『An unexpected excuse』

    〜祈編〜






「俺が、好きなのは……」

言いよどんでいるようにも、困っているようにも取れる曖昧な表情を見せる恭也。
もしかしたら、いないのかもしれない。
そんな事を思う者も出る中、不意に恭也の後ろから気だる気な声が割って入ってくる。

「は〜い、皆さん。
 いつまでもこんな所にいらっしゃると、正直、私が困りますので解散してください」

肩にオウムを乗せて、飴を手にした色気のある女性――大江山祈が中庭へとやって来る。
恭也と忍の担任でもあり、よく当たる占いやその容姿から女子男子ともに広く知られている彼女の登場に、
その場にいる者たちが揃って面食らう中、忍が当然のように疑問を口にする。

「何で祈先生が困るんですか?」

「それは勿論、次の時間授業のない私がそこのベンチで昼寝をするからですわ」

「先生、それは正直すぎです」

祈の言葉に恭也も苦笑してそう告げるが、肝心の当人は既にベンチに座り恭也たちをじっと見つめる。
眠そうに目を細め、今にも閉じそうになる瞳でただじっと。

「おおい、貴様ら小童共はさっさと教室に戻って、
 この先の人生で役に立つのか立たないのかよく分からない学問に精を出すが良い。
 無論、我輩はここでそんな貴様らを嘲笑いながら、優雅な午後を過ごさせてもらうがな」

「と、土永さんが申しておりますわ」

肩に止まったオウムが流暢に喋るという事態にも関わらず、その事自体には誰も疑問を挟まない。
ただ土永の言葉にやる気をごっそりと奪い取られたような顔を一様に見せるだけである。
このオウムの土永についても、既に殆どの者が知るところだから、今更驚く者も少ないのである。
今にも眠り出しそうな土永と既に眠り始めた祈を見て、他の面々も大人しくこの場を立ち去ろうとする。
場所を変えて続きをしようという雰囲気も、祈の登場で既に消えてなくなっており、
後日という空気が流れる中、各々に立ち去る。
そんな中、恭也はただ一人木の根元に腰を下ろしたまま、その場を動こうとはしない。
それに気付いた忍が声を掛ける中、恭也もまた眠そうに返す。

「前の授業が祈先生の英語で、ずっと起きていたからな。体調不良という事にしといてくれ」

「普通は起きているのが当たり前なんだけれど」

「他の誰に言われても、お前にだけは言われたくはない台詞だな」

「悪かったわね。でも、寝るのなら教室でも出来るじゃない」

そういう問題でもないのだが、この場に忍に突っ込むものはおろか、他に人もいないためそのまま話は進む。

「だな。だが、この陽気の下というのが……」

秋も深まったとはいえ、今日は中々に暖かく、恭也の気持ちが分からないでもない。
忍も納得したのか、そのまま自分もここで時間を潰そうとする。
が、それは恭也によって止められる。

「お前までが休んだら、誰が俺の体調不良を伝えるんだ。
 流石に無断で欠席するのはまずいだろう。しかも、二人揃っては余計に」

「それもそうよね。でも、私だってのんびりしたい〜」

「なら、それは今度にしてくれ。その時は俺が教師への伝言を頼まれよう」

恭也の言葉に、忍は小さく口の中で鈍感と呟く。
別段、この陽気だからこそサボってまで寝たいのではなく、恭也と一緒にいたいだけなのだ。
だが、そんな機微を恭也に求めるだけ無駄だと分かっている忍は、
これみよがしに肩を竦めて溜め息を吐くと恭也からの伝言を持って教室へと戻るのだった。
暫く忍の立ち去った方を見つめたままじっとしていた恭也であったが、
授業開始のチャイムが鳴り終わると顔はそのままに口を開く。

「祈先生、この辺りにはもう誰もいませんよ」

「……やっぱり、気付いてましたのね」

恭也の言葉に簡単に閉じていた目を開ける。
それを合図とするかのように、土永は翼を広げて何処かへと飛んでいく。
土永を見送りながら、祈は隣のベンチに軽く手を置いて数度叩く。
隣に座れという事らしい。
その無言の言葉を理解して隣に座った恭也へと、祈は少し呆れたように口を開く。

「強引に迫られて戸惑うようじゃ、まだまだですわよ。
 あれぐらい、さらりと流せるようになりませんと」

「すいません」

「まあ、高町さんにそこまで期待するのは無理なのかもしれませんが。
 ですが、口を割らなければ良いというものではありませんから。
 きついようですが、あのぐらいは自然に誤魔化せるようになってもらいませんと」

「そうですね。今回は本当に助かりましたよ」

恭也の言葉に祈はごく自然に言う。

「秘密の関係がばれると、私も無事ではありませんからね」

「ですね」

「ええ。ですから、そんなに頻繁に会っている訳でもなく、態度も今までと変化していないとはいえ、
 最低限の注意は必要ですから」

そう注意しながら祈は身体を倒して恭也の膝に頭を置く。
自然と恭也の手が祈の髪へと伸び、それを梳くように撫でる。
珍しく甘えてくる祈であったが、特に理由などないのだろうと恭也は思う。
互いに縛らず、ただ会いたい時にだけこうして会う。
世間一般の付き合っている者同士からすれば、
本当に付き合っているのかと思われるかもしれないような二人の距離。
だが、恭也も祈もこれで充分だと感じていた。
偶に寂しく思うときもあるが、その分会った時に二人の時間を大切にする。
周りから見れば疑問に思うかもしれない関係ではあるが、二人は自分たちの関係を尋ねられれば、
躊躇う事も考える事もせず、ごく自然に、はっきりと恋人であると断言するであろう。
周囲など関係なく、互いがどう思い、どう感じているのか。
それがきっと何よりも大事なこと。

「祈先生……」

「何ですか、高町さん」

「好きですよ」

「私もです」

二人は本当に何となく軽く唇を合わせる。
それ以上の言葉もなく、ただただ静かに。





<おわり>




<あとがき>

という訳で、今回は祈〜。
美姫 「これでメインは後二人ね」
えっと、そうなるかな。
だが、そうそうメインキャラが続くと思うなよ!
美姫 「そうなの?」
ごめんなさい、嘘です。と言うか、まだ分かりません。
美姫 「でしょうね」
あ、あははは。
美姫 「ともあれ、今回は祈先生でした」
それでは、また次で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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