『An unexpected excuse』
〜なのは 続編(Sts Ver.)〜
いつになく緊張した面持ちで恭也は臨海公園の木々が生い茂る奥、
こんな所までは人は来ないだろうというぐらいの奥まった場所に立っていた。
服装は相変わらず黒やそれに近い暗色系の物ばかりだが、いつもよりも多少はお洒落に見える。
所在なく立ち尽くしながら、時折時計に目を落としては時間を気にする。
何度目かになるその行動を再び取ったその時、恭也の前の地面が光り輝く。
それを見ても特に驚いた素振りもなく、恭也は誰かに応えるかのように小さく頷く。
すると、目の前の二つ重なった四角がそれぞれ逆方向へと回転しだし、次の瞬間にはそこに一人の女性が姿を見せる。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
サイドテールにした柔らかい髪を手で押さえながら、高町なのはは恭也へと謝る。
それに対し、恭也は待っていないと返すのだった。
「そっか。それじゃあ、早速だけれど行こうか」
「ああ」
恭也が返事をするなりなのはは恭也の手を取り、恭也もそれを当然の如く受け入れ握り返すと、
二人の足元に先程と同じ魔法陣が浮かび上がり、なのはと恭也の姿はその場から消えるのだった。
◇◇◇
とある建物の前で恭也は改めて佇まいを正し、その様子を微笑みながらなのはは見守ると徐に扉に手を掛け、
「ただいまー」
そう言ってなのはは自宅の玄関を潜る。
その後に続いて入って行きながら、恭也は多少緊張した面持ちでよく見知った顔の、
けれども初対面となる人物と対面する。
「おかえり、なのは。それで、そちらが……」
「高町恭也と申します」
出迎えたなのはの母、桃子へとそう挨拶をするも、桃子は恭也の顔を思わず凝視してしまう。
「はぁ、同じ名前だとは聞いていたけれど、顔立ちもよく似通っているわね。
ああ、でも雰囲気はかなり違うかしら」
「お母さん、そんなにじろじろ見たら失礼だよ」
「それもそうだったわね。ごめんなさいね、えっと……恭也さん」
「いえ、お気になさらないでください」
「とりあえず、どうぞお上がりください。
奥で主人と息子、娘も待っていますから」
「えっ、お兄ちゃんドイツから帰国しているの?」
「ええ。昨日の夕方に帰ってきてたのよ。どうやら、士郎さんが呼んだみたいね。
まあ、なのはが大事な人を連れてくるとなると、逆に教えなかったら怒りそうだしね。
あ、恭也っていうのは……」
「お母さん、その辺りはもう知ってるから」
「あらそうなの。うーん、他にも色々と聞きたいこともあるんだけれど、纏めて奥で聞く事にするわ」
なのはの言葉に桃子は納得し、改めて恭也を家へと上げる。
そう、今日は恭也がなのはの家族と初めて会う日なのであった。
幾分緊張気味なのは仕方ないであろう。
先導するように先を歩く桃子の後を、恭也も続く。
そんな恭也の様子に安心させるように笑いかけながら、なのははその手を握ってあげる。
照れつつも小さく握り返すと、リビングへと続く扉の前で手を離す。
桃子に続きなのはがまず入り、家族同士で挨拶が交わされる。
その後に恭也が続き中へと入れば、挨拶もそこそこに一様に揃って小さく嘆息する。
「うわぁ、恭ちゃんに凄く似ているね」
「美由希、失礼だぞ」
「あ、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらず」
そんなやり取りをする中、不意に恭也となのはの後ろから声がする。
「なのはママ、パパ〜」
どこか不安そうな声に後ろを振り返り、なのはの服の裾をしっかりと握り、
陰に隠れてリビングにいる士郎たちからは見えなかったオッドアイの少女へと笑いかける。
それを見て、桃子もようやく先程から気になっていた少女の事を聞けると恭也たちに席を勧めようとするも、
「な、な……。こ、子供まで既にいるじゃないか!
し、しかも結構、大きいじゃないか。ゆ、許さんぞ!
