『An unexpected excuse』

    〜木乃香 続編〜






全員が出払っている高町家の縁側で、木乃香は一人膝の上に置いたアルバムを捲っては楽しそうに眺めている。
その木乃香へと近づく二人の人物。
一人はこの家の住人である高町恭也と、もう一人は木乃香の幼馴染であり、恭也とも旧知の仲の桜咲刹那である。
二人は風呂上りなのか、やや上気した顔で木乃香の隣にそれぞれ座る。

「早かったな、二人とも。はっ、もしかして二人一緒にシャワーを。
 そんな……うちだけ除け者なんは嫌やー!」

「お、お嬢様!? そ、そのような事してません!」

「いや、その前に木乃香が嫌なのは、除け者にされたという所だけなのか」

「勿論、分かってるって。ちょっとした冗談や。
 それとな、恭也くん。うちはせっちゃんの事も大好きやから、お風呂に一緒に入るぐらいやったら怒らへんよ。
 その代わり、その時はうちも一緒やないとあかんで」

「お嬢様!」

木乃香の言葉に恭也以上に反応して赤くなる刹那に、木乃香は照屋さんやなーと呑気な事を言う。
違うと心の内ではしっかりと突っ込んでから、恭也は木乃香へと飲み物を手渡す。

「で、何を見ていたんだ」

「うん、アルバムや。
 恭也くんとせっちゃんが鍛錬の後にシャワーを浴びている間はうち暇やからな」

言ってまたページを捲る。
横から二人も覗き込みながら、懐かしい思い出に浸る。
更に木乃香がページを捲っていき、ある所で指が止まる。

「あ、これって……」

何とも言えないような、感慨深い声でその写真を指でなぞる木乃香。
そこに写っている写真は、恭也の腕に刹那が腕を絡めている写真だった。
その横の写真には、笑っている木乃香が一人写っており、場所は恭也と刹那の写真と同じ場所。
その笑顔はどこか寂しげに見える。
自分の写っている写真を恥ずかしそうに見ながら、その隣に写真に刹那は僅かに眉を顰める。

「ほら、せっちゃん、そんな顔しぃひんと。あれはうちが悪かったんやから。
 その所為で、恭也くんやせっちゃんにも迷惑かけてもうたなぁ」

「まあ、気にするな。もう終わった事だろう」

「せやな。今となってはいい思い出や」

「そうですね」

木乃香の台詞に刹那も静かに頷く。
三人は自ずとこの写真に関する出来事を思い返すのだった。



  ◇◇◇



高校に進学し、恭也と同じクラスになった木乃香は何処か嬉しそうにしていた。
本来なら恭也の方が年が一つ上なため、同じクラスになる事はまずないのだが、
恭也は過去に一年休学しており、そのお陰で同じクラスになれたのだ。
わざわざ海鳴にある風校を受けた甲斐があったと、
そして、過去の恭也にお礼を言いたいぐらいだと木乃香は少し浮かれていた。
自分に付き添って共に刹那が来てくれ、その上、刹那とも同じクラスだということもそれを助長していた。
去年、偶々恭也と再会した木乃香は、小さい頃に数度出会っただけの恭也を覚えていた。
刹那もまた、木乃香同様に恭也の事を覚えていたようで、
その時に恭也の進学先を聞き、自分もそこを受けたのである。

「うーん、それにしても結構、大胆な決断をしたかもしれんな〜」

まさか、自分の初恋の相手への想いが、未だにこんなに強いものとは思っていなかった木乃香は、
自分の取った行動に少しだけ笑みを見せるのだった。

そんなこんなで恭也と同じ学校へと通うようになり、日々を楽しんでいた木乃香だったが、
それは梅雨も明けていよいよ夏も本番を迎えるといった日のことだった。
木乃香は、ふとした光景を目にする。
それは何て事のない、ただ生徒同士が話をしているだけの光景。
ただ、それが人気の少ない場所で、その二人が木乃香の良く知る二人、恭也と刹那だっただけのこと。
だが、話しをする二人はどこか楽しそうで、木乃香は思わず目を逸らして静かにその場を立ち去る。
木乃香が去った後、そちらへと顔を向けた恭也に、刹那が不思議そうに尋ねる。

