『An unexpected excuse』

    〜イレイン編〜






「俺が、好きなのは……」

固唾を飲んで見守る美由希たちの前で、恭也は殊更ゆっくりとその名を口にする。

「イ……」

『い?』

最初の言葉に全員が反応を見せたため、恭也は思わず続く言葉を飲み込んでしまう。
それをどう受け取ったのか、美由希たちはにじり寄りって来る。

「恭ちゃん。もしかして、いないとか?」

「あ、だったら、内縁の妻である忍ちゃんが本妻の名乗りを」

「どさくさに紛れて何を言っているんですか、忍さん」

もみ合う三人の後ろでは、既に言葉もなく殴り合いを展開している晶とレンの姿が。
それらに対してまとめて盛大な溜め息を吐き出す恭也の首へと、背後からにゅっと腕が伸びてきて絡みつく。
その行為に慌てて振りほどき離れようとするが、腕の主の力は強く振りほどく事が出来ない。
簡単に背後を許した事を後悔しつつ、後ろへと顔を向ければ、
そこには自分を害する者ではなく、見慣れた顔があった。
突然現れた金髪美女の出現に、FCたちは言葉もなくただ二人を見詰める。

「イレインか。驚かせないでくれ」

イレインの悪戯だと思ってほっと胸を撫で下ろす恭也だったが、首に回された腕に力が込められ、
ゆっくりと首が締められていく。

「イ、イレイン?」

「ふふふ。私がこのまま力を入れていけば、流石のアンタでも倒れるわよね」

どこか楽しげに語るイレインに、恭也は怒っていると感じて慎重に言葉を選ぶ。

「……何を怒っているんだ?」

慎重に選んだはずなのに、恭也の口から出たのは直球そのものだった。
イレインは口元を小さく引きつかせ、腕に更に力を込める。

「別に怒ってなんかいないわよ!
 ただ、あまりにも隙だらけだったのよ!」

「だからって何も首を締めなくても……」


「うるさいわね。
 大体、アンタには私を滅茶苦茶にした責任を取ってもらわないといけないんだから、
 こんな所で、小娘共に囲まれてデレデレしている方が悪いのよ!」

若干頬を紅く染めて言い放つイレインの顔を下から見上げながら、恭也はふと浮かんだ事を口にする。

「……ひょっとして、妬いているのか?」

「なっ! な、ななななにを言ってるのよ、アンタは。
 誰が誰に妬いているですって。
 ただ、私は自分の所有物の主張をしているだけよ!」

「物か、俺は」

「同じようなもんでしょう」

赤くなった顔を隠すように恭也の首を更に締め上げながら、片手で頭を掴んで前へと向かせる。
小さく呻きながらも素直に前を向く。

「こっち向くんじゃないわよ」

「はいはい」

呆れたように応える恭也の首を一度だけ締めると、頭の上に顎を乗せて周りに居る者たちを睨み付ける。

「言っておくけれど、コレは私のなんだからね。
 もし取ろうってんなら、それなりの覚悟を……って、いふぁい。
 ……もう、痛いじゃない恭也!」

極僅かとはいえ殺気を放ったイレインへ、恭也の腕が伸びて頬を抓んで左右へと引っ張る。
それを手で払い除けて睨むイレインの視線を、拘束を解かれた恭也が正面から受け止める。

「幾らなんでも、殺気はやめろ」

「うっ。わ、悪かったわ」

「俺に謝っても仕方ないだろう」

「……ごめん」

恭也の言葉に、FCたちの方を向いて小さく謝るイレインの頭を恭也は撫でる。

「ちょっ、やめてよね。子供じゃないんだから」

「そうだったな。すまん」

言って手を除けると、イレインは物足りなさそうにその手を見遣る。
少し剥れるイレインに苦笑を浮かべつつ、もう一度頭に手を置いてやる。
ブツブツと文句を言いつつも、その顔は満更でもなさそうな笑みを浮かべるイレインに気付かない振りをしながら、
恭也はイレインの頭を撫でてやる。
ようやく満足したらしいのを感じて手を離した恭也へ、イレインが身体を摺り寄せてくる。
子犬のようにじゃれてくるイレインを相手にしつつ――相手にしないと拗ねるのである――恭也はFCたちを見る。

