『An unexpected excuse』

    〜フェイト 続編〜






「うーん。……よしっ」

ずっと机の上に広げられた白紙のノートを広げて、それを見るとはなしに見詰めていたなのはは、
ようやく考えが纏まったのか、小さく頷くと椅子から立ち上がり、拳を天井へと掲げる。
少し急ぐ感じで部屋を出ると、なのはは何かを決意したかのような顔で一つの扉の前に立つ。

「お兄ちゃん、ちょっと良い?
 お願いがあるんだけれど……」

単に、兄へのおねだりのようだった……。



良く晴れた日曜日。
春も近づきつつあるとはいえ、まだまだ肌寒い日が続く中、二人の男女が歩いてた。
一人はすらりとした体躯に、整った顔立ちの青年、高町恭也。
もう一人は可愛らしい顔立ちをした、金髪の綺麗な少女、フェイト・テスタロッサ。
二人は並んで歩いている。

「今日はありがとうございます。
 でも、本当に良かったんですか。折角のお休みなのに」

「ああ、大丈夫だ。それより、フェイトの方こそ俺でよかったのか?
 幾ら、急になのはが用事で一緒に出掛けられなくなったからといえ、俺なんかと」

「いえ、そんな事はないです。その、私は嬉しいです」

「そうか。フェイトがそう言うのなら良いんだ。
 にしても、なのはも急に用事とはな」

「今日はなのはの分も付き合ってくださいね」

「ああ」

フェイトの言葉に、恭也は優しく頷く。

二人はデパートへとやって来る。

「……えっと、こんな感じなんですけれど」

試着室から出てきたフェイトは、恥ずかしそうに恭也の前に現れる。
そんなフェイトに恭也はただ無言で見惚れるが、フェイトは急に不安そうな顔になる。

「あの、やっぱりどこか変ですか」

「あ、いや、そうじゃない。中々似合っているよ」

「本当ですか」

「ああ。で、それに決めたのか?」

「うーん、あっちのも良いかなって」

言ってフェイトは恭也の近くにある服へと視線を向ける。
恭也はそれを汲み取ってそれを取るとフェイトへと渡す。

「なら、これも着てみると良い」

「はい」

恭也から受け取った服を手に、フェイトは再び試着室へと戻る。
カーテン一枚を隔てた向こうとこちらで、なんとも言えぬ緊張感に身を包む。
再びカーテンが開けられると、そこには黒を基調とした服に姿を変えたフェイトがいた。

「うん、それも可愛いよ」

「あ、ありがとうございます」

率直な恭也の言葉に真っ赤になりつつ礼を述べるフェイト。
それから何度か試着し、ようやく2着ばかり服を買う。
フェイトの手からその荷物をさり気なく取ると、恭也はフェイトの横に並んで歩く。
そんな気遣いにフェイトは小さく礼を言う。

「さて、次は何処へ行くのかな」

恭也の言葉に、恭也の手をチラチラと見ていたフェイトは慌てて顔を上げて考え込む。

「もうお昼を少し過ぎてますから、休憩がてらお昼にしませんか」

「そうだな。実を言うと、腹が減っていたんだ」

言って腹を擦る恭也に、フェイトは小さく笑みを零す。

「何が食べたい」

「えっと……。
 あ、なのはにこのデパートの近くに美味しいお店があるって聞いてたんですけど、そこはどうですか」

「ああ、そこで良いよ」

頷くと、早速バックから取り出した紙を広げる。
なのはが書いたであろう地図がその小さな紙片に載っている。
恭也も一緒にそれを横から覗き込む。
すぐ近くにある恭也の顔にドギマギしながら、フェイトは目の前の紙を穴が開くほどじっと見詰める。
それをどう受けたのか、恭也は地図から目を離す。

「大体の場所は分かった。行こうか、フェイト」

「はい」

単純に道が分からないと受け取ったらしく、恭也は先行するように歩き始める。
その背中、正確にはその手にじっと視線を送りつつ、離れて行く恭也に慌てて駆け足で横に並ぶのだった。



昼食を取り終えた二人は、再びデパートへと戻る。

「えっと……。あ、ここです恭也さん。このお店」

フェイトの後に付いて入った恭也だったが、店の中に飾られた色とりどりなものを見てくるりと踵を返す。

「恭也さん、どうかしたんですか」

「いや、流石にここは。俺は外で待っているから」

流石にランジェリーショップは恥ずかし過ぎると出て行こうとする恭也を、フェイトが呼び止める。

「待ってください。私だって、こんなの分からないんですから」

「分からないって、フェイト自身のだろう。だったら……」

「ち、違います! エ、エイミィに頼まれたんです!」

「エイミィに?」

「はい。今日、こっちに来るって話したら、買ってきてくれって」

「だったら、フェイトが適当に……」

「それが、どんなのが良いのか聞いたら、こっちの世界はよく分からないから、
 こっちの世界の住人である恭也さんやなのはに良いと思うのを選んでもらってって」

「はぁぁぁ。からかうにも程があるぞ」

「や、やっぱり、からかわれたんでしょうか」

フェイトの言葉に、しかし恭也は頷く事無く、不意に黙り込む。

「……エイミィの事だから、本気という事もあるかもな」

その辺りの真偽が分からず、二人はランジェリーショップの前で苦笑し合う。
場所が場所だけに、そんな二人は周りからかなり注目されているのだが。
それに気付いた二人が急いでその場を去った事は言うまでもない。
結局、エイミィから頼まれた物は買えず、そう本人へと伝えたところ、本気でがっかりしていた所から、
どうやら本気だったらしいとフェイトは知ることになるのだが。

