『An unexpected excuse』

    〜志摩子 続編2〜






今日は12月31日、世間一般で言う所の大晦日である。
今年一年を思い返しながら、恭也はそっと息を吐く。
吐いた息が白く立ち込め、消えていく。

(今年は本当に色々あったな)

今年一年だけで、色々と知り合った者たちを思い浮かべる。
恭也にとって、今年はまさに出会いの年と言えた一年だっただろう。

(……その中でも特に)

恭也はその中でも最も愛しい者へと顔を向ける。
恭也に見られている事に気付いたのか、隣を歩いていた志摩子が恭也へと振り向き笑みを見せる。
それに同じく、恭也も笑みで答える。

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。その着物、よく似合っているよ」

「あ、ありがとうございます。こ、これはお義母さんが……」

志摩子は桃子の事を、こう呼んでいる。
いや、正確には呼ばされているだが。
まあ、本人も嫌がっていないようなので、恭也も特に何も言わない事にしている。
尤も、多少恥ずかしさを感じていたりするのだが。

「そういえば、かーさんが全員の分を用意していたな。まさか、志摩子の分も用意していたとは」

かーさんらしいなと納得しつつ、恭也は改めて志摩子を見る。
着物に合わせてか、いつもは垂らしている髪を後ろで纏めてアップにしており、
着物から覗く白い項に、思わず目が行きそうになるのを何とか逸らす。
それを勘違いしたのか、志摩子が不安そうに聞いてくる。

「やっぱり似合ってませんか」

「いや、そんな事はないよ。さっきも言ったけど、よく似合っている。
 その、……とても綺麗だ」

最後の言葉は顔を逸らしつつ小声になるが、隣を歩いていた志摩子の耳にははっきりと届いていた。
緩む頬を隠そうともせず、志摩子は恭也と並んで歩く。
と、その足が小石にでも躓いたのか、志摩子が転びそうになるのを、恭也が横から手を差し出して支える。

