『An unexpected excuse』

    〜セルフィ編〜






「俺が好きなのは、シェリーさんだ」

「誰?」

「セルフィ・アルバレット、災害対策の仕事をしている僕の妹だよ」

「わわっ!リ、リスティさん!どうしてこんな所に」

「駄目だよ、那美。自分の通っている学校をこんな所だなんて言ったら」

「そういう意味で言ったんじゃありません!」

「まあまあ、そんなに怒ると胸が大きくならないぞ」

「なっ!なんの関係があるんですか」

「関係……?ないよ、そんなもの」

「関係ないなら言わないで下さい!それよりも、何しに来たんですか?」

これ以上言っても無駄な上に、話も進まないと考え那美は本題に戻す。

「おっと、そうだった。ちょっと恭也に用があってな」

「俺に……ですか?」

「そうそう。ちょっといいかい?」

「ええ、構いませんけど」

リスティは恭也を連れ、少し離れた場所へと行くと用件を切り出す。

「実はな……」

場所を移動し、声を潜めて話出すリスティに恭也も真面目な顔になり、言葉を遮って聞く。

「仕事の依頼ですか?」

「うーん。ちょっと違うな〜。まあ、似たようなもんかもしれないけどね。個人的なお願いだよ」

「お願い……ですか?」

「ああ。ちょっとシェリーのことでな」

シェリーの名前が出た途端に、表情が厳しくなり慌てて続きを促す恭也。

「シェリーに何かあったんですか!」

「ち、ちょっと落ち着けって恭也。それを今から話すんだから」

「あ、すいません」

「ふぅー、じゃあ話すぞ。実はな……」

リスティの話というのはこうだった。
シェリーがとある場所で起こった災害に出動してかなり無茶な事をしたらしい。
それで、今回長期の休みを取って海鳴へと戻って来ているというものだった。

「まあ、実際は休みを取ったというよりも、取らされたって所なんだけどね。
 表面上は普段通りに振舞っているんだけど、自分が必要とされていないんじゃないかって、ちょっとナーバスになってるらしくて」

「そんな……。誰もシェリーを必要としてないなんて、そんな事はないと思いますよ」

「それは分かっているよ。休みを取らせた人もそんなつもりなんかないさ。
 ただ、純粋に疲れが溜まっているだろうって事で今回、長期休暇を取らせたみたいだしね。
 シェリーは人一倍頑張る子だから。
 ただ、ほら僕たちはちょっと出生に事情があるだろ。だから余計にさ、そう思い込んでるみたいなんだよ。
 だから恭也にシェリーをどこかに連れて行って欲しいんだ」

「そういう事でしたら、喜んで引き受けますよ」

「そうかい、悪いね。じゃあ、頼んだよ」

「はい」

恭也がそう答えるとリスティは恭也の腕を掴む。

「じゃあ、行こうか。シェリーが海鳴臨海公園で待っているからな」

「行くって今すぐですか」

「of course。じゃあ、行くよ」

「ち、ちょっと待ってくだ……」

恭也が最後まで言い終わる前に二人の姿はその場から消える。
運良く、その現場を見ていたのは美由希たち関係者たちだけだったので騒ぎにはならなかったが。





「……さい」

恭也の言葉が終わると同時に先程とは違う風景が飛び込んでくる。

「……海鳴臨海公園、ですね」

「yes.さて、向こうでシェリーが待ってるはずだから、頼んだよ恭也」

リスティはそれだけ言うと恭也の返事を待たずに再び姿を消す。
恭也は一度肩を竦めるとリスティの指し示した方向へと向って歩いて行く。
しばらくするとベンチに腰掛けている女性の後ろ姿が見えてくる。

「シェリー……」

恭也はシェリーの背後からそっと声をかける。
その声を聞き、シェリーは驚いた様子で振り返る。

「恭也……?」

「ああ、横いいか?」

恭也の言葉に少し横にずれスペースを空ける。恭也は空いたスペースへと腰を降ろす。

「どうしたの恭也?こんな所で。それよりも今日、学校は?」

「リスティさんから何も聞いてないのか?」

「リスティ?リスティならこれからここで会う事になってるけど、どうしたの?……って、まさか」

恭也は苦笑いを浮かべるだけで何も言わなかったが、それで全てを理解したシェリーは大きな溜め息を憑く。

「ごめんね、恭也。もう、リスティってば何を考えているのよ」

「気にする事は無い。俺もシェリーに会いたかったし」

「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。ごめんね、帰ってきてたのに連絡しなくて」

「別に気にしてない。それより、いつこっちに?」

「ん、昨日からなんだけどね」

「そうか……」

「恭也……ひょっとしてリスティから何か聞いた?」

「ああ、少しだけ」

「そう」

それっきり二人は会話する事も無く、二人の間に沈黙が降りる。
やがて、シェリーがゆっくりと口を開ける。

「……この間、大きな地震があってその救助に赴いたんだけど……」

恭也はただ黙ってシェリーの話に耳を傾ける。

「最初は順調に救助が進んでいたの。
 そのうち、一つの傾いた今にも壊れそうなビルを見つけて、そこにまだ何人かの逃げ遅れた人が残されていたの。
 で、私を含めて何人かでそのビルにいる人たちの救助に向ったわ」



