなく、恭也の背後へと回る。

「王女よ、そこを代われ」

「いやじゃ」

にべもなく言い放つクレアに、ロベリアはこめかみを引き攣かせつつ、深呼吸をすると、恭也の左側から腕を前に回す。

「なら、半分で良い」

「言いながら、既に半分取っておるではないか」

「恭也も、背中に当たる感触は、私の方が良いと言っている」

「そんな事、一言も申しておらんぞ」

「口にしていなくても、分かるだろうが」

「そ、そんな事あるか。恭也は、これはこれで可愛いと言ってくれたんじゃ」

「私だって、触り心地が良いと言われたわよ」

「まだ、成長期ゆえ、これから大きくなるんじゃ。
 お主のように、これから垂れるだけなのと一緒にするな」

「何ですって! 誰のが垂れるのよ、誰のが。
 それよりも、自分の心配をしなさいよね。大きくなる保証なんて無いんだから」

背中で言い合う二人の間に、恭也が割って入る。

「クレアもロベリアも、そんな事で喧嘩をするな。
 あまり言う事を聞かないなら、引き離すぞ」

「分かった、喧嘩は止める。だから、もう少しこのままで」

「わ、私も、止めるから」

そう言うと、二人はそれぞれ恭也の首筋に鼻先を擦りつけるように甘える。
と、不意に右腕に痛みを感じ、そちらを向くと、今度は左腕にも痛みを感じる。
胸の辺りからは刺すような視線を、腰の辺りからは物悲しそうな視線を受ける。

「な、何だ、お前たち」

「別に何でもないわよ。ただ、二人には優しいみたいね。
 私の時は、後で足腰が立たなくなる程激しいくせに。たまには、私も優しくして欲しいわね」

「何を言ってるんだ。リリィにだって、優しくしているじゃないか。
 ただ、照れた顔を見せたくないとか言って、自分から激しく……って、いたた」

「何て事を言ってるのよ」

「わ、悪かった。もう言わないから、止めろ。って、未亜もいい加減に止めてくれ」

「む〜。私は、胸を褒められたことない」

「そ、そんな事はないはず……って、痛いぞ、本当に。
 わ、分かった、次からは気を付けるから」

「マスターは、私の胸では満足して頂けませんか」

「確かに、私もリコも胸は小さいけど……」

「リコにイムニティも落ち着けって。誰も、そんな事を言ってないだろう。
 勿論、二人には二人の良い所もあって、勿論、胸だって悪くないぞ」

「本当ですか?」

「本当に?」

「ああ」

嬉しそうに俯く二人に、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、下から悲しそうな声が聞こえてくる。

「師匠〜。拙者はどうなんでござるか。
 拙者、縛られたりとか色々されてはござるが、皆のように褒められた記憶がないでござるよ〜」

「待て待て! 今、それは口にするな。
 それに、そんな事はないはずだぞ」

「じがじ〜」

涙声になりつつあるカエデに、恭也は慰めるように手を頭に置こうとして、動かせない事に気付き、微笑んでみせる。

「ほら、よく思い出してみろ。ちゃんと、褒めていただろう。
 まあ、言葉が足りなかったのは、確かだから、次からは善処しよう」

「うぅぅ、師匠〜。拙者、幸せ者でござるよ〜」

「大変ね、ダーリン。一人を褒めたら、全員を褒めないといけないもんね」

「まあ、確かに大変だが、別に嘘を言う訳でもないからな。
 そんなに大変じゃないさ。それに、思ったことを口にする事ぐらいしか出来ないけどな」

「それが、皆は嬉しいのよ。飾らない、恭也が本当に思ったことを言葉で伝えてくれるのが」

「そういうもんか?」

「ええ、そういうものよ。当然、私も褒められるのは好きよ。
 特に、恭也から褒められるのはね」

「分かった。覚えておこう」

「ふふふ、お願いね」

それからは、何となく皆黙り込み、穏やかな空気が流れる。
そうして、やっとFCたちも正気を取り戻したように、恭也へと声を掛けようとするが、
今までのやり取りを、判断力の働いていない状態ながら見ていて、聞いていいのかどうか悩み始める。
そこへ、物凄く疲れたような、半分、泣いているような声が聞こえてくる。

