『An unexpected excuse』

   〜みなみ編〜






「俺が、好きなのは…………岡本みなみさんだ」

「あのー、高町先輩。岡本みなみさんって、あの大阪親日生命のバスケット選手のですか?」

「そうだ」

「どうやって知り合ったんですか?高町先輩と岡本さん」

「それは鷹城先生経由で、ちょっとな」

「鷹城先生ですか?」

「ああ。これ以上はもういいだろう。用が済んだのなら早く教室に戻った方がいい」

恭也の台詞に大人しく従い、その場を離れていくFC会員達。
何かを言いたそうにしている美由希たちを無視し、恭也は目を瞑り、少し物思いに耽る。



  ◇◇◇



今から約1ヶ月程前、鷹城先生に頼みごとをされた恭也は、その週の日曜日に駅前へと来ていた。
その頼み事とは、鷹城先生の先輩にあたる千堂瞳という人が護身道の大会で優勝をし、その祝賀会を翠屋でやりたいという物であった。
この件を桃子に話したところ、許可が出た為、この日翠屋は貸切状態となっている。
で、何故、駅前に来ているのかといえば、これも鷹城先生に頼まれたためである。
鷹城先生やその友人たちは準備のため、手が離せない状態になってしまい、
丁度、この時間に来る人を迎えに行く事が出来なくなってしまった。
それを見た桃子が恭也を迎えにやらせたという訳である。

(確か、もう着いている時間だな)

恭也はクリップオンタイプの時計を取り出し、鷹城先生に聞いていた時間になっているのを確認すると、
あらかじめ聞いていた容姿をした人物がいないか探す。

(いた。多分、あの人だろう。名前は確か……)

恭也は一人の女性に近づき、声をかける。

「あのーすいません。……岡本みなみさんですか?」

「は、はははい。岡本みなみは私ですけど……。あのーあなたは?」

「ああ、すいません。私は高町恭也といいます。鷹城先生たちが今、手を離せないので代わりに私がお迎えに来ました」

「ああ、そうだったんですか。わざわざ、すいません」

「いえ。では、そろそろ行きましょう」

「はい」

その後、翠屋での祝賀会に恭也も参加する事になった。

「ではでは、瞳さんの大会優勝をお祝いして、唯子が乾杯の音頭をとらせて頂きます。と、ゆ〜わけで、乾杯!」

『乾杯!』

ちなみにここにいるメンバーは、瞳、真一郎、唯子、小鳥、さくら、みなみ、恭也である。
他にも数人いたのだが、仕事の都合などで来れなかったらしい。
唯子、さくら意外の人と面識のない恭也は一通り挨拶をすると、隅の方の席へと着く。
しばらくは仲間内で盛り上がっていたが、みなみが恭也に気付き近づく。

「高町君、隣いい?」

「ええ、どうぞ」

「何でこんな隅にいるの?」

「いえ、特に理由はないです。それよりも岡本さんはどうしたんですか?」

「あははは、もう食べる物がなくなったんで皆、お酒を飲み始めちゃって……。私、お酒は苦手だから、ここに避難を」

「そうですか」

恭也は少し微笑み、返答をする。

(あ、綺麗な笑顔……)

みなみは恭也の笑顔に見惚れてしまう。

「岡本さん。どうかしましたか?」

「い、いいえ、な、なんでもないです」

「そうですか、なら良いですが」

みなみは少し顔を赤くしながら、コップにはいっていたジュースを飲み干す。そこへ、唯子たちが近づいてくる。

「みなみちゃ〜ん。高町君は人気があるから、競争率高いよ〜」

「な、そ、そんなんじゃないですよ〜」

「にゃははは〜、冗談だよ、冗談」

「唯子、あんまりみなみちゃんをからかったりしたら駄目だよ」

「ごめん、ごめん」

「しかし、本当にコイツが教師というのが、いまだに信じられんな」

「先輩、さすがにそれは言い過ぎかと……」

「そうか〜。瞳ちゃんもそう思うだろう?」

「そんな事ないもん。唯子はちゃんと教師してるよ。ねえ、高町君」

真一郎と唯子がそれぞれに問い掛けるが、当の本人達からは返事が返ってこない。
恭也と瞳はお互いに無言のまま、ピクリとも動かず相手を見据える。

(流石に大会で優勝をした程の腕前だ。かなり強いな。……多分、鷹城先生よりも強い)

(この子、とても強いわ。今、攻撃を仕掛けたとしても、確実に避けられるわね。普通に座っているだけなのに隙がない)

