『An unexpected excuse』

    〜古の姉妹編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也の言葉に静まり返る中庭。
誰かが唾を飲み込む音さえも聞こえるのではないかと言ったぐらいに、静かな、それでいて緊張感が漂う。
そこへ、まるでこの場の空気を読んでいない闖入者が現れる。
今にも土煙を上げんばかりに己の両足を必死で前へ、前へと動かす。
後ろを振り返ることもなく、必死になって。
美女と言って差し支えの全くない女性は、恭也の姿を認めると、そちらへと真っ直ぐに走ってくる。

「恭也、助けてください。早く、今すぐ、そく!」

「ちょっ、お、落ち着いてくれライダー」

「これが落ち着いていられる状況ですか!?」

「だから、その状況ってのが、俺にはわか……」

恭也が言葉を最後まで紡ぐよりも早く、ライダーの身体が硬直するように固まって背筋がピンと伸びる。
その後ろから、ライダーよりも背の低い女性が口元に手の甲を当てて笑いながら姿を見せる。

「あらあら、この駄メドゥーサったら。私の恭也に泣きつくなんてね」

「あらあら、本当に困った子ね。本当に、やるわね、私の恭也に迫るだなんて」

「わ、私は別に迫ってなどは……」

背後から現れて、恭也の両隣に立つ少女にライダーは脅える。
この少女、よく見ても見分けがつかない位同じ背格好に顔立ちをしている。
双子だとしても、ここまで似るものかと思うぐらい、まるで鏡に映したようにそっくりだった。
それでも、ライダーには見分けが付いているのか、恭也の右隣を見て、

「上姉さま、私はただ……」

左隣を見ては、

「下姉さま、お願いですから、話を聞いてください」

と泣きつくように懇願する。
そんなライダーを一瞥すると、二人の少女は恭也の腕を取る。
恭也も区別が付いているらしく、それぞれを見ながら名を呼ぶ。

「ステンノ、エウリュアレ、その辺にしておいてやれ」

「まあ、恭也に庇われるだなんて、いいご身分ね」

「本当ね。でも、恭也が言うのなら、今回はここまでにしてあげるわ」

「あ、ありがとうございます〜」

恭也に言われ、素直に従った二人にライダーは一応、礼を言う。
そんなライダーに、二人はクスクスと笑い声を上げる。

「だって、今回は貴女が逃げたお陰で、面白いものを見れたのだし」

「ええ。貴女のお陰で、とても良いものが見れたわ」

そう言って二人はクスクスと口元に手を当てて優雅に笑いながら、未だにこの場にいる者を見渡す。
その優雅な仕草や漂う気品を一瞬で霧散させるような、背筋がぞっとする程の冷たい眼差しに見詰められ、
美由希たちは脅えたように凍りつく。
脅える者たちを見て、すぐさま恭也は二人の頭に拳骨を軽く落とす。

「いたっ」

「恭也がぶった〜」

「当たり前だ。一般の人たちに殺気を向けて怖がらせるな」

「うぅ〜、だって。ねえ、ステンノ」

「ええ。そうよね、エウリュアレ」

強く叩かれてはいないが、器用に涙目になって恭也を下から見上げる。
しかし、恭也はそれに怯む事無く見詰め返す。

「だっても何もないだろう。今のはお前たちが悪い」

「「……ごめんなさい」」

恭也の言葉に二人が謝る。
これを見てライダーが流石と感心する中、反省したのを見て、恭也は二人の頭を撫でる。

「強くしたつもりはなかったが、痛かったか」

「ううん。ちゃんと手加減してくれてたから大丈夫」

「それに、私たちが悪かったから」

素直に非を認める二人を優しく見守る恭也の前で、二人は頬を膨らませる。

「でも、仕方ないと思うわ」

「ええ。そうよ」

「私たちの恭也なのに……」

「恭也も楽しそうだし」

拗ねる二人に苦笑を洩らしつつ、恭也は二人を同時に抱きしめると、その耳元に囁く。

「別にあれは普通の会話だろう」

「でも……」

「だって……」

「大丈夫。俺は二人のものだ。そして……」

「「ええ。私も恭也のもの」」

恭也の言葉に二人は嬉しそうに微笑みながらその首筋に抱き付く。
恭也の前でしか見せない笑みを浮かべる二人の姉を、ライダーは少し離れた所から嬉しそうに眺める。
自分の所為で迷惑を掛けた姉の幸せそうな顔に満足しながら。
そして、あの姉をああまでさせる恭也に改めて敬意を抱き、次も恭也に助けを求めようと、
姉二人に悟られないようにそっと決意する。
一方、放っておかれる形となった美由希たちは、さっきまでの圧迫された空気から解放され、
ほっと息を吐きつつ、今、何かを言って邪魔をしたらどうなるのかと考え、示し合わせたように口を閉ざす。
そんな後ろの様子には全く気付かず、気にもせず、二人はただ恭也に甘えていた。
こっそりと一人、また一人と去って行く中庭の中で、ステンノとエウリュアレは存分に恭也との時間を楽しむ。
その傍にはライダーが邪魔をしないように、そっと立つ。
昔と変わらず、姉二人を守るように。
あまりお互いに表には出さないけれども、しっかりと繋がっているという事を示すように。
ただ、昔と違うのは、そこに新たに恭也という第三者が加わった事のみ。
けれども、その仲は前と同じ、いいや、前よりも固くしっかりと結び付いている四人は、
昼下がりの午後を静かに過ごすのだった。





<おわり>




<あとがき>

で、ステンノとエウリュアレ編なんだが。
美姫 「短いは馬鹿!」
ぐぇぇ!
……ふっ、いいパンチだ。と、それはさておき。
甘々じゃない。
美姫 「そっちに不満なの!?」
いや、その辺は別に。
美姫 「どっちよ!」
うーん。いや、もう少し甘い感じにしようかな〜、とか思ってたんだよ、最初は。
美姫 「で、それがこうなったと」
不思議だ。
美姫 「いや、アンタが書いたんでしょうが」
まあな。
美姫 「はぁ〜。お馬鹿もここまでついに来たか」
失礼な。まあ、良い。さて、次は誰にしようかな〜。
美姫 「やっぱり、hollowからかしら?」
どうだろう。まあ、それは次までのお楽しみという事で。
美姫 「はいはい。それじゃあ、また次でね〜」
ではでは。







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