「皆さん、ちょっと待って下さいよ〜」

疲れた様子の女の子がやって来る。

「あ、ベリオの事、忘れてたわ!」

誰が上げた声だったが、ベリオは肩で息をしながら、何とか恭也たちの所まで来ると、全員を見渡して怒ったように言う。

「もう、皆さん、好き勝手に動き回るから、探し出すのに苦労したじゃないですか」

「探すも何も、ここに来れば良かったのに」

リリィのあきれたような声に、ベリオはそちらを見詰めながら、

「そんな訳にも行かないでしょう。皆さん、戸締りもせずに家を出て行くんだから。
 私が戸締りを終えた頃には、誰も居なくなっているし。
 急いで、恭也さんの学校へと向かおうと思ったら、全然、違う方向へと歩いているカエデさんを見つけて、
 後を追っていったら、見失うし、そしたら、今度は屋根から屋根に飛んで移動しているロベリアさんとイムニティさんがいるし。
 注意しようと思って、追いかけたけれど、直線に進む二人に追いつけるはずもなく、また見失うし。
 おまけに、上ばかり見て走っていたせいで、知らない場所に出るし……。
 って、皆さん、ちゃんと聞いてますか!」

頷く一同を前にしつつ、ベリオは指を一つ立てて続ける。

「そもそも…………。って、何をやっているんですか、皆さん。
 恭也さんから、離れてください!」

ようやく、今の状態に気付いたベリオが声を上げるが、これには全員が見事に声を揃える。

『嫌よ』

「…………ふっふっふ。そう、そうですか。だったら……」

「お、落ち着け、ベリオ」

ベリオの様子に何かを感じた恭也は、必死にベリオへと呼び掛ける。

「ですけど……」

「ほら、皆も悪気があって、ああ言った訳ではないんだし……」

「でも、でも……」

ベリオは両手の指をモジモジと突付きながら、恥ずかしそうに言う。

「そのままだと、私の場所が無いんです」

この言葉に、全員が呆気に取られる中、クレアが仕方がなさそうに恭也から離れる。

「はぁ、仕方がないな。ベリオ、代わってやろう」

「本当ですか」

クレアの言葉に嬉しそうに訊ね返すと、確認もろくにする前に、クレアと場所を変わる。

一方、恭也から離れたクレアは、恭也に足を伸ばして座らせると、少し後ろへと手を着かせ、
リコとイムニティを押し退けるように横へとずらす。

「恭也、足を開けい」

クレアの言葉に、恭也は両足を広げると、その腿へとカエデとルビナスの頭を乗せ、
その後ろから、リコとイムニティに恭也を抱き付かせる。

「クレア、手が結構、辛いんだが」

「少し辛抱いたせ。と、これで良し」

満足したのか、クレアは大きく一つ頷くと、空いた恭也の正面へと納まる。

『あー!』

その特等席に納まったクレアに、全員が悲鳴にも似た声を上げるが、平然としたまま告げる。

「仕方あるまい、ベリオと交代してやったんだから」

この言葉に、ベリオは何も言えずに口を噤む。

「だったら、私と交換しなさい」

「無理じゃ、リリィ。お主は体が大きいからな。
 全員が、洩れる事無く済ますには、これが一番じゃ。
 しかし、ここは体がある程度小さくないと無理じゃしな」

「でしたら、私は問題ないですね」

リコの言葉に、しかし、クレアは首を振る。

「早い者勝ちじゃ」

ここでも、恭也の意見は全く聞かれる事はなく、少女たちの間でのみ議論が交わされる。
結果、現状維持となるのだった。
その結果に満足したのか、クレアは甘えるように恭也の首に腕を回すと、その頬に唇を付ける。

