『An unexpected excuse』

    〜きぬ編〜






「俺が、好きなのは…………」

「おうおう、皆してこんな所で何してんのさ。
 ひょっとして、ボクのお出迎え?」

「カニっち、お出迎えも何も自分の方からここに来てるんだけど」

「あははは、細けぇーことは気にすんなよ、忍」

恭也の言葉を遮るように元気な声でこの場にやって来た一人の少女――蟹沢きぬへと忍が声を掛けると、
きぬは笑い飛ばしながら恭也の隣に座る。

「それで何してたんだ?
 あ、まさかボクが居ない間に何か美味いもんでも食べに行く相談とかじゃないだろうな」

「うーん、すぐに食べ物に直結する考え方はどうなんだろうね、恭也」

「まあ、カニらしいと言えなくもないと思うが」

「何だと。恭也、そんな事を言って良いのかよ。お前の可愛い盆栽たちが……」

そこまできぬが口にした瞬間、素早く伸びた恭也の手がきぬの口を左右へと引っ張る。

「ふぁ、ふぁにすんふぁふぉ」

ジタバタ暴れるきぬを無視し、恭也は限界近くまで引っ張り上げると静かに諭すように言う。

「今までに何度もそういうのはやめろと言っているだろう。
 人の大事にしているものを、そう簡単に壊そうとするんじゃない。分かったか」

恭也の言葉に口を引っ張られながらもきぬは何度も頷き、それを見た恭也もようやく手を離す。
涙腺の弱さから零れる涙を袖で拭うきぬ。

「いやー、しかしカニっちは相変わらず涙腺弱いね。もう涙が」

「なっ! 何だと。泣いてない、泣いてないもんね。泣いてないんだからな、忍!
 なあ、恭也、泣いてないよな!」

「ああ、泣いてない、泣いてない」

言ってきぬの頭を撫でてやる。
途端にきつく吊り上げていた眦が下がり、崩れた顔になる。

「ちょっと強く引っ張りすぎたかな。少し赤くなってるな」

「い、良いよ、これぐらい。いつもの事だし、恭也はボクのために怒ってくれてるんだしね」

とろけるように相好を崩して甘えるように恭也に擦り寄るきぬ。
それを受け入れつつ、恭也はFCたちの事を思い出す。
恭也が視線を向けたのに気付き、きぬもまたそちらへと視線を移す。

「そう言えば、こいつらは何?」

「ああ、そうだったな」

恭也は思い出したようにきぬの肩に手を置くと、FCたちにはっきりと言う。

「俺が好きなのは、ここにいる蟹沢きぬだ」

「……恭也」

恭也の言葉に落胆の声を上げるFCたちとは別に、きぬは感動したように恭也を見上げる。

「そんな嬉しい事を」

言って恭也のじゃれるように飛びつき、いきなり恭也の唇に自身の唇を軽く合わせる。

「カニ、人前では……」

「良いじゃないか。別に恥ずかしがるなよ。恭也とボクの中じゃんか」

「だが、人前というのは……」

「ボクの事嫌いなのか?」

「そうじゃないが……」

「だったら」

言ってまたキスしてくるきぬに困ったような顔をしつつも、それを拒んで悲しませるような事はしない。

「恭也は照れ屋だからな。まあ、そんなところも好きだけど」

きぬの言葉に照れる恭也を見上げながら、きぬはそのまま恭也の膝の上に座ると甘えるように引っ付く。
これもこれで恥ずかしくはあるのだが、この程度はもう慣れたのか、恭也もこれに関しては何も言わない。
それが分かっているからなのか、きぬは恭也に甘えるように抱き付く。

「うーん、相変わらず恭也の胸は温かいな」

「そうか」

「ああ。それに落ち着く」

胸に頬を摺り寄せながら目を細めて、まるで猫のように擦り寄るきぬの頭や喉を撫でる恭也。
完全に二人の世界に突入してしまったらしく、忍は肩を竦めると慣れた調子でさっさと立ち去る。
美由希たちも苦笑を見せつつも、これまた毎度の事とばかりに肩を竦めて忍に続く。
二人きりになった事にも気付かず、いや、そうであろうとなかろうと関係ないとばかりに、
きぬは更に甘えるように恭也に抱きつき、恭也もまたそんなきぬを優しく抱きとめるのだった。





<おわり>




<あとがき>

ラストはカニ〜。
美姫 「って、短いわね」
うぅぅ。難しかったんだよ。
甘えるきぬ。だけど、バカップルの領域までは流石にどうかと。
美姫 「まあ、相手が恭也だしね」
だろう。それに、バカップルのパターンは前にもやったから、ここでは違うパターンでと。
美姫 「きぬは原作だとバカップルになるものね」
そういう事だ。という訳で、その予想を覆そうと。
美姫 「でも、結構、それに近いような気もするんだけど」
いや、本当に難しいね、ものを書くって。
美姫 「いや、今更そんな当然のことを悟ったように言われても」
まあ、ともあれつよきすのメインヒロインは出揃ったぞ〜。
美姫 「そうみたいね」
という訳で、今回はこれにてさらば!
美姫 「まったね〜」







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