「大丈夫か?」

「は、はい。少し躓いただけですから。ありがとうございます」

「ちゃんと、足元にも気を付けないとな」

「はい」

恭也に注意され、頷く志摩子に恭也が手を差し出す。
不思議そうにその手を見遣る志摩子に、恭也は顔を赤くしつつ言う。

「また躓くといけないから」

「……はい」

しばらく恭也の手を見た後、意味を理解して志摩子は嬉しそうに恭也の手を取る。
二人は手を繋ぎながら、神社へと歩いて行った。







人で賑わう神社を、恭也と志摩子は手を繋いで歩いて行く。

「あ、恭ちゃん!」

人込みの中から名前を呼ばれ、恭也は顔を顰めながらもそちらへと足を向ける。

「ご苦労さまです、那美さん」

そこには、神社の巫女として頑張っている那美と、その手伝いをしている美由希がいた。

「恭ちゃん、私には?」

「いたのか、美由希」

「さっきからいたよ。って、そもそも私が呼んだんだよ」

「そうだったな。美由希、那美さんの邪魔だけは、くれぐれもするなよ」

「……うぅ、うちの兄が虐める」

「あははは。まあまあ、美由希さん。私は手伝ってもらって、本当に助かってますから」

「那美さん!」

那美のフォローに、美由希は嬉しそうに那美の手を握る。
そんな二人を眺めつつ、恭也が口を開く。

「本当に邪魔してないのか?」

「…………苛めっ子だ。苛めっ子がいる。
 神様、ここに苛めっ子がいます。どうか天罰を……」

「……とりあえず、俺に天罰が下る前に、お前に拳骨を下しておくか?」

「ごめん、やめて恭ちゃん!」

じゃれ合う二人を見ていた志摩子と那美が笑う。

「くすくす。恭也さん、それぐらいで」

「そ、そうだよ。志摩子さんの言う通りだよ!」

力強い援護を得て、俄然強気になる美由希を一睨みで黙らせる。

「まあ、志摩子がここまで言うなら、これぐらいにしておいてやろう」

「やっぱり、志摩子さんが言うと全然違うんだ」

口の端を上げ、そんな事をのたまう美由希に恭也は拳骨を作ってみせる。
咄嗟に頭を庇いつつ、下から見上げる美由希に呆れたようにため息を吐く。

「お前には学習能力というものがないのか」

「それは、恭ちゃんにだけは言われたくないよ……。って、ごめんなさい、嘘です」

「まったく」

呆れたように言う恭也に、美由希が怨めしそうに言う。

「呆れる前に、虐めるのをやめてよ」

「……別に虐めてはいないんだがな。
 まあ、美由希がそこまで言うならやめてやろう」

「本当に!」

嬉しそうに言う美由希に、虐めてないんだがと再度口に出しつつ、複雑そうな顔で頷く。

「ああ。今年はお前を虐めないと誓おう」

「今年って、後30分もないんだけど……」

そんな二人のやり取りを楽しそうに眺めていた志摩子と那美だったが、ふと、那美が何かに気付く。

「お二人共、仲が良いんですね」

意味が分からずに首を傾げる美由希に、那美がある一点を指差す。
その先には、しっかりと繋がれた二人の手があった。

「こ、これは、私が転ばないようにって……」

「そ、それにこの人込みではぐれると困るからな」

途端に赤くなって言い訳を始める二人を楽しそうに眺めつつ、美由希が口を開く。

「人前で平然とキスするくせに、どうして今更照れるんだろう?」

「美由希さん、それはそれなんですよ、きっと」

「私達には分からない何かなんでしょうね」

「ええ」

「お、俺たちはこれで」

「そ、それじゃあ。あ、美由希さん。
 お義母さんが着物を用意しているので、手伝いが終ったら真っ直ぐに帰ってくるようにと」

「あ、ありがとうございます」

志摩子に礼を言いつつ、美由希は意味ありげな目付きをすると、那美へと話し掛ける。

「しかし、かーさんをお義母さんと呼んでいるのに、手を繋ぐだけで照れるなんて、志摩子さんって本当に可愛いですね」

「ええ、本当に」

美由希の言葉ににこやかに同意する那美。
二人の冷やかしにこれ以上付き合ってられないとばかりに、恭也は背を向けて歩き出す。
散々からかわれても、志摩子の手を離さないのは、恭也も成長しているという事だろう、多分。
年が明けると二人は初詣を済ませる。
それから人込みを避け、高台へと向った。
高台は、気温の所為か人がおらず、二人はとりあえず落ち着く。

「はー、美由希たちには参りました」

「本当に、恥ずかしかったです。でも、ちょっと嬉しかったですけど」

そう言って舌を出して笑う志摩子はとても可愛かった。
恭也は高台から海を見下ろし、志摩子へと声を掛ける。

「そろそろ日が昇りますよ」

恭也が指し示す方角が、微かに赤く色付き始める。
二人は並んで同じ方向を眺める。
そこでふと思いついたように恭也が改まって挨拶をする。

「さっきは人込みだったので、ちゃんとしてなかったからな」

そう言って志摩子を真っ直ぐに見詰める。

「明けましておめでとう。今年もよろしく」

そう言って丁寧にお辞儀をする。
それを受けて、志摩子も同じようにお辞儀をしながら言葉を返す。

「はい、こちらこそよろしくお願いします。でも、今年だけじゃないですよね」

そう尋ねるように言う志摩子に、恭也は笑みを見せる。

「ああ。これからもずっとよろしくな」

「はい」

恭也の言葉に、志摩子は満面の笑みを浮かべて答える。
昇り始めた陽光の中、微笑む志摩子はとても綺麗で恭也は言葉を無くし、ただただ見惚れる。
そんな恭也に首を傾げる志摩子を見て、恭也は思わず腕の中に志摩子を抱き寄せる。
最初は驚きこそしたものの、志摩子はすぐにそこが定位置だと言わんばかりに腕の中で落ち着くと、そっと目を瞑る。
服越しに聞こえてくる恭也の鼓動を耳に聞きながら、志摩子はそっと顔を上げる。
まるでそれが自然であるかのような動きに、恭也の方も当然のように動く。
屈むように志摩子へと顔を近づけ、そっとキスをする。
今年最初の太陽が昇る中、二人は今年最初の口付けを交わすのだった。





<おわり>




<あとがき>

大変長らくお待たせ!
美姫 「本当に長いわ!それに、今いつよ!」
いやー、暑いね〜。
美姫 「アンタの作品って、見事に反対の季節よね」
そ、そんな事は……。
美姫 「そう?冬に夏の話書いてなかった?」
言われてみれば、振るえながら海の話を書いたような記憶が…………。
美姫 「で、今回は冬?しかも、年末年始」
はははは。季節外れとはこの事だね。
美姫 「自分で言うな!」
ぐげっ!
……し、しかし、これは続編や長編では仕方がない事かと……。
美姫 「まあ、多少はそれもあるかもね」
だ、だろう。だったら、俺って殴られ損?
美姫 「そんな事はないわよ。だって、私何も得してないし」
そういう問題なのか。
美姫 「さあ?それに、お仕置きだと思えばね」
くっ!それを言われると辛いぞ。
美姫 「はいはい。じゃあ、次は誰かな?」
つ、次か?唯一残っている2キャラか、3のあのキャラを予定だぞ。
美姫 「2は分かるけど、3だと誰かしら?」
ははは。それはじっくりと考えてくれたまえ。
美姫 「何かむかつくわね。でも、また予定だけなんでしょう」
……そうはっきり言うなよ。
いや、そうなんだけどさ。途中できりリクが入る可能性もある訳だし。
違うのを思いついて、そっちが先に上がるかもしれないけどさ。
美姫 「はいはい。いつも通り、計画性がないんだから」
計画性がないとか言うなよ〜。いじけるぞ〜。
美姫 「好きなだけいじけてなさいよ。じゃあ、また次回でね」
いじいじ、いじいじ。…………また、次回で。







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