『An unexpected excuse』

    〜理恵編〜






「俺が、好きなのは…………」

そこまで言って、恭也は何かに気付いたのか、背後をじっと見る。

「恭也、なに誤魔化し……」

恭也に話し掛けた忍は、しかし向こうからやって来る人物を認め、口を噤む。
一方の恭也は、護衛らしき者を一人連れ、こちらへとやって来る人物が誰か分かり、驚いた顔になる。
その人物が来る頃には、恭也は立ち上がり、その人物が何かを言う前に口を開く。

「理恵さん、一体どうしたんですか」

そんな恭也の言葉に、理恵は笑顔で答える。

「お仕事の依頼に来ました♪」

「……その割にはやけに嬉しそうですね」

恭也の仕事=護衛。
つまり、狙われているという事になる。
それなのに嬉しそうに言う理恵に、恭也は思わず尋ね返す。
その言葉に対し、理恵はさも当然と言わんばかりに答える。

「ええ、それはもう。だって、恭也さんに会えるんですもの」

理恵の言葉に、恭也は思わず頭を抱えたくなり、隣に立つ顔なじみとなった護衛の男へと視線を向ける。

「良いんですか」

「はい。優秀な護衛者を雇うためですから」

男の言葉に恭也は苦笑を返す。

「分かりました。引き受けます」

「恭也さんなら、そう言って下さると思ってました。
 では、早速……」

「今から、ですか」

「ええ、勿論です。今夜、お父様の知り合いの方がパーティーを開かれるんです。
 その席に私も出席いたしますので」

二人のやり取りを聞いていた美由希が、遠慮がちに声を出す。

「恭ちゃん、そちらの方は……」

「ああ、そうだったな。
 こちらは佐伯理恵さんと仰って、SAEKIレコード会長の孫娘さんだ」

その言葉にどよめきが出る。

「まあ、そういう訳で後は頼む」

そう言って立ち去ろうとする恭也に、忍が声を掛ける。

「せめて、名前だけでも教えてから行ってよー」

忍の言葉に恭也は足を止め、理恵は不思議そうな顔をする。
そんな理恵に、恭也が止めるのも聞かず、忍が説明をする。
それを聞き、理恵は楽しそうな笑みを浮かべると、人差し指を立て、口元へと持っていくと、

「それは大変興味深いですわね。私も是非ともお聞きしたいですわ」

と恭也を見詰める。
聞かせるまでは動かないといった感じの理恵に、恭也はため息を吐く。

「言わなくても、良いじゃないですか」

「そうはいきませんわ。一体、何と答えるつもりだったのか、気になりますもの」

「……分かってて言ってますよね」

その恭也の問い掛けに、理恵はただ笑みを浮かべたまま何も答えない。
その沈黙が肯定しているようなものだったので、恭也は理恵をじっと見詰める。
暫らく両者共に、そのままでお互いを見る。
その沈黙を破ったのは、理恵の方だった。

「教えてくださらないんですか?
 恭也さんは、私に変な虫が付かないようにって、今回みたいなパーティがある時には護衛するから、
 絶対に教えてくれと言うくせに、ご自分はこんなに大勢の女性を囲うなんて」

「か、囲うなんて人聞きの悪い」

「だって、そうじゃありませんか。
 私だって、恭也さんに変な虫が付かないように護衛したいですけど、四六時中付いている訳にはいかないんですよ。
 だったら、ここではっきりと仰って欲しいと思うのはいけないことでしょうか」

「変な虫って、私たちの事よね」

理恵の言葉に、忍が周りにいる美由希たちに小声で話し掛け、それに対して美由希たちは苦笑いを浮かべるのだった。
そんな様子に気付かず、恭也は理恵の言葉に言葉を詰まらせ、ゆっくりと息を吐き出す。
そして、理恵の肩に手を置き、抱き寄せると忍たちに向って言う。

「俺が好きなのは、こちらにいる理恵さんだ」

「改めまして、佐伯理恵です。理恵ちゃんと呼んでくださいね」

恭也の紹介に、理恵は改めて自己紹介をすると嬉しそうに恭也の腕に抱き付く。

「やっと言って下さいましたね」

「言わせたの間違いでは?」

「あら、恭也さんは皆さんに言うのが嫌だったんですか?
 それとも、私との事は冗談だったんでしょうか?」

「……そんな訳ないでしょう。俺が悪かったから、許してください」

「くすくす。さあ、どうしましょうか?罰として、ここである事ない事言ってしまいましょうか」

楽しそうに笑う理恵の唇を、突然恭也は塞ぐ。

「んんっ!……ん」

突然の事に驚く理恵の腕を取り、恭也は激しく理恵の口内を弄る。
理恵の身体から力が抜けたのを確認すると、恭也は理恵の口を解放する。

「ある事も困りますけど、ない事まで言われるのはちょっと……。
 ですから、そんな事を言おうとした罰です」

理恵をやり込めたと思った恭也は、そう言って意地の悪い笑みを浮かべる。
しかし理恵は、そんな恭也を笑顔で見詰め返す。

「こんなお仕置きでしたら、大歓迎ですわ。
 ですから、もっと言おうとしないといけませんわね」

「………………降参です」

笑みを浮かべたままの見詰め合いは、恭也の言葉でひとまず幕を降ろす。
恭也は内心で、理恵には敵わないと思いつつも、それをどこか心地良く感じ、理恵もまた同じような事を考えていた。
そんな考えをお互い表面には一切感じさせず、相手を見る。
少し茫然としている感のある忍たちを置いて、恭也は理恵に尋ねる。

「それで、今日のパーティー会場はどういった場所なんですか」

恭也の問い掛けに、顔色一つ変えずに少し離れた場所へといた男が答える。

「それは後程教えますので」

「分かりました。では、行きましょうか」

恭也の言葉に理恵は一つ頷くと、恭也の腕を取る。
慌てる恭也に、理恵は楽しそうな笑みを浮かべつつ言い放つ。

「このパーティーで、お父様は私の婚約者を紹介なさるつもりなんですよ」

「それって……」

「お父様も恭也さんの事は気に入ってらっしゃいますから」

理恵の言葉に恭也は苦笑を浮かべるしか出来なかった。
そんな恭也を見て、理恵は少し不安そうな顔をする。

「恭也さんはお嫌ですか?」

「……いえ、そんな事は。それに、これで変な虫の心配もしなくてすみそうですし」

「ええ、勿論ですわ。でも、何処かへ出掛ける時は、ちゃんと付いて来て下さいね」

そこまで言うと、一端言葉を切り、次いで今までも最高の笑顔を恭也へと向けると、そのまま続きを口にする。

「だって、恭也さんは私専属のボディーガードですもの」





<おわり>




<あとがき>

コウさん、66万のリクエストでした〜。
美姫 「今回は理恵編ね」
おう!
とらハ2のキャラも大分出たよな〜。
美姫 「後は望ちゃんね」
そうだね〜。後は望ちゃんだね。
美姫 「さて、次回は誰かな?」
次回はあの人です。
美姫 「あの人って誰よ、あの人って」
あの人はあの人さ。
じゃあね〜。
美姫 「あ、こら〜!全く」







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