『An unexpected excuse』

    〜桜編〜






「俺が、好きなのは…………」

恭也はそこまで言葉にしたかと思うと、急に口を閉ざす。
それとほぼ同時に、ここにいなかった人物の陽気な声が届く。

「だ〜れだ♪」

誰もが突然の出来事に声を出せない中、視界を塞がれた恭也は一人どうしたもんかと嘆息する。
そんな恭也の様子に気付かないのか、気付いていて敢えて無視をしているのか、
突如この場に現れた少女は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「やった、やったよ♪
 まさか、恭也くんの後ろを取れる日が来るなんて。
 ああ、これって何かの天変地異? まさか、また楓の身に何か?
 それとも、これって私が成長したという事なのかな。ね、ね、どう思う? 美由希ちゃん」

「あ、あははは。多分、気付いていたんじゃないかと私は思うかな〜」

「あ、やっぱり? まあ、それでもお約束というか、ここまでやっちゃってるしね。
 という訳で、もう一回。だ〜れだ?」

「桜……」

「あ、あははは。やっぱり、気付かれたか」

「あそこまで騒げば誰でも分かる」

少女――桜の手をそっと目から外すと、恭也は後ろへと顔を向ける。

「それで、どうしたんだ今日は。しかも、こんな時間に。
 いつもよりテンションまで高いし」

恭也の言葉に桜はもの凄く嬉しそうな顔をして見せる。

「ふふふ。
 今日はね、これから、と言っても放課後なんだけれど、この学校の手芸部にとある先生が来るんだよ」

「ぬいぐるみ関係か」

「まあね。うちとこっちとで授業をやってもらえる事になってたんだけど、
 ちょっとスケジュールが調整できなかったみたいでね。
 それで、急遽、合同でやることになったんだって」

桜の嬉しそうな言葉に、恭也と美由希は相変わらずだなと苦笑めいたものを見せるも、
優しい眼差しで桜を見つめる。
一つの事に一生懸命になる桜が眩しいのかもしれない。
と、懐かしそうな三人から離れ、忍たちは困惑気味に恭也と美由希に話し掛ける。

「えっと、恭也たちの知り合いみたいだってのは分かったけれど……」

「そう言えば、美由希以外は初めてだったな」

今気付いたとばかりの恭也の言葉に那美たちはただ頷き、忍は桜をじっと見て制服を指差す。

「もしかして、その制服ってストレリチア女学院の」

「あ、うん。そうだよ。って、自己紹介がまだだったね。
 私は八重桜って言います。
 恭也くんと美由希ちゃんとは割と昔からの知り合いで、今は恭也くんの恋人って事で」

明るく何でもないことのように言いながら、その部分を口にするなり真っ赤になる桜。
横で聞いていた恭也も僅かに顔を赤くさせるも、否定せずに頷く。

「あ、そうなんだ。私は恭也のクラスメイトで月村忍です。
 ……って、恋人!?」

思わずそのまま流しそうになった忍であったが、即座に大声を上げて尋ね返す。
だが、その視線はその発言をした桜ではなく恭也へと向かっている。
忍だけでなく、FCも含めた全員の視線を受けて恭也はそれを首肯する。
さっきまで問い詰めていた質問の答えを意外な形で意外な所から貰ったFCたちは、
やや呆然としながらも一人、また一人と去っていく。
そんな中、美由希が恭也と桜の二人に詰め寄っていた。

