『An unexpected excuse』

    〜プリムラ編〜






「俺が、好きなのは…………プリムラ」

僅かな空白の後、その名を恭也が言うと同時に後ろから抱き付いてくる柔らかな感触。

「やっぱり、お兄ちゃんは凄いね。上手く近付いたつもりだったのに、ばれちゃった」

恭也の背中に乗りかかり、腕を恭也の肩越しに前へと出して抱き付きながらはにかむ少女――プリムラ。
頭の両側で綺麗な髪を結わえたプリムラは、可愛らしい仕草、
まるで猫が飼い主に甘えるかのように恭也に頬擦りする。

「ん〜〜。お兄ちゃん〜」

甘えてくるプリムラを突き放す事などできず、ただされるがままになる恭也。
微笑ましい兄妹の図にも見えなくもないが、プリムラが恭也の妹ではないというのはここに居る誰もがすぐに気付く。
プリムラの少し尖った耳が人族とは違うと証明しており、恭也は人族であるから。
かと言え、この光景を壊すのも忍びない気持ちにさせる程に、プリムラの顔は嬉しさのあまりに蕩けきっている。
ひとしきり恭也に抱きついて満足したのか、プリムラは恭也の身体の前で組んでいた手を離し、
いや、離さずにそのまま恭也の前に回りこむと、そこが定位置だと言わんばかりに、
当然のように恭也の足の上に横向きに座り、手はそのまま恭也の首の後ろへ。
後ろから甘えていたのが単に前からに変わっただけというように、再び恭也に甘えるようにその胸に頬を当てる。

「お兄ちゃん〜。あったかい」

恭也に甘えながらうっとりと告げるプリムラにようやく恭也も動きを見せる。
その頭を優しく撫でた後、これまた当然のようにプリムラを包み込むように腕を前に伸ばして合わせる。
嬉しそうに、気持ち良さそうに目を細めるプリムラを、同じように自然と細まった優しい眼差しで見返す。
照れくさそうに笑いながらも、プリムラもまた恭也を見返す。
が、流石にこのまま放っておく事も出来ずにようやく忍が恭也に話し掛ける。

「あー、恭也? 非常に申し訳ないんだけれど、いや、私たちは良いんだけれどね。
 ほら、この子たちがね」

言ってFCを指差す忍の言葉に、プリムラもようやくそちらへと顔を向ける。
今まで恭也に向けていたものとは違う、無表情に近い顔でそちらと見ると当然のように疑問を口にする。

「誰? 何か用?」

近しい者には感情を表すようになったプリムラではあるが、まだ時折昔の感情を知らなかった頃のような顔を見せる。
思ったよりも人見知りな所為か、慣れるまではどうもこうなってしまうらしい。
勿論、そんな事を知らないFCたちはやや戸惑いつつも視線を恭也へと戻す。
恭也としては既に答えたつもりだったのだが、タイミングが悪かったという事か。
改めて言わなければならない事に若干の照れを感じつつも、
腕の中に居るプリムラの温もりに後押しされるようにして、またプリムラの質問に答えるようにもう一度言い直す。

「俺がプリムラの事を好きだっていう話をしていたんだ」

プリムラへと向けながらFCたちにも向けられた言葉に、プリムラは顔を真っ赤にして見られまいと隠そうとする。
が、その腕は恭也の首に回しており手で隠す事はできない。
かといって手を外すのは嫌なのか、そのまま恭也の胸に顔を埋めて赤くなった顔を隠す。

「う〜〜。嬉しいけれど恥ずかしいよ〜。
 見ちゃ駄目、お兄ちゃん」

「何で? 照れている顔も可愛いから見たいのに」

自分以上に照れるプリムラのお陰で羞恥心が薄らいだのか、恭也はさらりと普段なら口にしない事を言う。
その言葉に更に照れつつ、回した腕に知らず力が入る。

「うぅ、駄目だったら〜」

覗き込もうとする恭也から隠すように、更に恭也の胸に顔を埋める。
こうなると恭也の位置からは絶対に見る事が出来ず、少しだけ残念そうにしつつも、
その代わりとばかりにプリムラを抱き寄せて、その髪に顔を埋める。

「本当にプリムラは可愛いな」

多分にからかいを含みつつも真実だと言い切る恭也に、
プリムラは益々顔を赤くすると、どうして良いのか分からないとばかりに抱きついたまま動かない。
その仕草がまた恭也の頬を緩ませるのだが、あまり言い過ぎるのも可哀想だと恭也はこの辺でやめておく。
この辺りの匙加減がなかなか難しいと思いつつ顔を上げた恭也は、そこに誰も居ない事に気付く。
プリムラに気を取られていたとは言え、大人数の移動に気付かなかった事を恥じつつも、
二人だけしか居ないと分かって更にからかうかどうか悩む。
が、いつまでも顔を見れないのはやっぱり嫌なのでプリムラが落ち着くのを待つ事にする。
何も言わずにただ優しく見守る恭也に気付いたのか、ゆっくりとだが顔を上げていくプリムラ。
その目が恭也と合うとすぐに恥ずかしさでそらしてしまうが、また恭也の顔を見上げる。
逸らしては見つめ、見つめてはまた逸らし。
そんな事を繰り返しつつプリムラは楽しくなってきたのか、その顔にはっきりと笑みを見せる。

「いつまでも遊んでないで、ほら」

だが、流石に時間に限りがある今はとことん付き合ってやるという訳にもいかず、
恭也はプリムラの頭を撫でてて止める。
はにかみながらもその手を受け入れ、プリムラはこれでお終いとばかりに恭也に一際強く抱き付いて鼻を鳴らす。

「お兄ちゃん……」

名残惜しそうにそう呟いて離れ際に頬に口付ける。
真っ赤になった顔を隠すように背中を向けて立ち去ろうとするプリムラの腕を取り、
後ろから抱えるように抱き止めて、その横顔に尋ねる。

「それで、いつまでお兄ちゃんなんだ?」

「……だって、……………………恥ずかしい」

顔を真っ赤に染め上げてモジモジと恥らうプリムラ。
その様子に恭也も何も言えずにただ髪を梳くようにして指先に絡める。

「そうか。まあ、無理強いはしないから」

「うん、ありがとう」

「それじゃあ、そろそろ教室に戻るか」

「うん。美由希、先に行っちゃったから、途中まで一緒に行っても良い?」

「聞かなくても良いに決まってるだろう。ほら」

プリムラの腰に腕を回して立ち上がりながらプリムラも立たせる。
そのまま二人は手を繋いでゆっくりと歩いて行く。
繋いだ手を見て頬を薄っすらと染め上げてはにかむプリムラを、恭也はただ優しく見つめるのだった。





<おわり>




<あとがき>

キリリク〜。残るヒロインプリムラ〜。
美姫 「翔さん、リクエストありがとうね〜」
甘えるプリムラという事で、こんな感じでどうでしょうか。
美姫 「もっともっとベタベタと甘えさせた方が良かったんじゃない」
いや、充分に甘えていると思うが。
美姫 「何はともあれ、メインヒロインは全員終わったんじゃないの?」
おお! 確かに。ようやくって感じだよな〜。
美姫 「アンタが遅いばっかりに」
うぅぅ、すみません〜。って、おい!
美姫 「いや、事実でしょう」
ぐっ、否定したいのに出来ない。
美姫 「ほらほら〜」
うぅぅ。と、それはさておき。キリ番おめでとうございます。
美姫 「おめでと〜」
リクエストはこんな形となりました〜。
美姫 「それじゃあ、また次で」
ではでは。







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