『An unexpected excuse』

    〜エヴァンジェリン編〜






「俺が、好きなのは…………」

「ほう、中々面白い事をやっているではないか」

恭也が何かを言うよりも早く、第三者の声によって遮られる。
いつの間にその人物は現れたのか、さっきまで居なかったと思われる場所に立ち、
腕を組んでその顔に笑みを貼り付けていた。
いきなり出現した本当に人形のように可愛らしい少女に誰もが言葉を無くす中、
恭也だけはその笑みの奥に隠れている感情に気付く。
その瞳の奥が全く笑っていないどころか、怒りという感情に彩られているということを。

「どうした? 何も遠慮はいらぬぞ。
 思う存分に楽しむが良い、恭也。何、わたしの事なら気にするな。
 それよりも、小娘どもが待っておるぞ」

笑顔のまま目を細め、恭也の背後へと視線を投げる。
特に怒りという成分を伴っているようには聞こえない口調にも関わらず、恭也は思わず喉を鳴らす。

「エヴァ、何か勘違いをしてないか」

「ほう、わたしがどんな勘違いをしていると言うんだ?」

「いや、していないのだったら良いんだが」

逆に問い掛けられ、恭也は答えが出てこずに引き下がる。
僅かにエヴァの眉が動くが、それを悟られる事無くエヴァは恭也をじっと見詰める。

「で、もう良いのか? 私に隠れてお楽しみにようだったが」

「なっ、何を言っているんだ、お前は」

「誤魔化さずとも良い。まあ、浮気は甲斐性というらしいからな。
 一度や二度ぐらいは許してやっても良い。だがな、見つかった時は素直に認めよ」

視線だけで人を殺しそうな勢いで恭也を睨みつけるエヴァからは、
先程までのような可愛らしさは窺い知れない。
いや、外見は変わっていないのだが、纏う空気が一変していた。

「だから、違うと……」

「恭也、何度も同じ事をわたしに言わせるな」

「……ひょっとしなくても、怒ってるな。やきもちというやつか?」

「っ! だ、誰が貴様などにそんなものを!
 わたしはただ、私が居ながら他の小娘共と楽しげにしておる貴様の態度が気に入らんだけだ!
 すぐにはっきりと答えず、その小娘共とどうするつもりだったんじゃ。
 そのような浮気心など出しおってからに!」

「いや、それをやきもちというのでは……。それに、誤解だって……」

「うるさいぞ! もう良い。
 わたしも浮気してやるっ!」

さっきまでの空気を霧散させ、まるで駄々をこねるように両手を必死に振るエヴァ。
そんなある意味微笑ましい行動もしかし、その発した内容が悪かった。
恭也は真顔になるとエヴァの両腕を掴むとその顔を覗き込む。

「だから、浮気なんかしてないと言っているだろう。
 それよりも、お前もするってのはどういう事だ。まさか、相手がいるのか!
 誰なんだ、それは」

いつもとあまり変わらないかに見える表情ながら、口調からは焦りを感じ取る事が出来る上に、
親しい者ならはっきりと分かるぐらい、恭也は焦りまた、静かに怒っていた。
それが分かる親しい者に分類されるエヴァは、恭也の焦燥に気付き、知らず笑みを浮かべる。

「な、何を笑っているんだ。おい、エヴァ」

「んふふふ。何故、笑っておるのだろうな。
 今から、そ奴の所へ行くのが楽しみなのかもしれぬし、そうでないのかもしれぬ。
 まあ、これというのも貴様自身の浮気心の所為だしな」

「だから、誤解だと言っているだろうが。
 俺は好きなのはお前だけだ」

「口では何とでも言えるしな。
 それに、好きなのはわたしだけだとして、触れ合うのは誰とでも良いという事か?
 まあ、わたしの身体はこんな風だからな。それを他に求めたとしても仕方あるまい」

恭也が慌てる分、冷静になったエヴァは珍しく焦る恭也をからかって楽しむ。
エヴァにからかわれているとも気付かず、恭也はエヴァに抱き付く。

「俺が好きなのも、こうして触れたいとも触れられたいと思うのもお前だけだ。
 何なら命を懸けても良い」

「あっ」

痛いくらいに力いっぱいに抱き締められてそう囁かれ、エヴァは痛みよりも嬉しさを感じる。
僅かに顔が赤くなるのはまあ、仕方ない事だろう。
流石にここまで必死の恭也を見せられては、エヴァもからかい過ぎたと反省する。
既に恭也への誤解も解けており、エヴァは恭也に謝る。

