『An unexpected excuse』

    〜真雪編〜






「俺が、好きなのは……」

恭也が口を開いたその時、恭也を呼ぶ声がする。

「おーい、恭也」

そちらを振り向き、その人物を見て恭也は驚いた顔でその名を呼ぶ。

「真雪さん!どうしたんですか?」

呼ばれた真雪は片手を軽く上げ、恭也に近づく。

「いや〜、新連載の打ち合わせで近くまで来てたんだよ。それで、ついでだから礼を言っておこうと思ってな」

「お礼……ですか?」

聞き返す恭也に、真雪は頷いて見せる。

「ああ。今度の連載の主人公は二刀流の剣士なんだよ。それで、な」

「…………」

言う事が見つからず、無言でいる恭也に、真雪は言う。

「前に言ったじゃないか。ネタとして使うかもしれないって」

「そう言われれば、そんな気が」

恭也は過去の記憶を辿り、思い当たる節があったのか頷く。

「それに、今更駄目と言っても、もう決まったしな。
 いや〜、担当が打ち合わせの段階で、あそこまで乗り気になるとはな。
 本当に、ここ海鳴はネタの宝庫だな」

真雪は嬉しそうに話す。
それを見て、恭也もまあ良いかと納得する。
一方、美由希たちは真雪へと詰め寄る。

「真雪さん、それに私は出ます?」

「あ、私もそれ聞きたい」

美由希の言葉に、他の面々も頷く。
それを眺め、真雪は笑みを浮かべると、

「ああ、出るぞ。いや、むしろ出す!主人公の義理の妹とその友人の巫女。
 同級生は当然として、妹みたいな存在とかも出す。後は、メイドと獣耳少女も外せないだろう。
 その他にも、女医に大学院に通う年上のお姉さん。歌姫として活躍する女性とかも出すに決まってるだろう」