「恭也さん、どうかしたのですか」

「いや、どうやら気のせいだったみたいだ。
 それよりも、手合わせは今度の休みの日にでもどうだ」

「ええ、是非。木乃香お嬢様にもお声を掛けてみます」

「木乃香に? 木乃香は剣術はしないだろう」

「はぁ、いえ、そうですね。ですが、一応ですよ」

「何故、そこで刹那が呆れるのかは分からないが、別に構わないさ。
 木乃香が来るのなら、何か用意しておく」

「お嬢様が伺う場合は、そのようなおもてなしがあるんですね」

「うん? 刹那にも用意しているだろう」

「そういう事にしておきます」

そう言って笑う刹那に、恭也は憮然としながらも口を噤む。
かように、何の事はなく、ただ剣術の話で盛り上がっていただけの二人であったのだが、
木乃香にそれを知るよしもなく。
その日の夜、いつもよりも早く布団に入ると、真っ暗な天井を見上げて色々と考える。

(うぅ、せっちゃん、もしかして恭也くんのこと。
 そう言えば、恭也くんも最近、せっちゃんとよぉ話してるみたいやし。
 二人とも、昔からの知り合いやし。うぅぅ、いやいや、あれはきっと何でもないはずや)

そう自分に言い聞かせるも、中々眠る事が出来ず、木乃香は非常に気だるく朝を迎えるのだった。



木乃香が恭也と刹那の事で悩み出してから数日。
その間、木乃香は恭也と刹那の行動をじっと観察し続けていた。
そして、一つの結論に行き着く。

(やっぱり二人ともお互いの事が好きなんや。
 だって、二人とも滅多に笑えへんのに、二人やとよく笑ってるし……)

木乃香と一緒のときにも二人はよく笑みを浮かべるのだが、変な考えが既に出来上がっているからなのか、
木乃香はその事に全く気付かずに、一人で納得する。

(でも、あの様子やとお互いに言い出せそうもないな。
 こうなったら、うちが二人を仲よぅさしたる。二人には、とってもお世話になってるしな。うん……)

最早、木乃香の中では二人は好き合っているという事になったらしく、小さくガッツポーズを取る。
二人の仲を取り持つと決めた木乃香は、胸に走った小さな痛みを誤魔化すように拳を握り締める。

(うちは二人とも大好きやからな。大事な親友と、お兄ちゃんのような人やから。
 だから、うちの好きな二人が幸せになるんは良いことや)

ズキズキと大きくなる痛みを無視し、木乃香はどうするか考える。
もうすぐ夏休みだが、その前には何としたいと。

(うーん。……あの二人は奥手さんやから、多少強引な方が良いかもな)

木乃香は策を思いつくと、早速それを実行するべく恭也と刹那に声を掛けるのだった。

「遊園地?」

「そや。丁度、チケットを三枚貰ってん。だからな、今度の休みに三人で一緒に行かへん?」

「私は別に予定はないから構いませんが……」

「俺も良いぞ」

「ほな、9時に駅前で待ち合わせな。あ、チケットは今のうちに渡しておくな」

言って木乃香は二人にそれぞれチケットを渡すと、用があるからとその場を去っていく。
その背中を見ながら、恭也は刹那へと声を掛ける。

「なあ、最近、木乃香のやつ元気ないような気がするんだが」

「ええ、確かに。さっきもどこか可笑しかったような気がします」

「だよな。まあ、遊びに行って元気になってくれれば良いんだが」

「ですね」

二人は木乃香の去った方を心配そうに見詰めるのだった。



約束の日曜日。
待ち合わせの時間よりも10分ほど早く、恭也と刹那は到着していた。
まだ来ていない木乃香を待つ二人だったが、待ち合わせの時間になっても来ない木乃香に心配の色を見せる。
待ち合わせに遅れるような木乃香ではなく、遅れるなら遅れるで何かしらの連絡があるからだ。
もしかして事故かと二人が思うよりも先に、刹那の携帯電話が鳴る。
液晶に表示された名前は木乃香のもので、刹那は即座に電話に出る。

