『An unexpected excuse』

    〜操りの弦編〜






「俺が、好きなのは…………。
 ……と、その前にちゃんと教える代わりに一つ約束してくれ」

いつになく真剣な表情を見せる恭也に、美由希たちは元よりFCたちも見惚れつつ神妙に頷いて同意する。

「ここでの出来事は他言無用だ。いいな」

はっきりと告げられた約束の内容に、どういう意味かと思う者も何人かいたが頷く。
それを確認して、ようやく恭也は口を開こうとして。

「うふふ。一体、何を秘密にするんですか?」

「だから、……って、美智子に圭!」

後ろからの声に振り返り、悲鳴じみた驚愕の声を上げる恭也。
そんな非常に珍しい態度にも構わず、声を掛けた二人のうちショートカットの女性が笑いながら話し掛けてくる。

「どうしたんですか、そんなお化けでも見るような顔をなされて。
 そんな事では、何かやましい事でもあるのではないかと、勘繰ってしまいますわ。ねえ、圭さん」

圭と呼びかけられたもう一人の女性は、無表情のまま恭也へと視線を向ける。

「恭也……。あなたは何て事をしてくれたんですか。
 私にまで害が……」

「あら、害って何の事かしら、圭さん」

「いや、……何でもない」

抑揚なく淡々と語る言葉の内に、怒りと恐れを半々ずつ混ぜて恭也を問い詰める圭。
ただ笑みを見せて恭也をじっと見詰める美智子。
そんな二人へと恭也は声を上げる。

「不可抗力だ、圭。それと、誤解だぞ美智子」

「誤解? 何がですの? ちゃんと分かっていますよ、ええ、ちゃんと」

「……最初から見てた。でも、美智子にとってそれは問題ではないのです。
 その事は誰よりも、そう誰よりも私とあなたが知っているはず」

「うっ」

圭の言葉に押し黙る恭也と違い、よく分からずに首を傾げる美由希たち。

「二人とも、随分な言われようですね。
 丁度、明日はお休みですし、二人とも今日はじっくりと話し合いましょう。
 ええ、じっくりとね」

「「…………」」

笑顔の美智子に恭也と圭の二人はただただ言葉を無くす。

「私は恭也と違うので、今日は遠慮を……」

「遠慮するなんて言いませんわよね、圭さん」

「うっ」

「勿論、恭也さんも」

「……分かっている」

諦めたように了承する恭也を恨めしげに睨む圭に気付き、そちらへと視線を向ける。

「恭也は良いですよ。何だかんだと言いながら、最後までやるんですから。
 ですが、……あれは私には辛いんです。お二人みたいに体力がある訳じゃない私には……」

「何を言ってるんですか、圭さん。演劇部の部長がそんな事を言って。
 体力を付けるためにも、今日はいつもより……。ねえ、恭也さん」

「……圭。お前が俺を恨めしげに見ていた気持ちが良く分かる」

「……こんな形で理解はして欲しくなかったです」

意味不明なやり取りをする三人に戸惑いながらも、どうしたものか悩む忍たちであった。
それを見かねたのか、美智子は見るものを和ます笑みを浮かべたまま忍たちへと身体を向ける。

「恭也さん、あちらの方々が困ってらっしゃいますよ」

「あ、ああ、そうだったな」

美智子の笑みから違うものを感じ取っている恭也と圭は、こっそりと溜め息を吐く。
それでも、恭也はせめてこの場はちゃんと収めようと口を開く。

「こちらは、俺の恋人の小鳥遊圭と高根美智子だ」

「ちょっ、こ、恋人ってふ、二人も居るじゃない、恭也!」

「まあ、そうなんだが……」

「恭也がそんな人だったなんて……。よよよ。私との事は遊びだったのね」

驚きつつも冗談を口にしながら、恭也の肩に顔を伏せて泣く真似をする忍に、
美智子は笑みを浮かべたまま恭也の隣に立つ。

「ええ、そうですよ。
 ですが、私と圭さんがそれで納得しているのですから、何ら問題はありませんわ。
 私も圭さんと一緒で嬉しいですし。ねえ、圭さん」

「あ、う、……その点に関しては確かに異論はないのです」

変わらない美智子の笑みの中に、しかし恭也と圭は確かに僅かな怒りを感じる。
怒りというよりも、嫉妬か。
二人は当然ながら、美智子の事をよく知っている。
そのもの凄くやきもち焼きな所も。
そして、その対象は人相手だけでなく、物や考え事にまで及ぶ。
美智子と恭也、圭の三人で居る時に他の考え事に捕らわれて、少しでも美智子をおざなりにすると、
途端に拗ねる、怒るといった行動を取り、何らかの仕返しをしてくるのである。
多分、親しげな忍の態度に関してだろうと検討を付けつつ、恭也は忍の頭を軽く叩いて引き離す。

