『An unexpected excuse』

    〜神奈編〜






「俺が、好きなのは……。
 あー、実は七年ほど前にある人とある約束をしていてな」

突然関係ないような事を言い出した恭也に、全員が揃って首を傾げる。
それに構わず、恭也は続ける。

「そう言えば、明日だったな……」

そこまで言った恭也の後ろから、名前を呼ぶ女性の声が聞こえる。

「恭也くん」

「……神奈さん?」

「そうよ。何よ、まさかもう顔を忘れたとか?一年以上も会わないと忘れちゃうのね。
 うう……。いつのまに恭也くんは、こんな冷たい子になっちゃったのやら……あうう」

泣き真似を始める年上の女性に、美由希たちは呆気に取られ、恭也は慌てたように言葉を紡ぐ。

「別にそういう訳じゃないです。ただ、ここに神奈さんがいることに驚いただけで……」

「本当に」

「はい。ですから……」

「ううぅ……。いつものようにしてくれたら、許してあげるわ」

「……こ、ここでですか」

恭也は冷や汗を垂らしながら、神奈を見る。
拒むような恭也の態度に、神奈はさらにわざとらしく泣き真似をする。

「うぅ〜。恭也くんが虐める……。私の事なんて飽きたのね……あううぅぅ」

神奈の言葉を否定し、恭也は覚悟を決めたように神奈の両肩を掴む。

「……お帰りなさい、神奈さん。それと、愛してますよ」

そう言って、神奈の唇にキスをするのだった。
恭也が離れた後、神奈は恭也の首に抱きつきながら、笑顔で答える。

「ただいま、恭也くん。私も愛してるわよ」

二人の世界へと旅立とうとする二人に、忍が遠慮がちに声を掛ける。

「恭也〜。もう質問の答えは分かったけど、そちらの方は……」

「ああ、こちらは一ノ瀬神奈さんだ」

「初めまして、一ノ瀬神奈です。よろしくね」

明るく挨拶をしてくる女性に忍たちも挨拶を返す。
そんな中、那美は一人何かを考え込む。
それに気付かず、美由希たちは神奈へと話し掛ける。

「恭ちゃんと神奈さんは七年前に知り合ったんですか?」

「うーん、正確には8年前の冬だったかな。その時にちょっと約束をしてね」

「約束ですか?」

晶の言葉に神奈は頷く。

「そうよ。その時、私は旅行に行く数日前だったのよね。
 で、旅行から帰ってきたら恭也くんに会いに行くって約束。その代わり、恭也くんはリハビリをがんばる事って」

「あ、恭ちゃんが事故で足をやった時?」

「ああ。その時の俺は、この言葉を信じていなかったんだがな。
 で、その暫らく後に那美さんと会った訳だ。で、結局はリハビリに専念したんだ。
 そしたら、神奈さんが約束通り病院に見舞いに来てな。てっきり冗談だと思ってた俺は驚いたな」

恭也は懐かしそうに話す。
それを横で聞きながら、神奈は唇を尖らす。

「えー、そんな風に思ってたの。そんなの初耳よ。酷いわ、恭也くん」

「すいません。でも、あの時は普通そう思うじゃないですか。
 そもそも、初対面だったんですし」

「それはそうかもしれないけど……。でも、私はあの時の恭也くんの顔が気になったから、声を掛けたのよ。
 あの、何もかもを悟ったような、でも諦めきれないといった表情に」

しみじみと語る神奈は続ける。

「だから、わざわざ甥っ子に香港から戻れなくなったって嘘まで付いて会いに行ったのに。
 まあ、結果として、その方があの子たちも喜んだでしょうから、それは良いんだけどね。
 それに、そのお陰で世界中を周って料理の研究もできたしね。
 色んな所で修行も積んだし、やっと落ち着けるわ」

