『An unexpected excuse』

    〜久遠編〜






「俺が、好きなのは久遠だ」

はっきりと言った恭也にFCたちは落胆の声を上げ、美由希たちは複雑そうな顔を見せる。

「そっかー、恭ちゃんは久遠が好きだったんだ」

「うぅ、複雑です」

「まあまあ。元気出しなさい那美」

と、そこへ恭也の後ろの茂みがカサカサと音を立てて揺れ、そこから一匹の子狐が顔を見せる。

「くぅ〜ん」

子狐は一声鳴くと、恭也に気付きトテトテと恭也の傍まで来る。
それを見たFCたちが揃って大声を上げる。

『きゃぁ〜、可愛い!!』

その大声にビックリしたのか、子狐は一度びくりと大きく体を振るわせると、恭也の胸に飛びつく。
それを優しく受け止め、膝の上に抱きながら、そっとその背中を撫でてあげる。

「大丈夫だぞ、久遠。そんなに怖がらなくても。それにしても、よく一人でここまで来たな」

恭也の言葉に久遠は嬉しそうな泣き声を上げると、自分の頭を撫でる手を舐める。
そんな久遠の様子に、恭也は滅多に見せない笑みを浮かべる。
それを見たFCたちから、また黄色い声が飛ぶ。

「た、高町先輩の笑顔〜」

「き、貴重なものが見れたわ〜」

「あの狐が羨ましいぃぃ」

「でも、可愛いぃ〜」

「久遠って名前みたいだけど、呼んだら来るかな」

「って、…………」

『久遠!!』

再び上がった大声に、久遠は怯え恭也にしがみ付く。
それを宥めながら、恭也はFCたちを見る。

「すまないが、あまり大声はやめてくれ。久遠が怖がるから」

「は、はい。すいません」

揃って頭を下げるFCたちに、恭也も頷く。
そして、FCの一人が恐る恐るといった感じで口を開く。

「すいません。先程、高町先輩が仰っていた久遠というのは……」

「ああ。この久遠だが、それが?」

その返答にFCたちは揃って安堵の息を洩らす。

「高町先輩ってば、動物に凄く好かれるから」

「私も見た。この前なんか、猫に餌をあげてたのよ」

「聞きたかった答えとは違ったけど……」

「それはつまり、付き合っている人も好きな人もいないって事だろうし」

「うんうん。それに、今日は高町先輩の貴重な笑顔が見れたし、これで満足♪」

FCの生徒たちは口々に言うと、揃って立ち上がり、恭也に頭を下げる。

『高町先輩(くん)、ありがとうございました』

「?よく分からんが、ああ」

『では、これで』

そう言うとFCたちは口々に先程、恭也が見せた笑顔や、久遠について語りながら中庭を後にした。
それを見送り、恭也は首を傾げる。

「一体、何だったんだ」

「さあ」

美由希たちはFCの勘違いに苦笑しつつ、恭也と久遠を眺めていた。

「でも、恭也。気を付けた方が良いかもね」

「何をだ?」

「さあ。とりあえず分かるのは、彼女達が勘違いをして、諦めていないって事かな」

忍の言葉に首を傾げながらも、恭也はただ久遠を撫でていた。





数日後、恭也は再び中庭にてFCたちに囲まれていた。

「一体、何の騒ぎだ」

「何のじゃありません」

「どうしても、教えてもらいたい事があるんです!」

先日よりも鬼気迫る顔で迫るFCたちに、恭也もたじろぎ頷く。
美由希たちは事の成り行きを不安そうに、または面白そうに眺めている。
そんな美由希たちに恨みがましい目を向けつつ、恭也はFCが話を切り出すのを待つ。
やがて、FCの一人が口を開く。

「実は、この前の日曜日に高町先輩を見たんです」

「それで?」

恭也にとっては別段、可笑しな話ではない。
そもそも、同じ学校の生徒なのだから、近所で見かける事もあるだろうし。
しかし、その女子生徒はそんな恭也を気にも止めず、話を続ける。

「その時、一緒にいたあの綺麗な女性は、一体誰なんですか!」

その言葉に恭也は記憶の糸を辿り、やがて納得がいったのか一つ頷く。

「ああ、久遠の事か」

(確かに、この前の日曜日に、大人の姿の久遠と一緒に出かけたな)

「久遠?!久遠ってあの狐の事じゃなかったんですか!」

FCたちの上げた台詞に、恭也たちはしまったというような顔になる。
恭也たちは顔を見合わせ、何と言って誤魔化すかを考える。
しかし、それよりも先に彼女たちの中で話は完結したようで、揃って落胆の溜め息を吐き出す。

「高町さんに付き合っている人がいたなんて……」

「しかも、子狐に同じ名前をつけるぐらいなんて」

「高町先輩、お幸せに」

FCたちはそう言うと、その場から立ち去って行く。
それを呆気に取られながら見ていた恭也たちは、顔を見合わせ苦笑を浮かべた。
そこへ、久遠が再び姿を現す。

「くぅ〜ん」

「久遠か。ほら」

恭也が手を差し出すと、久遠は子供の姿になり恭也に飛びつく。

「きょうや〜♪」

飛び付いて来た久遠を優しく撫ぜる。

「すき〜」

「ああ、俺も久遠の事、好きだぞ」

「えへへへ〜」

そう言うと久遠は恭也の唇を舐める。

「…………」

「きょうや……」

無言の恭也に対し、久遠は首を捻り下から覗き込む。
恭也は久遠の耳を優しく撫でると、そっと口付けを交わす。
何度もしているのか、お互いに慣れた様子で、久遠はそっと目を閉じた。
やがて唇を離すと、久遠は恭也に甘えるように首筋に鼻を擦りつける。
そのまま久遠の髪を撫でている恭也を、美由希たちが驚いた表情のまま眺めていた。
そこへ、日曜日に久遠と恭也を目撃したFCの生徒が戻って来た。

「…………高町先輩?」

その生徒は恭也と久遠を見て、顔を慌てたように、

「ご、ごめんなさい。わ、忘れ物というか落し物をしたみたいで」

その生徒は落ちていたハンカチを拾うと、足早にその場を去って行く。
それに気付いているのか、いないのか、恭也と久遠は二人でのんびりとしていた。





後日、一つの噂が校内に広まる事となる。
それは、『恭也と久遠(大)の間に、母親そっくりの子供がいて、昼休みに父である恭也に会いに来ていた』というものだったとか。





おわり




<あとがき>

ほい、久遠編です。
美姫 「言い出してから、完成までの道のりが最も長かった久遠編ね」
違うぞ!言い出してから、最も長いのは、まだ完成していないなのは編だ!
美姫 「威張るな!」
ぐわっ!
美姫 「この馬鹿!」
ごっ!
美姫 「反省しなさい!反省を!」
がっがっが。ぐはぁっ!
美姫 「分かった!」
ふぁ、ふぁ〜い。がくっ。
美姫 「ふー。さて、次は誰になるのかな♪」





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