よ、よくもうちの娘を傷物に! ええい、貴様、うちの娘と付き合う前に俺と勝負しろ!」
「落ち着いてくださいよ、士郎さん」
「そうだぞ、父さん。付き合う云々以前にもう娘がいる以上……」
興奮する士郎を呆然と眺めていたなのはであったが、実の兄である恭也の言葉に顔を赤くさせて、
慌てた様子で士郎を宥めに掛かる。
「お父さん、落ち着いてよ。今日はヴィヴィオの事も話すために来たんだから」
「ヴィヴィオ。ヴィヴィオというのか。うん、いい名前だな。
だが、それとこれとは別だ! うっ、確かに可愛い孫が増えたのは嬉しいが……。
ええい、今まで報告に来なかったというのが納得できん!」
「もう、お父さん!」
なのはの一喝に士郎は思わず黙り込み、その隙に桃子へと視線を向ける。
なのはからの無言の救援信号を受け、桃子は逆らえない柔らかな笑みを浮かべて士郎を落ち着かせる。
「ほら、とりあえずはなのはたちの話を聞いてあげましょう」
「む、むぅ。桃子が言うのなら、分かった」
渋々といった感じで腰を下ろし、士郎はようやく話を聞く体勢を取る。
その事に安堵しつつ、なのははヴィヴィオの事を話す。
それにより、一応の誤解は解けたものの、士郎は勝負する事自体は取り下げるつもりはないらしく、
しきりに勝負、勝負と口にする。
対する恭也の方も、世界が違えど士郎と手合わせできることを嬉しく思いそれに頷くも、
急に士郎は黙り込み、恭也をじっと見た後、
「よし勝負だ! ただし魔法はなしでお願いします」
テーブルに手を付きそうお願いする。
士郎の隣でこちらの恭也が頭を抱えているのを見て、やけに共感を覚える。
向こうもこちらの視線に気付いたのか、互いの視線が絡み合い、やはりそこは同じ恭也なのか、
この一瞬で年の差を越えた友情があっという間に育まれる。
とりあえず、恭也は勘違いしている士郎へと口を開き、
「いえ、俺は魔導師じゃないんで……」
「なら、遠慮なく全力で来い!」
急に掌をひっくり返したように胸を張って威勢の良い声を上げる士郎。
そんな士郎を見詰めながら、父さんはこんな人だったかなと暫し耽り、
ああそういえばこういう所もあったなとすぐに記憶を呼び覚ます。
今度はその様子を見たこちらの恭也がやはり共感を覚え、またしても視線で分かり合う。
二人の様子に気付かず、士郎は改めて恭也を観察するように眺め、隣に座る息子の肩にポンと手を置く。
「俺は流石に現役を退いて長いから、お前に任せる」
「……はい?」
散々喚いていたくせに、急に交代しろという士郎を訝しげに見返す恭也に士郎は偉そうに胸を張って告げる。
「この若造をぐぅの音も出ないぐらいに痛めつけてやれ」
これみよがしに盛大な溜め息を吐いた後、こちらの恭也もまたやってみたいと士郎の言葉に乗る。
こうして恭也と恭也の対決が始まるかと思えたのだが、
「もうお父さんなんて知らない」
「な、なのは〜。お父さんはただ、お前を心配して……」
「ふーん、だ。知らないもん」
「あ、あぁぁ」
怒ったなのはにより士郎が撃沈し、勝負はお流れとなるのだった。
◇◇◇
あの後、なのはの機嫌も何とか直り、昼食を一緒した後、お暇する事となる。
ヴィヴィオの件も士郎も桃子も特に何も言わず、なのはのしたいようにすれば良いと言ってくれ、
その隣ではこちらの恭也や美由希が次は勝負しようという約束を交わしていた。
こうして、無事になのはの家族とのご対面を終え、恭也たちはミッドチルダへと戻ってくる。
戻ってくるなり、ヴィヴィオは恭也の足に抱きつき甘えてくる。
「パパ、抱っこして欲しい」
「うん、疲れたか?」
言って抱き上げるとヴィヴィオは嬉しそうに首に抱き付く。
それを見ていたなのはが羨ましそうな目で見ているのに気付き、ヴィヴィオはなのはに手を伸ばす。
「パパ、なのはママも抱っこしてあげて」
「ヴィ、ヴィヴィオ、なのはママは良いから」
流石に慌ててそう口にするなのはを、恭也は可笑しそうに、ヴィヴィオはきょとんと不思議そうに眺める。
「ほら、早くお部屋に行こうね。あ、恭也はどうする?」
「明日は日曜日で特に予定もないからな。なのはさえ良ければ、こっちに居るつもりなんだが」
「本当!? それじゃあ、今日はずっと一緒にいられるね」
満面の笑みでご機嫌になり、スキップしそうな勢いで恭也の横を歩く。
さりげなくなのはの手を取れば、嬉しそうに腕を絡めてくる。
「なのはママも嬉しそう」
「えへへ、そりゃあね♪」
「パパは嬉しい?」
「ああ。なのはやヴィヴィオと一緒に居られるからな」
「ヴィヴィオも嬉しい」
本当に嬉しそうに笑うヴィヴィオに恭也となのはは和みつつ、なのはの部屋へと戻ってくる。
特に何をするでもなく三人は並んでソファーに座り、
恭也となのはの間に座ったヴィヴィオは、いつしかうとうとと舟を漕ぎ始める。
普段であれば、恭也なりなのはなりが毛布か何かを持ってくる所だが、二人ともそんな様子もなく座ったままである。
よく見れば、ヴィヴィオだけでなく、恭也となのはも静かな寝息を立てていつしか寝入っていた。
ヴィヴィオの手をそれぞれ握り、もう一方の手をお互いに握り締めながらソファーで三人仲良く居眠り。
誰かに邪魔される事もなく、静かに午後の時間は過ぎて行く。
<おわり>
<あとがき>
という事で、なのはSts編。
美姫 「こっちは続としての扱いなのね」
まあな。いや、最初ははやて編みたいにヴィヴィオがパパ〜、ってのも考えたんだけれどな。
美姫 「折角だからとリリカル側の士郎や恭也を出したのね」
そういう事だよ。とは言え、あまり動いてないけれどな。
と言うよりも、士郎一人が暴走したような形になってしまった。
美姫 「その所為で、これまた甘いシーンはないわね」
うーん、確かに。あははは。
美姫 「全く。それじゃあ、またね〜」
ではでは。
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