『An unexpected excuse』

    〜祐巳 続編3〜






「新年あけましておめでとうございます」

「おめでとうございます」

時計の針が丁度、12時を指した所で恭也と祐巳はお互いにそう言って頭を下げる。
二人だけでなく、二人の周りでも同じような光景がそこかしこで見られる。
それからも分かるように、丁度、たった今、新年を迎えた所である。

「それにしても、意外と人が多いんですね」

「仕方ないですよ。皆、考えることは同じでしょうし」

周りを見ながら洩らした祐巳の言葉に、恭也は苦笑しながら返す。
それから改めて祐巳の晴れ着姿を見て、その顔に苦笑とは違う笑みを見せる。
それが気になったのか、祐巳は不安そうに自分の体を見た後、不安そうな顔になる。

「ひょっとして、やっぱり似合ってないんじゃ……」

「そんな事ないですよ。最初に言ったように、よく似合ってますよ」

恭也の言葉に相好を崩しそうになるが、すぐに何かに気付いたのか、少し膨れたような顔をしてみせる。

「それじゃあ、祐麒みたいに七五三みたいで似合っているって言うんですね」

「そんな事思ってませんって」

「本当に?」

「ええ。その、本当に可愛いですよ」

照れた顔を隠すように祐巳から背けながら呟く恭也の言葉に、祐巳も照れて顔を赤くしつつも、
嬉しそうな笑みを顔一杯に浮かべる。

「あっ」

不意に後ろから押されて前へとつんのめる祐巳を、恭也は抱き締めるよう正面から受け止める。

「大丈夫ですか」

「うん。ありがとう」

「参拝に行きましょうか」

「うん。……あ」

「はぐれるといけませんから」

「う、うん」

祐巳の手を握った理由をそう説明すると、恭也は前へと進む。
その横に並んで祐巳も一緒に歩を進めて行く。
長い時間掛けてようやく参拝を済ませた恭也と祐巳は、ゆっくりと歩く。

「恭也さんは何をお願いしたんですか?」

「そう言う祐巳さんこそ」

「私? 私は、いい加減、偶にじゃなくて、常に恭也さんが私のことを呼び捨てにしてくれたらな、とか。
 後は、その口調とかも……」

「うっ。今年は気を付ける」

「はい、期待してます。で、恭也さんは?」

「それは秘密です。言うと叶わなくなると言いいますから」

「そ、そんなぁ。それじゃあ、私のお願い事って叶わないの……」

頭を抱える祐巳に笑みを見せつつ、恭也はいつものツインテールではなく、
後ろで束ねってアップにしている祐巳の髪をそっと撫でる。

「冗談だ。ほら、現にこうして話しているだろう」

「……じゃあ、さっきのは嘘なんですね」

「どうだろう。そんな話を聞いた事があるのは本当だが」

「そ、それじゃあ」

「まあ、大丈夫だと思うけどな。ほら、そんなに落ち込んでないで、あっちで何か配ってるから行ってみよう」

そう言って祐巳の手を引く恭也に、祐巳は真剣な顔をして見せると、

「恭也さんのも教えて〜。じゃないと、不公平だよ〜」

「分かった、分かったから。はぁ、別に大した事じゃないですけど……」

それでも良いからと祐巳は恭也の手を逃がさないように両手で握る。
それに肩を竦め、恭也は自分がした願いを教える。

「家族の健康に、俺と美由希の更なる向上。そして、祐巳とずっと居られるように」

少し顔を赤らめつつ言う恭也の言葉に祐巳も照れながら、それを誤魔化すように話を変えようとする。

「そんなにもお願いするなんて、ちょっと欲張りのような」

「それを言うのなら、カトリックの学校に通う祐巳が頼むのも可笑しいんじゃないのか?」

「あっ。そう言われれば。でもでも、あ、あれ? やっぱり、こういう場合は駄目なのかな?」

真剣に悩む祐巳を見て、恭也は思わず声に出して笑う。
それを見て祐巳は拗ねたような顔を見せるが、すぐに同じように笑う。
仲良く手を繋いだまま二人は近くの休憩所のベンチに腰を降ろし、先程貰ったものを口に含む。
途端、恭也はそれからすぐに口を離す。

