『An unexpected excuse』

    〜闇の主従編〜






「俺が、好きなのは…………」

「恭也〜」

「はやて、大声はどうかと思うのだが」

「なんや、リインフォースかて、はよう会いたかったんとちゃうん?
 いつもよりも、あたしを押すのが速かったで」

「そのような事は……」

そんな会話をしながら、腰より下にまで伸びている長い銀髪の女性、リインフォースと、
その女性に押された車椅子に座った少女、八神はやてがやって来る。
突然現れた二人に、恭也は若干戸惑いつつも二人に理由を尋ねる。

「理由? 理由がないと来たらあかんの?」

「いや、そうじゃないが……」

「恭也、はっきりと駄目だと言っておいた方が今後のためだぞ」

リインフォースがそう忠告するが、はやてはすまし顔で顔だけ後ろへと向けると、

「そんな事言うたって、リインフォースかて一緒に来てるやんか」

「そ、それは……」

「ああ、分かった、分かった。その辺にしておいてくれ」

このままでは埒が明かないと思ったのか、恭也は二人の間に割って入ると、はやてへと向かう。

「とりあえず、はやて。
 家や店には好きな時に来ても構わないが、学校は基本的に関係者以外は出入り禁止だから」

「えー、めっちゃ関係者やん」

嗜める恭也にはやてが不満そうな声を上げる。
困ったような顔でリインフォースへと視線を転じるも、こちらもまた困った顔をしてみせる。
そんな二人を見上げていたはやては、不意に笑い出す。

「あははは。冗談やって。ちゃんと分かってるよ」

朗らかに笑うはやてに振り回されつつも、恭也もリインフォースも楽しそうに笑う。
遠慮せずに甘えてくるはやての頭に手を置いて愛しそうに撫でる恭也を、
リインフォースが優しげな眼差しで見詰める。
三人で居ることが当たり前のような雰囲気が醸し出される中、
遠慮がちな、けれども好奇心に満ちた視線が三人へと集中する。

「なあ、恭也。皆、どうかしたんやろか?」

「まあ、したと言えばしたのか?」

「私に聞かれてもな」

そんな三人へと、顔見知りの忍が近づく。

「ほらほら、これ以上のほほんとした空気を撒き散らさない、そこ。
 で、はやてちゃんはどうなっているのか知りたいのよね」

頷くはやてを見て、忍は何故か胸を張る。

「ずばり、好きな人が誰かという話をしていたのよ」

「好きな人? うちは恭也やな」

「うんうん。はやてちゃんは恭也が好きなのね。
 お兄さんみたいなもんか〜」

「違うで。うちが恭也を好きなんは、そういった家族に対する好きとはちゃうねん。
 リインフォースもそうやろ?」

「わ、私の事はこの際どうでも良いだろう。
 私ははやてが幸せなら、それで」

「あかんで、リインフォース。ちゃんと自分の気持ちに素直にならな。
 うちの事だけじゃなくて、ちゃんと自分の事も考えるって約束したやんか」

「た、確かに約束はしたが……」

「それとも、リインフォースは恭也の事なんかどうでもいいん?」

「そんな事はない!」

即座に否定の言葉を投げてから、リインフォースは気付いたように顔を紅くさせる。
最近、とみに表情の変化を見せるようになったリインフォースに、はやては嬉しそうに笑う。

「うんうん。そうやんな。そう言うと思ったよ。
 恭也はうちとリインフォースの事、同じぐらいに愛してくれてるんやんな?」

「……ああ」

こっちに振るな、とか、好きから言葉が変わっている、とか色々と言いたいこともあったが、
気楽に尋ねてくるはやての目が意外なほどに真剣だった事に気付き、恭也ははっきりと頷く。
それに嬉しそうに満面の笑みを浮かべるはやてと、照れて俯くリインフォース。
そんな二人の反応に、話し掛けた忍もどうしたものかと困って立ち尽くす。
とりあえず、差し障りのなさそうな恭也へとターゲットを変更する。

「えっと、さっきの答えってそれで良いのかな?」

「ああ。俺が好きなのはこの二人だ」

忍の言葉に肯定で返す恭也に、忍は短くそっか、とだけ答えると背を向ける。
その背後では、恭也の言葉にまたしても感動したはやてが、思わず恭也に飛びついていた。
いや、飛びつこうとしてこけそうになり、それを慌てて恭也とリインフォースが支える。