「お嬢様、何かあったのですか」

「あ、せっちゃん。別になんもあらへんよ〜。
 実はな、ちょう外されへん用事ができてもうてな。それで、悪いんやけど、二人だけで行ってくれへん?」

恭也は木乃香からの電話だと知り、目で刹那に内容を問う。
刹那は通話口を手で押さえると、

「お嬢様からで、用事が出来たらしいです。
 それで二人で行くようにと」

「なら、日を改めたらどうだ?」

恭也の言葉に刹那も同意らしく、その旨を伝えるが木乃香はそのチケットは今日までだと告げる。
その上で勿体無いからと二人に気にせずに遊びに行くようにと。
恭也と刹那は顔を見合わせた後、その言葉に従う事にした。

「土産を買って帰ってやろう」

「そうですね」

これなくなった木乃香を気遣いつつ、二人は遊園地へと移動するのだった。
遊園地に入って少し歩いた頃、二人は自分たちを付ける人影に気付いていた。
念のためにと人気のない場所を通っても付けてくる人影に、二人は気付かれないようにガラスの前に立ち、
背後の確認をする。
果たして、二人を尾行していたのは用事があると言っていた木乃香であった。
恭也と刹那は再び歩き出して顔を見合わせると、目と僅かな顔の動きだけで意志の疎通を図る。

(ところで、木乃香はどういうつもりなんだ)

(分かりません。ただ、何か考えがあっての事かも)

(なら、もう少しこのままで様子を窺うか)

(はい、そうしましょう)

共に何度も死線を潜り抜けてきたからか、
二人はアイコンタクトだけで話を済ませると気付いていない振りをして歩く。
普通なら、ある程度の推測から木乃香の気持ちとかを察する事も出来たかもしれないが、
こと恋愛に関しては、恭也も刹那も疎く、全く見当違いな考えを見せていた。
しかも、それを傍から見ていた木乃香は、見詰め合っている風しか見えない二人に更に胸が締め付けられる。
仲睦まじく、アトラクションを周り昼食を挟んでまた遊ぶ二人。
自分からそう仕向けたのにも関わらず、二人が仲良さそうにする度に木乃香は胸を押さえる仕草を見せる。
が、そろそろ時計の針が二時を指す頃、恭也と刹那は足を止める。

「流石に、可笑しくないか」

「ええ。こうなったら、直にお聞きした方が良いかもしれませんね」

「だな。なら、刹那はここで……」

「はい」

小声で話を終えた二人は、刹那がその場に留まり、恭也だけが離れる。
それを見て木乃香はトイレかとじっと刹那の方を見る。
しかし、一向に恭也が戻ってくる様子がなく。

「んー、ちょっと遅いんちゃうかな」

「誰が遅いって?」

「誰って、そんなん恭也くんにきま……」

突然背後から聞こえてきた声に、木乃香は持っていたサングラスを掛けて口元に手を当てて隠すようにして笑う。

「おほほほほ。誰かと間違ってられるんとちゃう? うちは恭也くんの知り合いとちゃうで」

「まだ、名乗ってないんだけどな」

「はぅっ! しもうた! うぅ」

ばれてしまったと開き直った木乃香は、サングラスを取って素顔を見せる。
そこへ刹那もやって来て事情を尋ねようとするのだが、それよりも早く木乃香は二人の手を取る。

「ほらほら、早く遊ぼう。うちの方も用事が終わったから、こうして来たんやから」

木乃香の言葉に刹那と恭也は疑問を抱く。
遊園地に入ってからずっと付けてきていたのにと。
恭也は単に用事が終わったけれど中々声を掛けれなかったのかもしれないと、やや強引に自分を納得させるが、
刹那は何事か考え込み、もしかしてという可能性に気付く。
が、そんな刹那に気付かず、木乃香は二人の手を引いて適当なアトラクションへと乗り込む。
木乃香はその後も恭也と刹那を引っ張り回し、自分は常に一人で乗り、恭也と刹那を一緒に乗らせる。
幾つかのアトラクションを終えた後、ようやく刹那が木乃香へと話し掛ける。

