『An unexpected excuse』

    〜志摩子編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也は一旦間を開け、ゆっくりとだが、はっきりと口にする。

「皆、好きだぞ」

その言葉に美由希たちは顔を赤くする。

「そ、そんな皆一緒だなんて……。で、でも、恭ちゃんがそう言うなら……」

「恭也さんがそう仰られるのなら、私も構いません」

「まさか、恭也がそんな事を言うなんて……。でも、恭也が望むなら……」

「お、俺も師匠の言う事なら」

「おサルと一緒ゆーんはちょっと、あれやけど、うちも……」

「何を言ってるんだ?お前たちは……」

一人、冷静な恭也の言葉にFCの一人が声を掛ける。

「あ、あのー、高町先輩。家族や友達としての好きじゃなくてですね……」

「ああ、そういう事か」

このやり取りで、一斉に固まる美由希たち。
そして、一斉に恭也に詰め寄る。

「恭ちゃん、誰が好きなの!」

「はっきりして下さい」

「そうよ、ちゃんと私だって言えば良いのよ」

「忍さん、どさくさに何を」

「お師匠、こん中におるんですか!」

先程のFCたちの追及よりもきつい追及が飛んでくる。
これにたじろぎながらも、恭也は何とか口を開く。

「わ、分かったから、とりあえず落ち着け」

この言葉に少しだけ身を引く美由希たち。

「あー、どうしても言わないと駄目か?」

返って来る答えを予想しつつも、恭也は最後の抵抗を試みる。
が、返って来たのは恭也の予想通りの答えだった。
仕方がなく、恭也は一息入れると口を開く。

「俺の好きな人だが、美由希……」

「ええっ、わ、私。そ、そんな困っちゃうな〜」

困るという割には頬を緩め、クネクネと身体をくねらせる美由希。
それを殺気の篭った視線で見詰める忍たちに、美由希はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
が、その表情が続く恭也の言葉で凍りつく。

「美由希は妹だから、まず違う」

「…………そ、そんなぁ〜。だって、本当の兄妹じゃ……」

「そうですよね。兄妹ですもんね」

「そうそう。兄妹として過ごした長い年月の絆の前には私たちは入り込めないわ〜♪」

「それに、お二人は師弟でもあるし」

「うんうん。堅い絆やね」

口々に畳み掛けるように言う忍たちに美由希はただ項垂れるのだった。

「うぅぅぅ〜、皆酷いよ」

「話を続けても良いのか?」

頷く忍たちを見て、恭也は話を続ける。

「俺の好きなのはレン……」

「う、うちですか!」

「な、何でこんなドン亀が!」

「へっへーん、何とでも言え。この負け犬が。おっと、猿やったな」

「こ、こいつー!」

「きょ、恭也さんは小さい方が良いんですか」

「恭也〜、流石にそれは私には無理だけど……」

「……でもない。レンも妹のようなものだしな」

「そ、そんなお師匠〜。小さい頃の約束が……」

「へっ!ざまあみろっ!そんな小さい頃の約束なんか、今頃関係ないに決まってるだろ」

ショックを受けるレンに先程のお返しとばかりに言い放つ晶。
それに対し、いつものように言い返す気力もないのか、レンは肩を落とす。

「晶もレンと同じく妹みたいなものだしな」

続く恭也の言葉に晶の動きも止まる。

「と、いう事は……」

「私と那美のどちらかって事ね」

「「どっちなんですか(なの)?」」

期待と不安を混ぜたような目で恭也を見る。
そして、恭也は……、

「忍……」

「やったー!やっぱり、私だったのね!」

満面の笑みを浮かべる忍と、泣き崩れる那美。

「うぅ〜。やっぱり、胸ですか……。胸なんですね」

そんな二人に恭也は溜め息を吐きながら、

「話は最後まで聞け」

この言葉に忍は嫌な予感を感じ、那美は期待の篭った目を向ける。

「忍は、クラスメイトで仲の良い友達だ」

「そ、そんな〜」

「じゃ、じゃあ私?」

先程とは逆の表情になある二人を見ながら、恭也は首を振る。

「那美さんは後輩で、美由希の親友です」

「えぇ〜」

恭也の言葉に全員が項垂れる。
その様子を見ながら、

(何故か分からんが、美由希たちが大人しくなったし、まあ良かったのか?)

