『An unexpected excuse』

    〜木乃香編〜






「俺が、好きなのは…………」

「なになに、恭也くん。なんや、楽しそうなことやったら、うちも混ぜてぇな」

不意に掛けられた声に、恭也はさして驚いた風もなく顔をそちらへと向ける。

「いや、別に楽しくはないんだが……」

「ええぇ〜。そんな事言うて。またうちだけ除けもん扱いするん?
 前にせっちゃんと二人で謝ってくれたのは、形だけやってんね。
 うち、悲しいわ」

恭也の言葉に少女は泣き崩れるように膝を着き、恭也の背中に顔を伏せてわざとらしい泣き方を始める。
困ったような顔をしながらも、無理に引き離せないでいる恭也に対し、その少女を知らない者が誰、
といった顔を見せる中、忍が親しげに手を振る。

「木乃香、用事はもう済んだんだ」

「うん、もうバッチリやで。言うても、単におじいちゃんが呼んでただけやしな。
 まだせっちゃんは何か話してるみたいやけど、うちはお終いやからな。
 そんな訳で、うちはこうして恭也くんに会いに来たという訳なんや〜」

良いながら、木乃香は恭也の背中から顔を上げて腕を首に回して抱き付く。

「ちょっ、木乃香!?」

いきなりの事に驚く恭也へ、木乃香は悲しげな目を見せて声のトーンを落として尋ねる。

「嫌なん?」

「いや、そういう事じゃなくて、人が居るだろう」

「やっぱり、嫌やねんな。うぅ、恭也くんに嫌われてしもうた〜。
 うちはもうどうした良いんか分からへんよ〜」

「別に、木乃香を嫌いとは言ってないだろう」

半分以上冗談だと分かっていても、恭也はそう答える。
それを嬉しそうに聞きながら、木乃香は上目遣いで恭也をじっと見詰める。

「じゃあ、もう少しだけやから良い?」

「……少しだけだぞ」

「うん♪」

根負けしたように呟かれた言葉に、木乃香は満面の笑みを見せて抱き付く。
その手が恭也の頭の後ろでピースサインを形作り、忍たちに送っている事など、恭也は全く気付かない。
木乃香のお願いには弱い恭也と、ここに居ない刹那のこんなやり取りをよく目にしている忍たちは、
目の前の事態に呆けるようなFCたちとは違い、やっぱりこうなったかというような顔を見せるのだった。
と、このままあやふやに終わりそうな所を、それに気付いた一人が恭也へと話し掛ける。

「高町先輩、それよりもさっきの続きを教えてもらえませんか。
 その、もしかして……」

言ってチラチラと未だに恭也にくっ付いている木乃香を見る少女に、木乃香は可愛らしく首を傾げる。

「どうかしたん? うちに何か?」

「いえ、そうじゃなくて……」

木乃香へそう返すと、少女はじっと恭也を見詰める。
恭也は仕方ないとばかりに、木乃香の頭に手を置いてやや乱暴にクシャクシャと髪を掻き乱すように撫でる。

「まあ、そういう事だ」

やや照れたように言った恭也の短い上に普通なら意味不明となっても可笑しくはない言葉に、
しかし、質問した立場である故にそれだけで理解したFCたちはその場を立ち去る。
後に残った静寂に、恭也はようやく人心地をつこうとして、睨むような視線とぶつかる。
その視線を躱すように首を傾げる恭也だったが、元々首元に抱きついている木乃香の視線も、
何もしなくても同じように付いてくる。
諦めて恭也は木乃香へと口を開く。

「で、何をそんなに睨むんだ?」

「むー、別に睨んでなんかいぃひんよ」

「いや、充分すぎるぐらいに睨んでいるが。
 あ、もしかして、髪をぐちゃぐちゃにしてしまったからか。
 それはすまなかった」

言って髪を整える恭也の手に、睨む顔が一瞬だけほころびそうになるが、
すぐに引き締めると恭也を再び睨みつける。

「恭也くん、皆にちゃんとうちの事言うてくれへんかったな。
 それは、なんで? うちのこと、本当は嫌いなん? だから、言われへんの?
 やっぱり、恭也くんは……」

言っている内に自然と泣きそうになり、木乃香はそんな顔を見られないようにと俯く。
そんな木乃香の様子を見て、恥ずかしかったからとはっきり言わなかった事で木乃香を悲しませたと、
恭也は自分に腹を立て、同時に悲しむ木乃香を見たくなくて、優しくそっと名前を呼ぶ。

「木乃香」

「なに? っ!!」

恭也に名前を呼ばれて顔を上げた途端、唇を塞がれて目を白黒させる。
驚きに固まる木乃香から静かに離れた恭也は、真剣な目付きで木乃香を見詰める。

「俺が好きなのは近衛木乃香、今、俺の目の前にいる女の子だ。
 さっきのは本当にごめん。照れくさかったから、あんな風にしてしまって。
 それで木乃香が悲しむなんて考えなかった」

「そ、そんな、恭也くんはわるぅないよ。うちがちょっとわがままやっただけで。
 せやから、そんな謝らんといて」

「いや、確かに恥ずかしいけれど、はっきりと言わなかったのは俺だから。
 次からはちゃんと言うから、俺が好きなのは木乃香だって。
 だから、今回は許して欲しい。」

「恭也くん……。恭也くん! うち、めっちゃ嬉しいよ!
 それに、許すも何も、うちも悪かったと思ってるんやもん。だから、この話はこれでお終いな。
 確かに、はっきりと言うんは恥ずかしいもんね。だから、そんなに無理することはないよ」

「ありがとう。でも、木乃香のためにもちゃんと言えるようにするから」

「うん」

言って二人はそっと顔を近づけてキスをする。
唇が離れた後も互いに近い距離で微笑み合う二人に、忍たちからの冷やかしが来る。
完全に忘れていて焦る恭也へと、忍が笑いを堪えながら目を細める。

「それで〜、恭也が好きな人は誰なのかな〜」

「あ、私も知りたいな〜。恭ちゃん、誰?」

明らかに知っていてからかってくる二人を恭也は少しだけ睨み付けるが、すぐに隣の木乃香を見る。
木乃香は微笑を浮かべて、言っても言わなくてもどっちでも良いという顔を見せている。
それを見て恭也は小さく笑うと、もう一度木乃香へと口付けをし、
思いもよらない行動に一瞬呆然となった忍たちに意地悪そうな顔をしてはっきりと告げる。

「俺が好きなのは、ここに居る木乃香だよ」

「……恭也くん、うちも恭也くんが好きやで♪」

忍たち同様、呆然としていた木乃香だったが、恭也の言葉に我に返り、これまで以上の満面の笑みを見せると、
ぎゅっと恭也へと抱きつくのだった。





<おわり>




<あとがき>

ようやく、木乃香!
美姫 「少しだけ甘くなってるのかしら」
うん。少し甘く感じてもらえれば。
美姫 「ネギま! はこれで四人目ね」
だな。
美姫 「で、次は誰になるのかしらね」
誰だろうね〜。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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