二人の間に、目には見えない緊張感が漂う。そんな様子に唯子たちも口を出せなくなる。ただ、一人を除いて……。

「あのー、千堂さんも高町君もどうかしたんですか?」

みなみの声に我に返った恭也と瞳は口を開く。

「いえ、別に何でもないです」

「そうそう。何でもないのよ」

「はぁー、そうですか」

訳が判らないという顔をするみなみに、話を変えるために恭也が話し掛ける。

「岡本さん、何か飲み物を取ってきましょうか?」

「え、でも」

「遠慮しないで下さい。何がいいですか」

「えっと、じゃあオレンジジュースをお願いします」

「判りました」

恭也はそう言うと、離れた所に置いてあったジュースを取りに行く。
その後姿を見送りながら、瞳は唯子に話し掛ける。

「鷹城さん。あの子、かなり強いわね」

「高町君のこと?そうだね、レンちゃんや晶ちゃんに聞く限りだと、かなり強いみたいだよ」

「私も忍から、剣術をやってるって聞いたことがあるけど」

「彼、そんなに強いの?瞳ちゃん」

「ええ、勝てる気がしないわ」

「えぇぇ〜、千堂さんが勝てないんですか」

「良くて相打ちって所ね」

そんな話をしているうちに、恭也が戻ってくる。

「はい、岡本さん」

「あ、ありがとー」

「いえ。所で、どうかしましたか」

「別に何でもないよ〜。ただ、高町君がとても強いって話をしていただけだよ」

「……俺なんか、まだまだですよ。もっと強い人はたくさんいます」

「まあまあ、難しい話はそこいらにして、今日は瞳ちゃんの優勝祝いなんだから、パァーとね」

「そうですね。先輩の言うとおりです。今日はとっておきのワインを持って来たんで、飲みましょう」

さくらはそう言うと、少し大きい鞄からワインを取り出し、テーブルの上へと並べていく。
次から次へと出てくるワインを見て、恭也が訊ねる。

「あのー、さくらさん。ひょっとして、その鞄の中全てワインですか」

「やーねぇ。そんなわけないじゃない」

「そ、そうですよね。すいません」

「別に謝らなくても良いわよ。ちゃんと、他のお酒も持ってきてるわよ」

言って、鞄からウィスキーや日本酒を取り出すと、それを茫然と見ていた唯子たちに向けて、笑顔で話しかける。

「いっぱいありますから、どんどん飲んでください」



それから数時間後……



店内のいたる所で眠る唯子たちの姿があった。
恭也は一人、起きていて、酔って寝ている者、疲れて寝ている者たちに店の奥から持ってきた毛布を掛けていく。
そんな作業を終え、一息ついた時、一つの影がもぞもぞと起き出す。

「んにゃむにゃ〜、……ここ、どこ?」

「翠屋ですよ、岡本さん」

背後からいきなり聞こえた声にビクリを肩を震わすが、それが恭也だと判ると落ち着きを取り戻し、後ろを振り向く。

「あ、この毛布、高町君が?」

「ええ」

「ありがとう。高町君は優しいね」

みなみは微笑みを浮かべながら、礼を言う。その笑顔に恭也は見惚れてしまう。

(綺麗だな。岡本さんの笑顔をもっと見たい……って、俺は何を考えているんだ)

「??どうしたの?」

「いえ、別に何でもないです。それにお礼を言われるようなこともしてませんし」

「そ、そんな事ないよ。だから、ありがとう」

「はい、どういたしまして」

みなみの再度の礼を今度は受け取り、笑顔を見せる。

「あっ」

(高町君の笑っている顔を見るとドキドキする。なんで?)

「どうかしましたか?」

今度は恭也がみなみに訊ねる。

「う、ううん。何でもないよ」

「「………………」」

何故か、お互いに無言になってしまう。

「え、ええーと……」

「はい?」

「……ご、ごめんね。私、あんまり面白い話ってできないから……私といても楽しくないよね」

「そんな事ありませんよ。上手く言えませんが、俺は岡本さんの雰囲気とか好きですよ。傍にいるとなんだか落ち着きます」

「な、ななな。え、えっと……わ、わた、私も……そ、その」

「岡本さん、落ち着いて下さい」

「えっ、あ、うん」

一度、深呼吸をし、落ち着いてからみなみは口を開く。

「私も、高町君の傍にいると落ち着く感じがする」

「そう言ってもらえると嬉しいですね」

そう言って微笑む恭也を見て、みなみは自分の動悸が激しくなるのを感じる。

(なんだろう、この気持ち……。ひょっとして私、高町君の事……。う〜〜、判らないよ〜〜)

