『An unexpected excuse』

    〜アリサ編〜






「俺が、好きなのは…………」

『好きなのは?』

「特にいないな」

『本当なんですか!』

「あ、ああ。家族や友人達の事は勿論好きだが、そういう意味ではないのだろう?
 だったら、いないな。第一、俺なんかを好きになるような物好きもいないだろうしな」

恭也の言葉に全員から安堵とも呆れとも取れる溜め息が零れる。
結局、この場はこれでお開きとなった。
そして、放課後、恭也はすぐさま鞄を掴むと教室を後にし、帰宅するために校門へと向かった。
その校門には、人を待つ影が一つあった。
その人影は恭也を見つけると、その顔に満面の笑みを浮かべる。

「恭也さ〜ん」

自分を呼ぶ声の主を探す恭也だったが、それはすぐに見つかった。
恭也は少し苦笑すると、自分に向かって手を振る少女の元へと少しだけ急ぎ足で近づく。

「アリサか。どうしたんだ、こんな所まで」

「恭也さんを待っていたに決まっているじゃない」

「そうか。何か用事でも?」

「うん。一緒に帰ろう」

アリサの言葉に恭也は溜め息を漏らす。

「それだけの事で、わざわざ……」

「恭也さんにはそれだけの事でも、私にとったら大事なことなんです!」

「そ、そうか。それはすまない。では、帰るか」

「はい」

少し剥れたいたのも何のその、恭也の言葉に嬉しそうに頷くと、恭也の手を取って歩きだす。
恭也も特に何も言わず、アリサの歩く速度に合わせて歩きだす。
しばらく歩いた所で、恭也はアリサへと声を掛ける。

「アリサ、少し腹が減ったんで、ちょっと寄り道しても良いか?」

「ええ、良いわよ」

恭也はアリサの許可を貰うと、その行き先を海鳴臨海公園へと向ける。
恭也はそこに出ている屋台でたこ焼きを買うと、飲み物を買い近くのベンチへと腰掛ける。

「では、食べるか」

「いただきまーす。……あ、あつっ、あふあふあふ」

いきなり口の中に放り込んだアリサに、ジュースのプルタブを開け、手渡してやりながら、恭也も頬張る。

「熱いが美味いな」

「んくんくっ、はぁー。うん、美味しい」

お互いに何個か食べた後、アリサが爪楊枝に刺したたこ焼きをじっと見る。

「どうかしたのか?」

「…………恭也さん、アーン」

不審に思った恭也が声を掛けると、アリサは思い切ったようにそのたこ焼きを恭也へと差し出す。

「い、いや、自分で食べられ……」

何故か動悸する胸を押さえ、恭也は断わろうとするが、アリサの物凄く悲しそうな顔を見て途中で言葉を飲み込む。
そして、何も言わずに口を開ける。
途端、アリサは嬉しそうな顔をして恭也に食べさせる。

「あははは。じゃあ、私にもあーん」

アリサは恭也に向って口を開ける。
恭也は躊躇ったが、期待して待っているアリサを見て、食べさせる事にする。
やがて、全て食べ終えるとお互いに何となく黙り込む。
最も恭也はもともとあまり喋る方ではないので、珍しくはないのだが。
恭也とアリサが二人でいる時は大概、アリサが喋りかけてくるのに、今日はアリサも黙っている。
それを不思議に感じたのか、恭也はアリサへと話し掛ける。

「どうかしたのか?」

「え、あ、うん」

アリサにしては歯切れの悪い答え方をする。
それで更に不思議に思い、再度問い掛ける。

「どこか調子でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか」

本人が大丈夫と言う以上、何も言えなくなり黙る恭也。
しばし時が流れ、やがて、アリサは思い切ったように恭也に話し出す。

「恭也さん」

アリサの呼びかけに、恭也は顔だけを向け、何も言わずにアリサが話し出すのを待つ。
それを感じ取ったのか、アリサは何かを決心したかのような顔をすると徐に話し出す。

「恭也さん……。私、恭也さんの事が…………」

アリサはそこで言葉を切ると、顔を俯かせる。
恭也はそんなアリサを急かしたりせず、ただ黙って待っている。
やがて、アリサは、顔を上げると一息に言い放つ。

「好きです!」

恭也は一瞬驚くが、すぐに笑みを浮かべるとアリサの頭に手を置き、優しい声で告げる。

「ああ、俺も好きだぞ」

それを聞いたアリサの瞳が哀しげに揺れる。

「違うんです。恭也さんの好きと私の好きは……。
 恭也さんは妹として、私を好きと言ってるんですよね。でも、私は……。
 やっぱり、恭也さんにとって私は妹みたいなものですか?自分が幼いって事は分かってます。
 でも、生まれた年が違うというだけで、自分の気持ちを諦めたくないんです。
 だから……」

アリサの言葉を聞き、恭也は少し考え込むと、ゆっくりと考えをまとめるかのように声に出す。

「正直、アリサが俺なんかをそんなに想ってくれてたのは嬉しく思う。
 でも、よく分からない。そんな風に考えた事もなかったしな。だから、戸惑いの方が大きい。
 しかし、アリサに対して、たまに感じる気持ちがあるのも確かだ。
 この気持ちが何なのかは俺もまだ分からない。
 ただ、なのはや美由希、忍に那美さん、それに、晶やレンたちとは少し違う事は分かっている。
 これがアリサを一人の女性として好きという気持ちなのかは分からないが……。
 これでは、駄目か」

恭也の言葉にアリサは首を横に振ると、

「ううん、駄目じゃない。今はそれで良いよ」

アリサはベンチから立ち上がり、恭也の正面へと周り込むと、真正面から目を見詰める。

「絶対に恭也さん好みの女性になって見せるから、それまで待っててよ」

どこか不敵な笑みにも見える表情でそう宣言するアリサに対し、恭也は笑みを浮かべ、その頭を2、3度撫でる。

「ああ、楽しみにして待っている。それまで俺も、愛想をつかされないようにしないとな」

「それは大丈夫よ」

「そうか?」

「うん。…………それと、これは前借りです」

そう言うとアリサは顔を少し赤くして、恭也の唇に自らのそれを軽く触れる程度に合わせた。

「あ、あはははは。じゃ、じゃあ、もう遅いし帰ろうか」

「……そうだな」

どこか茫然としていた恭也は照れ隠しに背を向けながら、言ったアリサの言葉に我に返ると立ち上がる。
そして、未だ背を向けているアリサを追い越すと、振り返り目線を合わせるようにしゃがみ込む。
そして、

「これが今出来る精一杯のお礼だ」

そう言うと、アリサのおでこに口付けた。
驚きの表情を浮かべるアリサの手を取ると恭也はアリサを促し、夕暮れを歩いて行く。
その後を、恭也に手を引かれながら、嬉しそうな笑みを始終浮かべてアリサは付いて行った。

(絶対に恭也さん好みの女性になるからね!それまで、変な虫が付かないように見張らないと!)

胸に新たな決意を漲らせながら………………。





<おわり>




<あとがき>

アリサ編でした!
美姫 「これはラストの恭也がアリサのおでこにキスするって所は決まってたのよね」
そうだよ。
でも、そこまでをどうしようかな〜と。
美姫 「で、こうなったのね」
うん。
美姫 「にしても、珍しく早かったわね」
確かにな。毎回、こうだと良いんだが。
美姫 「自分で言わないの。さて……」
今回はここまで。
では、また次回で。
美姫 「バイバーイ」





ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