真雪の言葉に頷きつつ、もっとも肝心の部分を聞こうと那美が尋ねる。

「で、主人公はその中の誰を選ぶんですか!」

全員が勢い良く訪ねる。
そんな中、恭也は一人呟く。

「皆、そんなに漫画が好きだったのか?いや、それとも、真雪さんの漫画だからか?」

とぼけた恭也の言葉を聞くものはおらず、全員が真雪に注目する。

「あー、そこら辺はまだ具体的に決めてないんだが……」

「真雪さん、今日から一ヶ月間のおやつを差し上げます」

那美の言葉に、真雪が嬉しそうな顔を見せる。
そして、真雪が何か言おうと口を開く。
が、その前に忍が話し掛ける。

「真雪さん、良いお酒が手に入ったんですよ」

「おっ!それは本当か?」

「はい。そのお酒を献上しますので……」

「ちょっと待った!真雪さん。真雪さんがその漫画の連載中の夜食を俺が作りますから」

「この阿呆!おサルの作ったもんなんか食べたら、出来る仕事も出来へんわ。
 ここは、代わりにうちが……」

「馬鹿か、おめーは。中華みたいな油っこいもん、夜食に出来るか!胃がもたれるだろうが!」

「何を言うてんねん。中華が全部、油っこいと思とったら、大間違いや!」

喧嘩を始める二人を余所に、美由希は必死で何かを考える。

「えっと、えっと」

パニックになりつつ、美由希は懐から飛針を取り出す。

「大人しくしないと、命の保証はしませ……」

「やめんか、馬鹿者!」

恭也は、今にも真雪に飛び掛りそうな美由希にチョップをお見舞いして黙らせる。

「痛いよ、恭ちゃん」

「いいから、少しは落ち着け」

頭を押さえながら文句を言う美由希を、一言の元に黙らせる。
そんな一同に、真雪が珍しく決まりの悪い顔をして、頬を掻きながら言う。

「あ〜、悪い。実は、ヒロインはもう決まってるんだ」

『え〜〜』

真雪の言葉に、一斉に不満気な声を上げる美由希たち。
そちらに向って、真雪は軽く手を上げる。

「いやー、すまん、すまん。でも、最初にそれを決めておかないと、話にならんだろう」

「で、そのヒロインは誰なんですか?」

「それは自分たちで読んで確かめてくれ」

「それはないですよ。ここまで言ったんですから、最後まで話してくださいよ」

忍の声に、真雪は仕方がないなと呟く。

「主人公より年上のお姉さんで、少し剣をかじっている人物だよ」

「ま、まさか薫ちゃん!?」

那美が驚いたような声を上げる。

「おいおい。漫画には薫は出てこないって。まあ、薫がモデルとなったキャラは出てくるけどな」

「そんな事は分かってますよ」

那美が小声で文句を言う。
それに対し、真雪は悪びた様子もなく告げる。

「兎に角、そのキャラでもない」

「じゃあ、誰なんですか?」

「それはな……」

忍と真雪のやり取りに、嫌な予感を感じ、逃げようとする恭也をヘッドロックで捕まえる。

「何処に行く気かな、恭也」

「えっと、そろそろ次の授業が」

「そうかそうか」

そう言って、真雪は更に締め上げる。
恭也は締められた事よりも、寧ろ頬に当たる感触に顔を赤くしつつ、

「ま、真雪さん、離して下さい」

「どうしようかな〜」

そんな真雪に、忍が焦れたように尋ねる。

「それで、続きをお願いします」

「ああ、そうだったな。それは恭也に聞けって言おうとしたんだよ」

『恭也(恭也さん)(恭ちゃん)(師匠)(お師匠)に!?』

それぞれが恭也の名を呼びながら、未だ真雪にヘッドロックをされている恭也へと視線を向ける。
それに気付いているのか、いないのか恭也は何とか外そうともがいていた。

「恭也、そんなに暴れるなよ」

「だったら、離してくださいよ」

「お前だったら、コレぐらい簡単に外せるだろうに」

「まあ、外せなくもないんですが……。下手をして怪我させる訳にもいきませんし」

「どんな外し方をする気だ、お前は」

真雪は嘆息しつつ言うが、腕を離す気はないようだった。

「そんなにきつく締めてねーだろう」

「いえ、きつくはないんですが、その、何と言いましょうか」

言い淀む恭也を見て、真雪はにやりと笑みを浮かべる。

「何だ?どうしたんだ?はっきりと言わなきゃ分からないぞ?
 場合によっては、外してやっても良いが、理由が分からないとな」

そう言いつつ、胸を恭也の顔へと押し付けるように動く。
その動きに、益々顔を赤くして、

「分かっててやってるでしょう!」

「さあな?」

恭也の言葉にも、真雪は楽しそうに答える。
そんな二人の様子を眺めつつ、美由希が零す。

「何か二人とも、妙に仲が良いような気がするんだけど」

「ですよね。何と言うか、自然な感じが」

美由希の言葉に、那美も頷く。
そんな二人を遮るように、忍が声を上げる。

「そんな事よりも、私は恭也に聞けって事の方が気になる」

忍の言葉に、晶とレンも頷く。

「師匠、どういう事なんですか?」

「教えて下さい、お師匠!」

揃って恭也の方を見るが、肝心の恭也は真雪にヘッドロックされたままだった。

「おーい、恭也。はっきりと理由を言わないんなら、負けを認めて降参するか?
 ああ、でも御神に負けはなかったっけ?」

意地が悪そうに言う。
それを受け、恭也は溜め息を吐くと、

「仕方がない。出来る限り怪我をしないように抜け出す事にします」

その言葉を聞き、真雪は外されないに、腕に力を込める。

「やれるもんなら、やってみな」

そんな二人を眺めながら、美由希たちは顔を見合わせる。

「ひょっとして、私たちって忘れられてたりするのかな?」

「美由希ちゃん、それを言ったら駄目よ」

「そ、そうですよ。とりあえず、あちらの用件が済むまで少し待ちましょう」

那美の言葉に頷くと、美由希たちは傍観を決め込む事にする。
その間に、恭也は真雪の前から腰に手を回し、後ろ側を片足を置いて動きを固定する。
そのまま、足と手で真雪の動きを封じると、真雪の後ろへと回した手を、背中にそっと伸ばす。

「確か、真雪さんはここが弱かったですよね」

そう言って、人差し指で真雪の背中をつっとなぞる。

「ば、そこはやめ……んっ」

途端、真雪の口から色っぽい声が出て、それと共に手から力が抜ける。
その隙を逃さず、恭也は頭を抜くと、頭を数度左右に振り、首を鳴らす。
そんな恭也に向って、真雪は睨むように見ると、

