『An unexpected excuse』

    〜のどか編〜






「俺が、好きなのは…………」

「あ、あうっ」

恭也が何か言おうとしたその瞬間、背後から小枝を折るような小さな音が響き、
それに驚いたのか、今にも消えそうなぐらい小さな声が上がる。
全員の視線がそちらへと向かうと、その少女はそれにおろおろとしだす。
終いには、今にも泣きそうな潤んだ瞳で助けを求めるような視線を恭也へと向ける。
それを受けて恭也は忍たちへと声を掛けて、注意をこちらへと向けると、
そっと背中越しに手を振って、こちらへ来るように招く。
それを見て、おずおずと恭也の傍、その後ろに隠れるように座り込むと、そこから少しだけ顔を出し、
人の多さ故か、またすぐに恭也の背中に隠れる。
相変わらずの少女の人見知りの激しさに苦笑を見せつつ、恭也は忍たちの方を見る。

「確かに、これだけの人数が傍に居たら、のどかちゃんは萎縮しちゃうか」

恭也の視線の意味を汲み取り、忍は困ったように頬を掻く。

「のどか先輩は人見知りが激しいですから。
 恭ちゃんの半分でも図太い神経を持っていれば良かったんですけどね」

弟子の失礼な言い方も、FCたちへの説明だと今回だけは黙殺し、恭也は顔だけを後ろに居るのどかへと向ける。

「所で、図書館の整理の方はもう良いのか」

「あ、あう、ま、まだです。今も夕映たちが……」

「なのにここに来たというのは、何かあったのか」

「あ、はい。美由希ちゃんに用が」

「美由希に?
 おい、美由希。お前、のどかに何かしたのか」

「って、いきなりそれは酷いよ恭ちゃん!
 私がのどか先輩に何かする訳ないでしょう!」

もう心外だなと憤慨する美由希に、のどかがゆっくりと説明する。

「あの、さっき図書館のコンピュータで貸し出しリストのチェックをしてたんですけれど、
 美由希ちゃん、昨日返却予定だった本、まだ返却してなかったから」

「……えっ、えぇ。あれって、昨日だったの!?
 今日じゃなかったの!?」

「う、うん。だから……」

「あう。ごめんなさい。すっかり日にちを間違えてたみたい。
 えっと、放課後に返しに行きますので」

「うん、分かった。夕映たちにはそう伝えておくから」

美由希の言葉に頷くと、のどかはようやく今の状況に気付いたのか、不思議そうな顔で恭也を見上げる。

「恭也さん、何かやってたんですか」

さっきまでは知らない人の多さに驚いていたのどかだったが、美由希との会話で多少は緊張がほぐれたのか、
今の状況に疑問を抱いたようであった。
そんなのどかに、恭也は少し困ったような顔を見せつつ、丁度良い口実を見つけたとばかりに立ち上がると、
のどかも一緒に立たせる。

「大変そうだから、俺も手伝おう」

「あ、で、でも……」

「気にするな。俺が手伝いたいんだ。
 それとも、やっぱり邪魔か」

「い、いえ! そんな事は……あっ! あう……」

全力で否定するも、思わず出てしまった大声に赤面して俯くのどかの頭をそっと撫でると、
恭也はのどかを連れて図書館へと行こうとする。
それに待ったを掛ける数人のFCたちに、見えないように僅かに顔を歪める。
明らかに、そう簡単には逃げれないかといった顔だったが、それはのどかにしか見えなかった。
仕方なく恭也がゆっくりと振り返ると、FCの一人がもう一度同じ質問を投げる。

「高町先輩の好きな人は誰なんですか!?」

大半の他の者たちのように、ただ騒いでいるのではないと分かる真剣な眼差しを見て、
恭也もこのまま去るのは申し訳ないと、はっきりと答える事にする。
一方で、その言葉に恭也本人以上に慌てているのどかを、忍たちは面白そうに、
けれども何処か見守るように見詰める。
そんな中、恭也はのどかの肩に手を回し、

「俺が好きなのは、この子。宮崎のどかだ」

「ふぇ、へっ!? え、あ、な、何を……」

恭也の言葉に素っ頓狂な声を上げて、一番驚いているのは、名前を言われたのどかで、
顔を今にも煙が出るかと思われるぐらいに真っ赤にして、両手を忙しなくバタバタと振り回す。

「あ、そ、その、恭也さん。こ、こここここんな所で、そ、そんなう、嬉……。
 あ、でででででも、は、恥ずか……あうあうあうあう。あうぅぅぅぅぅぅぅ…………」

息継ぎも忘れるほど慌てた後、不意に動きを止めたかと思うとのどかはそのまま後ろへと倒れて行く。
それを慌てて抱きかかえて顔を覗き込んだ恭也は、ほっと安堵の吐息を洩らす。
単に恥ずかしさのあまり気を失っただけのようで、すぐに落ち着いた呼吸を立てている。
とりあえず、保健室に運ぼうかと考えた恭也だったが、その為にはのどかを抱きかかえなければならず、
それが噂になりでもしたら、間違いなくのどかのことだから、また卒倒しかねないと。
仕方なく、恭也はのどかをその場にそっと横たえると、頭を持ち上げて足の上にそっと置く。
その際、目元に掛かった髪をそっと掻き揚げて整えてやる。
のどかを起こさないように気を付けつつ、恭也はさっき声を掛けたFCの女の子の方を見る。

「まあ、そういう訳なんだが、納得してくれたか」

「……っ、はい。不躾な質問なのに、ちゃんと答えて頂いてありがとうございます。
 それじゃあ、これで」

泣くのを堪えるように震える声でそう言うと、その子はその場を去っていく。
それを見て、なし崩し的に解散していくFCたちを見送ると、恭也はそっとのどかの頬を愛しそうに撫でる。
起きている時にしようものなら、下手をすればまた気を失いかねないが。
だが、寝ているのどかはそれ以上気を失うという事もなく、それを何処か嬉しそうに受け止める。
夢でも見ているのか、時折唇が笑みを形作る。
FCたちの退散と共にこの場を去り、のどかの代わりに図書館へと行った忍たちに後で礼を言う事を考えながら、
恭也はとりあえずは、起きたのどかに何と言うか、
それを考えながら、ただ静かに姫の眠りが覚めるのを待つのだった。





<おわり>




<あとがき>

ようやく、要望の多かったのどか編〜。
美姫 「甘々じゃないわね」
うん。甘々にしてくれという意見が多かったんだけど。
美姫 「しかも、この時点での二人の関係って微妙な所なの」
それはご想像にお任せって事で。
さーて、それじゃあ、次は誰にしようかな。
美姫 「久しぶりに、甘々も良いかもね」







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