「ちょっと、私もそれは知らなかったよ! 何で、どうして?
 私にまで秘密にしてるなんて、二人して酷いよ。いつからなの?」

「あれはいつだったかな。そう、私の中学卒業した時の話だったかな。
 稟くんにふられて落ち込む私の心の隙間に付け込んで……」

「桜、頼むから人聞きの悪い事は止めてくれ。俺たちが会ったのはその出来事のあった後だろうが。
 こいつら、自分たちが楽しい事ならすぐに信じるから」

「あ、あははは。そうなんだ。えっと、本当はそれから少ししてからなんだけれどね。
 実は昔に一度だけ会ってたんだ。美由希ちゃんも覚えてないみたいだね」

「あの頃は父さんに連れられて、あちこち周っていたからな。
 まあ、覚えていなくても仕方ないだろう」

恭也の言葉に美由希が頷くも、桜はわざとらしく恭也の腕にすがって泣き真似をする。

「美由希ちゃん、酷いよ。忘れてるんだね。
 昔、一緒に少しの間だけど三人で遊んだのに」

「え、あ、ご、ごめんなさい」

本当に申し訳なさそうに謝る美由希を哀れに思ったのか、珍しく恭也が助け舟を出す。

「桜、お前も忘れていただろう。しかも、その思い出を稟と楓さんの二人だと勘違いしてて……」

「わー、やめて。それは言わないでください」

必死で恭也の口を塞いで膨れてみせる桜に恭也は肩を竦めて了解した意志を伝える。
が、偶に意地悪になる恭也の事を知っている桜はすぐには手を離さず、じっと恭也を見つめ、
それが嘘でないと判断するとようやく口から手を離す。
話に置いてけぼりになる形となった忍たちにすぐに気付くと、桜は謝ってから自己紹介を再開する。
やや唖然となっていた忍たちも、これで我に返ったのか同じように自己紹介をする。
顔見せらしきものが終わると、桜は改めて恭也に向き合う。

「今日、ここに来るって話したときにね、稟くんと楓ちゃんから伝言を預かってきたんだ」

言って桜は深々と頭を下げる。

「あの時はお世話になりました、って」

言って顔を上げた桜は恭也の顔を見つめ、もう一度礼を言う。

「私からもありがとうございます」

「そこまでしなくても良いって。俺だって稟の友達だと思っているんだから。
 困っているのなら助けるのは当たり前だろう」

「恭也くんならそういうと思ったよ。うん、やっぱり二人とも何処か似ている部分があるよ」

「そうか? 俺は稟ほど優しくないし、もてないぞ」

「う、うーん、それはどっちも信じられないかな。
 恭也くんが優しいっていうのは、私はちゃんと分かってるもの。
 それに、後半の言葉だって……」

言って忍たちを見渡し、今は立ち去って誰もいないFCたちが立っていた場所に視線を移す。
桜はちょっと困ったような顔で、もう一度忍たちに視線を移すと、本当に小さく呟く。

「うーん、稟くんと良い、恭也くんと良い、どうしてこうも回りに女性が多くいるのかな。
 いや、理由は分かるんだけどね。私だってそこが好きになった訳だし。
 でもね……。はぁぁ」

幸い、その言葉は誰の耳にも届かなかったが、忍たち女性陣たちは何かを察したのか、
同情するように頷いていた。
この事が切っ掛けだったのか、すぐに桜は忍たちとも仲良くなる。
そんな様子を我が事のように嬉しそうに見つめる恭也に、桜が近付いて手を引っ張って輪の中に入れる。
出会いなどを根堀り葉掘り聞いてくる忍たちにうんざりしつつ、恭也と桜は思わず視線を合わせると、
どちらともなく柔らかな笑みを浮かべ合う。
そっと握ったままになっていた掌を、指と指を絡めるようにして強く握り直すと、
言葉はなくとも何となく通じ合っている気がして、
浮かべた笑みもそのままに、互いに少し寄り添うように二人の間の距離を縮めるのだった。





<おわり>




<あとがき>

やっと登場、八重桜〜。
美姫 「また新しい所から……」
いやほら、『SHUFFLE!』だし。
美姫 「まあ、良いんだけどね」
うーん、前半はちょっとテンションが高い桜になりすぎたか?
やっぱり、ぬいぐるみが関わっていたからテンションを高めにしたのだが。
美姫 「どうかしらね? でも、今回は甘さ控え目ね」
うん。最近は甘さを控え目で。
美姫 「その反動がいつかきそうだけど」
まあ、その時はその時さ。
さーて、それじゃあ、次は誰を書こうかな〜。
美姫 「それでは、また次でね〜」
ではでは。







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