『An unexpected excuse』

    〜亜沙 続編〜






海鳴大学のキャンパスを歩く二人の男女。
女性の腕が伸びて、男性の腕を取る。
照れた様子を見せながらも、それを振り解かない男性に女性は満足そうな笑みを覗かせる。

「恭也くんもいい加減、腕を組むのは慣れてきたよね」

「まあ、毎日のように亜沙にやられていればな」

「何よ、その言い方は。まるで、ボクと腕を組むのが嫌みたいに聞こえちゃうぞ」

「いや、そんな事はないんだが。もしそう聞こえたのなら、すまない」

「んー、どうしよっかな〜。許そうかな〜、それとも許さないでおこうかな〜」

本当に喧嘩しているのではなく、ただじゃれ合っているだけだという事は、二人の表情や声からも分かる。
人の少ない方へと歩きながら、亜沙は恭也の顔を下から覗き込むように言う。
上目遣いでこちらを窺うようにしながら、組んでいない方の手で前に垂らしている髪を弄る。
その顔から何かをねだるつもりだとすぐに思い至るも、恭也は亜沙へと許しを乞う。
恭也の降参に機嫌を良くしながら、亜沙たちは人の少ない場所までやってくると、
手近な木の根元にシートを広げる。

「それじゃあ、今日のお昼はここで良いかな」

「ああ」

亜沙の言葉に頷きながらシートに腰を下ろす恭也の前に、亜沙が鞄から弁当箱を取り出して置く。
互いに手を合わせて頂きますと言うと、食べ始める。

「どうかな」

食事も大分進んだ辺りで、亜沙は少し不安そうに尋ねてくる。
恭也にしてみれば、今更心配するようなものでもないと思うのだが。
そう言うと亜沙は小さく笑い、初めて作ったものがあると言ってくる。

「ああ、これか。美味しいよ」

「本当に? 良かった〜」

恭也の言葉に嘘がないと分かると、亜沙は大げさなぐらいに胸を撫で下ろす。
そんな様子を苦笑混じりに見遣りつつ、恭也は箸を進めていく。
全て食べ終えて満足顔の恭也の傍にススッと触れ合うぐらいまで近寄り、
お茶を手渡しながらそっと寄り添うように身体を少しだけ任せる。
何も言わずにお茶を受け取りながら、恭也は優しい眼差しでそんな亜沙を見詰める。
穏やかな空気が二人を包み込む中、亜沙はキョロキョロと目だけを動かして周囲の人を観察する。
元より人気の少ない場所故に、周辺には数えるぐらいしか人はおらず、また誰もこちらを見ている様子はない。
その事を確認すると、亜沙は恭也を見上げる。

「ねえ、恭也くん」

甘えるような声で見上げてくる恋人を、恭也はただ静かに見詰め返す。

「さっきの事許してあげるから……」

言ってやや恥ずかしそうにしながらもそっと眼を閉じる。
朱に染まった頬と僅かに震える瞼。けれども、じっと何かを待つ亜沙の様子に、
恭也も周囲を確認してから、そっと口付ける。
軽く啄ばむように触れた後、そっと離れる恭也を薄っすらと開いた瞳が見詰める。
その目をこれ以上はないというぐらいの至近距離で見詰め返しながら、恭也は亜沙の言いたい事を察し、
再び顔を近づけて、今度は吸い付くように、先程よりも長く口付ける。
ゆっくりと顔を離していく恭也に、亜沙は照れながらも満足そうな顔を見せる。

「何を笑っているんだ」

「ん〜、別に大した事じゃないんだけれどね。
 昔だったら、今の状況でも目にゴミでも入ったのかって言ってたな〜って思って」

「……流石にそこまでは酷くなかったと思うんだが」

「ううん、絶対に酷かったよ。ここまで治すのに思ったよりも時間が掛かったよ。
 ボクに対する口調を改めさせたり、一つ一つのそれこそ本当に手取り足取りで。
 口にするのが恥ずかしくて、じっと見ているのに気付かないんだもの。
 その度に、口に出して」

「うっ、だ、だが、その次からはちゃんとしただろう。第一、治すって。人を病気か何かみたいに」

どこか拗ねたように呟く恭也に微笑みかけながら、

「一回で理解しない事もあったけれどね。
 まあ、そういう所も含めて好きになっちゃったんだから仕方ないんだけれどね」

そんな風に笑顔で言われては恭也もそれ以上は何も言えず、また照れからか視線を思わず何もない空間へと向ける。
それを微笑を浮かべながらじっと見詰める。
視線を感じて何となく居心地が悪いのか、微かに身体を揺すり顔を亜沙から完全に逸らす。
途端、亜沙は拗ねたように頬を膨らませ、両手で恭也の頬を挟んで自分の方へと向ける。

「もう、何で顔を背けちゃうかな」

「じっと見てくるからだろう」

「良いじゃない。ボクの恋人は素敵な人だな〜って改めて見ていたんだから」

「……それを言うのなら、亜沙だって綺麗になったよ。
 勿論、出会った頃から綺麗だったけれど」

「うっ、そ、そういう事をこんな所で言うのは禁止!」

恭也をからかっていたはずが、あっという間に立場が逆転して顔を真っ赤に染める亜沙。
とは言え、言った恭也も照れ臭そうにしているが。
互いに照れながらも今度は顔を逸らさず、どちらともなく笑い出す。

「もう毎日が幸せかな」

恭也は口には出さないが、同じだとばかりに目を細めて亜沙の頬を撫でる。
ごつごつした無骨な手で撫でられながらも、亜沙は気持ち良さそうに目を瞑り、
その感触をもっと感じられるように、そっとそこに自分の手を添える。
時には忙しなく、時にはこんな風にゆったりとした時間を過ごしながら、二人の間の時間を積み重ねてきた二人。
それはまだ終わりではなく、これからもずっと続いて行く時間。





<おわり>




<あとがき>

キリリク〜!
美姫 「580万ヒットで、いぶきさんからのリクエストでした〜」
ありがとうございました。
美姫 「亜沙の続編」
大学へと進学してからのお話で。
美姫 「前回の美由希との約束めいたものを実行していたのね」
ああ。それにより、恭也も多少は改善したというか。
美姫 「今回はのんびりとした感じね」
ほのぼの〜と。活発な亜沙じゃなくて、照れたり、拗ねたりと大忙しで。
美姫 「ちょっと落ち着いた感じの亜沙でお届けね」
その通り。こんな感じになりましたが。
美姫 「改めて、キリ番おめでとうございます」
おめでとうございました。







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