「てめぇー、卑怯だぞ」

「そうですか?」

真雪の言葉に、涼しい顔で答える。
まだ何か言おうとする真雪を制するように、忍が声を掛ける。

「所で、さっきの恭也に聞けってどういう事なの?」

忍の言葉に、恭也は真雪を見る。
それを受け、真雪は頷くと、

「別にもう良いんじゃないか。どうせ、連載が始まればいつか気付くだろうし」

「まさか、その連載って」

恭也の言おうとしている事に気付き、真雪は笑みを浮かべながら頷く。

「そのまさか。主人公を巡る恋愛物さ」

「って事はヒロインは……」

「まあ、そういう事だな」

恭也は空を仰ぎ見ながら、溜め息を吐く。
そんな恭也に向って、

「まあ、まあ。いい加減、宴会して騒ぎたいだろう」

「その為ですか!」

恭也の言葉に、真雪は頷く。

「当たり前だろう。この時期は宴会するネタが無くてな」

はっきりと言う真雪に、恭也は呆れたような顔をして見せる。

「いえ、分かってはいたつもりですよ。真雪さんの性格ぐらい」

「えらい言われ様だな。まあ、それは半分ぐらいの理由だって」

「本当ですか?」

かなり疑わしい視線を向ける。
それを受け、真雪は少し顔を顰めると、

「そんなに信用無いかね〜、あたしは」

「そんな事はないですけど……」

「本当だって。後の半分は、そろそろはっきりさせておいた方が良いと思ったからだって。
 朴念仁のお前には、分からないだろうが色々とあるんだよ」

真雪の言葉に恭也は首を傾げる。
そんな恭也に、美由希たちが声を掛ける。

「何となく、ヒロインが誰か分かったから、もう良いや」

「はい。意外と言えば、意外でしたね。てっきり、恭也さんは真雪さんが苦手なのかと思ってましたから」

「おまけに、漫画だけでなく、現実世界でもそうみたいだしね」

那美や忍の言葉にFCたちも頷くと、その場を去って行く。
それらの意味が分からず、恭也は再び首を傾げるが、そこへ忍が声を掛ける。

「つまり、恭也は真雪さんと付き合ってるんでしょう?」

忍の言葉に、恭也は心底驚いた顔をする。

「どうしてそれを……」

「はぁ〜。本気?って聞きたいけど……」

「間違いなく、本気でしょうね」

溜め息を吐く忍に、那美が苦笑しながら告げる。
それを受け、美由希たちも首を縦に振るのだった。

「まあ、そういう事だ。那美たちには悪いが、こいつはあたしのモノなんで、宜しくな」

「真雪さん、俺はモノ扱いですか」

「ったく、細かい事を一々気にするなよ」

「別に細かくはないかと……」

「だー!ごちゃごちゃ五月蝿い奴だな。あまり五月蝿いと、その口塞ぐぞ」

言うや否や、真雪は恭也の唇を奪うようにキスする。
驚いている恭也をよそに、真雪は舌で恭也の口をこじ開けると、そのまま口内へと侵入させる。
そこに来て、恭也も負けじとやり返す。暫しの間、その場にあまりそぐわぬ音が響く。
やがて、両者はゆっくりと離れる。
真雪は、横で顔を赤くしながら固まっている美由希たちを一瞥すると、恭也に向って言う。

「あいつらにゃ、ちょっと刺激が強過ぎたか?」

「さあ?」

「まあ、良いか。それよりも……」

真雪は恭也の耳に口を近づけると、囁くように言う。

「今夜は宴会になるけど、夜になったら、あたしの部屋でな」

その言葉に顔を赤くする恭也を見ながら、真雪は妖艶と言えるような笑みを浮かべる。

「今更照れるなよ。初めてじゃないんだし」

「それは、そうなんですけどね。最も、ベッドの中じゃ、真雪さんの方が照れてますけどね」

恭也の言葉に、今度は真雪が頬を染める。

「生意気な事、言ってるんじゃない」

照れる真雪が珍しいのか、恭也は笑みを浮かべる。
そして、

「真雪さん」

「何だ?」

「愛してますよ」

「なっ!ば、馬鹿か」

真雪は更に顔を赤くすると、そっぽを向く。
そんな真雪を可愛いと思いつつ、ついつい笑みが浮ぶ。
それを気配で察したのか、真雪は機嫌を損ねる。
そんな態度が、益々おかしくて恭也に笑みを浮かばせることにも気付かず。

「真雪さん、拗ねないで下さいよ」

「別に拗ねてねーよ。とりあえず、お前は学校が終ったら、すぐにさざなみに来いよ」

それだけを言うと、目も合わさずその場を立ち去ろうとする。
そんな真雪の肩を掴み、振り向かせると、その唇を塞ぐ。
たっぷりと真雪の唇を堪能した後、恭也はゆっくりと離れる。

「機嫌直してくださいよ」

「……おめーは、普段は鈍感なくせに、そういう所はずるいよな」

真雪の言葉に、恭也はただ笑みを浮かべるだけ何も言わない。
そんな恭也に、真雪は肩の力を抜き、笑みを見せる。

「まあ、特別に許してやるさ。その代わり、今夜は寝かせねーからな」

「覚悟はしてますよ」

「そうか。じゃあな。あたしはそろそろ帰るわ」

真雪はそう言うと、手を振りながら、その場から去って行った。
それを見送った後、恭也は一人呟く。

「さて、これをどうしたもんか」

その視線の先には、未だに固まったままの美由希たちがいた。











おまけ

その夜、盛大な宴会が行われ、全員が酔い潰れた頃、起き出す二つの影があった。
男の方が女の方を抱きかかえ、そのまま二階へと消えていった。
翌日、昼過ぎまで起きてこなかった真雪は、腰を手で叩きながら、リビングへと顔を出す。

「いててて。恭也の奴、少しぐらい加減しろっての」

ぶつくさと文句を言いながらも、しかしその顔は満足気だったとか。





おわり




<あとがき>

Mr.Kさんからの48万Hitきりリクです。
美姫 「今回は真雪さんね」
はい、そうです。
ちゃんと、ラブラブ風味になってるかな?
美姫 「いや、私に聞かれても」
はははは。まあ、あまり甘々で、ベタベタしてないかもしれないけど、しっかりとラブラブしてると思う…。
しかし、結構な数書いた気がしたけど、まだまだキャラが残っているな。
美姫 「ファイトよ、浩」
おう!では、今回はこの辺で。
美姫 「まったねー」





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