「ちょっと、何をしてるのよ」

「悔しかったら、リリィもすれば良かろう」

「なっ! べ、別に、私は悔しくなんか……」

「私はする」

言うが早いか、未亜は恭也の頬へとキスをする。
次々と皆がしていく中、リリィも結局、同じようにするのだった。

「所で、俺はいつまでこうしていれば良いんだ」

「何だ、嫌なのか、恭也」

恭也の呟きに、ロベリアはそう言うと、これみよがしに胸を背中に押し付けてくる。

「ロ、ロベリア、少し離れろ」

「何を言っている。今更、照れるような仲でもないだろう」

そう言うとロベリアは、本当に楽しそうに更に胸を押し付けてくる。
それを横で見ていたベリオは、自らも負けじと同じように胸を押し付けてくる。

「ちょ、ベリオまで、待て」

「どうしてですか。ロベリアさんは良くて、私は駄目なんですか。
 それとも、私の胸では駄目なんですか」

「ち、違うから。そんな事はないから、そんな悲しそうな顔をするな」

「では、良いんですね」

「いや、そういう事でも……」

しかし、恭也の言葉を聞く気が無いのか、ベリオは既に胸を恭也へと押し付ける。
それに何を感じたのか、リリィと未亜も恭也の腕を胸の狭間に抱くようにすると、これみよがしに押し付けてくる。
カエデとルビナスも、横たえた体を動かし、恭也の足へと同じように押し付け、残る三人も同じようにしてくる。
そこへ、ロベリアが意地の悪そうな笑みを湛えて声を掛ける。

「アンタたち三人の場合、骨が当たって恭也が痛がるだろうから、やめておいた方が良いんじゃない」

「それは聞き捨てならぬ言葉じゃな」

「そうですね。これは明らかに、喧嘩を売っていると受け取るしかないわよね」

リコに続き、イムニティもそう告げる中、リコだけは恭也の顔を覗き込み、恭也へと話し掛けている。

「マスター、私は皆さんと同じような事をしない方が良いですか」

「い、いや、そんな事はないが」

「では、ちゃんと気持ち良いですか」

「えっと、まあ、な」

歯切れが悪い返事だったが、嘘ではないと分かり、リコはそっと微笑む。
そんな二人の様子を見ていたイムニティとクレアも同じように恭也を見てきたので、頷いて返す。
それで通じた二人も笑みを見せ、ロベリア一人がつまらなさそうに鼻を一つ鳴らす。
クレアはよっぽど嬉しかったのか、恭也の正面なのを良い事に顔をじっと覗き込んだり、その首や胸に抱きついたりしている。
それを一同が羨ましそうに見遣る中、クレアは今度は恭也の唇を塞ぐ。
大きな悲鳴がまたしても上がるが、クレアはそれを聞こえない振りをして、暫らくずっとそのままでいた。
クレアが唇を離すや否や、我先にと動こうとした未亜たちを何とか制していた恭也の元に、細く弱々しい声が届く。

「あの……」

その遠慮がちの声のする方へと顔を向ければ、そこにはどうして良いのか分からないといったFCたちがいた。
声を掛けた少女は、恐々といった感じで何とか声を絞り出す。

「先程の答えなんですが……」

ようやく、恭也はさっきまで何をしていたのかを思い出し、同時に今までの出来事を思い出して赤面する。
一方、事情の分からない未亜たち面々は、それぞれがもの問いたげな顔を恭也へと向ける。
そこへ、よせばいいのに、美由希が本人は気を利かせたつもりで説明をする。
途端、少女たちが恭也を睨み出し、結果、美由希は恭也に睨まれる事となる。
美由希を睨んでいた恭也の顔に手を当て、強引にこちらへと向かせたクレアは、怒ったような拗ねたような顔をして見せる。