「お酒?」

口に広がった液体の味に身に覚えのあった恭也は一口でそれを悟り、ふと入り口付近の看板に目を向ける。
そこには、はっきりとお屠蘇配布中と書かれていた。

「まあ、祝い酒だし一口くらいなら……」

そう思って祐巳を見ると、顔が赤くなっていた。

「えっと、俺以上に下戸?」

思わず誰ともなく呟く恭也だったが、そんな事に構わず、祐巳は恭也へと抱きつくようにもたれ掛かる。

「恭也さ〜ん。何か暑いです〜」

「えっと、大丈夫な訳ないですね」

恭也はそう言うと祐巳を背負って歩き出す。
恭也の背で揺られながら、祐巳は恭也の耳元で話をする。

「すいません〜」

「気にするな」

「ありがとう」

少しそのままで歩いているうちに酔いも覚めたのか、祐巳も次第にはっきりとしてくる。
それでも、お互いにそのままで黙ったまま歩く。
まだお屠蘇の所為か、少しご機嫌な祐巳は恭也の首へと回した腕に僅かに力を込める。
そんな光景に周りからも微笑ましい笑みが零れる。

「仲の良い兄妹ね〜」

「本当に」

悪意はないのだろうが、二人を見てとある者が漏らした言葉に祐巳は項垂れる。
それを背中に感じると、恭也は顔を振り向かせる。

「気にしなくても良い。あの人たちも悪気があって言った訳では……」

「分かってるよ。でも、それって私と恭也さんが兄妹に見えるって事だよね」

「……」

沈んだ声で言う祐巳をそっと背中から降ろす。
突然、降ろされた祐巳はやっぱりといった様子で顔を俯かせ、自分じゃ不釣合いなんだと悲しくなる。
そんな祐巳の心情を知ってか知らずか、祐巳を降ろした恭也はそっとその肩に手を置き、
落ち込む祐巳の顎にそっと指を添えて上向かせると、その唇にそっと触れる。
驚く祐巳が目を見開く先で、恭也は静かに口を開く。

「兄妹なんかじゃないさ。俺にとって、祐巳は大事な女の子だから」

そう言って微笑む恭也に祐巳はぽ〜っと見惚れるが、すぐにお酒の所為ではない理由から顔を真っ赤にさせる。
恥ずかしがり屋の恭也が周りも気にせず、落ち込んだ自分のためだけにしてくれた行為に頬を緩めつつ、
祐巳は自分の唇に人差し指を当てる。

「えっと、もう一回……」

言ってから、何を言ってるんだと冷静な部分が自分に突っ込むが、
それ以上に甘えたいという気持ちの方が勝っていた。
それに対して恭也は何も言わず、もう一度という祐巳の要望に応える。
先程よりも若干、長かったようにも感じられる口付けが終わると、祐巳は恭也の腕を取る。
そんな祐巳に恭也はただ優しい眼差しを向けると、揃って歩き出す。
しっかりとくっついたまま歩きながら、祐巳が恭也を見上げる。

「恭也さん、今年も宜しくお願いしますね」

「こちらこそ。でも、今年だけじゃなくて、これからずっとだと嬉しいかな」

「勿論です! これからもずっと宜しくお願いしますね♪」

新年最初の朝日が昇り始める中、恭也の言葉に満面の笑みを見せながら、
祐巳は元気良くそう答えるのだった。





<おわり>




<あとがき>

260万Hitで、時流さんからのリクエスト〜。
美姫 「祐巳の続編ね」
おうともさ!
今回はほのぼのアンド……。
美姫 「ちょっと甘々風味でお届け〜」
今回も、というべきか。
美姫 「まあ、その辺はいいじゃない」
だな。ってなとこで、また次回〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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