『An unexpected excuse』

    〜リスティ編〜






「俺が、好きなのは…………リスティさんだ」

「リスティさん……ですか?」

恭也の口から出た意外といえば意外な人物の名前に那美が半信半疑で聞き返す。

「ああ」

恭也は那美の問い返しに照れながらも答える。

「でも恭也さん、リスティさんのこと苦手じゃなかったんですか?」

「苦手というか……。あれは真雪さんと一緒になってされる悪ふざけが苦手であってリスティさん自身を苦手という事ではないです」

「恭ちゃん、リスティさんにはこの事、もう言ったの?」

「いや……」

恭也のこの言葉に全員が喜びの色を浮かべる。
その顔を見れば考えている事は皆、同じのようでそれは、

『まだチャンスはある』

である。
そんな事を考えているとは露知らず、恭也は一人ごちる。

「それに、俺なんかじゃリスティさんにつり合わないだろうしな」

これを聞いた美由希たちの顔から笑顔が消え、恭也へと詰め寄っていく。

「恭ちゃん!何を言ってるの!」

「そうですよ。まだリスティさんに何も言ってないのに、そんな事を言うなんて」

「そうですよ師匠。リスティさんにちゃんと言わないと伝わりませんよ」

「そうです。自分から止まるなんてお師匠らしくないですよ。
 とりあえず、お師匠の気持ちを伝えるだけでもしてみたら」

「し、しかしだな」

「いいから度胸決めなさいよ恭也。
 それに俺なんかって言うけど、ここにいる子たちは少なくても恭也の事が好きなんだから。
 そんな事を言ったらこの子たちに悪いでしょ」

「……そうなのか?」

恭也は少しだけ驚いた表情を浮かべ全員を見渡す。

「そういう事。だから、もし駄目だったら私たちがいるからね♪」

「恭也さん、リスティさんと連絡取れましたけど」

那美が携帯電話を片手で押さえながら差し出す。

「丁度良いから代わってくれって」

「俺にですか?」

「はい。丁度、かけようとしてた所だったそうです」

恭也は那美から携帯電話を受け取ると、電話の向こうにいるリスティへと話し掛ける。

「もしもし、リスティさん」

「恭也か。丁度、良かった。こっちからもかけようかと思ってた所だったんだ」

「何か?」

「ああ、今日の夜、暇?」

「ええ、特に予定はないですが……」

少し離れた所で恭也の話を聞いていた美由希たちは……。

「リスティさんが何を言ってるのか分からないけど、予定がないって答えてるところを見ると……」

「やっぱりそうですよね」

「うぅ〜、少し悲しいけど師匠のためです」

「そうやな」

少し悲しそうに会話をする。
しかし、会話をしながらも耳はしっかりと恭也の話す言葉を聞いている。

「だったら、ちょっと頼まれてくれないかな」

「何ですか?」

「ちょっとした警備の仕事なんだけどね……。少し人手が足りないんだ」

「はぁ、別に構いませんが」

「サンクス。じゃあ、放課後家の方に迎えに行くから」

「はい、分かりました」

恭也は電話を終えると那美に返す。
そんな恭也を美由希たちは笑いながら見つめる。

「どうしたんだ、皆して?」

「またまた恭也ってば」

「今日、リスティさんと会うんでしょ?」

「ああ。そうだ、美由希。今日の鍛練は一人でしてくれ」

「うん、大丈夫だよ」

「師匠、そんなに遅くなるんですか」

「流石、お師匠。やる時はやりますな〜」

「何を言ってるんだ?まあ、いい。それよりもかーさんにも言っててくれ。
 遅くなるから先に寝ていて構わない」

「分かりました」

「任せてください」

「ああ、頼む」

「でも、これで私が慰めてという計画が無くなっちゃったわね」

「な、何を言ってるんですか忍さん」

「冗談よ、冗談。それにまだ分からないしね。恭也、まだ言ってないんでしょ」

「……ああ、そういう事か。おまえ達、何か勘違いしているみたいだが、今日の用事は仕事だ」

「仕事……?」

「ああ」

「またまた。別に今更隠さなくてもいいじゃない」

忍の言葉に全員が頷くが、恭也はこれを見て小さく溜め息を吐く。

「本当に仕事なんだが……」

「そう言えばリスティさん、朝そんな事を言ってた様な気が……」

「じゃ、じゃあ言わないの?」

「今日はな。でも、まあ、おまえ達のおかげで覚悟は出来たからな。それはまた次の機会にでもな」

「そ、そうですか」

「ま、まあお仕事やったら、しゃあないですな」

「ああ。と、それよりもそろそろ昼休みも終わりだな。戻るか」

美由希たちは恭也の言葉に頷くと、校舎へと戻って行った。





 ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇





放課後になり真っ直ぐに帰宅した恭也は、必要になりそうな道具を揃えると部屋でリスティが来るのを待つ。
やがて家のインターホンが押され、恭也はリスティと一緒に出て行く。
リスティに連れて行かれた先はホテルのパーティ会場だった。
その会場の横にある部屋で恭也とリスティは警備の打ち合わせをする。
この時、他に警備にあたる人たちとも簡単な自己紹介と挨拶を済ませる。