  ◇ ◇ ◇



「大丈夫ですか」

シェリーはたった今、瓦礫から助け出した人に肩を貸しながら訊ねる。
その男性は頷き、無事である事を伝える。

「シェリー!すまないがこっちの瓦礫を退けてくれないか。どうもこの先にまだ取り残されている人がいるみたいなんだ」

「分かりました。じゃあ、この人をお願いします」

「ああ」

シェリーは別の隊員に男性を預けると呼ばれた場所へと向う。

「ここですね」

「ああ。疲れているところを悪いが頼む」

「気にしないで下さい」

そう言うとシェリーは目を閉じる。次の瞬間、目の前にあった瓦礫の山が消える。
その向こうに女性と小さな男の子が座り込んでいた。

「大丈夫ですか」

すぐに隊員が駆け寄り、二人を抱えると外へと連れ出そうとする。
それを見ながらシェリーは軽く息を吐く。それを見た隊の隊長がシェリーに声をかける。

「シェリー、大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です」

言いながらもシェリーの顔はかなり青白く、呼吸もかなり乱れていた。

「少し休んでいろ。救助を始めてからずっと力を使いっぱなしだったんだからな」

「で、でも」

「いいから。どうやらあの二人でこのビルに残っている人は最後みたいだからな」

隊員が運び出していく二人の女性と男の子を見ながら隊長はそう答える。
シェリーは渋々頷くと、その場にあった手ごろな物に腰掛けて一息吐く。
所が、運ばれていく女性が隊員に声をかける。

「すいません。まだ、奥にもう一人子供がいるんです」

「分かりました。我々に任せてください」

隊長は女性にそう言うと、立ち上がろうとしたシェリーを目で制し、自らが奥へと進んでいく。
その先を何とはなしに見ていたシェリーの前で隊長が小さな女の子を抱えて戻ってくる。
その時、大きな音を立てて天井が崩れ、二人に向って落ちていく。

「駄目ーーー!」

シェリーは羽を展開させると全力で天井の落下を受け止める。シェリーの顔に大粒の汗が浮かんでいく。
シェリーが天井を支えている間に隊長はその場を走り抜けると、傍にいた隊員に女の子を渡し、脱出するように言う。
隊員は頷くと出口に向って駆け出す。
シェリーは隊長と女の子が無事だったのを確認するとそのままその場に倒れていく。
その直後、支える力を失った天井が落ち、大きな音と地響きを立てる。

「シェリー!」

隊長は急いでシェリーに駆け寄るとシェリーを抱きかかえ、その場を離れる。
次にシェリーが目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。



  ◇ ◇ ◇



全てを語ったシェリーは小さな息を一つ吐く。

「でも、誰も怪我とかしてないんだろ」

「ええ」

「じゃあ、何でシェリーはそんなに落ち込んでいるんだ?」

「だって、そこで意識を失った私はその後の救助活動を全然やってないのよ。
 それに、あそこで私が倒れたせいで隊長には迷惑をかけてしまったし……。
 私のこの力はああいう時にしか役に立たないのに、なのに肝心な時に気を失うなんて!」

そう言って怒鳴るシェリーを恭也は強く抱きしめる。

「……恭也?」

突然のことに戸惑いの声を上げるシェリーの耳元で恭也は語りかける。

「別に誰も迷惑何なんて思ってないよ。それにシェリーは気を失うまでにも充分、その力でたくさんの人たちを助けたんだろ。
 ただ、最後に大きな力を使ったせいで気を失ってしまった。それは誰だって同じだ。
 力を精一杯出し切ったら、誰だってその後は動けないさ。ただ、それだけだ」

「でも!」

何かを言おうとするシェリーを抱いた手に力を入れて制すると、恭也は再び言葉を続ける。

「じゃあ、シェリーはその後も救助活動を続けるために、あの時力を使わなかった方が良かったと思っているのか?」

この問いにシェリーは小さく首を横に振る。

「だろ。その隊長と女の子を助けるには残っていた力を使う必要があったんだ。
 そして、それを使ったことでシェリーが倒れたとしても誰も責めないよ。
 誰もシェリーに迷惑をかけられたなんて思わないし、いらないなんて思わない」

恭也に自分が恐れていた事を言い当てられ、一瞬だけ身を強張らせる。
それを抱いた腕越しに感じた恭也は背中に回していた腕の一つをシェリーの後頭部へと伸ばし、そっとシェリーの顔を胸に抱き寄せる。