「で、さっきの質問の答えなんだが、俺の好きなのはここにいるイレインだ」

既にその答えを予想していたFCたちは、さして驚いた様子も見せずに納得する。
逆に、そう言われたイレインは顔を真っ赤にしたまま動きを止める。
イレインのそんな様子を面白そうに眺めていた恭也だったが、
中々動き出さないイレインを不審に思い、違う可能性に気付き心配そうに、恭也は顔を近づける。
びくりと震えて下がろうとしたイレインの頭を左手で押し止めると、
右手で前髪をそっと持ち上げて顔を近づけていく。
近づいてくる恭也に対し、イレインは静かに目を閉じてやや上を向く。
そのイレインの額へと、恭也は自身のソレを付ける。

「ふむ、熱はないようだが……」

恭也がぽつりと呟いた言葉に、イレインは先程までとは違う意味で顔を赤くして全身を震えさす。
イレインが何故震えているのか――怒りを全身で現しているのか――分からず、恭也は不思議そうに尋ねる。

「どうかしたのか、イレイン。
 もしかして、やはり何処か身体が可笑しいのか?」

忍にイレインの調子を見てもらおうと振り向きかけた恭也の肩をイレインが掴む。

「わざとでしょう! 絶対にわざとよね!」

「何の事だ。イレイン、そんなに激しく揺らさないでくれ」

「なに、羞恥プレイなの!? それとも、何かの悪戯?
 どっちにしても、許せないわよ!」

ガクガクガクと前後に揺らされながら、恭也はただただ不思議そうな顔をして見せる。
それがまた、イレインには気にくわないらしく、さらに力が篭る。

「あんな紛らわしい事して! 何、私を苛めて楽しいの!?」

半狂乱に近い状態で恭也を揺さ振るイレインの放った言葉に、ようやく恭也は納得した顔をする。

「いや、俺が悪かった。でも、決してわざとでは……」

「うぅぅぅっ」

少しは落ち着いたのか、恭也の胸元に顔を埋めながら呻き声を洩らすイレインに、
恭也は悪い事をしたと反省してみせる。
尤も、これが次にいかされるかどうかは分からないが。

「でも、あれはお前が心配だったからで」

「そんなの分かってるわよ……。勘違いした私が悪いんだって事も。
 だから、恥ずかしいのよ」

消え入りそうな声で照れたように恭也の胸に顔を埋めたまま呟く。
どうも、照れた顔を見られたくなくてそうしているらしく、そんなイレインの態度に恭也は口元を緩める。
そっと髪を掬い、そのまま手を頤に当てて胸から引き離すと、その唇に軽く触れる程度のキスをする。
驚きで目を見開くイレインに、恭也はやや照れたように笑い掛ける。

「これで、勘違いじゃなくなっただろう」

「……。もう一回♪」

初めはきょとんとしていたイレインだったが、すぐに破顔一笑すると恭也を上目で見上げる。
そんな仕草に胸を高鳴らせながら、恭也はもう一度だけイレインへとキスをするのだった。
その二人の様子を呆然と見遣っている観客がいる事など忘れて。





<おわり>




<あとがき>

極夜さんからの310万Hitリクエスト〜!
美姫 「リクエストありがと〜」
そして、きり番おめでとうございます。
美姫 「おめでと〜」
いやいや、イレインを忘れていたよ。
美姫 「本当にバカね」
あははは〜。でも、これでとらハ3のメインヒロインは残り三人……だよな。
美姫 「多分ね」
さて、次は誰にしようかな〜。
美姫 「それじゃあ、また次でね〜」
ではでは。







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