何とか事態が収拾した事にほっと胸を撫で下ろした恭也だったが、FCから掛けられた言葉により無へと帰す。

「結局、誰が好きなんですか?」

この言葉を聞き、美由希たちが再び動き出す。

「そうだよ恭ちゃん!」

「危うく騙される所でした」

「私たちじゃないって事は誰なのよ!」

「俺たちの知っている人ですか」

「お師匠ー、はよー答えて下さい」

「お、おい。少し落ち着け」

恭也の言葉に耳を貸さず、美由希たちは恐ろしい程の形相で迫る。
そんな中、ゆったりとした声が響く。

「あの〜、お取り込み中すみませんが、少々お聞きしたい事が……」

その声に全員が揃ってそちらへと向く。
そこには、白いセーラーカラーに深い色の制服を身に着けた一人の女性が立っていた。

「志摩子!どうしてここに!?」

誰かが少女が何者かを聞くよりも先に、その答えが恭也の口から出る。
志摩子と呼ばれた少女も、恭也を見つけると、その顔に柔らかな笑みを浮かべる。

「恭也さん、ここでしたか。実は、修学旅行でこの近くまで来たので、自由行動の合間に来てみました」

「一人でですか?」

「はい。それに、ここには氷那社というお社があって、そこには少し変わったご神体があると聞いたものですから。
 そのついでに寄ってみました。やっぱり迷惑でしたか?」

「いえ、そんな事はありませんよ。でも、時間は良いんですか?」

「はい、夕方までなら大丈夫ですから」

二人で話を進めていく恭也たちに美由希たちが声を掛ける。

「恭ちゃん、そちらの方は?」

「ああ、こちらはリリアン女学園に通う藤堂志摩子さんだ」

「初めまして」

「は、初めまして」

優雅な仕草で挨拶をする志摩子に美由希たちは少し慌てて返す。
それから、恭也は美由希たちを簡単に紹介する。

「あ、あのー恭也さん。その藤堂さんとはどういったお知りあいで?」

「えーと、その、何だ」

妙に歯切れの悪い恭也に首を傾げながらも答えを待つ。
その横で志摩子は何かを期待するように、笑みを浮かべたまま恭也を見ている。

「こ、恋人だ」

「なんだ、恭ちゃんの恋人だったのか」

「それにしても、こんなに綺麗な人となんて……」

「はぁ〜、恭也ったら一体いつの間に」

「お師匠もやりますなー」

「本当だな。全然、気付かなかった」

『はははは。………………って、えっええええぇぇぇぇーーーーーーーー!!こ、恋人ぉぉぉーーー!!』

「きゃっ」

美由希たちが突然上げた大声に志摩子は驚き、小さく可愛らしい悲鳴を上げ、身を竦ませる。
恭也はそんな志摩子の肩を優しく抱きながら、

「大丈夫か、志摩子?」

「あ、はい。ちょっと驚いただけだから」

「そうか」

恭也は志摩子に向ってそっと微笑む。
そんな恭也に見惚れる志摩子と他の面々。
やがて、何かに気付いたかのように美由希たちが恭也へと迫る。

「恭ちゃん〜、恋人がいたのにあんな事を〜」

「恭也さん、酷すぎますよ」

「恭也の極悪人。この女の敵!」

「師匠、幾ら何でもあれは……」

「お師匠、残酷すぎです」

「ちょっと待て。何を言ってるんだ、おまえ達は」

美由希たちの形相に僅かに後退る恭也。
FCたちは巻き込まれる事を恐れてか、それとも聞きたい事が分かったからなのか、
恐らく、両方の理由だろうが、この場には既にいなかった。
少し焦る恭也に、志摩子が尋ねる。

「恭也さん、一体何をしたんですか?」

「いや、別に何もしてないんだが」

「本当ですか?」

「ああ」

「恭ちゃんの嘘つき。あ、あんな大勢の前で私たちに恥をかかせておいて」

美由希の言葉に忍たちも頷く。

「ひ、人聞きの悪い事を言うな」

「恭也さん……」

少し悲しげな声を出す志摩子に、恭也は慌てて弁解する。

「誤解だ、志摩子」

「そんな……。私の初めては恭也さんだったのに……。私は恭也さんとだけなのに……。
 恭也さんは、こんなに大勢の方と……」

「ちょ、ちょっと待て、志摩子。色々と言いたい事があるんだが、とりあえず落ち着け」

恭也の言葉も耳に入っていないのか、志摩子は俯いたまま何やら呟いている。
一方、美由希たちも志摩子の台詞に完全に固まっていた。

「そ、そんな恭ちゃんが……」

「そ、そこまで手が早かったなんて……」

「あの恭也が……」

「師匠が……」

「う、嘘や、これは夢や」

「………………はぁー、空が青いな」

恭也はとりあえず現実逃避をしてみるが、横で落ち込んでいる志摩子を見て溜め息を吐くと、そっと抱き寄せる。

「志摩子、信じて欲しい。俺には志摩子だけだから」

そう言って、志摩子の頤を摘み、そっと上を向かせるとその唇を塞いだ。
最初は気付いていなかった志摩子だったが、すぐに気付くと驚き離れようとする。
それを恭也は頭を押さえて、逃がさない。
やがて、志摩子は目を閉じると恭也に身を任せるのだった。
長く激しいキスを終えた二人は見詰め合う。
最初に恭也が口を開く。