「それに……少なくとも俺は何があってもシェリーの事を必要としている。
 ずっとシェリーと一緒にいたいと思っているから」

恭也の言葉に胸が温かくなるのを感じながら、シェリーは恭也の胸に顔を押し付けて静かに涙を零す。
恭也はそんなシェリーの頭を軽くあやすように2、3度叩く。
シェリーが落ち着くまでの間、恭也はずっとそうしていた。
やがて、落ち着いたのかシェリーは顔を上げると、恭也の眼を見詰めて微笑む。

「ありがとう恭也。うん!もう大丈夫よ」

「そうか。それは良かった」

「うん。……えっと、それでね。一つ、お願いがあるんだけど……いい?」

シェリーは言いにくそうに恭也の顔を窺いながら、指をもじもじと絡ませる。

「お願い?どんな事だ?」

「うん……。あ、あのさっきの言葉をもう一度、言って欲しいな……って、駄目かな?」

「……分かった」

恭也はそう言うとシェリーを真っ直ぐに見詰めてゆっくりと口を開く。

「俺はシェリーの事を必要としているし、ずっと一緒にいたいと思っている」

「それだけ?」

首を傾げて訊ねるシェリーに恭也は苦笑しながらも、

「愛してるよシェリー」

「私も。恭也……」

そっと顔を近づけ、眼を閉じると口付けを交わす。

「……恭也」

シェリーはそっと頭を恭也の肩に置く。恭也もシェリーの肩に手を回すとそっと引き寄せる。
しばらくの間、ずっとそのままで静かに時間を過ごしていく。
それからどれぐらいの時間が経ったのか、すでに当たりは夕暮れに染まっていた。

「そろそろ帰りましょうか」

「そうだな」

二人は名残惜しそうに身体を離すとベンチから立ち上がる。
そして、歩き出そうとした時、前方から良く知った顔が歩いてくる。

「やあ、恭也にシェリー」

「「リスティ(さん)」」

「その様子ならどうやら、解決したみたいだね。恭也。助かったよ」

「いえ、俺は別に何もしてませんよ」

「そんな事はないわ。恭也は傍にいて、私の話を聞いてくれたじゃない。それだけで充分よ」

「そうか。シェリーの役に立てたんなら、それでいい」

恭也はそう言ってシェリーに微笑みかける。それにシェリーも微笑み返すとそっと手を握る。

「ふーん。まあ、問題が解決したんなら、僕としてはそれで良いんだけどね。はぁ〜最後は姉よりも男か」

「リ、リスティ。そ、そんな事はないわよ。ちゃんとリスティにも感謝してるわよ」

「どうだか」

「もう!」

「ははは、冗談だよ。さっきも言ったけど、元気になったんならそれで良いさ」

「ええ、もう大丈夫よ。恭也がいてくれるから」

シェリーの台詞に恭也は照れて、明後日の方を向く。
リスティはそんな二人を見ながら、

「相変わらず仲がいいね〜」

「そ、そんな事ないわよ」

「へぇ〜。じゃあ、仲が悪いんだ。恭也も可哀相に。恭也、なんなら僕に乗り換えるかい?」

「な、何をいってるのよリスティ!そういう意味で言ったんじゃないわよ」

リスティの冗談に剥きなって答える。それをニヤニヤと笑みを浮かべながらリスティは恭也の腕を取ろうとする。
が、恭也はそれを躱すとシェリーの肩を抱き、引き寄せる。

「すいません、リスティさん。俺はシェリーさんじゃないと駄目なんです」

この恭也の行動と台詞にシェリーは嬉しそうに笑みを浮かべ、リスティは驚きの顔で恭也を見る。

「へぇー、恭也も言うようになったね」

「あれだけからかわれればいい加減に慣れます」

「まあ、良いけどね」

リスティは夢心地になっているシェリーを見て、嬉しそうに笑う。

「こんなのでも一応、僕の妹だからね。泣かせたら、ただじゃおかないよ」

「分かっていますよ」

「大丈夫よリスティ」

「へいへい。僕はお邪魔みたいだから先に帰っているよ。あ、恭也この後、さざなみに来なよ。
 耕介が恭也の分も夕飯を作って待ってるからな」

「分かりました。伺います」

「じゃあ、お先に」

リスティはそう言うと、姿を消す。
その場に残された恭也とシェリーはそっと微笑み合いながら、軽く口付けを交わす。
それから二人は紅く染まる世界の中、寄り添いながら歩きいて行く。





おわり




<あとがき>

久々のAn unexpected excuseシリーズ。今回はセルフィことシェリー編でした。
美姫 「えーと、確かVWさんのリクエストだったわよね」
そうです。VWさん、お待たせしました。
美姫 「これでこのシリーズのリクエストで残っているのは……リスティとアイリーン、フィアッセだっけ?」
そうだな。実はリスティ編は半分ぐらい出来ているんだが……。
美姫 「じゃあ、次はリスティ?」
いや、例によって予定は未定で。
美姫 「またなの!そればっかりね」
いや、まあそうなんだが。はっはっは。
美姫 「笑って誤魔化さない!ったく、もー」
まあまあ。とりあえずは次回で!
ごきげんよう、さようなら〜♪




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