「……で、何かあったら僕とこっちの奴とで、この部屋から指示を出すから。他に何か質問は?」

誰も何も言わないのを確認するとリスティは一つ頷き、

「じゃあ、開場は七時からだから各自配置についてくれ」

その言葉に短く返事を返すと、会場となる場所へ移動する。
それらを見ながらリスティは懐から煙草を取り出し口元へと運び、一息つく。





午後7時前、殆どの招待客がパーティ会場へと姿を現し、あちこちで話に花を咲かせていた。
そんな中。数人の者たちは話に加わる事もせず、参加者たちにそれと気づかれないように周囲に注意を払っていた。
そんなこんなで無事にパーティーも進み、残り時間も残すこと後僅かとなった頃、
恭也は自分の感覚が捉えた違和感をリスティへと報告する。

「リスティさん」

「どうした、恭也?」

「この会場のあるフロアへは、関係者以外入って来ないようになっているんですよね」

「そのはずだけど」

「誰かが気配を消しながら、この会場へと来てます」

「!本当かい」

「ええ。ここを出て通路を右へと曲がった辺りからです」

「人数は分かるかい」

「ちょっと待って下さい」

恭也は軽く目を閉じ、意識を集中させていく。
徐々に恭也の耳からはこの会場の喧騒が聞こえなくなっていき、代わりに人の気配を感覚で捉えていく。
その感覚を広げていく。

「……人数は、3……4……4人ですね」

「OK.じゃあ、恭也と僕でそいつらを片付けてしまおう。4人なら気付かれずに倒せるだろ。
 後の者はその場で警戒して」

リスティの言葉に全員が小さく了解の言葉を出す。
恭也はこっそりと誰にも気づかれる事なく会場を出るとリスティと合流して、襲撃者が潜む場所へと向う。

「どうだい?相手はこっちに気付いてるかい?」

「いえ、まだのようです。でも……」

「ん?」

「前に三人、少し離れて後方に一人いるんですが」

「……援護してくる前にいっきに片付けるか」

「ですね」

二人は角まで来ると、一旦立ち止まる。
お互いに飛び出すタイミングを確認すると、同時に角を曲がる。
突然現われた恭也とリスティに反応の遅れた襲撃者たちは反撃する前に倒される。
が、遠くにいた一人はなんとか懐から銃を抜くと恭也に向けて構える。
男が発砲するよりも早く、恭也は身体を動かし、その場から跳び退こうとする。
が、倒した男の一人が気を失う前に恭也の右足を掴んでおり、恭也は跳び退くことが出来なかった。
その一瞬の隙に男が発砲する。
それと同時に神速を発動させようする恭也の目の前に人の形をした影が飛び込んでくる。
その人影、リスティが恭也を庇うように前に飛び出し地に倒れていくまでが、
まるでスローモーションの映像を見るかのようにゆっくりと流れていく。
ドサリとリスティが倒れた音で気付いた恭也は、掴まれていた足を振りほどきリスティの傍へと駆け寄ろうとする。
しかし、それはリスティの声によって止められる。

「恭也!僕よりも先にあいつを!」

その言葉に一瞬だけ躊躇うが、すぐに決断すると二発目を撃とうとしていた男へと向って飛針を投げつつ接近する。
恭也の放った飛針は男の銃を持つ手に突き刺さり、その手から銃を引き離す。
その頃には、男の懐に入り込んでいた恭也はそのまま男の鳩尾へと肘鉄をくらわし、意識を刈り取る。
それを確認すると恭也はリスティの元へと駆けつけるべく、後ろを振り返る。

