『An unexpected excuse』

    〜愛編〜






「俺が、好きなのは…………、愛さんだ」

「恭也さん。愛さんって、愛さんですよね」

那美がよく意味の分からない事を尋ねるが、それに恭也は頷いて応える。

「恭也、それは愛さんにはもう言ったの?」

忍の問い掛けに、恭也は頷き、

「ああ。それで、その、愛さんとは恋人同士に……」

「な、何で言ってくれなかったの、恭ちゃん」

美由希の言葉に、恭也は溜め息を吐く。

「美由希……。愛さんは何処のオーナーだ」

「それは、さざなみ…………」

それだけでここにいる者には、充分すぎる言葉だった。
しかし、恭也は続ける。それも、凄く疲れたような顔で。

「しかし、流石、真雪さん、リスティさんと言うか、愛さんが隠し事が下手と言うのか……。
 すぐにばれてしまってな…………。夏休みも終わりに差し掛かった頃、さざなみで宴会をやると言って連絡があっただろう」

恭也の言葉に美由希が頷く。

「その宴会の理由がこれだった……」

因みに、その宴会、美由希、晶、レンは当然、逃げたため参加せず、
忍はノエルと海外旅行中で、那美は実家へと戻っていた為、同じく不参加だった。

「宴会に参加していなかったとは言え、那美、気付かなかったの?」

忍の疑問に、那美は頷く。

「全く気付きませんでした……。そう言えば、実家から戻ってからの愛さんの様子がやけに機嫌が良かったり、
 よくカレンダーを見詰めてはそわそわしたりしてましたけど……」

那美の言葉に、盛大な溜め息を吐く忍。
一方、FCたちは答えを聞き、納得がいったのか口々に祝福の言葉を言うと、校舎へと戻って行った。
それを見届けながら、忍たちは詳しい話を聞こうと恭也へと詰め寄る。
そこへ、

「あ、恭也さ〜ん。ここにいたんですね」

恭也のすぐ後ろから声が上がる。
そこには、何かの包みを持った槙原愛が笑顔で立っていた。

「愛さん、どうしたんですか?」

恭也だけでなく、美由希たちも驚いた顔で愛を見る。
そんな周りの反応に構わず、愛は笑顔で恭也の傍へと来る。

「良かったです。もし、会えなかったらどうしようかと思いました」

「……来る前に気付かなかったんですか?」

「はい、気付きませんでした。来る時は、少しでも早く恭也さんにこれを届けたいと思ってたので」

そう言って、愛は手にした包みを見せる。

「それは?」

恭也の言葉に、愛は笑顔でその包みを差し出す。

「お弁当です。頑張りました」

「頑張った……。もしかして、愛さんが作ったんですか?」

「はい」

恭也の言葉に笑顔で答えるが、すぐにその顔が曇る。

「あ、でも、もうお昼済ませちゃいましたよね」

自分の好きな女性のそんな顔を見て、突っ返す事の出来ない恭也はその包みを受け取る。

「いえ、ありがたく頂きますよ。昼は少ししか食べなかったんで、丁度良かったです」

その言葉を聞き、再び笑顔になる愛。
胸の前で両手を合わせ、本当に嬉しそうに話し出す。

「それは良かったです。今回のは自信作なんですよ」

愛の料理は毎回、自信作なのだが、恭也は敢えて何も言わない。
美由希たちは、愛の弁当を恐る恐る開けていく恭也に男らしさを感じながらも、僅かに後退る。
全員が見守る中、包みから弁当箱を取り出し、その蓋を開ける。
見た目は何も問題が見られない。
この点は確かに進歩しているのである。
ただし、前回食べた時は、見た目は上達していたが、味は前のままだったりする。
これを真雪に言わせると、危険なものの見分けがつかなくなった分、前よりも酷いとなる。
弁当を前に考え込む恭也を見ながら、愛は水筒を取り出しお茶をコップへと入れる。

「今回は本当に自信があるんですよ。だって、耕介さんに食べて貰いましたから」

それを聞いて安心する恭也だったが、続く言葉に箸を持つ手が止まる。

「耕介さん、一口食べた途端に涙を流して、とても美味しいって。
 今までに食べた事もないような味と言ってくれました。
 そ、その後、耕介さんったら、恭也くんも私が作った物なら、どんな物でも喜ぶよって言ってくれて」

愛はその時の事を思い出したのか、少し照れ臭そうに言う。

「因みに、耕介さんはその後、どうなりました?」

「あ、はい。どうやら、体調が悪かったらしくて、少し寝るって言って部屋に行きましたけど」

それが何か、と首を傾げる愛に、何でもないと答える。
そんな恭也に、愛が更に言う。

「後、恭也くんに宜しくって言ってました」

「そうですか……」

「あ、ごめんなさい、ずっとお話して。これじゃ食べれないですよね。
 じゃあ、食べてください」

愛は恭也の横で、期待に満ちた目で見詰める。
愛の嬉しそうな顔を見て、その指にばんそうこうが何枚も貼られているのに気付く。

「愛さん、その指……」

「あっ!こ、これは、その。あ、あははは。少し切っちゃいまして。あ、でも、平気ですよ。本当に」

笑顔でそう言いながら、その指を隠すように背後へと庇う。
それを見て、恭也は覚悟を決め、箸を付ける。
おかずを一つ摘むと、そのまま口へと運び、ゆっくりと噛み締める。
途端に広がる、何とも言えない味。
しかし、恭也は何も言わずに飲み込むと、続けて弁当の中身を口に放り込んでいく。
あっという間に全てを食べ終えると、恭也は手を合わせ、