「恭也、まだ女を増やす気か。それは、真の救世主となった今、お主に口出すことはせぬが……」

「クレア王女の言う通りだよ。恭也さん、私たちだけじゃ不満なの?」

クレアに続き、未亜までそんな事を言い出す。
それに慌てて弁解しようと口を開くが、今度は逆側から伸びてきた手によって、逆へと向かされる。

「恭也、私は、未亜たちだから許したんだよ」

「リリィさんが許すとかいうのも可笑しな話ですが、確かにその通りです。
 私も、リリィさんたちだからこそ、こうしてマスターの意を汲んだのですが……」

他の者も口には出さないものの、同じような意見らしく、恨めがましい目付きで恭也を見る。

「だから、何でそうなるんだ。第一、質問されただけだろうが」

「でも、それにすぐに答えなかったのは、何でかしら?
 変に勘繰られても仕方がないんじゃない?」

下から見上げながら、ルビナスがそう言う。
その言葉にすぐさま返答できなかった恭也だったが、それでもきっぱりと告げる。

「確かに、すぐに返答しなかったのは悪かったのかもしれないな」

そう呟くと、FCたちを見渡し、はっきりと告げる。

「俺が好きなのは、ここにいる彼女たちだ」

その言葉に、クレアたちは嬉しそうに恭也へと身を摺り寄せるが、FCたちは何を言われたのか分からず、ただ茫然と立ち尽くす。
やがて、一人が重くその口を開く。

「九股……?」

「うそ、あの高町先輩がそんな事をするなんて……」

俄かに騒がしくなり始めるFCたちへと恭也が言葉を掛ける。

「別に九股という訳では……」

「そうそう。十一股だもんね」

「ここには居ない学園長とダリア先生ですね」

未亜の言葉に、ベリオも頷きながらそう付け足す。
何とかフォローしようとした恭也だったが、余計に大きな動揺を与える結果となり、頭を抱える。
そんな恭也を助けるべく、イムニティがFCたちへ言葉を投げる。

「別に、十一股ではないわ。マスターには、一夫多妻の制度が取られているから」

「イムニティの言う通りです。マスターがまだ学生ですので、そういった関係ではまだないですが」

「言うなら、婚約者って事になるのか」

リコに続き、ロベリアも補足するように説明する。
それで何とか落ち着いたFCたちだったが、よく考え込み、再び悲鳴にも似た声を上げる。

「それって、どう違うんですか?」

「でも、皆さん、それを承知のようだし……」

「でも、結局は複数の女性と、って事じゃないの」

「同じように愛されているんなら、私だったら、それでも良いかも」

「えー、私は嫌だな。私だけを見て欲しいもん」

「皆さんが納得しているのだから、私たちが口を出す事ではないのかも……」

「だったら、私も加えて欲しいよ〜」

余計に騒がしくなったようで、恭也は更に頭を抱える。
とりあえず、質問には答えたので、解散するように促がし、どうにかこの場は解散してもらう。
が、この後の事を考えて、恭也は疲れたように肩を落とす。

「恭也、正直に言ってくれて嬉しかったぞ。これは、そのお礼だ」

そう言ってクレアは恭也の唇もまた塞ぐ。
今度は、他のものも大人しくしておらず、すぐさまクレアを引き離すや、我先にと恭也の首へと手を伸ばす。
九人の女の子にもみくちゃにされながら、恭也はただ胸中で呟く。

(神よ、俺が何かしたのだろうか。…………って、斬ったんだったな)

嘆きつつも、今のこの状況が嫌かと言われたら、首を横に振るであろう事は、誰よりも自分がよく分かっている。
結局の所、恭也自身、彼女たちのことが同じぐらい一番好きなのだから。
ただ、それでも、時々は平穏が恋しくなるのばかりは、仕方のない事なのだろう。

中庭で繰り広げられる騒動は、もう暫し続きそうで、折角、持って来てもらった忘れ物が、その意味を無くそうとしていた。
それでも、やはり恭也は、己の口元が嬉しそうに綻ぶのを止める事は出来なかった。





<おわり>




<あとがき>

アハトさんの150万Hitきりリク〜。
美姫 「DUEL SAVIORのハーレム編」
つ、疲れたよ……。
クレアを贔屓にって事だったんだけど、あんまり出来なかったかも。
美姫 「アンタの努力が足りないのよ!」
ぐはぁっ! ぐぐぐ、じ、事実だけに、何も言えん……。
美姫 「何はともあれ、何とか出来たわね」
うん。アハトさん、こんな感じになりました。
うぅ、もう少し、クレアを弄りたかった。
美姫 「でも、あんまりクレアばっかりだと、ハーレム編にならないでしょう」
だから、こんな感じになったんだよ。
美姫 「なるほどね」
そんな訳で、きりリクです〜。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。







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