『An unexpected excuse』

     〜イリア編〜






「俺が好きなのは…………」

「あら、面白そうな事をしているわね」

恭也の台詞を遮って一人の女性がそう声をかけてくる。
そちらを見た恭也は珍しく驚いた表情をする。
もっとも恭也だけでなく、周りにいた美由希たちも驚きを浮かべ、他の生徒などは声すら出せずにただ茫然となる。
やがて恭也が少し慌てたように立ち上がると、その人物へと駆け寄る。

「な、こんな所で何をしているんですか!ティオレさん!」

恭也が注意する人物、それは世紀の歌姫として知られるティオレその人だった。

「護衛はいないんですか」

「あら、いるわよ」

「どこにですか!」

恭也は辺りの気配を探るが、何かあった時にすぐに駆け寄れる場所には誰もいないことを確信する。
それを言おうと口を開く前にティオレの手が持ち上がり、恭也を指差す。

「ほら、ここに」

「…………はぁー。指を差さないで下さい。全くご自分が有名人だという自覚はないんですか」

「あら、あるわよ。だから、すぐそこまでは護衛としてメアリーと一緒に来たんだから。
 でも、ここなら恭也がいるでしょ。だったら大丈夫よ」

そう自信満々に言うティオレに言う事が見つからず、ただ苦笑する。

「で、今日はどうしたんですか?」

「別に大した用事じゃないのよ。ただ、次のコンサートまで日程に少し余裕があるから、日本によっただけよ」

「校長自身がそんな事でいいんですか?」

「あら、 別にいいじゃない。だって、恭也や美由希に会いたかったんだから。
 もっともフィアッセたちには内緒で来たから、今ごろ皆驚いてるわね。特にフィアッセは私だけ来てって怒るかも」