「ご馳走様でした。本当に美味しかったですよ、愛さん」

微かに笑みを見せながら、恭也はそう言う。
それを見て、愛は更に満面の笑みを浮かべる。
周りでそれを見ていた美由希たちは、内心で拍手を送る。

(しかし、流石に胃が……)

「あっ!そろそろ時間だ」

忍の声に、美由希たちは慌てて立ち上がる。
しかし、恭也は立ち上がらない。いや、立ち上がれない。
恭也は忍に手を振ると、

「俺は暫らくここにいるから」

そう言う。
忍たちは頷くと、その場を去って行く。
それを見ながら、愛が恭也に言う。

「駄目ですよ、恭也くん、授業はちゃんと受けないと」

「いえ、午後は自習なんですよ。ですから、愛さんと少しで一緒にいたいなと」

「そ、そうなんですか。そ、それじゃあ、私ももう少しいますね」

恭也の言葉に頬を染めながら、愛は頷く。

(よ、横になりたい……。しかし、そんな事をしたら……)

そこで、恭也は何かに気付き、顔を赤くしながらも背に腹は変えられないと愛に言う。

「そ、その、愛さん。膝良いですか?」

「あ、はい。……どうぞ」

それだけで分かったのか、愛は足を崩し、その上に恭也は頭を乗せる。

(ふー。横になれば、少しましだな。後は消化するまで待つか)

そんな恭也の胸中など気付かず、愛は恭也の頭を撫でながら語りかける。

「初めてですね。恭也くんから膝枕を頼んでくるなんて。いつもは私からお願いしてやってるのに」

「まあ、たまには。それに、愛さんにされるのは、嫌いじゃないですから」

少し目を逸らしながら呟く恭也の頭を撫でながら、笑みを湛えた眼差しで見詰める。
恭也は照れ隠しからか、目を瞑る。
暫らくそうやって過ごしていると、愛が小さな声で呟く。

「恭也さん、眠りましたか?」

愛の呼びかけに答えない恭也を見て、愛はそっと顔を近づけると囁くように呟く。

「恭也さん、世界中の誰よりも好きですよ」

「俺もです」

てっきり寝ていると思っていた恭也からの返答に、愛は慌てて飛び上がりそうになるが、
恭也の頭が乗っていた為、顔を離すだけになる。
恭也は愛のそんな様子を、片目だけ開けて見ていたが、堪えきれずに少し笑ってしまう。
それを見咎め、愛は頬を膨らませると拗ねてしまう。

「もう、恭也さんなんて知りません!」

「すいません、愛さん」

「知りません」

恭也の笑いながらの謝罪に、愛はそっぽを向いてしまう。
それを見ながら、そんな仕草も可愛いと感じ、浮かんでくる笑みを必死で堪える。
未だに拗ねている愛に、そっと手を指し伸ばし、その頬を触る。
愛は伸びてくる手を拒むでもなく、ただ顔だけを背ける。
そんな愛の頬を撫でながら、

「機嫌直してくださいよ、愛さん。
 愛さんの拗ねた顔も可愛いですけど、俺は笑っている顔が一番好きなんですから」

恭也の言葉に、愛は頬を染め、う〜と唸りながら横目で恭也を見る。
やがて、疲れたのか溜め息を一つ吐くと、恭也の方に顔を向ける。

「卑怯ですよ、恭也さん」

「そうですか?」

「そうですよ」

そう言って、愛はもう一度拗ねたような顔をして見せる。
苦笑しながら、恭也はそれを見つめる。

「そう言えば、デザートがまだでしたね」

「え?デザートなんて用意してませんけど」

「ここに」

そう言って恭也は頬に触れていた手をそっと滑らし、人差し指で愛の唇をそっと押さえる。

「えっと…………え、え、まさか」

やっと恭也の言おうとしている事に気付いた愛が、真っ赤になりながら戸惑った声をあげる。

「愛さんに食べさせて欲しい……」

「え、えっと、じゃあ目を瞑って下さい」

愛の言葉に恭也は素直に目を閉じる。
それを確認すると、愛はそっと顔を近づけていく。
柔らかな風が吹く中、二人はそっと口付けを交わすのだった。











その夜、那美から話を聞いたさざなみの住人は、未だに部屋で寝ている耕介を思い、
次いで、同じ物を全て食べても何ともなかった恭也に感心する。
同じ様に話を聞いていたとある漫画家は、最後にこう呟いたとか。

「まさに愛の力は偉大だねー」

この言葉に、全員が頷き、当の話題の張本人たちは、………………夕方以降、二人の姿を見た者は誰もいなかった。





<おわり>




<あとがき>

御琴さん、50万Hitリクエスト〜〜〜!!!!!
美姫 「パフパフドンドンドン!!」
やっと愛さんが書けたよ〜。前から書こうと思っていたけど、全然書けなかったんだよな〜。
美姫 「これで、とらハ2キャラは全員出たわね」
理恵ちゃんは除くけどな。
美姫 「後はとらハ1キャラが一人ね」
その後は、3に行くか、アレを書くか。
美姫 「ああー、あれね。どっちが先かしら?」
ふふふ、どっちかな〜。とりあえず、また次回!
美姫 「まったね〜」





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