「さっさと離れろ。兎も角、教えたんだからもう良いだろう」

叩かれた頭を押さえつつ、忍は不満そうに口を尖らせるが、それ以上は何も言わない。
一応、恭也の口から事実を教えられてFCたちが去っていく。
それを見送りながら、恭也は美由希たちにもここから立ち去るように小さく手を動かす。
その意味を汲み取った美由希により、忍たちも中庭を後にする。
さっきまで大勢いた中庭に三人だけ隣となり、恭也と圭はすこしだけ胸を撫で下ろす。

「それにしても恭也さんは人気があるのですね。
 まるで、瑞穂さんみたいですわね」

「それはないと思うぞ。単に面白がってからかっているだけだろう。
 それに、俺が好きなのは美智子と圭の二人だけだ。
 だから、そんなに怒らないで」

表情にこそ変化はないものの、恭也の言葉に照れながら圭の同意するようにコクコクと頷いてみせる。
そんな二人を可笑しそうに見遣りつつ、美智子は首を傾げる。

「可笑しな恭也さん。別に怒ってませんわよ。
 ただ、恭也さんがたくさんの女性に囲まれて楽しそうに見えたものですから、
 ひょっとしてお邪魔をしてしまったのではと、逆に心配しているぐらいなのですから」

「いや、それは非常に助かったから良いんだが」

「あら、そうですの?」

(……恭也、何とかするです)

美智子の態度を見て、圭が必死に後ろから恭也へと無言で伝える。
それを正確に読み取りつつも、

(どうしろと……)

そんな二人の無言のやり取りを感じ取ったのか、美智子は笑みを浮かべたまま二人を見る。

「二人だけで熱い視線を交わして分かり合うなんて。
 私だけ除け者なんですね」

「そ、そんな事はないぞ」

「そうですよ、そんな事あるわけ……」

二人は必死になって言うものの、美智子は憂鬱そうに溜め息をわざとらしく吐いてみせる。
圭からの再度の視線を受け、恭也は覚悟を決めたように美智子を抱き締めると、その唇へと激しく口付けする。
どのぐらいそうしていたか、ようやく唇を解放すると、

「愛している」

「……私もですよ。でも、流石に校内では少し恥ずかしいですわね。
 でも、嬉しかったですわ」

どうやら機嫌が直ったらしく、ニコニコとさっきまでとは違う笑みを見せる美智子に二人は安堵する。
尤も、仮に第三者が見てもさっきまでの笑顔とどう違うのか分かるかどうか。

「あ、私だけではあれですので、是非、圭さんにも」

「あ、ああ」

「……いえ、私は」

「駄目ですよ、圭さん。ほら」

言って肩に手を置いて恭也の前に立たせる。
恭也は既に悟りきっているのか、圭へと顔を近づけていく。
慌てる圭だったが後ろから美智子に肩を押さえ込まれ、諦めたのか恭也を受け入れる。
恭也の顔がゆっくりと圭から離れると、すかさず圭の顔を後ろへと回して美智子はそのまま唇を塞ぐ。

「はい、これで皆平等ですね」

「……次からは、外ではやめて頂ける事を希望します」

恥ずかしさを言葉の中に含ませて抗議する圭だったが、美智子は聞いているのかいないのか、
笑みを湛えたまま聞き流すと、笑みを少しだけ深める。

「ですが、これはこれですからね。今晩は二人とも宜しくお願いしますね」

その言葉に、恭也と圭は動きを止める。
しかし、美智子がこう言う以上、何が何でもそうするだろうと分かっている二人は何とも言えずに言葉を飲む。
しかも困った事に、本気でそれを嫌がってはいないという事だったりする。
それさえも分かっていると言わんばかりの笑みを見せる美智子に、圭は無言で、恭也はただ肩を竦める。

「お嬢さまの仰せのままに」

「あら、本当に私の言うがままで良いんですの?」

「……まあ、少しだけ加減してくれると助かるかな」

「……私はかなり加減して欲しいですが」

「それはまあ、お二人次第ですわね」

そう言って恭也の腕を取ると、逆の腕を圭にも取らせる。
傍から見たら少し歪かもしれないこの関係も、当の本人たちは幸せなのだから、
これはこれで良いのかもしれない。





<おわり>




<あとがき>

おとボク第二弾は美智子と圭〜。
美姫 「二人で一人ね」
やっぱり、この二人は一緒の方が良いかなと。
美姫 「それで、次は誰の番なのかしらね」
誰の番だろうね〜。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」







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