「はやて、無茶をするな」

「そうだぞ。確かに、足は治療に向かっているけれど、今すぐって訳じゃないんだから」

「分かってるって。でも、嬉しかったんやもん」

注意されているのに、本当に嬉しそうな顔をしてみせるはやてに、
恭也とリインフォースは顔を見合わせて苦笑する。
その時、リインフォースははやてを支えるために、真中にはやてを置いた状態で、手を伸ばしており、
手がはやての背中で重なっている事に気付く。
それだけでなく、たった今も顔を見合わせている恭也との距離がかなり近い事を知る。

(あ、思ったよりも睫毛長いな)

ぼんやりとそんな事を考えつつ、リインフォースはやや鈍くなる思考のまま、
恭也の顔をぼーっと見詰める。
そんなリインフォースを恭也はただ不思議そうに見詰め返す。
結果、傍から見れば、言葉もなく、ただ見詰め合っているように見える図式が出来上がる。
そこへ、二人の眼下からこれみよがしに咳払いが聞こえる。

「二人とも、間にうちを置いてそれはないんとちゃうか?」

「あ、いや、これは、その……」

珍しく慌てるリインフォースと、訳が分かっていない恭也という二人の反応を見上げつつ、
はやては恭也の胸にしなだれかかるように身を委ねる。

「は、はやて!?」

驚く恭也の胸の内で顔を上げると、はやては妙に艶っぽい吐息を洩らし、目を潤ませる。
ドギマギする鼓動を感じつつ、恭也は何とか声を出す。

「えっと、何を……」

「あれ? 嬉しくない?」

「主、意味がよく分からないんだが」

「もう、リインフォース。主は禁止やで。うちとリインフォースは対等なんやから」

「す、すまない。じゃなくて、何をやっているのだ?」

咄嗟に謝りつつも疑問を口にするリインフォースへと、はやては首を傾げる。

「うーん、ヴィータがこうすれば喜ぶって言うてたんやけどな」

「……ヴィータ」

「紅の鉄騎か」

揃って溜め息を洩らす二人を眺めながら、はやてはまたしても笑う。
それを見咎める恭也とリインフォースだったが、

「何を笑っているんだ、はやて。
 まったく、可笑しな事ばかり教えて」

「本当に困ったものだな」

そんな二人の言葉を意に返さずに笑みを浮かべたままのはやてを不思議そうに見遣る。

「何がそんなに可笑しいんだ?」

「私たちが何か変な事を言ったのか?」

そこへ、はやては腕を伸ばして二人を抱き寄せる。
頬と頬をくっつけながら、はやては恭也とリインフォースを見詰める。

「違うよ。ただ、とっても幸せなだけや。
 今この瞬間が、とっても大事な大切なものやと分かってるから。
 そして、それがとっても嬉しい時間やから。
 なあ、恭也。なあ、リインフォース」

二人の名前をしっかりと呼ぶと、はやては腕に力を込める。

「これからも、うちらはずっと一緒やんな」

この言葉に、さっきよりも近い距離にある顔を見合わせた恭也とリインフォースは、ゆっくりと笑みを見せると、
力強く頷きながら、はやての背中で合わさった手を強く握り、はやてを抱き締めるように腕に力を入れる。

「当たり前だろう」

「私の心と身は常に、はやてと恭也と共にある」

そんな二人の返事に、はやては笑みを一層深めながら、二人の頬へとそっと口付けるのだった。





<おわり>




<あとがき>

295万ヒットを踏んだ、極夜さんからのリクエスト〜。
美姫 「甘々って依頼なんだけれど?」
なはははは〜。
ちょっと甘さが足りないか。
美姫 「ちょっとどころじゃないと思うんだけれど」
うっ。もしかして、俺は甘々を書けなくなってしまう病にかかったのか!?
美姫 「やけに具体的な病気ねそれ。しかも、ピンポイントな症状だし」
うぅぅ。終わった。終わっちまったよ。
美姫 「はやっ! っていうか、初めから終わってるし」
グサグサッ! い、痛いよ。胸が痛いよ……。
美姫 「さて、馬鹿な事言ってないで、さっさと次にいきなさいよ」
いや、当然のように言われてもな。
次を誰にするのかはまだ考えてないし。
美姫 「いい度胸じゃない」
いやいや〜。
美姫 「褒めてない!」
ぐがぁぁっ!
美姫 「はぁ〜。とりあえず、こんな感じになりました〜」
…………な、なりました。
美姫 「それじゃあ、またね〜」







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