『An unexpected excuse』

    〜なごみ編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也は何か言おうとして口を閉ざすと、後ろを振り返る。
そこにはいつの間に居たのか、一人の少女が立っていた。

「こんにちは、先輩。こんな所で何をしているんですか」

あまり興味なさそうにそう尋ねながら、礼儀として軽く頭を下げて挨拶する少女に、
恭也はどう説明したものか困った様子を見せる。
その横から楽しそうに忍が事情を説明する。

「そうだ。どうせなら、なごみちゃんも一緒に見学していったらどう?」

「いえ、結構です」

「あらら」

なごみの素気無い返答に肩を竦めると、忍もそれ以上は強制せずになごみを見送る。
立ち去り際、恭也となごみの視線が交差するが誰にも気付かれる事もなく、
いつものように不機嫌そうな感じでなごみが立ち去ると、FCたちの興味はすぐに恭也へと戻る。
じっと見つめられ、恭也はさっきの続きを口にする。

「俺が好きなのは、さっきの椰子なごみだ」

その言葉にどよめく一同の中、既に知っていた忍だけは何事もなかったかのようには恭也へと話し掛ける。

「付き合ってるのよね、確か」

「ああ」

「その割にはあっさりしているというか、こんな状況を見ても冷静よね彼女。
 しかも、興味ないって見ていかないし。
 まあ、それだけ恭也を信用しているって事なんでしょうけど」

忍の言葉に小さく頷きながら、恭也は小さく笑う。だが、忍がそれを目にする事もなく、
驚きで他に注意を向ける余裕のないFCたちも、そんな小さな仕草には気付かなかった。
恭也はひとしきりざわめきが収まるのを待つと、これで良いかと尋ねる。
実際、当初の目的が達成されたため、FCたちはまだ驚きつつも素直に引き下がる。
好んで自分から一人になっているようななごみを知る者たちは、まだ信じられないと言った表情を見せるが、
恭也はそんな子たちへと、もう一度はっきりとなごみと付き合っていると伝える。
こうして、昼休みのちょっとした騒動はようやく治まりを見せるのだった。



  ◇◇◇



放課後、まだ誰も帰ってきていない高町家の恭也の部屋。
そこに恭也ともう一人の姿が。
特に何をするでもなく、何か話すでもなくただ二人一緒に居るだけ。
甘えるように胡座を組む恭也の前に座り、その胸に頬を摺り寄せるのはなごみである。
瞳を揺らし、腕を恭也の首で組んで甘えるように鼻を鳴らす。
そんななごみの髪を優しく手で梳きながら、恭也は時折なごみの首を背中をくすぐるようにもう一方の手で擦る。
中庭で見せた凛とした面影は全くなく、主人に甘える犬や猫のように目を細めて穏やかな表情を覗かせる。

「今日はいつになく甘えたがりだな」

「駄目、ですか」

叱られるのを恐れる子供のように恭也を見上げ、恐々と尋ねてくる。
そんななごみを安心させるように優しく笑いかけ、同時に手で撫でてあげながら恭也は首を横に振る。
怒っているのでも拒絶されているのでもないと知り、なごみは更に甘えるように頬を恭也の首筋に擦りつける。
恭也の肩に頬を置き、表情を隠しながら静かに語り出す。

「……やっぱり不安になります。センパイは思っている以上に皆に人気があるみたいだから」

「昼間の事か。そんな事はないと思うが」

「ありますよ。不安で不安でたまらなくなります。
 本当に私の事を好きなのか、私はセンパイの傍に居ても良いのか。いつか、拒絶されるんじゃないかって。
 だから、二人きりの時はそんな不安がなくなるぐらい甘えさせてください」

「ああ。それでなごみの不安が少しでも減るのなら、幾らでも甘えさせてあげるよ」

なごみの背中に腕を回し、強く抱きしめる。
恭也の腕の中で甘え、同じように恭也を抱き締めるとそのまま向かい合って首筋に顔を埋める。

「皆が居る前でベタベタするのは嫌いです。
 でも、その所為でセンパイが私から離れるっていうんなら、少しは努力します」

まだ不安なのか、それともよっぽど昼の事が気になるのか、そんな事を言ってくるなごみの唇に軽くキスをし、
驚くなごみへともう一度笑ってみせる。

「俺も皆の前でベタベタするのは恥ずかしいから、今のままで良い。
 そんな事でなごみを嫌いになったりしないから、安心して。
 それに、なごみのこんなにも可愛い所を他の奴らに見せるのは勿体無いし」

「センパイ……」

恭也の言葉に嬉しそうにはにかみながら瞳を潤ませると、静かに閉じる。
そっと顔を近づけ、軽く二度、三度とキスをする。
なごみはその度に嬉しそうに小さく声を洩らす。
最後に長い長いキスをして、ようやく二人は離れる。

「これからも傍にいさせてくださいね」

「当たり前だろう。これからも傍にいてくれ、なごみ」

「はい」

互いに抱き合ったまま、二人はもう一度キスを交わす。
家人が帰ってくるまでの間、ただ静かに二人きりの時間を過ごすのだった。





<おわり>




<あとがき>

今度はなごみだ!
基本的なツンデレキャラじゃないかと思うんだが。
美姫 「孤高の少女ね」
うん。という訳で、二部構成に。
美姫 「これでメインキャラは半分終了かしら」










ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る