『An unexpected excuse』

    〜楓編〜






「俺が、好きなのは…………。いや、やめておこう」

その言葉に全員が前につんのめる。
忍がそんな皆を代表する形で、恭也に詰め寄る。

「何でよ。そこまで言いかけておきながら」

「しかし、その人に迷惑が掛かるしな」

「う〜。だったら、名前は出さなくても良いから、ヒントだけ」

「ヒント?」

「そう」

忍の言葉に、全員も頷いて恭也を見る。
恭也はそれに根負けしたのか、

「まあ、それぐらいなら」

と、答える。
それを聞いた忍は、早速質問を始める。

「じゃあさ、私たちが誰も知らない人?」

「いや、それはない」

恭也のその言葉に美由希たちは、自分の周りの者たちを思い浮かべると同時に、周りを警戒するように見る。

「じゃあ、料理は得意ですか」

今度は那美が質問をする。

「いえ、苦手ですね」

その言葉に晶とレンが落ち込む。
一方、美由希たちは、喜びを浮かべるもののどこか複雑そうな顔だった。

「な、何か微妙な心境ですね」

「あははは。同じくです」

美由希の言葉に、那美は笑いながら返す。
それを見ながら、忍は次に聞くことを考える。

「まあ、それよりも、他に何を聞こうかな」

「あ、じゃあさ。機械をいじったりとかする?」

美由希の問いに、恭也は苦笑をしながら、

「そんな忍じゃあるまいし」

恭也の答えに、忍はいかにもショックという顔をして見せる。

「そ、そんな、あの迎撃システムの良さが分からないなんて」

「どこがだ!行く度に撃たれてたまるか」

「じゃ、じゃあ……」

恭也と忍の言い合いを止めるように、那美が口を開くが、それを制するように恭也は片手を上げる。

「質問は後一つで」

「そんなー!良いじゃない」

「良くない。それに、時間もあまりない事だしな」

恭也の言葉に、渋々ながら頷く。
そして、美由希たちは相談を始める。
この時点で、FCたちは恭也に好きな人がいると分かり諦めたのか、この場から立ち去っていた。
やがて、話が纏まったのか、

「じゃあ、恭ちゃん。最後の質問。その人の特技は何?」

「特技か?そうだな、剣術、それも、小太刀を使ったやつだな」

「そ、それって……」

嬉しそうな顔を浮かべる美由希と、それを羨ましそうに見る忍たち。
そして、何かを思いついたのか、恭也は美由希を見ると、

「そうだ、美由希。お前に話がある」

「えっ!そ、そんな、こんな所でなんて。
 幾ら皆に気付かれたからって、忍さんたちが見てる前で言うの?」

「???
 別に忍たちは、俺たちの事を知っているんだから、問題ないと思うんだが?」

「そ、そりゃあ、忍さんたちは、私たちが本当の兄妹じゃないって知ってるから良いけど……」

「何を言っているのか、よく分からないが、嫌なら後でも構わないぞ」

「ううん!今すぐに言って!」

その余りにも強い口調に、恭也も少し引きながらも、口を開く。

「今度、楓さんに稽古をつけてもらえる様に頼んでおいたから」

「はい?」

「楓さんの攻撃は実に多彩だぞ。その上、スピードもある。同じ小太刀だし、きっと学ぶべき事がたくさんあるはずだ」

「えっと、それだけ?」

「ん?何だ、折角他流の、それも実力のある人とやり合えるというのに、それだけとは」

「な、何でもないよ」

どこか気落ちしたように答える美由希に、ただ首を傾げるだけの恭也。
そこへ那美が問い掛ける。

「恭也さん、もしかして好きな人って楓ちゃん?」

「あー、まあ」

曖昧な返事を返すも、その顔を見れば一目瞭然だった。

「一体、いつの間にそんなに仲良くなったんですか?」

那美が不思議そうに恭也に尋ね、それに答えるよりも先に、美由希が声を上げる。

「あー。この間の夏休みに修行とか言って、出掛けたのって、まさか」

「ああ。楓さんの誘いで京都の方にな。楓さんとは、まあその時に」

恭也の言葉に美由希たちは複雑そうな顔をするが、すぐにいつもの顔に戻ると笑みを浮かべ、口々に祝福の言葉を上げる。
恭也が照れながらもそれに答えていると、

「恭也くん!」

背後から声を呼ばれ、後ろを振り返ると、そこには今、話題に上がっていた楓が立っていた。

「楓さん!どうしたんですか!?」

「一昨日、電話したやろ。美由希ちゃんとの手合わせに来たんよ」

「そんなに急じゃなくても……」

「迷惑やった?」

「いえ、そうじゃなくてですね」

「冗談よ、冗談。たまたま近くまで仕事で来てたから、ついでに寄ったんよ」

恭也は楓と初対面の者の紹介をし、次に楓を紹介する。

「こちらは、那美さんの親戚で神咲楓月流の当主だ」

恭也の紹介で、お互いに挨拶を済ませると、楓は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、

「なあ、うちの紹介はアレで終わりなん?」

「…………あー、それで、まあ、何だ」

困ったように楓を見るが、楓は期待するような眼差しで恭也を見詰めるだけだった。
その様子を見て、他の者たちも何となく察しがついたのか、笑いを堪えている。
が、次に恭也が放った言葉は、ここにいた誰もの予想を越えていた。