その後、二人はリンディたちのお土産を買うために色々と周る。

「あ、この湯呑みとか良いかも」

「アルフには、これなんかどうだ」

骨の玩具を手にする恭也に、フェイトは流石にそれはと苦笑いを見せる。

「冗談だ。あ、これなんかはユーノが喜びそうだな」

「あ、これも良いかも」

あちこちを回り、二人はまた一つの店へと入る。
可愛らしい内装に、店の至る所にぬいぐるみや小物などが並ぶ。

「どうも、こういう場所は落ち着かないな。
 なあ、フェイト」

「駄目です。一緒に探してください」

外で待っていると言おうとした恭也の言葉を先に封じると、フェイトは店の中を見渡す。

「だが、女性客ばかりのせいか、変に注目されている気がするんだが……」

「それは、恭也さんが……」

言いかけた言葉を誤魔化すようにフェイトは棚の一つへと視線を転じる。
と、フェイトの目にネコのぬいぐるみが止まる。
そちらをじっと見ていたフェイトだが、すぐに他の物へと視線を移し、お土産を探す。
しかし、時折視線がそのネコを捉えている。
が、すぐに視線を逸らして土産を探す。

「あ、エイミィにはこの小物入れで許してもらおう」

「ほう、中々綺麗だな」

「これで、みんなの分のお土産は終わり。
 それじゃあ、これを買ってきますから、少し待っててください」

言って小物入れを手にレジへと向かうフェイトの背中を見送りつつ、
恭也は一人残された居心地の悪さから逃れようと、視線を店のあちこちへと飛ばすのだった。
会計を終えたフェイトは、恭也の居たはずの場所へと戻ってきたが、そこには恭也の姿はなかった。
移動したのかなと店内を見渡そうとして、不意に後ろから声を掛けられる。

「もう終わったのか」

「っ! は、はい」

思わず出か掛かった悲鳴を押さえ込み、フェイトは恭也へと返事を返す。

「それじゃあ、出ようか」

一刻も早くここから出たいのか、恭也はやや早足で店の外へと向かう。
そんな恭也に笑みを零すと、フェイトもその後を追う。
二人がデパートから出る頃には、すっかり日も沈んでおり街が赤く染まっていた。

「恭也さん、今日はありがとうございます。
 これは、今日のお礼です」

「別に気を使わなくても良いのに。だが、ありがたく貰っておくよ。
 ありがとうな」

フェイトから包みを受け取ると、恭也は嬉しそうに礼を言う。
そんな恭也の仕草に、フェイトも嬉しそうに笑う。
と、フェイトの目の前にラッピングされた包みが渡される。

「俺からもフェイトにプレゼントだ」

「で、でも……。今日は付き合ってもらったのに……」

「付き合ったのは、俺がそうしたかったから。
 このプレゼントも俺がフェイトに上げたいから、あげるんだ。
 もし、いらないと言われても、逆に困るんだが。
 流石に、俺の部屋にこんなものは置いておけないし、フェイトへと買ったものだから、他の人にもあげれない。
 だから、良かったら貰ってくれないか」

そこまで言われれば、フェイトも断る事が出来ずに受け取る。

「あけても良いですか」

「ああ、構わないよ」

恭也の了承を得ると、フェイトは丁寧にラッピングを剥がしていく。
そこから姿を現したのは、フェイトがさっきの店で見ていたネコのぬいぐるみだった。

「あ、これ……」

「フェイトが気にしていたみたいだったから。
 もしかして、気に入らなかったか?」

恭也の言葉にフェイトはぬいぐるみを胸に抱きつつ、首を横へと振る。

「とっても嬉しいです」

「そうか。気に入ってくれたのなら良かった」

「はい。とっても気に入りました。大事にします」

言ってぎゅっとぬいぐるみを抱きしめるフェイトの頭を恭也はただ優しく撫でてあげる。
どれぐらいそうしていたか、空の紅が深まり出した頃、恭也は静かに告げる。

「そろそろ戻ろうか」

「はい」

恭也の言葉に返事を返すと、二人は並んで歩き始める。
右手にぬいぐるみを抱き、恭也の横で歩を進めるフェイトはおずおずと空いていた左手で恭也の手を握る。
恭也は特に驚いたりもせず、ただ優しくフェイトを見ると、右手に持っていた荷物を左手で持つと、
そっとフェイトの手を握り返してやる。
その事に夕日の所為ではないぐらい顔を真っ赤にしつつも、フェイトは柔らかな笑みを浮かべる。
穏やかな笑みをその顔に刻みながら、手を繋いで歩く二人の背中を夕日が優しく照らしていた。





<おわり>




<あとがき>

時流さんからのリクエスト〜。
美姫 「315万Hitおめでと〜」
フェイトの続編という事で、ほのぼのとした感じで。
お兄ちゃんに甘える妹なのか、恋する女の子なのか。
美姫 「甘さは控えめでお届けね」
おう。
美姫 「何気になのはが暗躍?」
それはどうかな? 本当に用事があったのかもしれないし。
まあ、そんな事よりも、次は誰にしようかな〜。
美姫 「それじゃあ、またね〜」







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