そう言いながらもティオレはどこか嬉しそうに笑う。
そんなティオレに恭也は、内心ではティオレの身体を心配しているのだが、それをおくびにも出さず溜め息を吐く。

「はぁー。後でイリアさんに怒られてもしりませんよ」

「ああ、それなら大丈夫よ」

「何がですか」

「だって、イリアもすぐそこまで一緒に来てるから」

そう言うとティオレは校門の方へと振り向き、手招きをする。
しばらくすると怒り半分、諦め半分といった表情のイリアが恭也たちの元へとやって来て、全員に挨拶をする。

「こんにちわ」

「はい、お久しぶりです」

「はぁー、で、今度は一体何ですか、校長」

「別に恭也がイリアに会いたいって言うから呼んだだけよ」

ティオレがそう言った途端にイリアは頬を桜色へと変化させる。
その反応を面白そうに見ながらティオレは意地の悪い笑みを浮かべ、イリアへと話し掛ける。

「あら、どうしたのイリア?顔が赤いようだけど。風邪でも引いたのかしら?」

「な、なんでもありません」

「そう、ならいいんだけど。でも、何だか落ち着きがないような気がするけど?」

「そ、そんな事はないです」

「ふーん、そうかしら?」

まだ何かを言おうとするティオレに恭也が助け舟を出す。

「ティオレさん。本当に俺たちに会いに来ただけなんですか?」

「そうよ。明日のお昼ぐらいまではこっちでのんびりさせてもらうから」

「あの、護衛はメアリーさんだけですか?」

「ええ。なんだったら恭也も護衛をしてくれる?」

「校長!恭也くんに迷惑ですよ。恭也くんは学生で学業が本分なんですから」

「いえ、構いませんよイリアさん。明日の昼までの間、護衛につかせて頂きます」

「そう、それは心強いわ」

「と、いう訳だから、後は頼む」

その恭也の言葉に全員が頷く。

「で、宿泊先はどこなんですか?」

「一応、ホテルは取ってるんだけど、晶ちゃんやレンちゃんの食事を頂きたいわね。
 だから、恭也の家でいいかしら?」

「校長、それは流石に恭也くんに迷惑がかかりますから」

「いえ、別に構いませんよ」

そう言いながら恭也は晶とレンに目で訊ねる。
それを受けて二人は同時に頷く。

「では、これからどうします?」

「そうね、ちょっとこの辺りを見て周ろうかしら。そして、夕方になったら翠屋で」

「分かりました。では、行きましょうかティオレさん、イリアさん」

その場に背を向けて歩き出そうとしたティオレが何かを思い出したかのように立ち止まり、振り返る。

「どうしたんですか、ティオレさん?」

「いえ、ちょっと聞きたいことがあって」

「何ですか?」

「あなたたち、いつもお互いをさん付けで呼んでいるの?確か、呼び捨てで呼び合っていた記憶があるんだけど……」

「「なっ!な、なななな何を言ってるんですか」」

「あら、ごめんなさい。私の勘違いだったわ。呼び捨てで呼び合っているのはフィアッセとだったわね」

ティオレはそう言って謝りながらも、その目はどこか楽しい玩具を手に入れた子供の様に輝いていた。

「でも、そんなに慌ててどうしたの?」

ティオレの言葉に恭也とイリアはお互いに顔を見合わせ、しまったというような顔をする。
と、ティオレはイリアの背後へと周り、その背中を押す。

「きゃっ」

短い悲鳴と共に恭也の方へと倒れ込むイリア。
恭也はそれを慌てて抱き止める。

「ティオレさん、いきなり何をするんですか」

ティオレに注意する恭也に対し、イリアは恭也の腕の中で顔を赤くして押し黙っている。
当のティオレは何処吹く風で飄々とした態度を崩さずに笑みを浮かべる。

「だって、イリアも恭也も付き合ってることを私にまで隠そうとするんですもの。
 少しぐらい意地悪しても良いと思うけど」

その台詞に全員が驚きの叫びを上げる中、恭也はティオレに訊ねる。
ちなみにイリアは恭也に抱かれたまま、さらに顔を赤くしていた。

「ティオレさん、気付いていたんですか」

「あなたたちと何年付き合っていると思っているの。それに、私たちの間で秘密ごとなんて水臭いわね。
 私とあなたたちの仲でしょ。しかし、ちょっと意外かもね。
 イリア、恭也の前ではそこまで可愛くなるのね」

普段はきりっとした雰囲気でティオレを支えているイリアもやはり女性で、愛しい人の腕の中だととても可愛くなるようだ。
その顔を見ながら恭也も可愛いと思い、知らず抱く腕に力が少し入る。
イリアは抱かれながらも顔をティオレに向けると、

「悪かったですね。どうせ普段は可愛くありませんよ。一体誰の所為だとおもっているんですか」

そんなイリアの台詞も何処吹く風と涼しい顔のままティオレは続ける。

「誰の所為かしらね?心辺りが全くないわ。私の教え子達は皆、いい子たちばかりだもの」

「っく、校長先生!」

「あらあら、イリアそんなに怒ったら折角の綺麗な顔が台無しよ?恭也に愛想つかされるわよ」

その一言に身体をビクリと震わせ、不安そうに恭也を見上げる。
普段のイリアを知っている者たちが今のイリアを見て、果たして同一人物だと思うかどうか。
そんなイリアに恭也は優しく笑いかけながら、

「大丈夫ですよ。イリアさんは普段からでも充分綺麗ですし、可愛いですよ。
 この程度では嫌いになりませんから」

この言葉にイリアは耳まで真っ赤になり、ティオレはにやりと笑うと恭也をからかう。

「もーう、恭也ったら。士郎から剣だけでなく女性の口説き方まで教わっていたのね」

「そんな物は教わっていません。ただ、俺は思ったことを言っただけですよ」

かなり恥ずかしい台詞なのだが恭也は全く気付いていない。
現にそう言われたイリアはさらに顔を赤くして、その顔を見られないように恭也の胸に顔を強く押し付ける。

「あらあら、妬けちゃうわね。それよりも、そろそろここを移動した方がいいかもね」

「そうですね」

ティオレの言葉に二人は名残惜しそうに離れる。
それを見たティオレは意地の悪い笑みを再び浮かべると、二人の耳元にそっと囁く。

「安心しなさい。後で二人っきりにしてあげるから。なんなら、予約しておいたホテルにそのまま二人で行く?」

この言葉に顔を赤くしながら恭也とイリアはティオレに抗議の声を上げる。

「「ティオレさん!」」

「はいはい。行くわよ」

未だ茫然としている美由希たちを残し、恭也たちは学校から出て行った。
しっかりとイリアと手を繋ぎながら。







ちなみに、その夜、ティオレは護衛のメアリーと共にそのまま高町家へと泊まる事となった。
だが、その代わりと言うか何と言うか恭也とイリアの姿は高町家にはなかったらしい。
翌日、皆が出かける時間に戻ってきた二人はどこか眠そうにしながらも恭也は晴れ晴れとした顔をしており、
イリアはどこか疲れた様子だったとか。
でも、二人は共通して始終幸せそうだった。





<おわり>




<あとがき>

今回はNoirさんの80000Hitきりリクでイリア編です。
美姫 「お待たせしました〜」
こんな感じになりました。
美姫 「今回はちょっと甘くないわね。それにラブ度も低い気がするわ」
そうかな?うーん、言われてみればそんな気もするような。
美姫 「とりあえず、こんな感じになりました〜」
さて、次回は誰かな。
美姫 「前々から言っているあの三人のうちの誰かよね」
まあね。とりあえず、次回まで震えて待て!
美姫 「じゃあね」




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