「俺の婚約者だ」

はっきりと言った恭也に、この中で唯一驚いていない、当事者の一人である楓は嬉しそうな顔をしている。
美由希たちは、驚きの余り声が出せないでいた。

「どうしたんだ、皆?」

恭也は美由希たちの様子に首を傾げる。

「やっぱり、俺と楓さんでは釣り合いが取れないか?」

「恭也くん!そんな事あらへんよ」

「しかし、現に皆も驚いているみたいですし」

「それは、単に急だったからやと思うけど。恭也くんは充分魅力的や。
 どっちかと言うたら、うちの方が釣り合い取れてへん」

「そんな事ないです!楓さんは、充分に、み、魅力的ですよ」

「ありがとう、恭也くん。正直、言うと少し不安やったんよ。
 でも、今ので吹っ切れた。釣り合う釣り合わへんゆーんは関係ない。
 うちが恭也くんの事を好きで、恭也くんがうちの事を好きやったら、それで良いんや。
 それ以上は何もいらんはずやろ。それとも、恭也くんはうちの事が嫌い?」

「そんな訳ないじゃないですか」

「だったら、それで良いやんか。な」

「はい。俺も楓さんが俺の事を好きでいてくれるなら、それで良いです」

「そやろ。周りのことなんか気にしたらあかん」

「はい」

二人は微笑を交わすと、そっと口付けをする。
完全に二人の世界に入っている所へ、声が掛けられる。

「あー、仲睦まじいのは良いんだけど、少しは周りの事も気にして欲しいなー」

忍の言葉に、二人はここが何処か思い出し顔を真っ赤に染めると、急いで離れる。
それを苦笑しながら見た後、忍は質問をする。

「一体、いつからそういう事になってたの?」

「あー、夏休みに楓さんの道場に行った事は話したよな」

その言葉に、全員が頷きを返す。

「その時だ。正確には、その最終日に、決まったんだが」

「だったら、どうして話してくれなかったの?」

「まあ、色々とあってな。とりあえずは、俺が卒業するまでは黙っていようという事になってな」

「だったら、私たちぐらいには話してくれても」

美由希の言葉に、恭也はバツが悪そうな顔をして、

「母さんには一応、言ったんだがな。そしたら、母さんが面白そうだから黙ってろと言ってな」

美由希たちは、脳裏に浮かんだ桃子の楽しそうな笑みを追い払い、顔を見合わせると苦笑する。

「まあ、そう言うわけだ」

「その説明だけで、何となく納得してしまう辺りが桃子さんよね」

しみじみと呟く忍の言葉に全員が頷く。

「でも、騙されてばかりって言うのもあれだし。こうなったら、翠屋を借り切って、パーティーよ!
 勿論、桃子さんには何のパーティーかは秘密で」

言うが早いか、忍は携帯電話を取り出すと、翠屋へと電話をする。

「那美、さざなみの人たちにも宴会とだけ伝えて」

「あ、はい」

忍は矢継ぎ早に那美に指示を出すと、猫なで声で電話に出る。
桃子と幾つか会話をした後、6時半以降を貸切にした。
さざなみにもその事は伝えられ、宴会が行われる事となった。
唖然と成り行きを見ていた恭也と楓は、忍の声で我に返る。

「そういう訳だから、恭也と楓さんは6時半に翠屋に来てね。それまでは、どこかで時間を潰してて」

そう言って忍は恭也と楓の背中を押し、この場から立ち去らせる。
恭也も特に反抗する事もないと思い、素直に楓を連れて学校から抜け出すのだった。

「ははは。なんや、大事になってしまったね」

「確かに」

「恭也くん、怒ってない?」

「何でですか?」

心底不思議に思っている顔を見て、楓はほっと胸を撫で下ろす。

「いや、皆にばらしてしまったから」

「いいえ、別に隠しておくような事でもありまえんし。
 でも、今日は間違いなくからかわれるでしょうけど」

「あはは、真雪さんやね」

「ええ。それでも、皆が祝福してくていると分かりますから。
 それに、楓さんとの事ですから少しくすぐったいですけど、嬉しいですよ」

恭也の言葉に嬉しそうに微笑むと、楓は恭也の頬にキスをする。

「うちも」

そう言って楓はそっと微笑む。
それに答えるように恭也も微笑むと、楓の手を取り歩き出すのだった。





<おわり>




<あとがき>

楓編でした。
美姫 「御琴さんの35万Hitキリリクです!」
これで神咲家は後、十六夜さんだけかな?
美姫 「えーと、そうね。しかし、結構な数になってきたわね」
うん。でも、まだキャラは残っている。
美姫 「次のヒロインは誰かしら?」
次は、XXXです。
美姫 「速めに上げるのよ!」
ラジャッター!
美姫 「じゃあね〜」
ではでは。





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