「おめでとうございます」

「ええ。これでもう一つの約束も果たせるわね」

嬉しそうに笑う神奈に、レンが尋ねる。

「あのー、もう一つゆーんは?」

「うん。それはね、ここ海鳴で自分の店を出そうと思ってたのよ。
 その為に色々と渡り歩いたんだけどね。で、それが出来たら……きゃっ!」

神奈はそこまで言うと、照れたように頬を押さえ、首を横に振る。

「恥ずかしくて言えないわよ。恭也くん、代わりにお願い」

「お、俺がですか」

どもる恭也に、期待の眼差しを向ける神奈。
そんな神奈を見て、恭也は照れつつその約束を口にする。

「その、神奈さんと結婚する約束を……」

『結婚!?』

「い、いつの間にそんな話を……」

茫然と尋ねてくる美由希に、恭也が答える。

「確か、3年前か」

「そうね、それぐらいよね。大体、一年に一度で会ってたのよね、私たち。
 で、会っていくうちに私は恭也くんが、恭也くんは私の事を……。って、訳なのよ」

神奈の言葉に、美由希たちはただただ驚いて声も出ない。
そこへ、那美が大声を上げる。

「あー!思い出しました!一ノ瀬神奈さんって、ひょとして耕介さんの……」

「あれ?耕介ちゃんを知ってるの?
 貴女、さざなみの人?」

「あ、はい。神咲那美と言います」

「那美ちゃん……。ああ、貴女が那美ちゃんね。愛ちゃんと同じか、それ以上にドジ……コホン、コホン。
 な、何でもないわ。耕介ちゃんやまゆ坊から話は聞いてるわよ」

「どんな話をされているのか、とても気になるんですけど」

「あ、あはははは。気にしなくても大丈夫よ。そんなに変なことは言ってなかったわよ」

神奈は、那美の不安気な言葉を笑い飛ばす。
その横では、恭也が同じように驚いていた。

「神奈さん、さざなみの関係者だったんですか」

「あれ?言ってなかったっけ」

「はい、聞いてません」

「そうだったかな?まあ、良いじゃない。それとも、さざなみの関係者だと嫌?」

「そんな事はありませんよ。それに、さざなみの方々には色々とお世話になってますし」

「そう、なら良かった。って、恭也くんはさざなみの皆とも面識があるの!?」

「ええ、まあ」

恭也の言葉に、今度は神奈が驚きの声を上げ、次いで何とも言えない顔をする。
それに気付き、恭也は心配そうに神奈へと尋ねる。

「どうかしましたか、神奈さん?」

「別に大した事じゃないんだけどね。あ、あははは。
 ほら、耕介ちゃんに管理人をやってもらう為に、私が嘘付いたのは言ったわよね」

「はい」

「あ、あははは。その嘘っていうのが、好きな人が出来たっていうものだったのよね。
 だから、皆の反応を考えると……」

「多分、大丈夫ですよ」

「そうかなー。耕介ちゃん辺りは文句言いそうなんだけど」

「でも、そのお陰で耕介さんも管理人を続けれることになったんですし、それにまるっきり嘘と言う訳でもないでしょう」

恭也の言葉に一瞬だけきょとんという顔を見せた後、神奈は笑顔になる。

「それもそうよね!ちゃんと好きな人がいるんだし。それに、恭也くんが卒業したら、ちゃんと結婚もするしね」

神奈の言葉に照れながらも恭也は頷く。
そんな二人を眺めつつ、忍がこっそりと囁く。

「これは、今日のさざなみは宴会ね」

「あ、あはははは。多分、皆さんも呼ばれますよ」

「他人事じゃないですもんね」

那美の言葉に美由希も頷く。
晶とレンも引き攣った笑みを浮かべていた。
その時、予鈴が高らかに鳴り響き、その場にいた者たちを現実へと引き戻す。
それを聞き、誰かが言った言葉が響く。

「あっ!時間!」

その声に、それぞれが時間を確認すると、急ぎ足で校舎へと戻って行く。
そんな中、恭也は一人その場に留まり、全員が去った後を見詰める。

「恭也くんは行かないの?」

恭也の顔を覗き込むようにして尋ねる神奈に、恭也は笑みを浮かべて頷く。

「ああ。後は忍が上手くやってくれるだろうから。それよりも、神奈さん。
 久し振りに会ったんですから、二人だけでゆっくりしませんか。どうも今夜はゆっくりできそうもないので」

「確かにね。まゆ坊がこんなおいしいネタを放っておく筈ないしね。
 良いわ、行きましょうか恭也くん」

神奈は言うや否や、恭也の腕を取って歩き出す。
それに付いていきながら、恭也は横を歩く女性に尋ねる。

「何処に行くんですか」

恭也の問い掛けに、神奈は何を分かりきった事をいうような顔で微笑むと、言葉を発するのだった。

「勿論、恭也くんのお義母さんに会いに決まってるでしょう」





<おわり>




<あとがき>

masayaさんの63万Hitリクエストで、一ノ瀬神奈編でした〜。
美姫 「おおー!今回は神奈さんだったのね」
おう!2のキャラだろう。
美姫 「確かに、2のキャラだわ」
ふふふふふふ。
美姫 「何、突然笑い出して。遂に壊れたのかしら?」
失礼な。
後、一人で50人目!
美姫 「おお、そう言えば……。で、記念すべき50人目は誰かしら?」
50人目という事で、俺の好きなキャラを、と思ったんだが、次はリクエストのあったキャラだよ。
美姫 「って事は、3キャラの」
そうです!
美姫 「それが誰かは、また次回に♪」
ではでは。







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