『An unexpected excuse』

    〜すずか編〜






「俺が、好きなのは…………」

そこまで口にし、不意に押し黙る恭也。
ここまで来て往生際の悪いと思わないでもない忍たちではあったが、
何やら考え込んでいる様子の恭也に、詰め寄らずに暫し傍観する姿勢を取る。
かなり考え込んだ挙句、恭也は静かに顔を上げると真っ直ぐに忍を見つめる。
突然の出来事に驚きつつも照れる忍。

「え、えっと〜」

照れ笑いを浮かべる忍をじっと見つめ、何を思ったのかは分からないが、
仕方なさそうに一つ息を吐き出すと、静かにその口を開く。
期待するようにその言葉を待つ忍へと、恭也の落ち着いた声が届く。

「すずかから何も聞いていないんだな」

「はい?」

突然、その口から零れた自分の妹の名前に思わず変な声を返してしまう忍。
だが、ここでその名前が出たという事は……。

「まさか……。恭也の好きな人って、すずかなの!?」

驚く忍、いや、忍たちへと詳しい事は後でと目で伝えると、FCたちが立ち去るのを待つ。
FCたちが立ち去り、その場に恭也たちのみとなった瞬間、忍が詰め寄る。

「何でどうして、いつの間にそんな事に。私、聞いてない、知らない、今初めて聞いた、知った。
 どういう事よ、え、まさか、ロリ……。そ、そんな。い、いやぁぁっ!
 あ、でも、すずかを泣かすような真似したら、恭也でも許さないわよ。
 ちゃんと大事にしているんでしょうね。と言うか、挨拶なり報告なりしに来なさいよ!
 うちの大事な妹を傷物にしておいて、知らん顔するつもりだったんじゃないでしょうね。
 あ、ちょっと待て。それじゃあ、恭也は私の弟? こ、これはこれで……。
 禁断の愛? 略奪愛? 燃えるようなシチュエーションよね。
 あ、その前に恭也が振られる可能性もあるかも。その時は私が義姉として優しく慰めて……。
 そして芽生える愛? なんて展開になっちゃったり。うわー、お義姉さんが優しく教えてあげるとか。
 いやいや、その前に恭也がすずかに愛想を尽かすという可能性もあるわよね。
 って、すずかの何処に不満があるのよ! ちょっと聞いてるの恭也!」

一気に捲くし立てて息も吐かせぬ間に言い切ると、忍は恭也の襟を掴んで前後に揺する。
激しく首がガクガクと動く中、恭也は静かに右手を振り上げ、忍の脳天へと手刀を見舞う。

「落ち着け、馬鹿者が」

普段、恭也からそのような言葉と制裁を喰らっているからか、美由希は自分がやられた訳でもないのに、
忍と同じように頭を押さえ、思わず恨めしそうに恭也を見そうになってしまい、それを慌てて誤魔化す。
当然のようにそれに気付いていた恭也ではあったが、事態をこれ以上ややこしくする気もなく、
美由希の方には気付かなかった振りをして、恭也は少し涙目になる忍へと落ち着いたかどうか確認する。

「お、お陰さまで落ち着いたわ。
 でも、もうちょっと優しくしてくれても良いんじゃないかなと思ったりもするけどね」

「人に銃弾をぶつけるお前に言われたくはないな、それは」

「あれは実弾じゃないわよ」

「ただのペイント弾でも初速が……いや、今はその話は関係なかったな。
 まったく。さっきのお前は意味不明、支離滅裂だったぞ」

「あ、あははは。色々と思う所がありまして、ついつい自分を忘れるくらいに混乱してしまったわ」

反省するつもりはないようにあっけらかんと笑い飛ばす忍と、それを呆れ顔で眺める恭也。
これで話はお終いというような雰囲気が流れるが、忍が恭也の腕をがしっと掴む。

「って、このまま終わらせる気じゃないでしょうね。
 きちんと説明してもらうわよ」

思わず舌打ちしそうになるのを堪え、恭也は上げかけていた腰を再び下ろす。

「忍がすずかから何も聞いていない以上、本来ならあまり口にするような事じゃないんだがな」

そう言って納得するような面々ではないと、分かりたくなくとも分かっている恭也は、仕方なく、
本当に渋々といった感じで話し出す。

「少し前にすずかから好きと言われてな。
 その時、深く考えずに兄妹や友達のノリでだろうと軽く返したんだが」

「まさか、それで勘違いしちゃったとか」

「いや、その場ですぐに気付かれて否定された。
 で、よく考えてから答えてくれと」

真剣な顔で言う恭也に、確かに本人に内緒で聞いて良い話ではないわねと忍もまた真剣な顔付きに変わる。
それでも、結果が知りたいと思ってしまうの堪える忍たちに、恭也は微笑を見せると、

「とりあえず、すずかの事を考えてみたんだが、正直、嫌いではない。
 そこに妹としてというのもあるんだが、それ以外の好意があるのも確かだと気付いたから。
 多分、好きになりかけている。いや、好きなのかもしれないと」

茶化そうとした美由希たちではあったが、真剣な恭也と忍の雰囲気に押し黙り、ただ成り行きを見守ることになる。
忍も自分の妹に対し、恭也が不実な態度を取る事はないと思いつつも、ただ黙って続く言葉を待つ。
別段、恭也ももったいぶる事もなく普通に続ける。

「すずかにも正直にそう話をした。そしたら、とりあえずはそれで納得すると。
 ただ、もっと好きになってもらうように努力するから、今まで以上に自分を見てくれと」

「……そっか。まあ、すずかがそれで納得したのなら良いけれど。
 それで、最近、すずかが……。まあ、でも、すずかも強くなったわよね。
 あ、という事は、今のところ恭也はフリー?」

