『An unexpected excuse』

    〜雪編〜






「俺が、好きなのは…………」

一同が見守る中、遠慮がちな声が届く。

「あの、恭也さん」

その声に背後を振り返ると、制服に身を包んだ一人の少女が立っていた。

「ああ、雪か。大丈夫だったのか?」

「はい」

雪は恭也の言葉に頷くと、恭也の横へと腰を降ろす。
2学期に恭也のクラスへと転校して来たこの少女は、その容姿から本人の知らない間に、あっという間に校内で有名となった。
特に男子の間では。

「で、医者は何て?」

夏休みにちょっとした事件が起こり、それで雪と知り合った恭也たちは、行く先のない雪を高町家で預かる事にしたのであった。
その雪が昨晩から少し体調を崩していたため、今日は朝から病院へと行っていたのである。
こうして学校に来た事を見ると、問題ないみたいだが。

「あ、はい。問題はないみたいです」

「そうか。なら、良かった」

雪の言葉を聞き、恭也は安堵する。
そんな恭也に向って、美由希が話し掛ける。

「それよりも恭ちゃん。はっきりと言わないと駄目だよ」

「そうですよ、恭也さん。雪さんのためにも」

「そうそう。ちゃんとあの子たちに言わないと、雪が可哀相よ」

口々に言われ、恭也は顔を顰める。

「そんな事は分かっている。言おうとした所に雪が来たから……」

言い訳がましく言う恭也の横で、レンと晶が雪に事情を話す。
それを聞き、雪は恭也へと視線を向け、恭也もまた、その視線を受けて頷く。

「俺が好きなのは、愛しているのは雪だ」

そう言って雪の肩を抱き寄せる。
途中の会話で、その答えを察したのか、FCたちは素直に頷くとその場を離れる。
それを見届けた後、雪は恭也へと話し掛ける。

「あの、恭也さん……」

雪の方へと顔を向け、先を促がす。

「私以外にも、もう一人大事にして欲しい子がいるんですけど」

雪の行っている事が分からず首を傾げる恭也に、雪は少しだけ顔を赤くしてそっとお腹に手を当てる。

「実はですね……。その、病院で先生に言われまして……」

「まさか、やっぱり何処か悪いのか」

「い、いいえ。違います。健康です。そうじゃなくてですね……。
 そ、その……」

言い辛そうに口篭もるが、やがて決意してその口を開く。

「恭也さんは、家族が増えるのはお嫌いですか?」

「別にそんな事はないが。どうしたんだ?ざからはさざなみでお世話になっているだろう?
 まさか、さっき言ったもう一人って、ざからの事か?」

「ち、違います!あ、別にだからって、ざからの事が嫌いって訳じゃなくてですね」

「分かっているから、落ち着いて」

「は、はい」

恭也の言葉に頷き、雪は落ち着くために数回深呼吸を繰り返すと、再び口を開く。

「えっと……。恭也さんは男の子と女の子とどっちが良いですか?」

「……はい?いや、待て。言わなくても良い。つまり、それはあれか」

尋ねる恭也に、雪は顔を赤くしつつも不安そうな顔で恭也を見て頷く。

「俺と雪の……だよな」

「はい」

あまりの出来事に暫らく茫然とするが、ゆっくりと笑みを浮かべる。

「俺と雪の子供か……」

「えっと……。その産んでも良いんですか」

恐る恐る尋ねてくる雪に、恭也は何を言っているといった顔で答える。

「当たり前だろう?もしかして、雪は産む気はないのか?」

「ち、違います!例え恭也さんが反対しても、一人でも育てるつもりでした」

そう言った雪の肩に手を回し、そっと抱き寄せる。

「反対する訳ないだろう。それよりも、かーさんにも報告しないとな。
 多分、反対はしないとは思うが、万が一にも反対されても産んでくれよ」

恭也の言葉に雪は笑みを浮かべる。

「それなら大丈夫ですよ。お義母さんも喜んでましたから。
 恭也さんが反対しても、私が世話を手伝うから産んでくれって言ってました」

「……かーさんにはもう言ったのか」

「はい。本当は恭也さんに真っ先に教えたかったんですけど、ちょっと不安で。
 それで、お義母さんに相談して……。その時に言われました。
 恭也さんなら、無闇に反対しないだろうって
 すいません、一番最初に報告できなくて」

「いや、謝るほどの事ではないから」

恭也はそう言うと、雪の頬に手を伸ばし、その柔らかな感触を感じ取る。
雪はくすぐったそうに首を竦めるものの、その行為自体は嫌いではないらしくそっと笑みを浮かべる。
そんな雪の唇に、優しくそっと啄ばむように自らの唇で触れる。
完全に二人の世界へと入り込み、周りが見えなくなった二人に対し、忍が美由希に声を掛ける。

「おめでとう、美由希ちゃん」

「へ?おめでとうは、雪さんなんじゃ?」

「違うわよ。10代にして、叔母さんになる事に対して、おめでとうって言ったのよ」

「…………うぅぅぅ。喜んでいいのやら、旅立っていいのやら」

「ま、まあまあ美由希さん。おめでたい事なんですから」

「そ、そうだよ美由希ちゃん」

「そうやで、それに、そないな事言うたら、なのちゃんなんか10才にもなってないし……」

「あ、あはははは」

好き勝手に言う忍たちへと視線を向け、恭也は言う。

「馬鹿な事ばっかり言ってるな」

「馬鹿じゃないよー。かーさんと違って、私はまだ、叔母さんなんて呼ばれたくないんだから」

拗ねる美由希に対し、恭也は冷たく言い放つ。

「良いからさっさと教室に戻れ、叔母さん。もうすぐ昼休みも終るぞ」

「うぅ〜」

恭也の言葉に肩を落としつつ、美由希は立ち上がる。
そんな美由希を苦笑しつつ眺めながら、忍たちも立ち上がると教室へと戻るのだった。
誰もいなくなった中庭で、恭也はもう一度雪に口付けをすると、そっと笑みを浮かべて立ち上がると、手を差し出す。
雪がその手を掴むと、恭也はそっと立ち上がらせる。

「さて、俺たちも本鈴が鳴る前に戻るとするか」

「はい。それはそうと、恭也さんはどっちが良いんですか?」

先程の質問を繰り返す雪に、恭也は少し上を向き考える。

「そうだな。……男の子でも、女の子でもどっちでもいいさ。幸せになってくれるならな」 

「そうですね」

「ああ」

二人は手を繋ぐとゆっくりと歩き出すのだった。





<おわり>




<あとがき>

VWさん、67万Hitリクエストです〜。
美姫 「遅い!遅い!おそ〜〜い!」
返す言葉もありません……。
美姫 「全くもう」
ぐぬぬぬ。で、でも、これでFC編を除いたヒロイン数50人達成!
美姫 「おおー。やっとね」
やっとだ。
長かった。長い長い道のりだった。
美姫 「じゃあ、次は100人目指そうね♪」
…………ぐはぁっ!
美姫 「何やってるのよ?」
100人は無理だろう。
美姫 「成せばなる!」
いやいやいやいや。
美姫 「頑張ってね」
いやいやいやいやいやいやいや、無理だろう。
美姫 「大丈夫、大丈夫。じゃあ、また次回でね」
こらこらこらこら。
と、ではでは、また次回で。







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