「お嬢様……」

「あ、恭也くん、せっちゃん、あそこで記念写真撮ってくれるって。
 ほら、今日の記念に撮ってもらおう」

無理矢理二人を引っ張ると、木乃香はさっさと料金を払って恭也と刹那を並ばせる。

「うーん、二人ともちょっと固いな〜。
 そうや。せっちゃん、ちょっとごめんやで〜」

言って刹那の腕を取ると、恭也の腕に絡ませる。

「うん、これで良し。ほな、撮って」

「って、木乃香がまだ入ってないぞ」

「うちはええから。えっと、後で一人で撮るから。
 ほら、三人で撮ったら真中の人は……って言うやろ」

強引に恭也の言葉を遮ると、木乃香はさっさと離れてしまう。
カメラマンを待たせる訳にもいかず、二人は仕方なく写真を撮られる。

「次は木乃香の番だな」

「そやね。えっと、うちは一人の方が良いから、恭也くんごめんな」

「そうか。なら、刹那と一緒に撮ったらどうだ」

「ううん、良いから」

最初に言った手前、自分も撮らざるをえず、木乃香もまた仕方なく一人で写してもらう。
そんな木乃香の様子を見ながら、恭也はやはりどこか可笑しいと感じる。
刹那も同じ意見らしく、二人は顔を見合わせて互いの考えを理解すると、
写真を受け取った木乃香の腕をやや強引に掴み、人気のない場所へと連れて行く。
幸い、休憩スペースなのか、それとも違うのかは分からないが、木々に囲まれたスペースがあり、
周囲に人が居ないので、その中へと進む。

「ちょっ、恭也くん痛いよ」

「ああ、それは悪かった。……さて、どういうつもりだ?」

「どうって、何が?」

ここに来てまだ誤魔化そうとする木乃香に、恭也は溜め息を吐き出す。

「俺の目は節穴だったのか。これでも、木乃香の事はそれなりに分かるつもりだったんだけどな」

「うーん、恭也くんが何を言っているのか分からへんな〜」

恭也の言葉になおも誤魔化しの言葉を投げる木乃香へ、刹那が真剣な眼差しを向ける。

「差し出がましいようですが、お嬢様はもしかし何か勘違いをされていませんか」

「勘違いって何を」

「ですから、恭也さんと私のことで、です」

二人にここへと連れて来られてから、
いや、それよりも前、二人と一緒に行動している時から痛みの増した胸をぎゅっと掴み、
木乃香は引き攣った笑みを見せる。

「よく……分からへんなぁ」

「本当に分からないのですか。なら、何故、そのような悲しい顔をなされるんです!」

刹那のきつい口調に、木乃香の顔が歪み、次いで大きな、叫ぶような声が漏れる。

「そんなん仕方ないやんか! うちかて、恭也くんのこと……。
 でも、せっちゃんも恭也くんの事を好きみたいやし、恭也くんかてそうなんやもん!
 せやから、うちは二人が上手くいくようにって。
 うちの好きな人たちが幸せで笑っていられるようにって。
 なのに、なんでそんな事を言うん! うちかて、本当は辛いのに。
 今日かて、ううん、今かて、胸の奥が、この奥の方がぎゅってなって痛いんや。
 それでも、うちは二人のために、が、がんばって……うっ、ひっ、ひくっ」