「さあな」

「何よ、その意味深な顔は」

笑いながら追求する振りをする忍を軽くあしらっていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
こうして、恭也追求の会はお開きとなったのであった。



昼休みに追求されて疲れたからか、恭也は真っ直ぐに帰宅するとそのまま部屋へと直行してさっさと着替える。
とは言え、ここ最近は真っ直ぐに帰って来ているから、昼の事とはあまり関係ないのかもしれないが。
ともあれ、着替えてリビングへと向かう恭也の耳に、どたどたという足音が届く。
確認するまでもなく誰か分かっている恭也はそのままリビングのソファーに腰を下ろす。
そこへ、足音の主が顔を見せる。

「恭也さん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。それと、いらっしゃいすずか」

「はい、お邪魔してます」

挨拶をするとすずかはそのままキッチンへと向かい、お茶の用意をして戻ってくる。
恭也にお茶を渡し、その隣に座る。
そこへなのはがやって来て、苦笑しながら恭也の逆隣に座る。

「すずかちゃん、ここの所毎日のようにお兄ちゃんの世話を焼いているね」

「それは、その……」

顔を赤くして俯くすずかの気持ちなどお見通しなのか、なのはは一人納得顔で頷く。
それが居心地悪いのか、恭也も僅かに身をもぞもぞと動かし、話題を変えるようになのはへと尋ねる。

「今日はアリサは一緒じゃないんだな」

「うん。今日はアリサちゃん用事があるから」

「そうか。それで今日はいつもよりも少し静かなんだな」

「そんな事言ってるのがばれたら、またアリサちゃんが怒るよ、お兄ちゃん」

「ふむ。まあ、我が妹が今の事を言わなければ大丈夫だろう」

そんな風に仲良く話す兄妹の間にすずかは少しだけ拗ねたように恭也の腕を掴み、
二人の間に自分も割って入る。

「恭也さん!」

「ん? どうかしたのか?」

「え、えっと……」

名前を呼んで割って入ることには成功するも、何か話すことがあった訳でもなく、
すずかは困ったように恭也を見上げる。

「あ、そ、その……」

消え入りそうになる意味のなさない言葉を連ね、それでも話題が見つからない。
そんなすずかに、恭也は優しくてを伸ばし、そっと頭を撫でてやる。

「あ……」

小さな呟きを洩らすも嫌がる素振りも見せずに目を細めるすずか。
そんな親友の様子を見て、なのはもまた嬉しくなる。

「ああ、そうだ。すずかに謝らなければならない事がある」

恭也の言葉に首を傾げるすずかへと、今日の昼にあった出来事を掻い摘んで話す。
その上で、すずかとの事も話したと。

「話しちゃったんですか。お姉ちゃんは何て言ってました」

怒るかとも思われたが、意外にもすずかは冷静にそう聞いてくる。
だから、恭也も正直に忍が言った事をそのまま伝える。
それを聞き、どこか安堵した様子を見せると、すずかは恭也に擦り寄って上目遣いでそっと問い掛ける。

「私の事を皆さんにお話したという事は、その、私の事をちゃんと考えてくれているって事ですよね」

「当たり前だろう。真っ直ぐな気持ちをぶつけてくれたんだ。
 だったら、いい加減な事は出来ないだろう」

言って微笑む恭也と、同じように微笑むすずか。
傍から見ていてなのはには、二人の気持ちが既に通じ合っているようにも見えるのに、
と思うも、それは決して口には出さないでおく。
それよりも、恭也以外が帰ってくるまでの短い時間をすずかの為にと、いつもの如く席を外す。
なのはの気遣いに感謝しつつ、すずかは二人きりになったリビングで甘えるようにしてさらりと、
けれど、実際はかなり勇気を振り絞って恭也にお願いをする。

「恭也さん、誰かが帰ってくるまでの間で良いので、その……」

だが、途中で恥ずかしくなって俯いてしまう。
顔を寄せ、耳をすずかの口元へと近付けてやると、すずかは本当に小さな声で何やら呟く。
それを聞き、恭也も少し照れるものの、誰かが帰ってくるまでと念を押すと良いよと言ってあげる。
嬉しそうに微笑みつつ、すずかは静々と立ち上がると恭也の前に背中を向けて立ち、
そのまま恭也の足の間に腰を下ろす。
恭也の胸に背中を預けながら、おずおずと恭也の両腕を取って自分の前へと、
恭也に後ろから抱きかかえられるような体勢へともっていく。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしつつも、その顔には間違いなく喜びや幸せといったものが浮かんでおり、
恭也の顔も自然と綻ぶ。
甘えるように恭也の腕や胸、首筋に遠慮がちに擦り寄ってくるすずか。
そんなすずかを恭也は愛しそうに見つめながら、始終微笑をその口元に浮かべていた。
腕の中にあるすずかの温もりをはっきりと感じながら、
そう遠くない先に、すずかへと答えが出せるであろうと恭也は感じていた。





<おわり>




<あとがき>

むらおかさんからのきり番リクエスト〜。
美姫 「ありがとうございますね〜」
いやー、今回はいつになく難しかったよ〜。
とらハとリリカルが同じ世界設定で忍の妹として、忍の反応が見たいというリクエストでした。
美姫 「結果はご覧のように」
ふぅ〜。すずか、いい子だよな。
美姫 「そうよね」
ってな訳で、出番はちょっと少ないですがすずか編でした。
美姫 「それじゃあ、また次でね〜」
ではでは。







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