一人、葛藤するみなみに恭也は優しい声で話しかける。

「どうしたんですか?岡本さん」

その恭也の声に背中を押されるかの様に決意を決め、みなみは口を開く。

「あ、あのね、高町君。わ、私ね……。
 わ、私は、た、高町君の事……好き。でも、好きという気持ちが、友達としてなのか違うものなのか、それがまだ、判らないの。
 おかしいよね、自分のことなのにね」

「おかしくなんかないですよ。俺も岡本さんと同じですから」

「えっ、高町君も……」

「はい。だから、次に会う時には、答えを出したいですね。岡本さん、また、会えますか?」

「うん、会えるよ。会いに来る。私もそれまでに答えを出すから……。
 もし、もしも、この気持ちが友達としての好きじゃなかったら、今度会った時は……、な、名前で呼ぶよ」

「判りました。その時は俺も岡本さんの事を名前で呼びます」

「じゃあ、約束だね」

「はい。約束です」

小指同士を絡め、指きりをする。それから二人は皆が起きるまでの間、お互いの色々な事を話し合った。
そして、みなみは次の日、約束を胸に抱いて海鳴から去っていった。



  ◇◇◇



(はぁー、いつ頃に戻ってこれるのかだけでも聞いておけば良かった……)

恭也が過去に思いを馳せながら、少し後悔をしている所へ忍が声をかける。

「恭也、そろそろ戻らないと休み時間が終わっちゃうよ」

「そうか。もう、そんな時間か」

言って、腰を上げようとするが、その動きが途中で止まる。

(後ろから誰が近づいてくるな。害はないみたいだし、放っておくか)

「恭ちゃん?どうしたの」

「いや、何でもない。そろそろ戻るか」

恭也の台詞に全員が頷き、立ち上がる。しかし、その中で恭也だけが立ち上がれないでいた。
なぜなら、後ろから誰かに飛びつかれたからである。

「うおっと。な、なんだ?」

少し慌てて、背後を見る。そして、飛びついてきた誰かは恭也と目が会うと、はにかみながら挨拶をしてきた。

「久しぶり、恭也くん」

そんなみなみに、恭也も笑顔で挨拶を返す。

「久しぶりです、みなみさん」

「約束、覚えてる?」

「ええ。もちろん覚えています」

みなみと正面から向かい合い、そっと抱き寄せる。みなみもまた、大人しく恭也に抱き寄せられる。
そんな二人を見て、周りから驚きの声が上がるが、二人は気にせずそのまま距離をゼロにする。

『あぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!』

「はにゃーん、…………恭也(ハート)」

みなみは恭也の胸に自分の頬を摺り寄せ、甘える。恭也もそんなみなみの髪を優しく撫ぜながら、耳元に囁く。

「みなみ……愛してる」

「私も……愛してるよ」

再び、キスを交わす。そして、それと同時に再度、中庭に悲鳴が響き渡る。
茫然と固まっている周りの連中を無視して、恭也とみなみはとても幸せそうに微笑み合っていた。



<おしまい>




<あとがき>

さて、第三弾目はリクエストヒロイン第一号、岡本みなみちゃんでした。
美姫 「やっと完成したね」
ああ、長い道のりだった……。
美姫 「あっそ。その割には大した事が」
うがぁー、そんなことを言うなよ(泣)泣くぞ。いいのか?
美姫 「すでに泣いてるじゃない」
な、泣いてないやい。これは、汗が目から出てくるんだい。
美姫 「はいはい」
簡単に流すなよ。虚しいじゃないか。
美姫 「それよりも、次は誰?」
だから、それは秘密だっての。
美姫 「ヒント!」
はぁー、年上の女性です。
美姫 「それだけじゃ判らないわよ。ヒントその2!」
ない!
美姫 「ボーナスチャーンス!」
そんなKan○nネタはいい。
美姫 「これって伏字になってないような気がするんだけど……」
まあまあ。
美姫 「まあ、いいわ。所で、リクエストのみなみちゃんを書いた訳だけど、こんな感じで良いのかな?」
うーん。そればかりは読んだ人に判断してもらうしかないかと。
美姫 「それもそうね。じゃあ、感想等はメールか掲示版までお願いね」
では、また。



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