ぽろぽろと涙を溢す木乃香を見て、刹那は小さく息を吐いて強張っていた肩の力を抜くと恭也を見る。
それを受けて、恭也は静かに頷くと、木乃香に近づいて涙をそっと拭う。

「まず、最初に一つだけ言わせてくれ。
 木乃香は何か勘違いしている。確かに、俺は刹那の事は好きだけれど、それは友達とか家族としてのものだ」

「で、でも……ひくっ。さ、最近、二人ともよぉ話してるし、ぐす……、そ、それに楽しそうやねんもん」

「……お嬢様、私にはお嬢様と話している恭也さんの方が楽しく見えますよ」

「そういう刹那もな」

二人の言葉に木乃香は二人の顔を濡れた瞳で見上げる。
全く思っていなかった言葉に、どう反応して良いのか分からないと言った木乃香を見て、
刹那が恭也へと話し掛ける。

「恭也さん、最近、お嬢様を抜きにしてよく話していた理由をお教えしてあげても良いのでは」

「うっ。し、仕方ないか」

刹那の言葉に少し困った顔をした後、恭也は仕方ないとばかりに説明する。

「刹那にちょっとだけ相談に乗ってもらっていたんだ」

「……相談?」

突然の事態に泣いていたはずの木乃香も泣きやみ、恭也をじっと見る。
見られているのを感じながら、恭也は視線を少し逸らして頷く。

「ああ。その、やはりその説明の前に言いたいことがある」

「な、なんなん」

肩透かしを喰らった気分でいる木乃香へ、恭也は今までにないほど緊張した面持ちで口を開く。

「木乃香、好きだ」

何を言われたのか分からず、思考を停止する木乃香へと恭也はもう一度はっきりと口にする。

「俺は木乃香の事が好きだ。刹那や美由希たちに対するのとは違う意味で」

「……え、そ、それって」

照れて赤くなった恭也は、それを誤魔化すように口を開く。

「まあ、そういう訳で刹那に相談をしていたんだ」

「私は相談を受けていた訳です。
 恭也さんならば、お嬢様を任せても良いですから、私は反対しないと。
 後は、いつ言うかという話だったんですが」

少し笑いを含んだ声で言う刹那を軽く睨み付ける恭也を視界に入れながら、再びその視界が滲み出す。
慌てた恭也が手を伸ばして涙を拭うと、木乃香は泣いたまま笑みを見せて恭也の胸に飛び込む。

「うぅ、うわぁぁっ。うち、めっちゃ嬉しいよ、恭也くん。
 うちも、うちも恭也くんのこと。うぅぅ、ひくっ」

嬉しさと今までの感情がない混ぜになり、自分でも制御できないのか、
恭也の胸で大声を上げて泣きじゃくる木乃香を、恭也はそっと優しく抱きしめる。
音も立てずに去っていく刹那へと目だけで礼を言い、腕の中の愛しい少女が泣き止むまで、
恭也はずっと抱きしめていた。



  ◇◇◇



しみじみと思い出すと恥ずかしい思い出に、木乃香は少し照れつつも嬉しそうな顔を見せる。

「でも、あのお陰で恭也くんに告白してもらえた訳やし。
 結果としては良かったかも」

と惚気る木乃香に、恭也と刹那は思わず顔を見合わせて苦笑を零す。
が、不意に木乃香は気難しい顔になる。

「でも、よくよく考えたら、うちの勘違いやった訳やし、もっと早く教えてくれても良かったんとちゃうん。
 あ、思い出したら、なんやムカムカしてきた。
 むー、幾らうちが言い出したからって、あの時、二人とも楽しそうにしてなかった?
 なあ、なあ?」

拗ねたような怒ったような顔で二人を交互に見遣る木乃香に、二人は理不尽なと思うも口には出さない。
が、フォローするかのように、その時の補足めいた説明はしっかりとする。

「あれは、木乃香の考えている事が分からなかったから」

「そうです。ですから、恭也さんと相談して、暫くは大人しく様子を見ようという事になりまして」

「相談? いつの間に。うぅぅ、恭也くんとせっちゃんは、目と目で通じ合える仲やねんねぇ〜」

完全にふざけていると分かる大げさな仕草で泣き崩れる木乃香。
長く背中へと伸びる綺麗な黒髪が、床に広がる。
その一房をそっと手に取り、恭也はそっと口付ける。

「木乃香とも結構、分かり合っているつもりなんだがな。
 それに、これからはずっと一緒なんだから、もっと分かり合えるよ」

「……ぷっ! あ、あはははは。恭也くん、今のはちょっと気障やで〜」

笑われた恭也は憮然として、木乃香の頭に手を置いて乱暴にかき回す。

「いたっ、いたい、いたい。堪忍してや、恭也くん。
 冗談やって」

それでも止めない恭也の手に手を置きながら、木乃香は笑顔で告げる。

「でも、本当にずっと一緒に居てや」

「……ああ」

木乃香の言葉に思わず手を止めた恭也は、すぐに笑みを見せると木乃香の言葉にはっきりと頷くのだった。





<おわり>




<あとがき>

木乃香と刹那を絡めたかったのに、何故?
美姫 「いや、私に聞かれても」
過去編っぽくなってしまった。
美姫 「しかも、肝心の刹那との絡みが殆どないし」
あ、あはははは〜。
えっと、また次回で〜。
美姫 「無理矢理なごまかし方ね」







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