「リスティさん!しっかりして……」

振り返った恭也の視界の先では、リスティが煙草を咥え火をつけている所だった。
リスティは恭也に気付くと、片手を上げ軽く振る。

「やあ、おつかれさん」

「リ……リスティさん……?」

「僕以外の誰に見えるってんだい」

「でも、さっき撃たれたんじゃ」

「ああ、そんな訳ないだろ。ほら」

リスティは煙草を持つ手とは逆の手で何かを放り投げる。
自分に向って投げられたそれを恭也は受け取り、見る。

「……弾丸」

「そういう事。ぎりぎりで間に合ったよ」

そう言いながら笑みを浮かべる。

「だったら、最初から言って下さい。どれだけ心配したと思ってるんですか」

「あの状況で言う暇なんかなかったと思うけどな」

「それはそうですけど……」

リスティは恭也に近づくとその顔に笑みを浮かべ、下から顔を覗き込みながら尋ねる。

「そんなに心配した?」

「あ、当たり前じゃないですか」

「それは悪かったね。でも、恭也が撃たれると思ったら体が勝手に動いてたんだ。
 本来ならこのHGSの力で止めれば良かったはずだったんだけどね」

そう言いながらリスティはリアーフィンを展開させる。

「まあ、考えるより体が動いたってことなんだろうけどね」

そう呟き、再びフィンを仕舞う。

「リスティさん……、もうあんな無茶な真似は止めてください」

「恭也?」

珍しく語気の荒い恭也にリスティが不思議そうな顔をする。

「俺は……、俺はリスティさんが、自分の好きな女性が傷つく所は見たくないです」

リスティは恭也の言葉に少し驚いた表情を見せる。

「……恭也」

「俺は……リスティさんの事を守りたい」

恭也は真っ直ぐにリスティの目を見る。
やがてリスティは恭也に向ってゆっくりと口を開く。

「恭也、それは断わる」

「……そうですか」

あまり表情に変化は見られないが、落ち込む恭也。
そんな恭也に笑いながらリスティは続ける。

「僕は守られるだけは嫌なんだ。恭也が僕を守りたいと思ってくれてるのと同じ様に僕も恭也を守りたいんだよ。
 だから、さっきも勝手に体が動いたんだ」

「!……それは、どういう意味……」

恭也の言葉は途中で、質問に対する答えと共に遮られる。
唇にあたる温かい感触によって。

「こういう事さ。いくら恭也でも今の意味は分かるよね」

少し頬を赤くしながらリスティは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
それに対して恭也はそっとリスティを抱き寄せ、その耳元で話し掛ける。

「リスティさん……愛してますよ」

「僕もだよ」

そして、再び口付けを交わす。





その後は特に問題もなくパーティも無事に進んだ。
そしてパーティ終了後、倒れた男達を警察に引き渡し、全ての手続きを済ませる頃には時間は深夜を過ぎていた。

「う〜ん、思ったよりも遅くなったね」

「そうですね」

誰もいない夜道を歩きながら、リスティは恭也に話し掛ける。

「で、この後はどうする気だい?」

「家に帰りますけど……」

「あ、そう。綺麗なお姉さんを放って家に帰るわけだ」

少し不機嫌そうに言うリスティを見て、恭也は微笑みながら言う。

「大丈夫ですよ。ちゃんと寮まで送りますから」

リスティはぽかんとした顔で恭也の顔を凝視する。

「本気で言ってるみたいだね」

リスティが更に不機嫌になっていくのは分かるが、何故そうなっているのかが分からずに首を傾げ本気で考え始める。
そんな恭也を見てリスティは溜め息を一つ吐く。

「恭也は僕が好き。で、僕も恭也が好き」

恭也はその言葉に照れながらも頷く。

「で、どこかに連れて行ってくれるとかはないの?」

「でも、この時間だと殆どの店が閉まってますよ」

「飲み屋とか」

「……俺はまだ学生です」

「はぁ〜」

リスティは恭也と腕を組むとそのまま頭を肩へと寄せる。

「で、今日は真っ直ぐに帰るんだ」

胸を押し付けるように組んだ腕に力を込める。

「リ、リスティさん!」

「僕って魅力ないのかな?」

「そ、そんな事はありませんけど、そ、その離してくれませんか?」

「恭也が嫌って言うんなら離してあげるよ」

「……別に嫌ではないですけど」

「なら、問題ないね♪」

(いや、しかし俺の理性に問題が……)

「ん、何か言った?」

「い、いえ何も」

「本当に?理性がどうとか聞こえたと思ったけど」

(!リスティさん、心を読みましたね)

「Yes.でも、安心したよ。僕に本当に魅力がないのかと思った」

言いながらリスティはさらに強く引っ付く。

「で、真っ直ぐに帰る?」

「……」

恭也は少し顔を赤くしてリスティを見る。
恭也の思考を呼んだリスティは笑みを浮かべる。

「〜♪」

(美由希たちよ、すまん。でも、確かに始めは仕事だったんだ。あの時点では嘘は言ってないからな)

「恭也、僕といる時に他の女性の事を考えるのは酷いんじゃないかい」

「べ、別にこれは」

「冗談だよ、冗談」

「……」

「そう言えば、まだ言ってなかったね。恭也、愛してるよ♪」

恭也は一瞬だけ驚いたような表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべる。
しっかりと寄り添いながら、二人は夜の闇へと消えていった。





おわり




<あとがき>

リスティ編でした〜。
美姫 「書き始めてから結構、時間が経ってしまったわね」
確かにな。遅くなってしまいました。すいません。
美姫 「で、次のヒロインは?」
次はやっとあの子がリベンジを……!
美姫 「浩の言う事だから怪しいけどね」
……返す言葉も御座いません。
美姫 「とりあえず、気長に待ってて下さい。じゃあね〜」




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