「悪かったな。ちょっとからかうつもりだったんだが」

「からかう。じゃあ、さっきのは冗談だったのか」

「ああ。冷静になって考えれば、恭也がそんな事をするはずがないしな。
 それに、ちゃんと答えようとしておったみたいだし」

エヴァの言葉に恭也はほっと胸を撫で下ろしつつ、力が抜けていくのを感じる。

「冗談にも程があるぞ」

「だから、悪かったと言っておろうが」

「……はぁ、本当に浮気してやろうか」

「っ! ま、待て! 貴様は何を言っているんだ。
 そんなを許すはずがないだろう」

「一つや二つなら甲斐性なんだろ」

「馬鹿者! 浮気に一つも二つもあるか!」

今度はさっきとは全く逆の立場になって怒るエヴァに、恭也は堪えきれずに噴き出す。
ようやくからかわれていたと知り、エヴァは顔を赤くするとそっぽを向く。

「ええいっ! 貴様などもう知らん!」

「そう、怒るな。これでお互い様だろう」

そう言われれば返す言葉もなく、エヴァは言葉に詰まる。
それでも何か言おうとするも、結局は口を噤むしかなかった。

「もう良い。貴様の本音も聞けた事だしな」

「俺の本音?」

「そうじゃ。さっき、わ、わたしのことを……と言ったではないか。
 命を懸けるともな。まさか、あれも冗談と言うつもりか」

「いや、それの事なら間違いなく本心だ。俺が好きなのはエヴァだけだ」

恭也に照れを感じさせようと吐いた言葉に、真顔で返されて逆に自分が照れてしまう。
照れるエヴァを改めて可愛いと思いながら、恭也の身体は自然と動き、そのままエヴァへと口付ける。
驚きつつもとろんと瞳を潤ませて、恭也の行為を受け入れるが、すぐに恭也を突き放つ。
突然の事に唖然となっている恭也へと、エヴァは怒ったように言う。

「何をするか、貴様は! 別に嫌ではないが、こういったものは人の居ない所でだな」

「エヴァ、どこに人が居るんだ?」

「何処って、そこに……」

言って指差す先には誰もおらず、エヴァはきょとんとした顔になる。

「気付かなかったのか。皆、俺たちが言い合っている間に何処かに行ってしまったぞ」

恭也の言葉通り、二人のやり取りを見て大体の事情を理解した美由希たちはその場を去っていた。
それに気付かなかったエヴァは手を地に着いてへこむ。

「ま、まさか、このわたしが人間共の行動に気付かなかったなんて……」

何と言って慰めるか悩む恭也へ、がばりと立ち上がると胸倉を掴んで詰め寄る。

「それもこれも、全部貴様のせいだ!」

言って怒り出すエヴァへと、恭也は再び口付けをする。

「んんっ! や、やめんか。こんな事で誤魔化されは……。
 って、ひゃんっ! ど、何処を舐めてる。
 や、やめっ。み、耳は駄目……」

「じゃあ、こっちを」

「んっ、く、首もやめっ」

妙に可愛らしいエヴァの態度に、恭也は益々悪乗りしてあちこちに舌を這わす。
数分後、エヴァは荒い息を吐いて恭也の胸に寄り掛かっていた。

「はぁ、はぁ。き、貴様、後で覚えていろよ」

「……流石に少し遣りすぎたと思ったんだが、後で報復されるならもっとやっても一緒だな」

「ちょっ、ちょっと待て! や、やっぱり良い!
 ゆ、許す! 許してやるから、やめっ。んんっ、や、ちょっ、やめ……」

面白がって耳へ首へ唇の付近へと啄ばむようにキスの雨を降らせる。
その度に小さく身体を震わせながら声を上げる。
やや涙目になって見上げてくるエヴァに、最後に恭也は深いキスを捧げる。
エヴァも必死にそれを受け止め、長い時間唇を合わせて離れた二人の間に銀糸の橋が掛かる。
それを手で払うようにして舌で唇を拭うと、エヴァはニヤリと笑い、そのまま恭也を押し倒す。

「ふふふ。よくも好き勝手やってくれたな。
 今度はこっちの番じゃ」

何かをしたのか、恭也の身体は思うように動かず、見た目は軽そうなエヴァに乗りかかられて動けずにいた。
エヴァは恭也のシャツを胸元まで空けると、そこに舌をはわして徐々に上へと上げていく。
やがて、首筋に辿り着くと唇を這わし、歯を突き立てる。
何かを嚥下するように喉が動き、エヴァは満足そうな顔になる。
ようやく動くようになった体をそのまま横たわらせ、恭也は手だけを動かしてエヴァの頭に触れる。
恭也の血を飲むエヴァを受け入れるように、そっと頭を抱く。
気持ちよさげに目を細めるも、それを見詰める恭也と目が合うと、エヴァはやや乱暴に恭也の血を啜る。
それに対抗するように、恭也はエヴァの頭を乱暴にわしゃくしゃと撫でる。
そんな事を繰り返しながら、二人はただただじゃれ合いを続けるのだった。





<おわり>




<あとがき>

ネギま!第二弾はエヴァ〜。
美姫 「って、今回はちょっとやらしいわね」
そっか? この程度は普通だろう。
美姫 「普通なのかな?」
まあまあ。さて、次は誰にしようかな〜。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る