「志摩子、落ち着いたか?」

「ええ。でも、違う意味でまだ動悸が……。恭也さんって、意外と大胆ですね」

「す、すまない。でも、志摩子に信じてもらうためだからな」

そう言うと恭也は事の起こりを初めから説明する。
その頃には美由希たちも元に戻っており、一緒に誤解を解いていく。

「そ、そうだったんですか。すいません、私の勘違いで」

「いや、分かってくれたら良いんだ」

「ありがとう。キスしてくれる前に言ってくれた恭也さんの言葉、嬉しかった」

そう言って笑う志摩子から、恥ずかしさから目を背ける恭也。

「そ、そうだ、志摩子。あの初めての相手というのは……」

恭也の言葉に志摩子は一つ頷くと、

「はい。だって、私の初めてのキスの相手は恭也さんですから。
 それに、恭也さん以外の方とはした事もありませんし、したいとも思いません」

それを聞いた美由希たちは脱力しつつ、口々に何かを言う。

「な、何だ〜キスの事だったんだ」

「ビックリしました〜」

「でも、恭也と志摩子さんが付き合ってるのは事実なのよね」

「こうなったら、仕方がないですよ」

「そうやな……」

そんな美由希たちに気付かず、恭也は志摩子に笑いかける。

「志摩子の自由時間も、残り少ないだろうし、少しだけこの街を案内しよう」

「で、でも授業が」

「気にする事はない」

「気にしますよ」

そんな二人に忍が声を掛ける。

「志摩子さん、本当に気にしなくても良いわよ」

「そうですよ。それよりも、今すぐ恭ちゃんを連れてどこかに行って下さい」

「鈍感な恭也さんには、いい罰です」

「でも……」

まだ躊躇う志摩子に、忍が志摩子にだけ聞こえるような声で言う。

「まあ、私たちとしては、このまま恭也に居てもらっても良いんだけどね。
 遠距離恋愛中なら、近くにいる魅力的な女性の方に惹かれるかもしれないし。
 やっぱり会えないよりは、すぐに会えた方が良いでしょ。
 その為には、少しでも彼女と会う時間が少ない方が有利だしね♪」

実際に恭也はそんな事はしないと分かっていながら、忍は笑ってそんな事を言う。
志摩子は忍たちの気持ちに気付き、一度頭を下げると、

「じゃあ、恭也さんお願いしますね」

「ああ。じゃあ、行こうか」

「はい」

二人は並んで歩き出す。
と、その途中で志摩子は振り返ると、

「皆さん、ありがとうございます。でも、恭也さんは絶対に譲りませんから。
 例え、すぐに会えなくても心は繋がっていますから」

そう言って微笑む志摩子を見て、全員が負けたと思い、また、彼女になら恭也を任せても大丈夫だと思う。
ただ一人、志摩子の横で恭也は首を傾げていたが、それはまあ、いつもの事。

「志摩子、どういう意味だ?」

「ふふふ。恭也さんは知らなくても良い事ですよ」

「そうなのか」

「ええ。でも、一つだけ知っていて欲しい事はありますけど」

「それは、何だ?」

「それは、私、藤堂志摩子が世界中で誰よりも、あなたの事を好きで、傍にいたいと思っている事ですよ」

少しはにかみながら、志摩子は言い切る。
そんな志摩子に恭也もそっと答える。

「俺も同じだ」

そっと差し出した手を志摩子が握り、それを恭也は少し強く握り返す。
お互いが近くにいることを確認するかのように。
そして、二人はゆっくりと歩き出した。





おわり




<あとがき>

そういう訳で、志摩子編です〜。
美姫 「マリみてからは初めてね」
そうです。
アハトさんが蓉子編や聖編を書いてくれたので、正確には初めてじゃないけどね。
美姫 「それは兎も角、次は誰かしら?」
また、次の話か!
美姫 「だって、このシリーズの後書きの定番でしょ」
一体、いつから定番になったんだ?
美姫 「細かい事は良いから、次は」
おっと、こんな時間だ!じゃあ、ぐぇ!
美姫 「そう毎回、毎回逃がさないわよ。さあ、吐け。とっとと吐け。逆さまになってでも吐きなさい!」
ぐえ、ぐえ、ぐえ。(く、首が絞まってて喋れるかぁぁ!)
美姫 「あくまでも言わないつもりね。こうなったら……」
ウ〜ウ〜(ち、違う。喋らないんじゃなくて、喋れないんだ。は、離してくれ〜。い、息が……)
美姫 「奥義!天衝紅凰蓮閃!」
っぱら〜!
美姫 「ふっ!悪は滅びた。…………じゃあ、また次回で♪」





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