『An unexpected excuse』
〜エレン編〜
「俺が、好きなのは……」
「恭也〜♪」
恭也の言葉を遮るように、背後から嬉しそうな声が恭也の名を呼ぶ。
その声に恭也は半信半疑といった感じでそちらを振り返る。
そこには、現在日本にいるはずのない、そして恭也が最も会いたいと思っていた女性が立っていた。
そのポニーテールの美人は恭也に向って手を振り、笑顔を見せる。
恭也はやっとの事でその名を口にする。
「エレンさん……?」
それに応えるようにエレンは笑みを深めると恭也の元へと来る。
「どうして、ここに」
「今日は、移動日なの。だから、その合間にちょっと寄ったのよ。ひょっとして迷惑だったかな?」
そう尋ねつつも、その顔はそんな事を思っている様子は全くなかった。
それを見て、恭也は笑みを浮かべる。
「そんな訳ないでしょう」
そうやって話す二人を見ながら、FCたちは突然現われた有名人に驚いていた。
そして、そのエレンと親しそうに話す恭也にも。
そんな中、忍が少し遠慮がちに恭也に話し掛ける。
「えっと、恭也。お話中悪いんだけど、さっきの質問の答えがまだなんだけど」
忍の言葉にFCたちも一斉に頷く。
一人事情を知らないエレンは、もう一人の顔なじみである美由希に小声で尋ねる。
「美由希ちゃん、一体何があったの?」
「えっと、あそこにいる人たちは恭ちゃんのFCたちでして……」
「FC!?そんなものまであるんだ。それで?」
驚きつつも、続きを促がすエレンに対し、美由希はFCたちとのやり取りを教える。
「それで、恭ちゃんが答えようとしたところに、エレンさんが来たんですよ」
エレンは納得がいったのか頷くと、恭也の元へと戻る。
「恭也、それで誰なの?」
忍が問い詰め、それに対し恭也は口を開こうとする。
恭也が言葉を発するよりも先に、横から伸びた手によって恭也の顔はエレンの方へと向かされる。
エレンは恭也の頬を挟んだまま笑顔を浮かべると、そのまま恭也へとキスをする。
最初は驚いていた恭也だったが、すぐにそれを受け入れ、しまいには腕をエレンの後ろへと回して抱きしめる。
それを周りは茫然と眺めていた。
やがて、キスを終えて離れると、エレンはFCたちに向って笑顔で言い放つ。
「大体の事情は聞いたけど、恭也は私の恋人だからね♪」
エレンの言葉に、茫然としていたFCたちが我に返り、その言葉を反芻する。
そして、驚いた声を一斉に上げる。
そんな様子を楽しそうに眺めながらも、エレンは見せつけるように恭也と腕を組む。
恭也も恥ずかしがりながらも、特に嫌がる素振りは見せない。
それを見て、FCたちは肩を落としその場を去って行く。
訳が分からずに首を傾げる恭也を余所に、エレンは組んでいた恭也の腕を逆の手で抓る。
「エレンさん、痛いんですが……」
「これは、すぐに私の名前を言わなかった罰なんだから、痛くて当たり前よ」
「いや、すぐも何も言う前にエレンさんが来たんですけど」
「ふふふ。分かってるわよ、ただの冗談。まあ、焼きもちみたいなものかな。
だって、あんなにたくさんの女の子たちに囲まれているんだもん」
「……あれは、そういうんじゃないと思いますけど。それに、俺にはエレンさんがいますから」
恭也の言葉に、エレンは恥ずかしそうに俯くが、その顔は嬉しそうであった。
何か聞きたそうにしている美由希たちを無視する事に決め、恭也はエレンの手を取るとその場から離れる。
ひょっとしたら、何か聞かれる前に逃げただけかもしれないが。
手を引かれながら、エレンは恭也の後に付いて行く。
どれぐらい歩いただろうか、恭也は公園まで来るとエレンの手を離す。
少し名残惜しそうに恭也の手を見ながらも、エレンも足を止める。
「いつまでこちらに?」
「明日の昼までなら大丈夫よ。あーあ、急に来たから、特に予定もなくて暇なのよねー。
誰か誘ってくれないかな〜。自分で言うのもなんだけど、美人のお姉さんだと思うんだけどな〜」
何かを期待するように言うエレンに、苦笑しつつ手を差し出す。
「お姫様、俺でよければ是非とも明日の昼まで付き合いますけど、如何でしょうか」
エレンは恭也の手を優雅に取りつつ、笑顔で答える。
「喜んで♪」
手を取り合い、お互いに顔を見合わせると、どちらともなく笑い出す。
ひとしきり笑った後、エレンは恭也の腕を取ると、そっと頭を寄せる。
「恭也、私翠屋のシュークリームが食べたいな」
恭也は少し悩んだものの、翠屋へと歩き出すと、エレンの耳元にそっと囁く。
「そうですね。かーさんにも紹介したいですし」
「ちゃんと紹介してよ」
「勿論ですよ」
幸せそうに腕を組みながら歩く二人の姿は、特に口にしなくとも充分に二人の関係を物語っていた。
<おわり>
<あとがき>
Mr.Kさんの52万Hitリクエストでした〜。
美姫 「オー、イエーイ!」
エレンさんです。
美姫 「エレン・コナーズ。英・日・仏・伊の4カ国語を使え、
その上、ハリウッド映画の主演及び、その主題歌を歌うなど活躍しているCSSの一人よね」
そうです。
一応、3本編にも最後の方にちょこっと出てるよね。
美姫 「今回は、いつも以上に長かったわね」
ははははは。……また、次回!
美姫 「逃げるな!って、もういないし。
ハァ〜。とりあえず、また次回と言う事で」